講演
水産施策によるセーフティネットとALPS処理水の海洋放出
坂井 ご紹介いただきました水産物安定供給推進機構の坂井です。よろしくお願いいたします。先ほど、濱田先生の話にありましたように、ALPS処理水の海洋放出による影響はホタテやナマコだけではなく、数多くの魚種に及んでいますし、これから説明する水産政策パッケージの対象となった魚種も、ホタテ、ナマコ以外にも各種ありますが、今日はホタテに限って、影響と対策について説明をしたいと思います。
なぜ、ホタテについてお話しするかというと、ホタテは先ほどのお話にもありましたとおり水産物輸出の第1位の品目なのですが、これが中国に主に向けられていたので、禁輸措置により甚大な影響を受けました。輸出の持つリスクが顕在化した典型的な例ですので、その点を特に取り上げてみたいと思います。
今回はこういったことで、輸出の持つリスクというのが明らかになったわけですが、水産物に限らず、農林水産物の輸出は大きなリスクを抱えています。今回のような検疫条件の変更もあれば、自然災害もあり得るし、コロナの時のように需要が喪失してしまう、あるいは輸送ルートが途絶してしまう、そういった多くのリスクを抱えています。そういった意味で、国内販売よりも明らかにリスクが高いということです。
今は政府全体として、農林水産物の輸出に非常に力を入れていますけれども、実は政府が農林水産物の輸出に力を入れたというのは、そんなに古いことではありません。少し自己紹介になりますが私は農林水産省のOBでして、2003年に初めて輸出に関するまともな予算が付きました。たまたま、その時に担当課長だったものですから明確に覚えているのですが、それまでは1,000万、2,000万ぐらいの申し訳程度の予算しかなかったところが、1億単位の予算が付いて、その時から徐々に予算が伸びていったと記憶しています。
そうした意味では、政策的にも非常に経験が浅い分野でして、予算を増やす時にも、そもそも何で農林水産物の輸出などに国が予算を付けなければならないのだという批判が、当時は省内でも多かったのです。そのため、財務省との折衝以前に、まず省内を突破するのが非常に困難であり、そうしたマイナスマインドで農林水産物輸出の政策が始まったという事情があります。ホタテの例でこれから説明しますけれども、歴史が浅いので、残念ながらリスクを高めるような形の輸出が行われてきました。政策的にリスクをヘッジしようという観点は、私が見る限りは全く見られなかったというような経緯があります。
それに対して、ではリスクが顕在化した時のセーフティネットはどう考えるのかという点が重要となります。ここで言うセーフティネットというのは、燃油や餌代の高騰に対して補塡するような対策ではなくて、流通加工面、具体的には、これも後ほど説明しますけれども、魚価の安定と加工流通面での加工事業者対策も含めたセーフティネットです。こういったセーフティネット対策も輸出の促進に合わせて強化されてきたかというとむしろ逆で、極めてないがしろにされてきたというのが実情です。そういった時に、このALPS処理水の海洋放出が起きたということで、緊急避難的な対策を講じざるを得なかったといったような事情があります。
それでは、具体的に話に入ります。今回の私の話の趣旨としては、今回のALPS処理水の放出、それによる中国に対する輸出の途絶を事例として、輸出の持つリスクにどういうふうに立ち向かっていくのか。そういった中で、リスクが顕在化した時のセーフティネット対策も含めて、どのような措置が可能なのかということを議論していきたいと思っています。
最初にALPS処理水対策について、あらためて経緯をまとめました(図17)。
まず2021年に海洋放出の方針が決まりました。その後、21年の12月の補正予算で300億円基金ができ、その翌年には500億円基金というものができて、かなりの金額の基金が用意されたわけです。そして23年の8月にALPS処理水の海洋放出が開始され、即日、中国が輸入を全面的に禁止するということで、これは私も非常に驚いたのですが、極めて短期間で、すなわち8月24日の中国による禁輸措置から間もない9月5日には「水産業を守る」政策パッケージが閣議決定されました。
こちらのスライドがその政策パッケージです(図18)。黄色のマーカー部分が、水産物の買取・保管事業というもので、これが政策パッケージのメイン事業です。
