水産振興ONLINE
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2026年7月
進む温暖化と水産業ワークショップ
「水素燃料電池船、海藻養殖、洋上風力」
平石 一夫((一社) 海洋水産システム協会 会長)
三好 潤((国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・基盤部門 水産工学部 副部長)
佐藤 陽一(理研食品株式会社 取締役・原料事業 部長)
長谷 成人(海洋水産技術協議会議長/(一財) 東京水産振興会理事)
和田 時夫(海洋水産技術協議会/(一社) 全国水産技術協会会長)[司会]

漁船における水素活用の取組について
〜水素燃料電池漁船開発事業の概要〜 (1)

三好 潤  (国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・基盤部門 水産工学部 副部長

三好:(国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所の三好です。

2016年頃に、本日のワークショップで司会をされている和田さんが当機構で理事をされていて、水素燃料電池漁船の開発をするというお話をされました。当時は夢物語のような話だと思っていましたが、10年ほど経って、実証試験にたどりつきました。本日はそのような話を中心にさせていただきたいと思います。その前に、燃料電池とは何か?という話をよく聞かれますので、そのお話をさせていただいて、水産分野、漁船関係での水素活用のレビューも踏まえて進めさせていただきます。

図6

燃料電池自体は古くからあるもので、最近出た技術ではありません。水素燃料電池は、水素と亜酸素の化学反応によって電気を取り出す装置、発電装置になります。1839年、イギリスのウィリアム・ロバート・グローブ卿が気体燃料を用いて電池を構成できることを実証しました。グローブ卿は水が電気分解したところを見て、その逆の反応ができないかということで、燃料電子を発想したそうです。ただ、取り出せる電力が非常に小さかったことと、蒸気機関による出力大増強の時代でしたので、当時あまり注目されませんでした。その後、高圧水素を使った電池が実証されて、世界的規模で開発がスタートしました。1960年には、NASAのジェミニ宇宙船で重要な電源としても使用され、実用化されたのが第一号だそうです。

日本ではオイルショックを機にエネルギーの有効利用を図る目的で、当時の通産省工業技術院がムーンライト計画で燃料電池の開発を行いました。1990年代半ばには小型発電装置としてのメリットが注目され、特に自動車への適用が進行し、2014年にはトヨタからミライ第1世代、その五年後には第2世代の車が市販されました。私たちの実証実験では、ヤンマーによる舶用製品化した第2世代の電池を使っています。水産分野、漁船における水素活用のレビューですが、2008年に当時の水産大学校の江副先生が山口県のメーカーと一緒に水素エンジン舶用研究会を立ち上げ、水素の直噴船外機を用いて、水産大学校で実証実験をされました。2009年からは (一社) 海洋水産システム協会で自動車分野の水素燃料電池関連の公開情報を用いて、小型漁船に対する水素燃料電池漁船の適用が検討されています。その後、2017年から (国研) 水産研究・教育機構による離島漁業振興策研究会の五島市での活動で、当時、戸田建設 (株) が環境省事業で長吉丸という実証船を運用されていたので、その船を傭船して、漁船への展開を検討しました。この船はヤマハの市販されているボートを改造したもので、同型ディーゼル船を傭船して、水中放射雑音を計測しました。水素燃料電池船は魚の可聴域や、人間の可聴域において非常に水中放射雑音が小さくなるということが分かりました。人間だけではなく、魚に対するストレス対策にも有効ではないかということになりました。

2022年からはゼロエミッション漁船等技術調査事業として、(一社) 海洋水産システム協会がいろいろな漁船に対する水素の利用、漁労機器の電化の検討をされて、現在も進行中です。199GTのさんま棒受け漁船への燃料電池の搭載等、大型船に対する検討も実施されています。この他にも、沖底やまき網漁船でも検討されています。ここで非常に明確になったのが、水素の熱量の関係で燃料タンクのサイズがディーゼルに対して概ね4.5倍の必要ということで、船自体が非常に大型化するということが分かりました。今回、私たちの実証試験では小型沿岸漁船、20GT未満の船にサイズを限定して行っています。つまり、日帰り操業の船ですので、毎日充電や水素充填を頻繁に行うということで、サイズを一緒にした漁船で実証試験を行っています。

