水産振興ONLINE
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2024年3月

太平洋クロマグロ管理に関する国際的・国内的な対応について
(2017年以降の動き)

松島博英・番場晃・新城拓海(水産庁)

第2部 2016年以降の太平洋クロマグロ管理に関する国内的な対応

水産振興第590号の第2部では、小型魚の国内管理を中心に、第1管理期間から第2管理期間までにかけて検討された、クロマグロ型の数量管理の開始までが時系列で記述された。今回は、その後の第2管理期間以降の取組について、小型魚と大型魚に分けて時系列で記述する。

なお、本稿第2部において、「漁獲可能量(TAC)」は法律に基づき我が国として小型魚又は大型魚に設定した漁獲枠を、「配分数量」は都道府県等に対するTACの国内配分の数量を指すものとして用いている(漁獲上限は本稿第1部と同様)。ただし、本稿において引用する過去の資料では漁獲上限やTAC、漁獲枠などの用語が必ずしも厳格に使い分けられていたわけではないので、その点ご留意いただきたい。

1. 小型魚の管理

太平洋クロマグロの管理を開始した第1管理期間から第3管理期間までは、小型魚の管理が資源管理の中心だったので、まずは小型魚の国内管理について述べたい。

2016(平成28)年7月から始まった第2管理期間(沿岸:2016年7月~2017年6月)では、概ね第1管理期間の取組を継続しつつ、統一されていなかった沿岸6ブロックの管理期間を7月から翌年6月までに一本化した。また、第1管理期間でも漁場形成の偏りや漁獲枠を超える事例があったことを受け、定置網についてより柔軟な管理を行うために、別途「定置網の共同管理枠」を設けることとした。いわゆる「クロマグロ型の数量管理」と呼ばれるこの管理を開始したところまでが、前回の水産振興第590号第2部で記載された内容である。

この第2管理期間について、当時(2017年)の資源状態を最新(2022年)の資源評価で見ると、親魚資源量は約32,000トンと、最低である2010年の約9,700トンからゆっくりと資源が回復傾向にある時期であった。このため、第1管理期間よりもさらに多くの警報や操業自粛要請を出すこととなったことに加え、最終的にWCPFCで措置された我が国漁獲上限を超過するなど、非常に苦しい漁獲管理となった。これまで、太平洋クロマグロにおいて我が国の漁獲上限を超過したのは、この第2管理期間のみである。

【資料:第2管理期間の漁獲状況について】
(出典:水産政策審議会資源管理分科会(2017年8月30日)資料より抜粋)
図10

また、水産振興第590号の第2部にも一部が記載されているとおり、沿岸での太平洋クロマグロを目的とする漁業については、2014年に広域漁業調整委員会の指示による承認制が導入された。しかし、第2管理期間中に複数の県において無承認のクロマグロ操業が問題となり、全国的な周知の徹底や再確認が行われた。その結果、追加で多数の無承認操業が確認されたほか漁獲量の未報告も発覚し、報告体制の改善や、自主的な管理から罰則も適用可能な法的規制への移行が必要との声も高まり、法的規制導入の検討が加速化された。

【資料:太平洋クロマグロの無承認操業と漁獲量の未報告事案について】
(出典:水産政策審議会資源管理分科会(2017年2月23日)資料より抜粋)
図11
図12
図13
図14

第3管理期間(沿岸:2017年(平成29)7月~2018年6月)では、資源の回復に伴い、更に厳しい管理が必要となった。特に北海道において、開始早々の7月初旬に定置漁業で道への配分数量を超えた漁獲があり、道内では再放流や休漁等の指導を行っていたものの、更にその後の9月28日から10月2日までの5日間のうちに、北海道の4業者が約356トンの小型魚を漁獲する事案が発生した。この事案が関係する国家賠償請求訴訟の詳細は第3部で記載されるのでここでは簡単な記載に留めるが、大量漁獲の結果、定置網の共同管理枠を大幅に超過し、共同管理に参加する他県の定置網にも操業自粛を要請せざるを得ない事態となった。

更には、我が国の漁獲上限を超過してしまう可能性も高まった。日本は前年の第2管理期間で漁獲上限を超過しており、2年連続の超過は日本の管理の不備が指摘される事態や、増枠の議論を遅らせる可能性があるとして、絶対に避けなければならない状況だった。このため、まだ配分数量の上限まで漁獲していない都道府県や漁業種類においても、我が国の漁獲上限を超過しないよう、できるだけ操業を控えることや混獲を最低限に抑えることなど、全国的に操業の自粛を求めた。