この他にも、国内の加工体制強化ということで、施設や機器の整備も行われましたが、ここでのポイントは、300億円基金、500億円基金の上にさらに予備費で207億円を追加して対策をしたということです。予算は通常、国会の議決が必要ですが、予備費は国会の議決なしに閣議決定で対応できますので、まさに緊急避難的な対策であったわけです。
緊急避難的な対策となった理由ですが、予測不能な状況、予見し難い事態に対応するために予備費を使うのだというのが予算上の理屈になるわけです。しかし果たして中国による禁輸措置が予見できなかったかというと、疑問が残ります。それまで各種の国際会議で、中国は福島原発のALPS処理水のことを「核汚染水」と表現し続けており、日本が「核汚染水」を放出したらわが国は輸入を止めると明言していましたから、放出後の中国の禁輸措置は、とても想定外の出来事だったとは思えません。あるいは日本産水産物を全て禁輸するとは思っていなかったとか、北海道のホタテも禁輸するのは想定外だったなどの理由づけができるかもしれません。これまで中国の動きを見れば分かりますように、科学的根拠というよりは、日本にいかにダメージを与えるかという政治的観点で措置を取るわけで、ホタテなどは中国への輸出に大きく依存していますから、そこが狙われるのは自明だったと思います。ともあれ、残念ながら、予見ができなかったということで予備費による緊急対策が取られたわけです。
当機構で実施している事業も幾つかあるのですが、この表の一番上の買取保管等支援事業は、漁業者団体などが行う水産物の買い取りや保管に対して、保管経費や加工費あるいは運送費などを助成するものです(図19)。
そしてこのスライドが事業の実施状況です(図20)。基金が270億円となっていますが、広報予算も加えると300億円の基金となります。それに加えて、予備費や補正予算が手当されていますけれども、ここでのポイントは水産加工事業者も対象になるという点です。それまでの基金は漁業者団体および水産加工事業者の団体が対象で、個別の加工事業者は対象ではありませんでした。この対策として、予備費の事業、それ以降の補正予算の事業では、加工事業者、個別企業も対象になるというようなことで手当てがされたわけです。
さて、この買取保管等支援事業ですが、実はもともと平準化事業と呼ばれる水産庁の施策です。このスライドが具体的な中身なのですが、水産物調整保管事業という名称で50年にわたって実施をしている事業です(図21)。これはどういうものかと言うと、ご承知のとおり日々の漁獲量はコントロールすることができませんので、水揚げが集中した時には魚価(産地価格、浜値)が暴落します。そこで魚価暴落を防ぐため漁業者団体や加工事業者団体が漁獲物の買い取りと保管をし、市場から隔離を行う際の加工経費、保管経費、運送費などの支援を行います。また、端境期には加工需要に応じて国産原材料魚を水産加工事業者に販売するという事業です。これは水産物だけではなくて、他の農産物でも行われている、価格安定対策としては典型的な手段の一つです。
ここで重要な点は、保管経費、加工料、運送費、金利いずれも経常経費ということです。こうした経常経費に助成できるというのは、非常に得がたい事業です。これは何でできるかというと、入り口のところで魚価の安定を図っているという公益的な目的があるわけです。
もちろん、加工事業者に対する原材料魚の安定供給も非常に重要な公益的な目的を持っているわけですが、水産物を保管して、加工して、運送している人は多くいます。あまたいる中で漁業者団体なり加工事業者団体にこうした経常経費を補助するというのは、入り口のところで魚価安定、水産物が供給過剰になった時に限って値段が落ちることを防ぐために実施するというところで、入り口と出口の両方に政策目標があるので、こういった事業が実施できています。
このスライドは、魚価安定対策の重要性についてまとめたものです(図22)。まず「水産基本法」という基本的な法律でも、水産物価格の著しい変動を緩和するために必要な施策を講ずることが明記されています。また、魚価下落のリスクというのは、近年、環境変動によって水揚げする場所が変わるということも起きています。そうすると、当然加工しにくいわけですから、値段は落ちやすくなるということで、むしろ近年の環境変動などによってリスクは高まっていると思います。「浜プラン」という漁協が中心となって自ら作る振興計画についても、そのほとんどが魚価の安定や浜値の向上について記載をしていますので、政策的なニーズも高いといえます。