図7

実証試験を行うにあたり、まず既存船の分析を行いました。宮崎県串間市の黒瀬水産 (株) のブリ養殖場で使われている給餌漁船を対象にしました。総トン数が16GTで、GPSや燃料消費量計、その他データを計測する装置を設置しました。操業パターンや、そこで使われるエンジンの回転数、燃料消費量、そこからエネルギー消費量などを見積もりました。日帰りの操業で9時に出港して、この時はたまたま行きと帰りで出力試験をさせてもらいましたが、普段は7.5ノットから8.5ノットくらいを使って漁場に向かっています。漁場に着いたら十か所ぐらいの生簀を回って給餌し、13時から14時ぐらいに帰ってくるというパターンです。この時に使うエンジン出力が約180kwでした。給餌の時は35kw、1日の燃料消費量が60Lから80L。240kw/hから360kw/hのエネルギー消費量です。操業時間は4~5時間で、航続距離、生簀間の移動は12~14kmでした。

図8

これを踏まえて実証試験の仕様を考えるにあたり、いくつか考えるべきことがあります。本船は化石燃料を用いた内燃機関を持たない、水素燃料電池とバッテリーだけの電化、水素化漁船です。表の左側に検討要件をいくつか並べまして、それに対する選択肢を横に示しています。本船は20GT未満で、かつ12海里内で操業する船なので、この12海里というところで、船舶安全法適用の要否が分かれ本船は船舶安全法の適用外となります。高圧ガスのタンクを搭載するにあたっては、陸上設備と同じ高圧ガス保安法の適用となりました。高圧ガス保安法では、水素の搭載量が300Nm3とか1,000Nm3で要件がいろいろ変わってきて、特に300m3の容量を超えると有資格者等が必要になります。水素の圧力も普段鋼製タンクで流通している20MPa未満の圧力か、水素燃料電池の車やトラックに使われている30~70MPaの圧力が候補になり、トヨタの車と同じ70MPaのタンクを採用することになりました。タンクの置き方としては、固定式と可搬式があり、可搬式はタンクを取り外して、近くの自動車のステーションで水素を供給する方式です。当初は固定式を考えていました。事業の2年目にトヨタから可搬式でも実施可能という情報をいただき、固定式から可搬式に変えました。実証試験では可搬式タンクを取り外してトラックで輸送し、最寄りのステーションで水素を充填しています。電池の出力に関して、リチウムイオンバッテリーの蓄電池と燃料電池を両方搭載するので、出力を蓄電池とするか燃料電池とするか、両方同時に使えるのですが、いろいろ検討しまして、水素供給がない時でも電動で動かせるように、実証事業が終わった後でも末永く業者さんが使っていただけることをイメージして、蓄電池で出力をたくさん積むこと、動かせるようにしておくことにしました。蓄電池で1日の操業ができるようにエネルギーを搭載しています。

蓄電池の充電方法については、コストの点から主に陸電からの充電です。燃料電池と水素を使っても充電できますが、メインは陸からの充電です。その他、利用機械、給餌機については電動を基本としています。

図9

具体的な設計をするにあたって、国交省の水素燃料電池船の安全ガイドラインに沿った設計をいたしました。いろいろな小型船舶をはじめ、水素燃料電池のプレジャーボート等実証試験が先行して行われ、それらを元に2021年8月に、特に小型船向けに改定された安全ガイドラインが出されました。ガイドラインを元に、本船も設計されています。その際はコンソーシアムの (一社) 海洋水産システム協会、(国研) 水産研究・教育機構、黒瀬水産 (株)、ヤンマー、造船所の (株) ニシエフ、海上技術安全研究所の専門家、水産庁、国交省、小型船舶検査機構が一堂に会しワークショップを開催して、図面を見ながら設計の検討とチェックを行い設計を確認しました。合わせてリスク評価も行っています。安全運航や加圧式のタンクを用いる際のマニュアルも作成しました。危険場所という考え方があって、水素タンクや燃料電池といった水素が漏洩するような箇所から最大4.5mの場所は危険場所となり、ここに火器を置いてはいけないことになっています。航海灯や、操舵室も付近に置いてはいけないということで、代替設計、他の手段によって安全であることが確認できれば置いても良いとガイドラインにありますので、この船では代替設計を行い、危険場所に操舵室を置けるようにしています。