【資料:全国的な操業自粛の要請】
(出典:2018年1月23日付プレスリリースより抜粋)
図15

全国的な漁業者の理解と操業自粛の努力により、結果として第3管理期間は日本全体の漁獲上限3423.5トンに対し漁獲実績が3405.4トン(消化率99.5%)と何とか超過は避けられた。しかしながら、こうした事態を受け、国際的に定められた我が国の漁獲上限を遵守するためには、責任の所在があいまいな共同管理を廃止し、都道府県別に配分して管理する必要があるとして、その具体的な検討が進められることとなった。これにより、共同管理による柔軟な運用を目指したいわゆる「クロマグロ型の数量管理」からは方向転換を図ることになる。

【資料:第3管理期間の漁獲状況】
(出典:水産政策審議会資源管理分科会(2018年8月7日)資料より抜粋)
図16

第4管理期間(沿岸:2018(平成30)年7月から2019年3月まで)では、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号。以下「資源管理法」。)に基づき太平洋クロマグロが漁獲可能量(以下「TAC」)管理対象種(第一種特定海洋生物資源)として指定され、同法に基づく漁獲可能量による管理、つまり法令に基づく数量管理が開始された。管理の方法としては、前管理期間で起きた事案などを踏まえ、共同管理を廃止して都道府県ごとに漁獲可能量の配分数量が設定された。既にTAC管理対象種として指定されていた他の7魚種は漁獲実績の少ない都道府県等は「若干」として明確な配分数量を設定せず管理していたのに対し、太平洋クロマグロについては沿海都道府県を含む全区分に配分数量を明示して設定した。このような厳しい管理を行っているTAC魚種は国内では太平洋クロマグロが初めてであり、令和6年1月時点でも太平洋クロマグロだけである。

それぞれの配分数量を超過させないための方策として、
 ① 各都道府県での留保枠の設定
 ② 漁獲が積み上がった際に、よりきめ細かな緊急報告
を求めることを各都道府県の管理計画の中で定め、厳格な数量管理を行うこととした。

また、沿岸漁業の管理期間は7月から翌年6月までであったものを、翌年から4月から翌年3月までの管理期間へ移行することとなり、その狭間である第4管理期間は7月~翌年3月までの9か月間で管理された。

第4管理期間では、都道府県ごとの配分数量の設定や各都道府県等で留保を設定するなど、厳格な管理を行った結果、資源管理法に基づき設定した小型魚のTAC約3,757トンに対して漁獲実績が約2,277トンと約6割の消化率にとどまった。これは沿岸漁業では不漁によるものではなく、細分化した各区分で配分数量を超えないよう管理した結果、各区分で発生した未消化量を集めると全体として大きな数量となったことが主な理由であり、TACの有効利用の観点からの新たな課題となった。

なお、第4管理期間では同時に大型魚も法令に基づく数量管理が開始され、小型魚と同様に都道府県ごとに配分数量を設定して管理された。この配分に係る詳細については、以下 2. の大型魚のパートに記載する。

【資料:第4管理期間の漁獲状況】
(出典:水産政策審議会資源管理分科会(2019年4月24日)資料より抜粋)
図17

2. 大型魚の管理

(1) 総論

2016(平成18)年12月のWCPFCの決定により、これまで努力義務であった大型魚の漁獲上限についても、これを遵守することが義務となった。これを受け、第4管理期間から小型魚と同様に、資源管理法に基づくTAC管理が開始された。管理期間は小型魚と同様に、大臣許可漁業は1月から12月までの12か月間、沿岸漁業は翌年から年度管理(4月から翌年3月まで)に移行するため、この管理年は7月から翌年3月までの9か月間で管理された。

国内配分については、当時の直近年であった2015年及び2016年の漁獲実績を基準として配分数量を設定し、管理を開始した。大型魚については、各大臣管理漁業や各都道府県へ配分数量を設定することが初めてであったこともあり、配分方法や決定までのプロセスに関して、沿岸・沖合の関係者から非常に多くの意見が寄せられた。誤解を恐れず一部を紹介すると、

沿岸漁業者の意見としては、
〇小規模で経営体力の弱い沿岸漁業に配慮して配分すべき。
〇沖合漁業者による産卵親魚の漁獲は控えるべき。
沖合漁業者の意見としては、
〇既に沿岸へ枠を拠出するなど一定の配慮はしており、沖合漁業も苦しい経営状態。
〇資源は既に回復基調にあり、産卵親魚の漁獲をこれ以上控える必要性は薄い。

といったものであった。この他にも様々な視点から多くの意見が寄せられたことから、こうした事態を踏まえ、日本全体の漁獲上限の超過を防ぐために設けていた留保の一部を、管理期間中に追加配分することとして、その具体的な配分方法は各地で現地説明会を開催し、その議論を踏まえてとりまとめることとした。