当然ですけれども、再生産可能な魚価が実現できなければ、持続的な漁業生産ができませんし、漁期を通じた魚価が安定しなければ、計画的な生産もできません。資源管理に資するだけではなく、加工原料魚の安定供給で漁獲物の有効利用に資するということで、食料安全保障にも非常に貢献できる事業なのです(図23)。
具体例として、銚子漁港に水揚げされるサバを対象にした調整保管事業の効果についてご紹介します(図24)。
このグラフは銚子漁港とそれ以北の太平洋岸の主要漁港におけるサバの産地価格の推移を比較したもので、太く赤い折れ線が銚子魚市場でのサバの産地価格です。令和元年の11~12月に銚子市場で業者が買い取りをし、価格の下支えを行いました。その間の気仙沼や石巻など他の漁港での価格の振れ幅は大きいのですが、いずれも銚子の価格によりある程度下げ止まっていることが分かると思います。当然ながら、他港よりも浜値が安いとなれば値段の良い港に水揚げが奪われてしまいますから、調整保管により銚子で浜値を下支えすることで他の港にもその効果が波及するという事業です。
この事業による魚価の下支え効果について試算をしたのがこの表で、おおよそ2割程の下支え効果があることが検証されています。波及効果も加えると、下支え効果は助成金の何十倍にもなり得る、明らかな効果がある事業といえます(図25)。
ところが、残念ながらこの事業は大きく後退をしてきています。予算規模はかつて最大で17億円ありましたが、令和2年には過去最低の1.7億円と10分の1にまで減らされてしまいました。また、これも後ほど説明しますけれども、基金として実施をされてきた事業なのですが、これが廃止をされてしまって、単年度予算で無理な対応をせざるを得ないようになってしまいました。また、対象魚種が20あったのが14削られて、6魚種まで減少しました。さらには、ノリなどについては保管経費が打ち切られるなど、水産施策の中で大きく後退をしてきています(図26)。
なぜこうなってしまったか、それにはいろいろな背景がありますが、外部機関による指摘に抗えず後退してしまったということが最大の要因だと私は思っています。つまり、行政改革推進会議や経済財政諮問会議など、行政の施策を見直す機関があるわけです。民主党政権時には公開でレビューのようなことも行われましたけれども、そういった機関の委員による指摘がいろいろとあるのです。残念ながら、そうした会議の類いは、水産に関する専門知識を持った方はほとんどいなくて、一般経済の学識経験者や大手企業の方などが委員となるわけですが、そうした方々の指摘を受けてこの事業は大きく後退せざるを得なくなりました(図27)。
例えば、対象魚種の14魚種削減に関する指摘は、計画どおり買い取りが行われていないというものでした。しかし、そもそもこの事業は価格が下がった時だけ使う事業ですから、下がらなければ当然使わないわけです。従って、計画どおりにいく事業ではないのですが、そうした見当外れの指摘がまかり通ってしまったということです。さらには、計画どおり使っていないのであれば財政支出はないわけですから、何ら財政支出の節約にはつながらずに、セーフティネット機能が脆弱化したというものです。
次がノリやサケの保管経費が打ち切られたのですが、これは補助の対象の中核が保管経費なので、99%補助率カットに相当するような措置が行われました。この時の理由が、はっきり分からないのですが、聞くところによれば、計画生産ができるというようなことで、ノリはもちろん養殖ですし、サケはふ化放流していますので、そういったものはやめるべきだという話です。そんなことを言ったら、農産物に対する価格政策を取り得なくなりますから、これはとんでもない指摘だと思うのですが、こういった理屈もまかり通ってしまったということです。
また、私も役所のOBとして良くないと思うのは、事業自体は残っているのですが、99%補助率カットですから、ほとんど形骸化しているわけです。ですから、名目上は存在していても実体は無いのです。本当に止めるのであれば、しっかり議論をして廃止すればいいわけです。それが、こういったいいかげんな措置によって形骸化されました。
