水産振興ONLINE
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2026年7月
進む温暖化と水産業ワークショップ
「水素燃料電池船、海藻養殖、洋上風力」
平石 一夫((一社) 海洋水産システム協会 会長)
三好 潤((国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・基盤部門 水産工学部 副部長)
佐藤 陽一(理研食品株式会社 取締役・原料事業 部長)
長谷 成人(海洋水産技術協議会議長/(一財) 東京水産振興会理事)
和田 時夫(海洋水産技術協議会/(一社) 全国水産技術協会会長)[司会]

漁船における水素活用の取組について
〜水素燃料電池漁船開発事業の概要〜 (1)

平石 一夫  (一社) 海洋水産システム協会 会長

平石:ご紹介いただきました平石です。よろしくお願いいたします。

本日お話しいたします水素燃料電池漁船開発事業について、(一社) 海洋水産システム協会が代表機関になっておりまして、三好さんがおられる (国研) 水産研究・教育機構、それから宮崎県の黒瀬水産 (株) が一緒になり、コンソーシアムで事業を行っております。役割分担ですが、大まかに漁船建造と運行管理は (一社) 海洋水産システム協会です。先ほどの紹介で、技術的な検討や仕様書の取りまとめを三好さんが中心になってやっていただいたとありましたように、そういった技術的な側面は (国研) 水産研究・教育機構に担っていただいております。この漁船の場合は特に新しい技術、燃料電池を初めて漁船に積むというところを、安全性や漁船に適合するかとか、その詳細を詰めて、仕様書に取りまとめていただきました。それから、その実証試験を実施していただく役割が黒瀬水産 (株) です。三者がそれぞれ役割分担して取り組んでいるところでございます。

これが事業の概要です。

図2

私からは事業の細かい内容よりも、この事業がどのような背景で進んできたかについて簡単にご紹介したいと思います。我が国の現在のカーボンゼロエミッションの取り組み、要するに、地球温暖化対策の一環として日本におけるカーボンゼロ認証化の取り組みについて、2050年のカーボンニュートラルの目標ですが、2020年10月に当時の菅総理が国会の冒頭、所信表明演説において宣言された際に国でまとめられた資料です。

温暖化対策は古くから取り組まれてきて、1992年に国連環境開発会議がブラジルのリオデジャネイロで行われました。その会議で環境と開発に関するリオ宣言が採択され、気候変動枠組み条約が合意されました。それから発効まで時間がかかり、1996年に発効し、第1回締約国会議がありました。1997年に京都で、より具体的にしっかり温暖化対策を進めていく趣旨で会議があり、京都議定書が作成され、そこから我が国のまさに二酸化炭素の削減の取り組みがスタートしています。当時は21世紀中にゼロにしましょうとか、各国がそれぞれの目標について、1990年を基準に2010年頃までこれだけ減らそうという目標を作るということが京都議定書の趣旨でした。その後、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)からどんどん温暖化が進んでいるという報告がされ、温暖化対策をしていこうというのが国際的な流れになっています。

その中で一つのターニングポイントが10年前のパリ協定書で、さらに加速して温暖化対策を進めようという国際的な流れの中で、2020年に当時の菅総理が宣言されて、日本国内で、分野によってはゆっくりしたペースで検討されていたのが、一気に2050年を目標に対策を進めていくというのが、今の状況です。

そういった中で、2021年には国内の戦略を具体的に進めていくグリーン成長戦略が策定され、その2年後にはGX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が策定されています。特に2026年4月に改正法が施行され、排出量取引の「義務化」など、新しいフェーズに入ってきています。

農林水産省でも同時期、2021年にみどりの食料システム戦略を作成し、農林水産分野もしっかりゼロエミッション、CO2削減の取り組みをして、地球温暖化対策を進めていくとしています。

図3

これは国全体の動きで、2026年4月にさらに進めていくという趣旨で補助金や税制、あるいは排出量取引といった具体的な経済的メリットを伴う仕組みになりました。この中で漁船について、どのように整理されているのか、ロードマップがあります。

2020年代、つまり2030年までに取り組むのは、まだ実証段階です。漁船については、小型漁船、沿岸漁船での試験操業を開始しています。それから電動化、水素化については、具体的な検討を今から始めていく段階です。本日ご紹介するこの事業は、試験操業開始に該当しているということになります。電動化や水素化に向けた具体的な検討について、他事業でも調査や検討が行われているところです。その次に、2030年代にはこういった技術が確立して、普及の準備に入り、2040年代には社会実装に取り組んでいくというロードマップになっています。現在は2030年に向けてしっかり取り組みを進めています。

図4

この事業は2026年で4年目、実証試験を始めて半年経過した段階です。1年目はまず新しい技術を搭載した養殖給餌漁船を設計することでした。黒瀬水産 (株) が所有している16tの船をベースにして実証船の設計、建造をしました。2025年9月に船が完成し、10月から操業試験を開始しています。事業とは関係ない話ですが、現在の水素燃料電池やEVも含め、今後どんな展開が予想されていくのか、個人的ですが、整理してみました。

図5

現在では本事業で取り上げているように近距離かつ短時間での利用が中心で、かつ比較的スペースが取れるような10t以上の漁船。今回の実証船は16tをモデルに18tぐらいになりました。スペースの取れる、そういった船に限定的な運用形態というのが今対象になる段階です。しかしながら、こういった関連技術の研究開発は着実に進展しており、違った見方ができると今後の方向性も得られるのではないかと考え、整理したものです。

例えばバッテリーについては2030年代の半ばぐらいには現在の容量に対して、同じ大きさかつ同じ重さで2倍、3倍の容量になっていくと見込まれています。さらに、気をつけなくてはいけない熱管理についても、特にリチウムだと熱が出るので、安全性の観点から熱管理をしなくてはいけないのですが、その負荷を軽減できる技術の開発が見込まれています。水素の運び方にしてもいろいろな合理化が進められていて、そういった情報を整理しているものですので、後ほど見ていただければと思います。

こういった技術進歩が着実に進めば、2040年前までには現在の相当制約されているような対象だけでなく、小型漁船の多くに導入できるようなことが見込まれます。各取り組みの全体像をみれば、漁船はそういった技術の進展と共に可能性が高まる、小型船の多くで電気化が可能になっていくことが見込めそうだということです。そうした意味で、現在実施している事業ですが、漁船の将来的なゼロエミッション化に向けた初期段階の取り組みとしては大変意義があると思っています。この後三好さんが講演されますので、関心を持って見ていただければなと思います。よろしくお願いします。