水産振興ONLINE
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2024年3月

太平洋クロマグロ管理に関する国際的・国内的な対応について
(2017年以降の動き)

松島博英・番場晃・新城拓海(水産庁)

第3部 小型魚の漁獲枠に係る国家賠償請求訴訟について

1. はじめに

クロマグロの資源管理は、2014(平成26)年のWCPFC決定(以下「平成26年WCPFC決定」)以降、我が国としてクロマグロ(小型魚)の数量管理を行うこととなった。その際、直ちに法律に基づく小型魚の数量管理を行うのではなく、まずは資源管理部長通知による管理を第1管理期間から第3管理期間まで実施した。 第4管理期間からは、資源管理法に基づく数量管理を開始し、その後2018(平成30)年に漁業法等の一部を改正する等の法律が成立したことから、当該法律が施行された2020(令和2)年12月以降最初の管理年度である令和3管理年度からは漁業法に基づく管理を行っている。

このパートでは、資源管理部長通知に基づく全国的な管理9を行っていたときから資源管理法に基づく管理の初期におけるクロマグロ(小型魚)の管理に係る訴訟について記載する。

なお、第3部における「漁獲上限」は、資源管理部長通知による管理を行っていた第1管理期間から第3管理期間までにおける小型魚の漁獲枠(都道府県への配分などの国内配分も便宜的に「漁獲上限」とする。)を指し、「漁獲可能量」は資源管理法に基づく管理を行った第4管理期間以降の小型魚の枠(第2部でのTACと同様)を指すものとする。

2. 事案の概要

クロマグロのうち30キログラム未満の個体は小型魚として国際的に管理され、我が国としても30キログラムを境に小型魚と大型魚に分けて国内での管理を開始した。2015(平成27)年以降は、先の平成26年WCPFC決定を遵守することが国際的に求められており、我が国の小型魚については年間の漁獲量を4,007トンに抑える必要があった。その手法として、まずは資源管理部長通知により全国的な小型魚の資源管理を開始することとした。

この資源管理部長通知に基づく管理は、2015(平成27)年から2018(平成30)年6月末まで行われ、以下の期間に分けて管理が行われた。各管理期間と北海道に関係する配分数量は次のとおり。

図35

上記のとおり第3管理期間では最終的に北海道の単位で漁獲量の管理を行うこととなったが、2017(平成29)年9月28日から同年10月2日までの5日間のうちに、北海道南かやべ漁協管内において約356トンもの小型魚の漁獲があったことなどから、その年の北海道の最終的な漁獲量は769.5トンにも及んだ。

この時期は、我が国としての平成26年WCPFC決定の遵守を公的な数量管理で担保した資源管理法に基づく資源管理が、2018(平成30)年7月1日から第4管理期間として開始することとなっていた。そして、第3管理期間の資源管理部長通知では、「WCPFCの保存管理措置では、ある国が漁獲上限を超過した場合は、超過分が翌年の漁獲上限から差し引かれることとなっています。この規定を遵守するため、漁獲が上限を超過した都道府県又は漁業においては、翌年の漁獲上限から、超過分が差し引かれることとならざるを得ません。」と規定していたことから、第4管理期間の当初に配分した北海道への配分数量は、第3管理期間での超過分を差し引いて0トンとなった(ただし、クロマグロ以外の操業に支障が生じないよう、混獲管理用として8.3トンを設定)。