最後に、これが一番大きいのですが、基金が廃止されたということで、基金方式は真に必要な事業に絞り込むべきということですが、これは先ほど申し上げたように、魚価が下落しなければ使えませんから、そもそも使い切るタイプの予算ではないです。また、水揚げが集中する時に買い取り、端境期に売り渡しますので、年度と関係なく行う事業ですので、そういった点が一切無視をされてしまったということです。
もう少しだけ魚価安定対策の話をしますと、水産基本法には、先ほど申し上げましたように、著しい変動を緩和するということが明記されています。それに基づき水産基本計画が5年に1度改定されるのですが、最初の計画策定時の平成14年3月の水産基本計画には、最初に基本法の条文と併せて価格の著しい変動の緩和ということが書いてありました。ところが、平成29年の第3次改定では、この価格の安定というところが抜けています。要は端的に言うと、基本法と整合性が取れていないわけです。ですから、こういったことまで起きてしまっています。幸いにして、令和4年の第4次改定では「水産物の価格の著しい変動を緩和し」という文言が復活しています。残念ながら、これも自民党水産部会の議論を反映してようやく戻ったというような状況で、水産基本法との整合性をもう確保できないような事態まで、この事業はおとしめられてきたということです(図28)。
しからば、水産物が食料として重要でないかというと、そうではありません。確かにカロリーベースでは、令和4年の国内食料の総供給熱量2,260kcal/人・日のうち魚介類は78kcal/人・日ですから、重要度は低いかもしれません。ただし、タンパク質源として見れば、近年では特に高齢になるに従ってタンパク質をしっかり摂らなければいけないということがいわれていますけれども、日本人が摂取するタンパク質総量84.2g/人・日のうち魚介類は18.9g/人・日で、肉類や乳製品、大豆など他の品目の中で最も多い数値となっていますので、タンパク質源として極めて重要な食料だといえます(図29)。
また、価格が乱高下しやすいというのは、天然で獲れるものですから、農産物と比べて生産量の変動が大きいことは明らかです。なかなか比較は難しいのですが、このスライドは水産物に比べて、農産物の価格安定対策にどれほどの事業予算が用意されているかを整理したものです(図30)。
まず米です。産出額が1.5兆円ありますが、漁業・養殖業の産出額をやや下回っています。価格安定対策として、転作する場合の直接交付金が3,015億円。また、GATTウルグアイラウンドで約束させられたミニマム・アクセス米(最低限の輸入米)関係では、これらの多くは加工用や飼料用に向けられるのですが、これだけでも年間1,100億円程度あります。
野菜、肉用牛、生乳、豚、鶏卵、それぞれについても極めて手厚い対策が講じられています。例えば、野菜は確かに漁業・養殖業より産出額が大きいですけれども、野菜価格安定対策事業として価格補塡や産地廃棄などに156億円。さらに畜産業は非常に補助が手厚く、金額的に比較対象にもなりません。それらに比べると漁業・養殖業は直近の当初予算が2.8億円で、どう考えても全く十分とは言えない状態です。
ちなみに、天然水産物については規格基準を作ることができませんので、例えばサバでもいろいろなサイズのものが一緒に漁獲されるため安定価格帯を設定するのはなかなか難しい、価格補塡を行うための最低価格のようなところを作るのは難しいので、価格補塡ではなく調整保管という間接的な手段で従来から対策を講じてきたところです。
そういったことで、魚価安定面でのセーフティネットを欠いた局面でコロナ禍に直面しました。コロナ禍で水産物の需要が喪失しましたが、この時も残念ながら政府としての対策の提案はなくて、自民党の水産部会の議論の結果として、この平準化事業を補正予算で確保するということで、かなり大きな額の補正予算が講じられました(図31)。
ALPS処理水の放流対策で用意された300億円基金は経済産業省の予算ということで、少しは見直しされつつはあるのですが、この予算を巡る状況は非常に厳しいということです。
