水産振興ONLINE
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2024年5月

内水面漁業に関する法改正について
—内水面漁協の活性化に関する研究における話題提供(2021年3月)—

長谷 成人((一財)東京水産振興会理事)

海面と共通して適用となる漁業法の規定

以上が内水面特有の法改正の内容ですが、図3からは、海面の漁業権と共通の規定として、内水面に適用になる改正内容について説明します。今回の改正は、政府に置かれた規制改革推進会議などとも議論して改正内容の検討をしていきましたが、そのような場で委員さんたちのイメージしている漁業や漁業権はもっぱら海面の漁業に関するものでした。漁業を営む権利である漁業権制度として適用されるわけですが、内水面漁業の特性、特に第5種共同漁業権の特殊性に配慮した運用が望まれるところです。

図3
図3 海面と共通して適用となる漁業法の規定—漁業法第74条について

まず、新しい漁業法の第74条は漁業権者の責務についての規定です。①漁業権者は、当該漁業権に係る漁場を適切かつ有効に活用するよう努めるものとするということと、②団体漁業権、これは従来組合管理漁業権という言い方が一般的にされてきたもので、今回法律上の用語となりました。共同漁業権のように漁協が漁業権者となって組合員が行使する漁業権のあり方をいう訳ですが、その場合、漁協等は、ここで「等」がついているのは漁連の場合があるからですが、当該漁業権の内容たる漁業の生産力を発展させるため、組合員による経営の高度化等の促進に関する計画を作成し、定期的に点検を行うとともに、その実現に努めるものとする、という規定です。

この規定ぶりなどは漁業権があくまで漁業を営む権利であることから、このようになるのですが、第5種共同漁業権の実態などを思い浮かべるとちょっとしっくり感じられないところがあるかと思います。そのような意味で第5種共同漁業権の特殊性に配慮が必要と感じるわけですが、計画自体は、関係する組合員の理解を踏まえて策定されるべきものですから、総会、総代会、総会の部会のいずれかの決議を経ることが適当であり、同時に事務手続きの簡素化を図る意味もあり、毎年の事業計画と合わせて決議するなどの工夫をしてください、ということにしています。そして、計画について毎年点検して、結果を知事に報告してくださいという制度にしています。

図4に水産庁が示した計画の例を示しておきました。これは第5種共同漁業権の例ですが、そもそもこの第74条に基づく計画自体をどう呼ぶかという時に、最初長官である私のところに来た事務方のたたき台では、「経営高度化促進計画」といった名前だったと記憶しています。組合員の経営の高度化を図るというのは条文にも書いてあるし別に否定すべきものではありませんが、内水面との共通の制度になることから「漁業生産力発展計画」くらいの方がまだ違和感がないのではないかとコメントしたことを思いだします。

図4
図4 海面利用制度等に関するガイドライン(水産庁)から

私が退職した後に、水産庁の現役の職員たちが、第5種共同漁業権の特殊性をちゃんと踏まえて、水産研究・教育機構作成のガイドラインを引用したりしながら書いてくれています。脆弱な体制の内水面漁協の役職員の方には新たな負担とはなりますが、「将来の自分たちのあるべき姿」「取り組むべき課題」等について、組合員の共通認識を得るきっかけとして活用して頂きたいと思います。

図5の漁業法第90条は資源管理の状況等の報告に関する規定です。①として漁業権者は、資源管理の状況、漁場の活用の状況等を知事に報告しなければならず、②として知事は①の報告を内水面漁場管理委員会に報告するという規定です。漁業法施行規則第28条で1年に1回以上報告することになっていますが、操業日数や漁場の活用状況、行使状況、遊漁券の販売枚数や魚種別の増殖の実施状況なども報告することにしています。これなども第5種共同漁業権の特殊性を反映した運用となるよう水産庁の現役組が考えてくれていると思います。

図5
図5 漁業法第90条について

図6の漁業法第91条では、漁業権者が漁場を適切に利用しないことにより他の漁業者の生産活動に支障を及ぼしたり、合理的な理由がないのに漁場の一部を利用していないときなど、知事は漁業権者が必要な措置を講じるよう指導するというもので、指導に従わない時は知事は勧告をするけれども、勧告する時は事前に内水面漁場管理委員会の意見を聴くという規定です。さらに、第92条では、この勧告に従わないとき、知事は漁業権を取り消したり行使の停止を命ずることができるとの規定になっています。

図6
図6 漁業法第91条と92条について

このような規定が置かれた背景としては、海面において、漁業就業者の減少に伴い、漁場の遊休化とか「空き漁場」の拡大といったことが問題とされ、このような水面をもっと有効に活用して漁業生産力を発展させなければならないという問題意識があります。一般的にはそのようなことが言えるわけですが、赤字で書いたように、第5種共同漁業権の場合、アユならアユ、ヤマメならヤマメの漁業権が設定されている川で、当然のこととしてその川全体で漁が行われることは始めから想定されていないわけで、このような規定を機械的に適用するようなことはまったくなじまないと思います。このような当たり前のことも、実情を知らない部外者には時には理解しづらいこともあるので、関係者がそのような常識をしっかりもって運用し、必要なら外部に発信する必要があると思って書きました。

このように運用において十分内水面の特殊性に配慮することが重要であると強調したいわけですが、次からは、海面の制度と共通する制度であるために生じるこの若干の違和感とか、おさまりの悪さについて特に第5種共同漁業権誕生の歴史にも学びつつもう少し考えてみたいと思います。