この農林水産大臣の措置に対し、北海道において漁業者を営む漁業者が国及び北海道を相手に損害賠償を求めた事案が本パートで取り上げる訴訟である。11

3. 主な争点

原告と国との関係での主な争点及び双方の主張は次のとおりであった。

図36

4. 札幌地方裁判所判決

2020(令和2)年11月27日、札幌地方裁判所(以下「札幌地裁」)は、原告らの請求を退ける判決を言い渡した。

個々の争点の判断を行うに際し、主に次の事実は認められた。

  • (1)平成26年WCPFC決定後の2015(平成27)年1月(第1管理期間の始期)の時点で、我が国において法律に基づく数量管理を行っていた水産資源は、さんま、すけとうだら、まあじ、まいわし、さば類、するめいか及びずわいがにの7種類に対してのみであった。このうち採捕停止命令及び罰則適用の対象となる魚種は、さんまとすけとうだらのみであり、これらの魚種における数量管理は、漁業実態に応じて一部の都道府県に漁獲可能量を配分しているのみであった。
  • (2)クロマグロについては、一部の漁法は許可等を得ることなく操業することができ,採捕数量の報告義務も課せられていなかった。また、クロマグロにつき数量管理を実施する場合、その対象となる漁業者は,日本全国に存在する沿岸業者全てに及ぶことになるのであって、こうした全国一律の厳格な数量管理というものは、日本の水産資源管理史上、それまで経験したことがなかった。
  • (3)そもそも、日本の漁業には、各地の地域性を踏まえて歴史的に形成されてきた慣習やルールが多く存在し、浜単位の漁業者間の取決めや漁業協同組合の内部規定、各浜間の協定など、法令に基づく公的管理の前段階として漁業や地域の特性に応じた多様な手法が取られてきた。
  • (4)全国的な資源管理を行うに当たっては、資源管理法に基づく規制のほか、漁業法に基づく規制など他の漁業法令に基づく規制をそれぞれ比較した上で,どの法律の体系に基づく管理を行うことが適切かといった検討も必要であった。
  • (5)日本においては、当時のクロマグロの小型魚の漁獲実績は3,815トンであり(平成24年度のもの)、平成26年WCPFC決定に基づく小型魚の漁獲上限4,007トンを下回っていた。
  • (6)水産庁においては、これらの各事情を踏まえ、当初から法律に基づく強制力を持った数量管理を実施するのではなく、まずは中軽度の政策手法によりその効果を見極めつつ資源管理に取り組むことが適切であるとした。そして、2014年WCPFC決定を達成するための国内措置としては、飽くまで行政指導による自主管理という形で開始することとした。

争点①(第4管理期間になってから法律に基づく公的管理を開始したことから、資源管理法、漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと)について12

まず札幌地裁は、国又は地方公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的やその権限の性質等に照らし、その不行使が著しく不合理であると認められるときに、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法第1条1項の適用上違法と解するのが相当であるとした(最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁参照)。

札幌地裁は、資源管理法の規定について、数量管理を行う第1種特定海洋生物資源の指定は政令で行うこと、第1種特定水産資源の漁獲可能量などを定める基本計画の策定・変更は農林水産大臣に委ねられていること、第1種特定水産資源の指定や基本計画の策定・変更の際には水産政策審議会の意見を聴くこととしていることなどを挙げた上で、海洋生物資源の資源管理には科学的根拠に基づく専門技術的な判断が求められることや関係漁業者や消費者への経済的影響を含む社会経済的な要因も考慮する必要があることも踏まえると、資源管理法に基づく農林水産大臣の規制権限の行使は、漁業の発展や水産物の供給の安定といった観点から、農林水産大臣の広範な裁量に委ねられているとした。

その上で判決は、第1管理期間(2015(平成27)年1月1日から2016(平成28)年6月30日まで)の時点で法律に基づく数量管理が実施されていなかった点について、

  • 平成26年WCPFC決定時点では、資源管理法に基づく数量管理を行っていた水産資源は限られており、またその管理も全国規模での厳格なものではなかったこと
  • 我が国全体でクロマグロの数量管理を行うことになれば全国の沿岸漁業者に影響が及ぶこと
  • 日本の漁業は、各地の地域性を踏まえて歴史的に形成されてきた慣習やルールが多く存在し、浜単位の漁業者間の取り決めや漁業協同組合の内部規定、各浜間の協定など、法令に基づく公的管理の前段階として漁業者地域の特性に応じた多様な手法がとられてきたこと
  • 資源管理の方法として複数の法令に基づく規制手段が存在し,その選択に検討を要すること
  • 当時の最新の漁獲実績は3,815トンであり、平成26年WCPFC決定に基づく漁獲上限4,007トンを下回っていたこと

などの事情が存在したことを認めた。

また、第3管理期間の始期においても依然として法律に基づく数量管理は実施されていなかった点については、上記①から④の事情は引き続き存在した上で、国として法律に基づく数量に向けた準備を何ら行っていなかったわけではなく、2017(平成29)年2月23日の水産政策審議会資源管理分科会において、クロマグロを資源管理法に基づく数量管理の対象とする方向であることの説明が国から行われているなどが認められた。

