漁業資源管理の目的とは
漁業政策には、漁業者間の調整や、食料供給の安全保障など様々な目的が存在するが、資源管理という文脈においては、主に3つの目的がある。それらは、天然資源である漁業資源を持続的に維持・保全すること、その利用による経済的価値を高めること、その利用の公平性や小規模コミュニティの維持など社会的な目的を達成すること、の三点である。これは、企業を評価する際に、利益だけではなく環境面や人権など社会面も評価に取り入れるトリプル・ボトムラインと呼ばれる概念に似ている。
ノルウェーでは、これらの政策目的が明示的に意識されており、海洋資源法の第1条に述べられている以下の3つに集約されている。
この法律の目的は、天然の海洋資源およびそれらから得られる遺伝物質の持続可能かつ経済的に有益な管理を確保し、沿岸地域のコミュニティにおける雇用と定住を促進することである。
これらの目的は1978年の白書ですでに言及されていたとされ、トリプル・ボトムラインという言葉が生まれるずっと前の1970年代から資源の持続性・経済的利益・社会的目的の3つが資源管理の目的であると認識されていた[1]。
直接的に資源を収穫する漁業という産業では、資源がなければ経済的利益を生み出すことは難しいということは漁業に近い人ほどわかっていることだろう。また、地元の雇用を確保して沿岸のコミュニティを活性化し持続させるためには、ある程度の経済的利益がなければ難しい。つまり、これらの3つの目的は図1のような階層構造を持っていることを理解されたい。

一方で、それぞれの目的は補完関係にあるわけではなく、トレードオフも存在する。例えば、資源の保全をするために漁獲規制を厳しくしすぎれば経済的な持続性を担保するための漁獲量を確保できない。経済的な効率性を求めるために大規模な漁船に漁獲が集中するとコミュニティが依存する小規模漁業の維持が難しくなり、全体で見れば漁業の利益は大きくても、その分配は偏ったものになってしまう。後述するが、これは今ノルウェーで起こっている問題である。このように、どのようにバランスをとって3つの目的を達成するのかが非常に重要な課題となる。
筆者はこのような資源管理の政策の構造を理解し、それぞれの政策や規制が何を達成しようとしているのかを明確に整理した上での議論をすべきだと考えている。簡単な正解がある問題ではないが、ノルウェー漁業がこれにどう挑戦し、どのような課題に直面しているかを理解することは、成功面を見るだけではわからない本質的な議論に資する。
- [1] P. Gullestad, A. Aglen, Å. Bjordal, G. Blom, Changing attitudes 1970–2012: evolution of the Norwegian management framework to prevent overfishing and to secure long-term sustainability, ICES J. Mar. Sci. 71 (2014) 173–182.