図10

最終的な仕様はこの通りです。先ほど申し上げた危険場所がありますので、航海灯は危険場所の外に設置されています。操舵室の代替設計については、数値流体解析をして水素が漏洩してもここには届かないこと、さらには船首から空気を取り込んで、操舵室等を密閉区画にした上で加圧することで、水素が漏洩しても中には入らないという考え方を採用して代替設計とし、この中を非危険場所に設定しました。

図11

建造や海上公試の様子です。造船所は (株) ニシエフです。2025年2月に起工され、5月にはヤンマーによる燃料電池の工場試験が行われて、8月には燃料電池と水素タンクが船に搭載されました。この時には水素が満載状態で、同じく8月に漁船登録と高圧法の届出も行いました。漁船登録は宮崎県の検査官が下関の造船所で検査を行いました。9月に進水、9月下旬に油谷湾で海上公試、その後は3日ほどかけて関門海峡を通って宮崎県へ回航されました。

図12

こちらがパワーユニットの様子です。設置されている燃料電池と水素タンクです。水素タンクから燃料電池への配管ラインには、途中で減圧するための弁がついています。こちらがモーター、デンマークのダンフォスという会社の250kWのモーターです。東芝製の25kWhリチウムイオンバッテリー8台で、200kWhです。

図13

2025年10月から実証試験操業をスタートしました。黒瀬水産 (株) では、このタイプの養殖漁船を約70隻運用されています。そのうちの1隻になります。乗組員は1名で、朝7時に出勤して、16時が定時です。8時頃にペレットの餌を搭載し、漁場に向かって給餌します。概ね13時頃に帰港し、16時頃まで充電作業をしています。

図14

操業の航跡の様子です。黒瀬水産の港から出港して4kmほどのところにあります。大型の直径30mの養殖池や小型の10m四方の生簀がありまして、大型の生簀には約5万尾のブリが養殖されています。この日は9か所で給餌をしています。大型の生簀のある地点Aに3か所、小型生簀の地点Bに6か所で、AからBに場所を移って、1か所につき大型生簀で40~50分、小型生簀で10~20分かかります。この生簀は浮沈式生簀で、餌をやり終えたら沈めます。船を生簀に寄せる時などは、一般的にかなり前後進やサイドスラスターを使っている状況です。

図15

こちらが時系列の様子です。一番上が船速、横軸が時刻です。真ん中がモーターの回転数、下がモーター出力と発電、充電の電力マネジメント状況になります。朝8時半頃に出航して、この日は3か所、大型生簀で操業、その後、先ほどの地点Bに移動して、計9か所の給餌を行って帰港、その後充電を行っています。船速は約7.5ノットです。全速で走っても8~8.5ノットくらいです。既存船も同じように全速で、エンジンフルで走っても8.5ノットくらいです。特徴としては生簀周辺で激しく前後進することです。航海出力は既存船に対してかなり出力が減っています。パワーユニットや漁労機械を電化することで効率が良くなり、同じ操業、同じサイズの船でも、エネルギー消費量が少なくなっていることが分かりました。

図16

パワーユニットの具体的な変動の様子と、一番下の表は本船と既存船を比較した、操業に使われるエネルギー量の比較です。例えば、既存船は電力量230kWhだったのが、本船では138kWhでした。1ヶ月の電気代が10万円ほどで推移しています。ディーゼル船の燃料代が大体15万円で、仮に電動だけで動かすと、ランニングコストは本船の方が安いです。それに水素が使われるとコストが上がってしまいますが、既存のディーゼル船と電動だけの船を比べるとエネルギー消費量が減少したことを踏まえ、かなりランニングコストは安くなっています。