そして、こうした事情とともに、前述のとおり資源管理法に基づく農林水産大臣の規制権限の行使は、漁業の発展や水産物の供給の安定といった観点から、農林水産大臣の広範な裁量に委ねられていることも踏まえると、第1管理期間の始期である2015年1月1日の時点や、第3管理期間の始期である2017(平成29)年7月1日の時点において、農林水産大臣が資源管理法に基づく数量管理を実施しなかったこと自体は、法令の趣旨、目的やその権限の性質等に照らし著しく不合理なものであったとまではいえないと判示した。

争点②(零細漁業者への配慮を怠ったこと)について

原告らは、被告国が第1管理期間において沖合漁業と沿岸漁業による漁獲上限を同程度とし、第2管理期間及び第3管理期間においてもこれを踏襲したことや、第4管理期間において第3管理期間での各都道府県の超過分をそのまま当該都道府県の漁獲上限から差し引いたことにつき、いずれも零細漁業者への配慮義務に違反し、国家賠償法第1条第1項の適用上違法となると主張した。

これに対し、札幌地裁は、原告らが主張する零細漁業者への配慮義務というものは、抽象的・観念的なものにとどまるものと言わざるを得ないとした上で、第4管理期間における北海道への小型魚の漁獲可能量を設定するに当たっては、水産政策審議会において、漁業者への減収対策として漁業共済13事業による補償等及び各種の漁業収入安定対策事業14が存在することなどを勘案された上で、第3管理期間での超過分を差し引いた基本計画の案を相当であるとして答申していたことが認められることを踏まえ、被告国おいて零細漁業者への配慮を何ら行っていなかったとまでは言えないとした。

争点③(法律上の明文規定がないのに超過差引きを行ったこと)について

原告らは、被告国は第4管理期間において、第3管理期間における超過量を差し引いた数量を設定したが、資源管理法にはそうした超過分を差し引く規定は存在しなかったことから、当該差し引きは国家賠償法第1条第1項上違法であると主張していた。

これに対し札幌地裁は、まず他の争点と同様に、資源管理法に基づく規制権限の行使が、水産政策審議会の意見を踏まえた農林水産大臣の広範な裁量に委ねられていることを改めて述べた上で、このような広範な裁量は、基本計画を定めるに当たって漁獲可能量及び都道府県別の配分をどのように定めるかについても及ぶものと解した。

また、基本計画は、管理期間ごとに都道府県別に漁獲可能量を定めるものであり、管理期間ごと、都道府県ごとの漁獲可能量の超過を次の管理期間における漁獲可能量において考慮しないとすれば、都道府県間の公平や現在の漁業者と将来の漁業者との間の公平を害するのみならず、漁獲可能量の超過を是正することが困難となり、かえって基本計画の履行の実効性を損なうおそれがあるとした。

その上で、特定の管理期間での特定の都道府県における漁獲可能量の超過を次の管理期間における当該都道府県の漁獲可能量を定めるに当たって考慮することは、農林水産大臣の合理的裁量に基づく漁獲可能量の設定として、資源管理法上も想定されているのであり、第3管理期間における超過量を第4管理期間以降の漁獲可能量から差し引くとした措置は法令上の根拠を欠くものではないと判示した。

以上のとおり、国の行為の違法性を問う原告らの主張はいずれも退けられた。

5. 札幌高等裁判所判決

原告らの札幌地裁判決の取消等を求める控訴をしたことから、札幌高裁でも審理が継続したところ、2021(令和3)年12月14日に札幌高等裁判所(以下「札幌高裁」という。)は原告らの控訴を棄却した。

札幌地裁で争われた争点が引き続き審理されたところ、札幌高裁も札幌地裁の判断におおむね沿った判決を下した。以下では、札幌高裁判決のうち特筆すべき箇所に限定して記載する。

争点①(第4管理期間になってから法律に基づく公的管理を開始したことから、資源管理法、漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと)について

札幌高裁は、資源管理法について、同法は漁業者に対して海洋生物資源の採捕を権利として保護することを目的とするものではなく、我が国の排他的経済水域等における海洋生物資源の保存及び管理を図り、併せて海洋法に関する国際連合条約の的確な実施を確保し、もって漁業の発展と水産物の供給の安定に資することを目的とするものである(資源管理法第1条)と解した。そして、このような資源管理法の目的を達成するために、農林水産大臣は、水産政策審議会や関係する都道府県知事の意見を聴いた上で基本計画を策定し、漁獲可能量及びこれに関して実施すべき施策に関する事項を定めることとなっていることからすると、資源管理法に基づく農林水産大臣の規制権限の行使は、漁業の発展や水産物の供給の安定といった観点から、農林水産大臣の合理的裁量に委ねられているというべきであると判示した。

