水産振興ONLINE
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2024年5月

内水面漁業に関する法改正について
—内水面漁協の活性化に関する研究における話題提供(2021年3月)—

長谷 成人((一財)東京水産振興会理事)

第5種共同漁業権誕生の歴史に学ぶ

図7になりますが、水協法は昭和23年、1948年12月に成立しました。それをすぐに追って翌年、昭和24年、1949年5月に新たな漁業法案が漁業法施行法案とともに国会に提出されました。提出された内容は、漁業法施行法案で、できたばかりの水協法を改正し、その組合員資格について、河川組合は営む日数ではなく採捕日数でカウントすることで組合員の資格を拡げつつ、漁業法案においては、河川では原則として区画漁業以外の漁業権の免許はせず、国の責任で料金収入により増殖事業を行おうとする「国営増殖案」だったのです。

法案を審議する参議院水産委員会での松元事務官の答弁をそこに抜粋しています。この松元さんには、私は2回ほど、この戦後の漁業制度改革のことが知りたくてお会いした思い出の人です。昭和の漁業法を作る時のまさに条文をいろいろ工夫された直接の担当者です。当時は、管理職でない松元さんのようなひらの担当者が、このように国会で答弁していたのが今の国会のやり方からはびっくりすることなのですが、河川組合の実態を説明する答弁で、主体としては漁業専業の漁民はほとんどいなくて、兼業であっても魚を採って販売するという法律上の漁民は少なくて、生活のために川に依存して自家消費として魚を採り、余ったら売るというような実態が多いことを説明しています。当時でさえ、河川の場合はそうだったということです。

図7
図7 第5種共同漁業権誕生の歴史に学ぶ

しかしながら、その後、河川にも共同漁業権をという内水面関係者の声が請願書であったり、地方でも多数寄せられることになります。代表例として、昭和24年11月の公聴会における全国内水面漁業団体中央会の郡司理事の発言を載せました。権利がなくては漁協は成立しない、水協法は出来たけれども、河川には共同漁業権は免許しないという政府の方針を見て組合設立が一向に進まない、水協法を生かそうとするなら河川にも共同漁業権を免許できるようにしてくれ、それまでは共同漁業権の前身である専用漁業権が組合に免許されていた実態があるので、組合から免許をはく奪するのは非民主的法案だと主張されたわけです。

そしてここには書きませんでしたが、当時の議事録を読むと、本当は海とは別の法律が欲しいんだということをいろいろな方が言っていたのが印象に残りました。本当は内水面の特殊性を踏まえた別の法律が欲しいけど、とりあえずせめて川にも共同漁業権を免許してくれという言い方です。

このような反対意見を踏まえて、実はここが私が今日強調したい組合員資格と漁業権制度の若干の違和感が生じる分岐点になるのですが、最終的には、営まなくても組合員になれるという水協法の改正はそのまま成立しつつ、漁業法では国営増殖案が取り下げられ、河川にも共同漁業権が免許されることになったということです。

法案成立後出版された。水産庁経済課編の「漁業制度の改革」という漁業法の解説本の中で、おそらくこれはさきほどの松元さんの執筆部分だと思いますが、国営増殖とは言いながら実際の担当機関としては組合を考えていたのだが、それでは組合が動いてくれない、やはり名実ともに増殖の主体としていかなければならないので、漁業権を免許することにしたということが書かれています。

図8になりますが、このように当初、営まない組合員資格とセットで河川の漁業は漁業権に基づかない制度を水産庁は構想したのですが、国会審議の過程で方針転換して、増殖漁業権とでもいうべき第5種共同漁業権が漁業を営む権利である漁業権のいわば傘に入る形で誕生したのでした。

図8
図8 第5種共同漁業権の誕生

漁業権制度の傘に入ったことによる法的効果を右側に書きましたが、漁業権侵害罪の適用ということと物権的請求権が認められるということがあります。今回の法改正では全体として密漁対策を強化したので、漁業権侵害罪についても罰金が20万円から100万円に引き上げられましたが、この漁業権侵害罪というものが、漁協が遊漁者から遊漁料を徴収する際の伝家の宝刀というかバックボーンになるものです。水産庁の内水面利用調整班の若命班長に教えてもらった最近の内水面における漁業権侵害罪摘発件数を資料に載せておきました。この件数は必ずしも遊漁料を払わないからということで訴えたという案件ばかりではないと思いますが、あくまで参考までということです。

せっかくの機会なので、資料では漁業補償のことにも言及しました。通常の漁業権補償、漁業補償と言われるものは、共同漁業権に関して漁協が窓口となって補償金を受け取っても、損失や損害を受けるのは漁業を営んでいる組合員なので補償金は組合員に分配されるべきものです。その点、遊漁料収入の減少について漁協に支払われる補償金などは明らかに性格が違うということになります。改革議論の中で、海面漁協のいろいろな料金徴収のあり方が問題視される場面もありました。金を受け取ることがいけないということではなく、その性格をしっかり知ったうえで透明性高く、合理性をもったものにすることが重要ということを申し上げたいと思います。