ここにある当初予算による事業、コロナ対応平準化事業、ALPS処理水対策。一番下を見ていただくと、助成率が2分の1から3分の2になって、ALPS処理水対策では定額補助ですが、基本的な構造は同じです。保管料、入出庫量、加工料、運送費等の補助を行う事業として、魚価の安定、また流通面、加工面でのセーフティネットとして、この対策が使われてきたということです(図32)。
ここからは、ホタテ輸出の経緯と現状についてお話しをしていきます。中国の禁輸措置は特にホタテ関係の水産業を直撃したわけですけれども、その背景には中国への輸出依存度の高さと国内加工能力の脆弱化があり、そのリスクを極めて大きなものにしたという状況があります。
まず、近年推進されている水産物の輸出入についてスライドに整理しました(図33)。
上の表の水産物輸出額を見ていただくと総額が伸びている中、特にホタテガイでは2020年から2022年までで300億、600億、900億と目覚ましい勢いで伸びてきたわけです。一方、下の表の水産物輸入額を見ていただくと、2021年から22年にかけて2兆円を突破し、対前年で4,618億円増加しています。すなわち、水産物の輸出額も伸びていますが、輸入額はさらに大きく増加しているわけです。これは円安の影響が大きいわけですけれども、輸出入のバランスで見ると、決して喜んでいられるような状態ではないということが言えると思います。
冷凍ホタテについて近年の輸出量の推移を見たものがこのグラフです(図34)。
グラフの右端に記した両貝冷凍とは、殻付きのまま冷凍したホタテですが、近年では中国向け輸出(グラフの網掛部分)のほとんどがこの品目です。急激に増えてきましたので、両貝冷凍として関税分類が独立したのも2021年からです。そのため、2020年までは冷凍貝柱などの加工品と両貝冷凍とが混在した量となっていて、貝柱の7~8倍以上の重さがある貝殻部分の重さも含まれているわけです。
しかし。元々は製品形態の輸出は、冷凍貝柱や干し貝柱などが主体でした。いろいろ調べてみると、中国はいまだに世界最大のホタテガイ類(イタヤガイ等を含む)の生産国ですけれども、2009年ごろから中国が国内の減産により加工原料が不足したことで、日本からの輸入を開始したということで、2010年以降、加工原貝として両貝冷凍の輸出が伸びていき、15年ころには5万トン程度に達していたといわれています。
実際に関税分類が両貝冷凍のものができてデータを見ると、両貝冷凍のほとんどは中国に行っています。量的には極めて多く、その他の製品を圧倒するような重量ベースになっているということです。
では、中国による禁輸がどういうインパクトを持ったのかということですが、まず、輸出ホタテの商品形態には両貝冷凍の他、貝柱のみを冷凍したものもあれば、干し貝柱もあり、さまざまに加工されますので、それぞれを原貝換算するのは非常に大変な作業です。
このスライドは、海洋放出前年の2022年について輸出単価などを調べ、推定値も含めて、水産庁が作成をした資料です(図35)。これを見ると、重量ベース(原貝換算)で国内生産の6割が輸出され、3割弱が中国向けです。中国向けのうち両貝冷凍が9.6万トンですので、実に国内生産量51.2万トンの2割近くが中国の加工事業者への原料供給型輸出という位置付けになっています。
この一覧は2000年以降のホタテの漁業・養殖業生産量の推移です(図36)。2014年に発生した北海道オホーツクでの爆弾低気圧被害により2017年は大幅減産となり合計40万トンを切りましたが、総じて漁業・養殖業合計で50万トン内外の生産量を維持して安定的な生産が行われています。なお漁業といっても、稚貝を漁場に放流して数年後に漁獲する地まき方式ですから完全な天然漁業とはいえません。一方、ホタテ養殖は耳吊り方式で、貝殻を糸でロープに結びつけ吊り下げて養殖しています。
こうした安定生産の中で輸出が増えているというのは裏を返せば国内消費が減っているということです。内需の拡大が見込めない中で輸出に傾斜していき、生産構造が変化してきたということです。
それではなぜ、とりわけ両貝冷凍の輸出が増えてきたのかという点ですが、普通ならば国内で製品加工して付加価値を高めた方が良いわけです。しかし、残念ながらホタテについては貝殻を外す作業を含めて人手が要りますが、加工産地では外国人労働力に依存しているもののとにかく人手不足で、作業をする人を確保できないので、高度加工がなかなかできないという事情があります。