【資料:配分に関して寄せられた意見等】
(出典:第1回くろまぐろ部会(2018年9月3日)資料より抜粋)
図18

その後、各地での議論を踏まえ、取りまとめられた配分方法は次のとおり。

  • これまで各大臣管理漁業及び各都道府県から、それぞれの配分数量の約1割を集めていた留保について、大中型まき網漁業を除き、それぞれの拠出元へ配分する。大中型まき網漁業から留保へ拠出された分は、引き続きTAC超過リスクに備え国の留保とする。
  • 沿岸漁業については直近3か年(2015年から2017年まで)の対象期間(7月から翌年3月まで)の最大漁獲実績まで追加配分する。
  • 大中型まき網漁業を除く大臣管理漁業(近海かつお・まぐろ漁業等)についても、直近3か年(2015年から2017年まで)の対象期間(1月から12月まで)の最大漁獲実績まで追加配分する。
  • 一時的な大量来遊が生じる可能性を踏まえ、瀬戸内海を除き、漁獲実績の少ない都府県(配分が20トン以下)に一律5トンを混獲管理用として追加配分する。

これら配分方法のうち、特に、平均漁獲実績ではなく最大漁獲実績を配分基準に用いるというのは、各地での議論で出された意見を基に取り入れられた考え方だった。

また、この議論を踏まえ、第5管理期間以降の漁獲可能量の配分については、漁業者・専門家の意見を伺いながら決定することとし、水産政策審議会資源管理分科会の下にくろまぐろ部会を設置し、翌年以降の配分方法について検討することとなった。

(2) くろまぐろ部会での検討

第1回くろまぐろ部会でまず議論されたのは、配分方法を検討する前段階として、検討する委員の追加や特定の漁業等に偏らない委員構成とすること、検討する前に関係者の意見を幅広く集めることが重要であるとの点だった。専門家である学識経験者だけでなく、沖合・沿岸の漁業関係者も参加した議論が必要であること、更に同じ漁業であっても太平洋クロマグロを目的として獲る漁業者や、狙っていなくても混獲で獲れてしまう漁業者がいるなど状況が異なることから、同じ漁業でも可能な限り多くの者から意見を聞いた上で議論を進めるべきであることなどがまとめられた。そして、その後の第2回、第3回くろまぐろ部会は、関係漁業者からのヒアリングに全ての時間が充てられた。各漁業種類から出された意見は多岐にわたるが、その後の配分方針を検討するベースとなる意見であり、くろまぐろ部会で提示された資料でも、出された意見は可能な限り網羅的に記載する方向でとりまとめられていることから、ここでもその資料を掲載したい。

【資料:くろまぐろ部会で出された各漁業種類からの主な意見】
(出典:資源管理分科会くろまぐろ部会(2018年10月19日)資料より抜粋)
クリックで拡大します 図19-24

上記のヒアリングで漁業者から提起された意見を踏まえ、配分に当たって考慮すべき要素は大別して次の6点にまとめられ、第4回、第5回くろまぐろ部会ではこれら項目ごとの検討が行われた。

【配分に当たって考慮すべき主な要素】
①経営の依存度
②混獲回避のための負担
③資源の増減に対する責任
④地域経済への影響
⑤資源評価に必要なデータ収集
⑥産卵親魚の漁獲規制

【検討結果】
①、②及び⑤については今後の配分に当たって配慮すべきであると整理された。
③資源の増減に対する責任を考慮すべきという点については、資源減少の一因とされる大中型まき網漁業については、沿岸に先駆けて2011(平成23)年から自主的な漁獲規制を開始し、配分数量を大幅に削減しているため既に一定の負担をしていると考えられる一方で、その他の漁業で漁獲量が増加している状況もあり、更に明確に責任を考慮して配分することは困難であるとされた。
④地域経済への影響を考慮すべきという点については、全ての漁業が様々な形で地域経済へ影響を及ぼしており、これを数値化することは困難とされた。
⑥産卵親魚の漁獲規制を強化すべきとの点については、親魚量と加入量の間には明確な相関関係が見られていないことから、WCPFCの資源管理措置も産卵期の漁獲を区別していない。そのため、配分にあたっては産卵期の親魚漁獲については特に考慮しないが、多数の沿岸漁業者から産卵親魚の漁獲規制をすべきとの意見が出されていることから、丁寧な説明が必要であるとされた。