図17

こちらは陸電の様子です。九州電力と低圧受電契約を結び充電をしています。

図18

水素の供給方法について、タンクは取り外し式になっていまして、タンクを外してトラックで鹿児島にある自動車のステーションへ持ち運んで、充填しています。温度管理と圧力制御が自動で行われ、水素充填にかかる時間は7~8分です。水素タンクを取り外しているときはこのような感じで、電動で動かせるようになっています。

図19

最後にまとめです。今まで3年間、高圧ガス法や水素燃料電池船の安全ガイドラインに沿って船を設計してきました。水素バンカリングマニュアル等も作成し、実証試験中です。船長さんの声として、既存ディーゼル船とまったく同様の操業ができ、非常に静かで乗り心地がよく、ストレスも大きく減少しているとのことです。ただし、充電速度がもう少し速いと良いというお話でした。

耐久性や、水素燃料電池とバッテリーをどういう組み合わせで操業するか、最適な運行について継続的に調査を実施しています。水素のバンカリングをもう少し簡素化できないか、水中放射雑音計測についても引き続き詳細なところを計測しているところです。

以上です。ありがとうございました。

図20

和田:ありがとうございました。質問を受けたいと思います。私から一つお伺いします。実証試験を具体的に進められている中で、生け簀の周りで船の細かい運動が必要になるということでしたが、今後改善が可能であるのか、それとも燃料電池船あるいは電動船では、ディーゼル船と比べて対応が難しいのか、感触はいかがでしょうか?

三好:燃料電池を直接前後進で激しく使うことは、おそらく細かい出力負荷変動に耐えられないので、出力負荷変動分については、常にバッテリーでアシストしてモーターを前後進させています。その点については問題ないかと考えています。他方で、サイドスラスターや電動スラスターに関しては、プレジャーボートで使われているものを転用しているだけで、これは激しく使うことを想定していないため、ショートしたり、耐久性の面で問題があるという状況ですが、改善に向けているところです。この点はメーカーマターになってしまうので、具体的にはわからないのですが。

和田:はい、ありがとうございました。

大関:大関と申します。2020年代初め頃に環境省が日本全国のCO2排出を業種別にかなり細かく報告され、漁船の排出量は日本全国の総排出量の0.5%にしかならない中で、非常にお金をかけてこういう事業を行うことに対してどのようにお考えですか?

平石:全分野で平等に取り組むというのが目標になっているのだと思います。今、国内の船舶について、漁船で使っている燃油の量は内航船と大体同じです。外航船舶を入れるとあれですけど、国内の内航船に比べれば、漁船の方は随分減ってきていますが、かなりの使用量になり、年間200万kL近い化石燃料を使っています。ゼロエミッションですから、農林水産分野もしっかりゼロに向けて取り組むということだと思います。船舶全体でプロジェクトを比較すれば、他の事業よりかなり大きな事業に見えるかもしれませんが、他分野で新しい技術開発をされている事業に比べれば、大変厳しい予算の中で事業を行っています。着実に漁船分野でもゼロエミッションに向けた取り組みを進め、貢献できたらと思います。予算についても国でしっかりお考えいただければと思います。漁船のような小型船を対象とした水素燃料電池の実証は、「みどりの食料システム戦略」が掲げる漁業の電化・水素化を推進する上で重要な取組です。得られる成果は、今後の小型沿岸漁船や他の小型船舶への技術展開を促進するとともに、水素需要の拡大や水素供給インフラの整備を後押しとなり、水素社会の実現にも貢献するものです。また、漁船は自動車よりも塩害、振動、波浪など過酷な環境で運用されるため、水素燃料電池技術の信頼性や耐久性を検証する実証プラットフォームとしても有効で、幅広い産業分野への技術展開にも貢献できるものと思っています。

和田:ありがとうございました。