さらには、日本経済の衰退です。デフレ経済下では、国内で最終製品を作っても、よい値段で売れるかどうか分かりません。他方、中国は原材料を比較的高い値段で買っていきます。もちろん彼らは国内で加工して米国に輸出することなどにより、さらに大きな付加価値を得ているわけですが。そういったことで、時間や人手をかけてリスクを取って国内で加工するよりも、単純に冷凍して、数日のうちにキャッシュで買いに来る中国人バイヤーに売ったほうがもうかるということで、こういったことが進んできたわけです。
このグラフは「漁業センサス」データによる冷凍ホタテ加工場数の推移ですけれども、2013年から直近の2023年までで相当減っています。特に北海道では大幅に減って100を切っており、このような形で地域産業が空洞化をしてきました。雇用の場も失われるといったようなことが進んできてしまったわけです(図37)。
それでは、こういったような状況で、中国が輸入を止めて何が起こったかということをホタテについて見ますと、これが中国輸入禁止後の1年目のホタテ輸出の推移です(図38)。
中国が輸入を止めたのが23年の8月24日ですので、9月を起点として、2022年9月から翌年の8月まで、そして中国が輸入を止めた2023年の9月から24年の8月までを比べています。まず、両貝冷凍について見ると、中国へは輸出が止まった替わりにベトナムへの輸出量が20倍以上に急増しました。とはいえ、前年の中国への輸出量をカバーできる量ではありません。特にキロ単価ですが、420円台であったのが300円を切ってしまい、大きく落ちています。投げ売りも行われたと伝えられています。冷凍貝柱の輸出については、量的にはそれほど下がっていないのですが、キロ単価を見ていただくと、中国に行っていた安価なものがなくなったのですが、台湾や米国向けのキロ単価でも、3,700円前後だったのが3,000円を切るということで、やはり供給がだぶついたため買いたたかれた結果の価格低下ということだと思います。
輸出の停滞は浜値にも悪影響を与えています。この表は北海道におけるホタテの産地上場数量と価格を禁輸措置の前後で月別に比較したものですが、右側の2023~2024年ではキロ単価が軒並み前年を下回る水準になっています(図39)。特に2024年3月のキロ単価は160円にまで下がってしまい、日によっては100円を切る場合もありました。当時私も産地を訪問したのですが、漁業者の方からは悲痛な声が聞かれたという状況でした。
こうした状況を受けて対策が講じられ、先ほど申し上げましたとおり、多くの水産加工事業者の方に買取保管等支援事業を利用していただきました。
その成果ですが、消費地卸売市場を代表して、東京都中央卸売市場における冷ホタテ貝(冷凍貝柱と冷凍ボイル)の取扱高の変化をグラフにしました(図40)。各月の2本の棒グラフの左側が前年、右側が輸出が止まった後ですが、取扱量が明らかに増えています。
これは、もちろん当機構の事業を活用いただいた部分もありますし、独自の努力で国内に向けた加工量を増やしたといったこともあります。また、機器整備や施設整備も行われましたので、そういったことも活用して、いずれにしても国内加工が復活をしてきたということが見て取れるわけです。
もう少し長いスパンで見ますと、同じく東京都中央卸売市場のデータですが、9月から翌年8月の冷ホタテ貝(冷凍貝柱と冷凍ボイル)の取扱量を2012年から並べてみたのがこのスライドです(図41)。2012年9月~2013年8月の取扱量は3,000トンを超えていましたが、その後年々減っていき2,000トンを切った年もあった中、中国が禁輸をした後の2023年9月~2024年8月は3,300トン台まで回復したということで、これは明らかに国内加工が復活をしてきたということが言えると思います。
次に国内のホタテの消費動向を「家計調査」で見たのがこのスライドです(図42)。左側の表の1世帯当たりの支出金額を見ていただくと、これも輸出が止まった2023年に応援消費ということがいわれて、年末は消費が増えたのです。2023年の12月を見ると207円ということで、前年をかなり上回るような支出が行われて、確かに応援消費があったと思います。