【資料:意見/議論を踏まえて整理された論点】
(出典:資源管理分科会くろまぐろ部会(2018年10月19日)資料より抜粋)
図25

こうした考慮すべき事項の整理をした上でとりまとめられた、「配分の考え方」の概要は以下のとおり。

  • 第5管理期間以降の基礎的な配分は、WCPFCの基準年(2002-2004年)を基本として、近年の漁獲実績(平均漁獲実績)を勘案して配分するもの(第4管理期間と同様)とし、配慮すべき事項は留保から配分する。
  • 実績以外に配慮すべき事項としては、
    • 混獲回避の負担、経営の依存度等を考慮し、大型魚については、管理体制が整っていない沿岸漁業等へ配慮が必要。
    • 資源評価に用いるデータの収集を考慮し、「一部地域のひき縄漁業」及び「近海かつお・まぐろ漁業(はえ縄)」に対して配慮が必要。
  • その他管理について、各都道府県等の漁獲枠の遵守を基本としつつ、漁獲枠の融通の仕組みを策定するべき。

なお、くろまぐろ部会から提言された「漁獲枠の融通の仕組み」については、大臣管理漁業間又は都道府県間で行うことを基本とし、大臣管理漁業と都道府県の間の融通については、水産庁が融通の仲介を行うこととした。当初は、都道府県に対して原則1年に2回の要望調査を行って仲介するとの想定で開始された仕組みだが、令和5年現在は、年に7回から8回ほど要望調査を行い、毎年合計100トン以上の融通が成立しており、限られた漁獲枠の遵守及び有効活用につながる重要な仕組みとなっている。

第5管理期間以降は、くろまぐろ部会でとりまとめられた「配分の考え方」に基づき配分された。以降、2020年の繰越し規定の導入や台湾からの大型魚300トンの移譲、念願だった2022(令和4)年の大型魚漁獲上限の15%増枠など、国際規制に大きな動きがある際には、くろまぐろ部会で国内配分の考え方を検討した上で、その考え方に基づき国内配分を調整するという現在まで続く基本的な流れが確立した。

管理期間についても、第5管理期間から、大臣管理漁業は1月から12月までの暦年管理、都道府県は4月から翌年3月までの年度管理という現在の管理期間となった。

図26
図27

なお、これまで様々な仕組みが国内管理に導入されてきたが、国内管理の担当者として、特に2020(令和2)年の繰越し規定(※我が国漁獲上限の17%を上限に、未利用分を翌年に繰越し可能とする規定)の導入が、国内での数量管理を容易にする重要な措置だったと感じている。未利用分が翌年の漁獲上限に加算されることで実質的に漁獲上限が増えたことに加えて、都道府県等も配分数量を100%使い切ることを追求する必要がなくなったことが大きい。配分数量を100%使い切らなくても繰り越して活用することが可能となり、配分数量の管理に一定の幅を持たせることができるようになったことで、配分数量の超過リスクを抑えつつ配分数量の管理が容易になったと考えている。

令和4管理年度(沿岸:2022年4月から2023年3月まで)については、ついに国際交渉で大型魚の漁獲上限の15%増枠が実現したことを受けて、国内配分の見直しが行われた。なお、WCPFCは通常12月上旬に年次会合が開催され、採択された措置が翌年1月(採択から約1か月後)から適用されるというスケジュールとなっている。増枠が決定してから国内配分を見直すのでは十分な検討を行う期間が確保できないことが明らかであったため、実際の見直し作業は増枠の可能性が出てきた前年10月の段階で、繰越し規定の導入等を議論した2020年以来開催されていなかったくろまぐろ部会を約2年ぶりに開催し、「増枠が実現した場合」の配分について検討が開始された。

WCPFC年次会合で変更される可能性のある措置は、主に次の3点だった。

  • 大型魚の漁獲上限の15%増枠
  • 未利用分の繰越し上限を漁獲上限の17%とする特例措置を3年間延長すること
  • 今後3年間、小型魚の漁獲上限の10%(日本は約400トン)を上限として1.47倍を乗じて大型魚に振り替え可能とすること

2回のくろまぐろ部会での検討の結果、とまりまとめられた「令和4管理年度以降の配分の考え方」のポイントは以下のとおり。

  • 基礎的な配分は、WCPFCの基準年(2002-2004年)を基本として、近年の漁獲実績を勘案して配分するものとし、混獲管理、資源評価に用いるデータ収集等への配慮については留保から配分する。
  • 大型魚について、WCPFC基準年の平均漁獲実績より配分数量が少ないかつお・まぐろ漁業及びかじき等流し網漁業等については、当該平均漁獲実績の数量以上の配分とする。
  • 国の留保は、直近の管理状況等を勘案し、当面の間は小型魚・大型魚共に100トン程度を保持する。
  • 継続的に資源の回復を図るため、我が国全体として400トン以上を目標に小型魚から大型魚へ振替えを実施する。
  • 留保からの追加配分については、沿岸漁業に配慮する。

