水産振興ONLINE
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2024年11月

「漁業管理制度問題」懇談会記録
—明治漁業法と戦後の漁業制度改革について—

高橋泰彦 松元威雄 小沼勇 赤井雄次(水産経営技術研究所) 長谷成人(水産庁) 黒萩真悟(水産庁) 梶脇利彦(水産庁) (所属は1998年時)

2. 漁業制度改革について

⑴ 総論

赤井 それでは、次は 2. の漁業制度改革です。

長谷 今までのお話をうかがっても、例えば一次案で組合に漁業権を集中させようとしたとか、明治漁業法の中でいろいろ問題点が煮詰まっていたので、ある意味ではたまたま敗戦で漁業制度改革ということになったので、その中でこれまで考えていたことを実現しようということで、いろいろな試みをされたと思うんですが、敗戦がなくて明治漁業法が続いていたとしたら、明治漁業法で実務的にどこが一番問題になっていたのでしょうか。

高橋 まあ背景がねえ。難しいねえ。

黒萩 漁業者の数がだんだん減ってきて、今は3 0万人くらいしかいなくなってしまって、その少し前のバブルのときは漁業者がそんなに漁業をしたくないんだったら、俺たちがやろうかというときがありました。いわゆる民間のスーパーマーケット、チェーンの居酒屋などです。その時に、明治漁業法だったら、スパッとやれちゃうんですね。専用漁業権は別にして。今の漁業権は、できないことはないが、かなり資本参入しにくくなっています。明治漁業法を読むと、あのままであったらとんでもなく別の展開になったかなと思ったりします。

長谷 それで、外に向かっての解決ができないということで、冒頭にもいいましたが、ある意味で閉じた日本の周辺水域の中だけでいかに構造調整を図っていくかというのが、一番のテーマだと思うのです。その時に、ひとつのテコとしては、調整をつけていくための金が必要で、金なしで話し合いだけしろというのは限界があるというのが、私の問題意識なんです。その関連で、漁業制度改革のときの免許可料というのは関心があるのですが、この中で、久宗さんは、180億という金を漁村に注ぎ込むことが一番の狙いだったんだというようなことをいわれているわけですが、何といいますか、裏話的なことでお聞かせいただけるようなことがあればと思うのですが。受益者負担にしなければ、金なんて納めるはずないわけです。その時に、漁業権消滅の補償の資金を、許可漁業者にも負担させたじゃないですか。漁業権補償のためなのに、許可漁業者にまで負担させれば反発するのは当たり前だと思うんですね。それを、なぜあえてされたのか、あるいは意図的に火をつけるためにされたのかなと、あとからみれば思うのですが。

松元 私も、はっきりいってよくわからない点がある。塩見さんのときは、まさしく無償だったんですよ。免許は国が与えたものだから、取り消すのは自由である。憲法違反ではないと言ったんだから。法制局も了解したし、司法省の局長も立ち会って。その時は自信満々だった。それが、司令部がいかんと言ったから、ああいうふうになった。それをテコに、久宗さんはがらっと変わった。当初の案は非常にシンプルだったんですよ。一切を御破算にすると。国は特権を与えたのだから、剥奪するのは自由であると。あとは個人有をやめて組合に集中する。極めてシンプルで、単純明解だった。おそらく当時の漁業関係者は、権利を持っている人は別にして、みんなそう考えていたんじゃないだろうかと思われる。農地改革と同じように、全部組合に集中して。

そこで、久宗さんがいつからこういうふうに考え出したのか。いかんながら、私は当時、久宗さんの翻訳官だったんだな。僕はしたがって司令部交渉も大蔵折衝もしていないんだ。対外折衝はずっと久宗さんがやっておられたから。