ただ、直近を見ると、2024年になって沈静化してきたというか、元に戻ってきたのですが、今年(2025年)を見ると、輸出が止まる時よりも減っています。これは少し価格が高くなったからなのですが、このように現在では支出が減ったということを心に留めておいていただきたいと思います。
また右側の地方別の年間支出金額を見ると、明らかに関東以北に消費が偏っています。残念ながら関西や九州など西日本での消費は少なく、まだまだ国内での消費開拓の余地、課題はあるのかなと思います。
これまで海洋放出から1年目までの状況についてお話してきましたが、放出から2年目以降ではホタテの貿易環境が大きく変わってきています。詳しくは配布資料をご覧いただきたいのですが、まず米国大西洋側でのホタテガイ漁業の漁獲割当量(TAC)が少なくなり減産が続いているため日本からの対米輸出が増え、輸出単価が非常に高くなってきたという状況があります(図43、図44)。
そのため、北海道での産地価格も2024年12月から高くなったという状況です(図45)。
一方で、残念ながら東京都中央卸売市場の取扱量は価格高騰により減ってきました(図46)。
価格高騰によるホタテガイ水産業への影響について、このスライドに整理しました(図47)。
まず国内で大きく減産をしているため価格が高騰し国内消費が減退しています。また価格高騰とトランプ関税の影響で対米輸出が失速しています。こうした状況において、高値で原料貝を調達した加工事業者が苦境に直面していると思います。そして加工事業者の経営悪化がいずれ漁業者の経営にも深刻な影響を与えることにならないか懸念されるところです。
そうした環境変化の中で、ホタテ水産業の抱えるリスクを3つにまとめました(図48)。1つ目は国内消費の減退と輸出依存構造、2つ目は両貝冷凍という原料輸出への依存とそれに伴う国内加工能力の喪失、3つ目が品質を活かすための製品差別化戦略と国際競争力の欠如です。
ここでは、3点目について、強みであるはずの日本産ホタテの高品質が十分に活かされていない点を指摘したいと思います。
まず輸出した日本のホタテが中国でどのように加工されているのかという点ですが、加水加工といって、リン酸塩を使って1.5倍に膨らませた加工が中国で行われています。そのうち半分ぐらいは中国からアメリカに日本原産ホタテとして再輸出されベーコンロールなどで食べられているのですが、そうした加工では残念ながら日本産ホタテの味の良さは活かされません。
また、先ほどお話しましたとおり、米国産ホタテは現在、TACが減って漁業生産が不振です。そのため日本から直接アメリカに輸出されるホタテが増え、輸出単価も上昇しているのですが、私もボストンで開かれたシーフードショーに参加し現地の方々からいろいろと聞いてきたのですが、日本のホタテはあくまでも減産期の代替的な位置付けに留まっています。現時点ですら価格高騰で輸出量が減りつつある中、今後米国でホタテ漁業生産が回復すれば、日本の対米ホタテ輸出はかなり減少すると見られます。
そうした事情を踏まえれば、今後の海外需要をつかんでいくためには、やはり原料輸出ではなく、しっかり国内で加工をして、ホタテの特質を生かした製品として輸出をしていく必要があると思います。日本のホタテは水揚げ後5~6時間で加工、冷凍されますから非常に鮮度が高いのです。一方、米国の場合は天然漁業ですから、1週間ぐらい漁獲をして、船上で殻むきをして氷漬けにするので、どうしても一定の水分を含むということで、品質的には日本のほうが優れています。残念ながら、現状ではそういった品質面での優位さがあまり輸出に活かされていないという状況です。
以上については次の2つのスライドにまとめましたので、ご覧いただければと思います(図49、図50)。
また、2024年10月と2025年の5月にホタテ関連の論稿を「水産経済新聞」に寄稿しましたので、そちらもご覧いただければと思います。
後半は少し駆け足でのお話となりましたが、私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。
司会 坂井様、ありがとうございました。続いて加藤様にお願いいたします。

