以上に加えて配分数量を設定するに当たって特に大事にすべき観点として、同部会での検討経緯に以下のような意見があった。

  • 「定置網などでは混獲された小型魚の放流に日々取り組んでいるところ。こうした努力の成果として資源が回復し、今回の大型魚の15%増枠や1.47倍での振替え措置が提案されている状況だと理解している。特に振替え措置は、日本全体の小型魚の漁獲枠を積極的に減らすことになるが、都道府県によっては小型魚と大型魚で獲る漁業者が異なる場合も多く、小型魚の漁獲抑制に努力している者には恩恵がなく、その恩恵が大型魚を漁獲する別の漁業者に与えられるという構造になっている。こうしたことから、今回の増枠により沿岸漁業者の小型魚の漁獲枠が減ることは認められず、できれば小型魚の放流に努力している漁業者にも今回の増枠の恩恵がある配分とするべき。」

この意見は、具体的な配分調整の中で考慮され、大型魚の15%増枠が実現した令和4管理年度以降は、国内配分の調整により、都道府県への大型魚の増枠は少し抑えつつ、代わりに小型魚を増枠して配分することで対応している。その結果、都道府県全体への配分数量は令和3管理年度と比べ、大型魚は11%(169トン)の増加に抑えつつ、代わりに小型魚を16%(299.8トン)増枠して配分した。

【資料:令和4管理年度の具体的な当初配分案】
(出典:資源管理分科会(2021年12月14日)資料より抜粋)
図28

(3) 漁業法に基づく資源管理の開始

ここで、2018(平成30)年の漁業法改正と資源管理について少し触れたい。2018年に成立した漁業法等の一部を改正する等の法律(平成30年法律第95号)が2020(令和2)年12月に施行されたことに伴い、資源管理法は廃止され、それまで同法に基づき行っていた水産資源の管理は改正後の漁業法(昭和24年法律第267号。以下「漁業法」)に基づき行うこととなった。

漁業法に基づく資源管理では、水産資源の管理をTACにより行うことが基本とされた。資源管理法に基づくTAC管理では、TACを都道府県(沿岸漁業)と大臣管理漁業(沖合漁業)に配分し、それぞれその総量での管理を行っていた。しかしながら、この総量での管理では、漁業者間の過剰な漁獲競争を招き、過剰投資等の弊害が生じたり、極端に漁期が短くなったりする等の課題が指摘されてきたことを踏まえ、漁業法に基づくTAC管理では、TACを、特定の水域及び漁業の種類その他の事項によって構成される「管理区分」ごとに配分した上で、それぞれの管理区分下での漁獲量の管理は、船舶等ごとに数量を割り当てる漁獲割当て(IQ)方式を基本とすることとされた。

なお、太平洋クロマグロ(小型魚及び大型魚)のTACは、全ての都道府県及び大臣管理区分(下記参照(2023年11月時点))に対して数量を明示する形で配分をしている。このように、全ての沿海都道府県に数量を明示して配分しているTAC管理対象魚種(特定水産資源)は、令和6年1月時点で我が国では太平洋クロマグロ(小型魚及び大型魚)だけである。

(参考)太平洋クロマグロ(小型魚及び大型魚)の漁獲枠と漁獲状況
(2023年11月時点)
図29 図30

(4) 漁獲割当て(IQ)による管理の導入

IQ管理は、令和5年度までにTAC魚種を主な漁獲対象とする大臣許可漁業から導入する8こととされ、太平洋クロマグロでは、令和4管理年度からかつお・まぐろ漁業(大型魚)及び大中型まき網漁業(大型魚)において、令和5管理年度からかじき等流し網漁業等(小型魚及び大型魚)において、それぞれ漁業法に基づくIQ管理が開始された。このうち、まずは許可隻数が多く、最初にIQ管理が導入されたかつお・まぐろ漁業への配分とIQ管理導入の経緯について触れたい。

前述の大型魚の管理パートで記述したが、第4管理期間から大型魚の管理を開始した際、配分は当時の直近年である2015年・2016年の漁獲実績を基準として配分された。この2年間はかつお・まぐろ漁業(当時の近海かつお・まぐろ漁業)の実績が比較的少なかったことから、第4管理期間のかつお・まぐろ漁業への当初配分は167トン、その後の追加配分で218.8トンとなった。これは、WCPFC基準年である2002-2004年のかつお・まぐろ漁業の平均漁獲実績752トンと比べると相当少ない数量だった。

こうした状況の中で、全国の漁業者による資源管理の取組の効果として資源状況が改善され、かつお・まぐろ漁業は、大型魚の公的管理を開始した第4管理期間から毎年、管理期間の初期に急激に漁獲が積み上がり、混獲回避の徹底等に係る勧告又は採捕停止命令が発出された。他方、かつお・まぐろ漁業の漁獲データは、特に4月から6月までにかけての漁獲データが国際的な太平洋クロマグロの資源評価に用いるデータとして非常に重要だったことから、かつお・まぐろ漁業の漁獲データを取り続けて資源評価の精度を担保することが、将来の増枠に向けて重要であるとの観点から、データ収集のための留保からの上乗せ配分や、配分数量を期間別に分けて設定する等、漁獲データを取り続けるための取り組みが行われた。

