水産振興ONLINE
645
2024年5月

内水面漁業に関する法改正について
—内水面漁協の活性化に関する研究における話題提供(2021年3月)—

長谷 成人((一財)東京水産振興会理事)

将来の内水面の参考になる沿岸漁場管理制度

図9では、内水面に関する改正ではありませんが、今後の内水面を考える上で参考になるのではないかと思う沿岸漁場管理制度のことからお話ししたいと思います。

図9
図9 沿岸漁場管理制度について

制度については、図10に水産白書から該当部分を載せておきました。海の漁協においても沿岸水域における赤潮監視や漁場清掃等、漁協は様々な活動を行っています。赤潮監視を例にお話すれば、漁協が組合員のために監視機材を整備したり、そのためのモニタリングをしているとして、その情報を隣接した漁場で養殖をしている組合員ではない漁業会社などに提供する見返りに協力金のようなものを徴収するとしたら、そのこと自体には十分合理性があるわけです。あるいは、海浜清掃の場合でも組合員ではない地域住民や企業から応分の負担をお願いするのもあっていいこと、むしろ健全な地域のルールと言えるかもしれません。しかしながら、いろいろな事例の中には時としてその徴収根拠や額の妥当性が不透明と指摘されるものもありました。このため、漁協等が構成員以外を含め漁場を利用する者が広く受益する保全活動を実施する場合に、都道府県がその申請に基づいて団体を指定し、一定のルールを定めて沿岸漁場の管理業務を行わせることができるという仕組みを新たに設けたものです。

図10
図10 沿岸漁場管理制度(平成30年度水産白書から)

図9に戻りますが具体的には、①として、知事は漁協等を沿岸漁場管理団体として指定し、指定を受けた団体は、知事の認可を受けた沿岸漁場管理規程に基づき保全活動を行うのですが、規程に基づき関係者からの金銭の徴収が可能となり、もし協力が得られない場合に、その活動により利益を受ける者に対し協力するよう知事にあっせんしてもらえるという制度です。なお、この制度は注にあるように海面のみの制度です。これは、内水面は海面とは違った形での河川管理者という存在があることを踏まえたものですし、それから重要なことは、漁協等と言いましたが、この場合の「等」には例えば海浜清掃のような活動を想定していることから漁協や漁連以外の一般社団法人や一般財団法人もあり得るということです。

そこで赤字の部分になりますが、仮に内水面の漁協がこれまでやってきた増殖・遊漁の管理などをこの制度を下敷きにして考えてみると、ルールに従わない遊漁者との関係で、悠長にあっせんなど頼んでいては実効性がないので、そこは例えば、増殖対象とするイワナならイワナ、ヤマメならヤマメの採捕を都道府県の漁業調整規則で原則禁止としたうえで、協力金を支払って釣りをする者はその禁止を解除するというようなことにすれば機能するのではないかと思います。

第5種共同漁業権の制度はそのまま残した上で、もしこれに似たような制度を新たに設けることが出来れば、営む実態がなくなった魚種については、引き続き漁協を主体とした管理をこの新たな制度に基づき行うことができ、さらには残念ながら漁協が存在しなくなってしまった川などにおいては、市町村や〇〇川を守る会等の新たな法人が管理を行うこともできると思います。また、ここには書きませんでしたが、そしてあくまで合理性さえあればということになりますが漁業権魚種にもともとなっていないことで料金徴収の対象にできていなかった、料金徴収の抜け道になっていた魚種についても制度として取り込むことができるかもしれません。

私の問題意識は、図9の左側にあります。今日参加しておられる皆さんとは豊かな内水面をなんとか実現したいという共通の思いを持っていると思っていますが、営む実態がどんどん希薄化している中で、本来暮らしを立てるために漁業を営む者を保護するための漁業権という制度からあまりにかけ離れてしまうと、制度の根本のところが社会的に問題視され全否定されかねない危険性を、全国の様々な情報が耳に入るにつれ感じているものですから、あくまで第5種共同漁業権制度に代わるものということではなく、補完するものとしてこのような制度があってもいいのではないかと考えたわけです。

内水面の制度見直しについては、漁協の弱体化などを背景に、市町村に第5種共同漁業権を持ってもらうための特区を作ってはどうかといったアイデアも聞くことがありましたが、漁業を営むという権利を市町村が持つよりは、いま言ったような漁業権とは別の仕組みを作る方がしっくりいくのではないかと私は考えます。

これから世紀末には世界の人口は110億、一方、日本の人口は5000万人を切ると推計されるような状況です。この10年だけでも東日本大震災に、それに伴う原発事故、台風の激甚化に今回のパンデミックというわけで、これからも日本や世界が激変していくことが想定されます。

そのような中で内水面の将来の姿を白紙から考えるのであれば、アメリカのようなライセンス制はどうかとか、カナダはどうだ、あそこはこうだといろいろあり得るのは当然ですが、長年公務員をやってきた実感として、今の日本で内水面漁業関係で現場の監視に当たる公務員の定員が大きく増えるとか管理のための予算がけた違いに増えるというようなことはおよそ想定しがたく、現実の問題として、法律を改正して新たな制度を作るとしたら、これまで豊かな川づくり、内水面づくりに尽力されてきた内水面関係者の努力を正当に評価し、それを発展あるいは補完する内容であるべきで、そうでなければ関係者の理解も得られず、ということは内水面議連の国会議員の先生方の賛同も得られないと思いますので、今話したようなたたき台ならそれに値するのではないかと思い紹介させて頂きました。

内水面関係、まずは新しい漁業法に基づく漁業調整規則の運用ですとか2023年に控えた漁業権免許の切替に注力すべき段階で、すぐに政府のイニシアティブで法改正のタイミングが来るとは思えませんが、議員立法でできた内水面漁業振興法は関係者の機運が高まれば漁業法とは別の動きがあるかもしれません。部長時代、内水面漁業振興法が出来ようとするとき、公共用水面が対象の漁業法や水産資源保護法では手が届かない私有水面の養鰻業について、法案に飛び乗るように持ち込んだ話を冒頭させてもらいましたが、事前に案を用意してポケットに入れておくことで、法改正の機会を無駄にせずうまく利用することもできると思いますので、今後、さらに関係者が静かに検討を進めていく上でのたたき台の一つとして頂ければ幸いと思いお話しさせていただきました。