争点②(零細漁業者への配慮を怠ったこと)及び争点③(法律上の明文規定がないのに超過差引きを行ったこと)について

札幌高裁は、両争点について次のとおりまとめて判示した。

まず、争点①と同様に資源管理法について述べた上で、基本計画は、海洋生物資源の保存及び管理を図り、漁業の発展と水産物の供給の安定を実現するために、農林水産大臣によって定められるものであるから、その結果、漁業者が海洋生物資源を自由に採捕することが制約されるとしても、それが資源管理法の目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、資源管理法に内在する制約として許容されるものとした。

その上で、第3管理期間での超過分の差引きについて、当該差引きが行われなければ都道府県間の公平性や資源管理法による漁獲制限の実行性が確保されないとしてその必要性を認めつつ、その判断の過程においては関係する都道府県知事や水産政策審議会の科学的、専門技術的知見や政策的観点に基づく意見を聴いた上で決定をしていること、また零細漁業者への配慮として漁業共済事業及び漁業収入安定対策事業が存在していたことにより配慮はされていたとし、農林水産大臣による第4管理期間の超過差引きは、その目的及び当該目的を実現するための手段のいずれについても著しく合理性を欠くものということはできず、農林水産大臣が裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとは認められないと判示した。

また、原告らは、第3管理期間の超過分による第4管理期間での差引きは、行政指導にあたる資源管理部長通知を根拠にした北海道に対する制裁的な措置であることから、当該措置は、行政手続法(平成5年法律第88号)第32条第2項15に抵触し違法であるとも主張していた。この点については、そもそも第3管理期間の資源管理部長通知は、北海道を名宛人としたものであり、原告らに対して何らかの作為、不作為を求めるものではなく、原告らに対する行政指導としては認められないとした上で、第4管理期間での差引きは、平成26年WCPFC決定において定められた漁獲上限を遵守し、クロマグロの資源量の回復を図るためにされたものであることから、制裁を目的とするものではないと判示した。

判決後、被告らは上告したものの、最高裁判所は当該上告を却下し、判決は確定した。

  • 9 各管理期間における資源管理部長通知
    (https://www.jfa.maff.go.jp/j/tuna/maguro_gyogyou/171228.html)
  • 11 本稿では、北海道に対する原告からの主張については触れず、国に対するものに限定して記載する。
  • 12 本争点における原告側の主張は、規制権限の不行使について、資源管理法のほか漁業法や水産資源保護法にも触れているが、本稿では、資源管理法に基づく規制権限不行使との争点に焦点をあてて記載する。
  • 13 漁業災害補償法に基づき、中小漁業者が営む漁業について異常の事象又は不慮の事故によって受けることのある損失を補填し、中小漁業者の漁業再生産の阻害の防止及び漁業経営の安定に資することを目的とした共済制度。同事業の加入により、原則として基準収入(個々の漁業者の直近5年の収入のうち、最大値及び最小値を除いた3年の平均値)80パーセントまで補填されることとなる。
  • 14 水産資源の積極的な回復や維持を図りつつ、漁業収入の安定等を図ることを目的とする制度として、漁業共済に加えて、平成23年度から導入された事業。この事業のメニューの一部に「積立ぷらす」と「強度資源管理タイプ」がある。「積立ぷらす」は、漁業共済事業による支援の上乗せ措置であり、漁業共済事業による補填上限80パーセントに5パーセントから15パーセントまで上乗せされる。「強度資源管理タイプ」は、通常の資源管理計画よりも強度な資源管理等に取り組む漁業者に対して、補填の範囲を積立ぷらすの補填上限よりも更に一定程度引き上げる制度であり、基準収入の92.5パーセントから97.5パーセントまで補填されることとなる。平成30年1月からは、資源管理の特例(いわゆる「下げ止め措置」)として、主漁期における全ての太平洋くろまぐろ小型魚の生体個体放流等、一定の太平洋くろまぐろ漁獲量の大型削減に取り組む10トン未満漁船漁業(平成30年6月に20トン未満漁船漁業まで拡大)及び定置網漁業を対象に、払戻判定金額を前回契約の100パーセントを下限とする強度資源管理タイプの特例が導入され、補填水準を更に引き上げることが可能となった。
  • 15 第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
    2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。