その詳細を見ると、第4管理期間では、かつお・まぐろ漁業は2018(平成30)年1月から管理を開始し、漁獲量の積み上がりに応じて5月22日に太平洋クロマグロを目的とした操業の停止と混獲回避の徹底を求める勧告が発出された。その後、大型魚のパートで記述した通り、沿岸漁業を含む各管理区分への留保からの追加配分が9月7日に行われ、かつお・まぐろ漁業を含む区分へは約52トンが追加配分された(第4管理期間は、かつお・まぐろ漁業とかじき等流し網漁業等を一体として管理していた。翌年の第5管理期間からはそれぞれ個別に管理を始めた。)。

第5管理期間では、2019(平成31)年1月から管理を開始し、5月20日に採捕自粛が要請され、同月28日には目的採捕の停止等の勧告が出された。その後、断続的であっても6月の漁獲データはあった方が資源評価に寄与する可能性が高いとして、6月11日に留保から80トンを追加配分して操業を再開、6月の操業を終了した時点で残枠を留保へ返還することとし、これを返還したうえで8月2日に採捕停止となった。

第6管理期間では、4月から6月までに一定の操業機会を確保するため、期間別に配分数量を設定する取り組みが行われた。

(単位:トン)
図31

この期間別の配分数量に基づき2020(令和2)年1月から管理を開始したものの、まず1月から3月までの配分数量について、2月21日に上限に達したため3月末までの採捕停止命令が出された。その後、次の期間の配分数量に基づき4月から操業を再開したものの、すぐに上限近くまで漁獲が積み上がり、4月23日には採捕自粛の要請を出すことになった。その後、5月1日に前年度未利用分の繰越しや台湾からの枠の移譲、データ収集のための留保の放出を含めた合計約192トンの追加配分が行われたが、5月10日には再び採捕自粛の要請が出され、26日には太平洋クロマグロの採捕を目的とする操業禁止の勧告が出された。その後、6月の漁獲データを収集するため、5月28日に更に留保から50トンの追加配分が行われたが、6月10日には採捕自粛が要請され、同月15日に勧告が発出された。

【資料:かつお・まぐろ漁業の各年の漁獲枠と漁獲状況】
(出典:水政審資源管理分科会(2022年11月21日)資料より抜粋)
図32 クリックで拡大します

こうした状況を背景に、2020(令和2)年10月30日に開催された第104回水産政策審議会資源管理分科会では、資源評価に必要なデータ収集のためにかつお・まぐろ漁業に対し留保から追加配分を行っているにも関わらず、十分なデータが得られていないのではないかとの懸念が示された。さらに、資源評価に用いる漁獲データをより安定的に収集するためには、先獲り競争の弊害を排除できるIQ管理の導入が必要ではないかとの提案が一部の委員からあったことから、かつお・まぐろ漁業に対して速やかにIQ管理を導入することが可能かとの観点から検討が進められた。

検討は、各地域のかつお・まぐろ漁業者と意見交換しながら進められたものの、これまでかつお・まぐろ漁業に導入したことないIQ管理を実施することについて、漁業者から不安や反対の声があがった。また、仮にIQ管理を行う場合にどのような基準で配分するのかも決める必要があるなど課題も多かった。他方で、IQ管理を導入しなければデータ収集用の追加配分に沿岸の漁業者を含めた他の漁業者からの理解が得られなくなる可能性もあった。

このような状況及び水産政策審議会資源管理分科会の議論を踏まえ、令和3年管理年度は以下のとおり取り組むこととなった。

  • 令和3管理年度は、漁業法に基づくIQ管理に向けて、漁業者自身による自主的な取組として、試験的に船舶ごとに漁獲量を割り当てる手法を組み合わせた管理(以下「試験的IQ管理」)を行う。
  • 操業実態などを踏まえ、2021(令和3)年1月から3月までは総量管理とし、4月から12月末までの期間は、法令上は総量管理の枠組みの下で試験的IQ管理の取組を実施する。

この試験的IQ管理に取り組むに当たり、(一社)全国近海かつお・まぐろ漁業協会(以下「近かつ協」)では、IQ管理が初めてであることや諸事情により太平洋クロマグロの漁獲実績が少なかった漁業者への配慮などから、まずは全船での均等割りで配分して取り組むこととなった。

