水産振興ONLINE
646
2024年11月

「漁業管理制度問題」懇談会記録
—明治漁業法と戦後の漁業制度改革について—

高橋泰彦 松元威雄 小沼勇 赤井雄次(水産経営技術研究所) 長谷成人(水産庁) 黒萩真悟(水産庁) 梶脇利彦(水産庁) (所属は1998年時)

1. 明治漁業法と当時の実態について

⑴ 総論

長谷 今日は明治漁業法の話と、漁業制度改革の話の二つをうかがおうと思います。先に明治漁業法のお話をうかがえたらと思いますが、総論のところに書きましたが、久宗さんがいわれていたということで法制としては今の漁業法より明治漁業法の方がずっと筋も通っているし、構成もしっかりしているというようなことが念頭にありまして、そこらへんの具体的なお話をうかがいたいのですが、まず、特に漁業権については今の共同漁業権、区画漁業権、定置漁業権とは違う体系だったわけですから、その実態がどんなものだったのかを最初にうかがってイメージを持った上で、個別の話をさせていただけたらなと思ったわけです。専用、特別、区画、定置といきたいと思います。

松元 私は法律をつくったすぐあと水産から離れてしまっているので実態はわかりませんし、ここに書いてある高橋さんの座談会等も読んでいません。最近のネタは、ときどき赤井さんが送ってくれる全漁連の情報だとか新聞記事しか知らないのですが、総論のところで久宗さんのことが書いてあるが、これはどういう趣旨、背景で言われたのかな。あとにも絡んでくることですから。

長谷 大水がやった制度に関する研究がありまして、その中で佐竹さん(元水産庁長官)が、久宗さんから聞いた話として書いています。その趣旨としてはメモの2の(1)の4行目に書きましたが、あの当時は占領下の非常事態の中でいかにして我が国の先のめどをつかむか、この話と対になって、旧法の方がしっかりしている、というようなことを言っておられました。

松元 そうですか。そのことと、旧法がしっかりしていることとは、別問題のような気がするんだけどな。というのは、漁業権の法的性格は全然変わってないんです。物権的性格というのは私は明治漁業法からそのままいただいたんだから。もちろん入漁権は変え、漁業権の設定の仕方も変わっていますが、法的性格自体は変わってません。

高橋 別の言い方をすると、とにかく漁業制度を白紙に戻して、新しい法律をつくろうという大構想で、塩見友之助さんのもとに松元さんや久宗さんたちが集まってやったが、検討すればするほど明治漁業法はよくできているじゃないかという話だった。これには、その雰囲気が若干ある。あまりにもよくできているというのが塩見さんの考えだったな。その基本をなしていたのは入会の問題です。塩見さんの話を聞くと、沿岸漁業の実態というのは、そこに根本があった。新しい近代的なものを描こうとしても、そこが根っこなのです。古いから壊そうと思ったが、あまりに意義がある。塩見さんの話では、この問題はどうしようもないんだ。新しい技術を取り入れて、おおいに林野のようにやろうと思ったが、入会権の問題が解決してないんだということを教わった。そんなによくできているのかなというのが僕の考えで、疑問はあったんだけど、どうも僕が古い制度を主張したという形になっちゃったんです。入会の実態のようなことを聞かれるから、それを言っているうちに、意外と塩見さんや小沼さんより松元さんが「これは」という感じで結果的に僕の言うことを尊重してくれた格好になった。だけど、それはそうではなく、壊そうとしても壊し切れなかったというのが、久宗さんの言い方のひとつの説明ではないだろうかと思っています。久宗さんはいろいろ新しいものを考えてはGHQにぶつかってみたり、苦労されたようですが、入会みたいなものをずっと引きずっている漁場の中で、封建制を打破する、近代的に生産力を上げるとひと口に言ってみても、その問題をどうするかというのは結局、結論が出なかったような気がします。松元さんや小沼さんの手を借りてGHQの許す範囲ででっちあげはしたけれど、その問題は解決しきれてないな。またみなさん苦労するんじゃないかな。それが僕の感想。