なお、かつお・まぐろ漁業を許可された漁業者には近かつ協に所属していない漁業者もおり、これらの漁業者(後に(一社)全日本マグロはえ縄振興協会(以下「全マ協」)を設立)は、IQの配分方式は均等割りでなく漁獲実績に基づく実績割りを重視すべきとの意見であった。このように配分の考え方に隔たりがあったままであったこと等から、結果として令和3管理年度は試験的IQ管理に取り組む者とそうでない者が混在した状態となった。

試験的IQ管理の取り組みの結果は以下の図とおり。前年(2020年)までは何度も出されていた操業自粛の要請・勧告や採捕停止命令が、資源評価に用いる漁獲データとして重要視されている4月から6月までの間に出されることはなく、前年(2020年)までに比べれば、データを安定的に収集することができた。他方、この試験的IQ管理はあくまで自主的な取り組みであるところ、前述のとおり、試験的IQ管理に取り組んだ者とそうでない者が混在するという状況下での操業となった。これを受け、当初は複数年実施することも想定されていた試験的IQ管理であったが、同じ管理の枠組みの下で全てのかつお・まぐろ漁業者が操業を行う体制を構築すべく、漁業法に基づくIQ管理導入の検討が急ぎ進められることとなった。

【資料:かつお・まぐろ漁業の令和3管理年度の漁獲実績】
(出典:水産政策審議会資源管理分科会(2022年11月21日)資料より抜粋)
図33

令和3管理年度は、試験的IQ管理に取り組みつつも、その実施状況を踏まえながら、漁業法に基づくIQ管理の令和4管理年度からの導入に係る検討も並行して進められた。漁業法に基づくIQ管理では、船舶等ごとの年次漁獲割当量の基礎となる漁獲割当割合の設定は、以下の事項を勘案して策定した設定基準に従って行わなければならないこととされている(漁業法第17条第3項、同法施行規則第5条)。

  • 船舶等ごとの漁獲実績
  • 船舶の総数又は総トン数
  • 採捕する者の数、その採捕の実態又は将来の見通し
  • 漁業に関する法令に違反する行為の違反の程度及び違反の回数

当該設定基準に係る検討については、試験的IQ管理の検討の際と同様に、各地域のかつお・まぐろ漁業者と意見交換をしつつ進められたが、試験的IQ管理の検討と同様に様々な意見が出された。その一部を例示すると、

  • 公的なIQ管理の導入は時期尚早、試験的IQ管理をもう一年続けることはできないのか。
  • 過去3年程度は、地元が漁期に入る前に操業禁止となり漁獲実績を上げることができなかったため、均等割りの比重を重くすべき。
  • 試験的IQ管理では、獲りたい者には不十分な枠となる一方、獲らない者の枠が余るという結果。獲りたい者に枠が配分される制度とすべき。
  • 試験的IQ管理の取組は、結果として多くの船が太平洋クロマグロの漁獲を自粛し、枠に対して半分程度しか漁獲していない結果となった。この取組の結果を将来の配分時に勘案することは慎重に検討して欲しい。
  • 新規参入者など、漁獲実績として用いられる年に操業していなかった者への配慮が必要。
  • 漁期が終了した後に追加配分されても漁獲できないため、早期に追加配分して欲しい。

といったものだった。

こうした意見を踏まえて更に検討を進める過程で、検討事項は大きく分けて、①当初設定する漁獲割当割合の有効期間を何年間とするか ②漁獲実績に基づく配分(実績割り)と均等配分(均等割り)の比率をどのようにするかという2つに収斂されていった。

①の有効期間については、法令上は5年間が基本とされている(漁業法施行規則第4条)ものの、IQ管理の導入当初は短く設定すべきだという意見が多く、主に1年間~3年間のうちのどれにするかで議論された。その中で、期間を3年間とすれば、最初の漁獲割当割合更新時(令和7年)にIQ管理下での漁獲実績を複数年分(2年間分)用いることができるが、3年間は何か問題があってもすぐに変更ができない、期間を1年間とすれば、毎年の漁業者の意見を反映させ易いが、最初の更新時にはIQ管理下での漁獲実績を全く用いることができないことになる、といった意見が出され、最終的には、少なくとも1年(令和4管理年度)分のIQ管理下での漁獲実績を用いた漁 獲割当割合の設定を行うことできることとなる「2年間」とすることとした。

②の配分割合については、主に実績割りと均等割りの比率を50:50から100:0の範囲でどのように設定するか議論された。実績のない者や新規参入者への配慮に重きを置く50:50で配分すべきという意見から、太平洋クロマグロへの経営の依存度や、太平洋クロマグロを漁獲する能力の高い者に十分な枠を配分する100:0で配分すべきという意見まで幅広く出され、調整は困難を極めた。最終的には、実績のない者や新規参集者に対する配慮として、当時の一航海分の太平洋クロマグロの平均漁獲量を配分できる均等割りの割合が30%程度であることから、実績割り70:均等割り30で開始することとした。

なお、同じ令和4管理年度から、大中型まき網漁業でも漁業法に基づく太平洋クロマグロ(大型魚)のIQ管理が開始された。ただし、5月から7月までの期間にIQ管理を導入するものであり、周年を通じて太平洋クロマグロでIQ管理を導入したのはかつお・まぐろ漁業が日本で最初の漁業となった。

また、令和6管理年度からの漁業法に基づくIQ管理に係る漁獲割当割合の設定基準を適用するにあたり、事実上異なるルール(自主的なIQ管理と法制度に基づく総量管理)の下で操業を行う漁業者が混在した状態となった令和3管理年度下の各船舶の漁獲実績をどのように扱うかについて大きな検討課題となった。この点については、水産政策審議会資源管理分科会における様々な議論を経て、最終的には、試験的IQ管理を行うこととされた令和3管理年度の漁獲実績は、公平性・合理性又は資源管理の推進の観点から、漁獲割当割合の設定には用いないとの結論が出された。

【資料:かつお・まぐろ漁業のIQ制度設計の素案】
(出典:水産政策審議会資源管理分科会(2021年9月17日)資料より抜粋)
図34

なお、かつお・まぐろ漁業以外の大臣許可漁業へのIQ導入についても簡単に経緯を記すと、大中型まき網漁業については、2011(平成23)年から自主的な数量管理(総量管理)が開始され、IQ管理導入の議論が本格化する前の2017(平成29)年には日本海側で、各船で漁獲できる数量を定めた自主的なIQ管理が開始された。こうした経緯を踏まえ、大中型まき網へのIQ管理の導入は、既に土台のある日本海側を優先し、2022(令和4)年から導入する方向で検討された。IQ管理の導入に向けた議論では、漁獲割当割合の設定基準や年次漁獲割当量の移転手続等が検討の中心となり、漁獲割当割合の有効期間は、制度導入当初は毎年度見直せるよう「1年間」とし、設定基準については、それまでの自主的なIQ管理における配分に近い考え方として、実績割りと均等割りの比率を80:20で開始することとした。

また、大中型まき網漁業へのIQ管理導入の議論では、特に、これまでの自主的なIQ管理では業界団体が調整していた年次漁獲割当量の移転について、水産庁への申請が必要になることで手続に時間がかかるのではないかといった手続面の懸念が強かったことから、IQ管理導入と共に年次漁獲割当量の移転申請をメールで受け付ける体制が整備され、手続の迅速化が図られた。

かじき等流し網漁業等についても、IQ管理導入の議論が本格化する前の2019(令和元)年から、各船に目安数量を示して数量管理を行っていたため、IQ管理の導入自体に抵抗感は少なく、大中型まき網と同様に割当割合の設定基準や年次漁獲割当量の移転手続等を中心に議論が進められた。

2019(令和元)年から行われていた各船への目安数量の設定は、過去の漁獲実績を基準とし、主に地域別に漁業者を、①周年操業する漁船、②周年操業はしない漁船、③操業実績はないが操業を希望する漁船の3グループに分けて配分するという独自の方法で配分数量が算出されていた。しかしその後、2023(令和5)年度を目途に大臣許可漁業について原則IQ導入を図っていくという水産庁の方針を踏まえ、前年の2022(令和4)年には自主的な取り組みとして、IQ管理が導入された場合の配分を想定した配分方法で各船の目安数量を設定する試験的なIQ管理が行われた。この試験的なIQ管理では、かつお・まぐろ漁業での漁獲割当割合の設定基準などを参考に、実績割り70:均等割り30で各船の目安数量が算出された。

2023(令和5)年からのIQ管理の導入に関する議論においても、導入自体への懸念は少なく、漁獲割当割合の有効期間についても、柔軟な見直しができることが最優先であるとして「1年間」とすることが選ばれた。他方、漁獲割当割合の設定基準については、その他の大臣管理漁業での議論と同様に、実績割りと均等割りの配分をどのようにするかが問題となったが、最終的には実績割りと均等均等割りの比率が80:20でも70:30でも大多数の船にとっては大きな数量変更とならないとして、自主的なIQ管理と同様の実績割り70:均等割り30で開始することとした。

3. 太平洋クロマグロの資源管理の今後について

太平洋クロマグロの資源管理は、当初目指した共同管理による「クロマグロ型数量管理」から方向を変え、全ての都道府県等に数量を配分して厳格に管理する仕組みとなった。その後、厳格な管理が原因で放流などに取り組んでいるにも関わらず、我が国としてはTACの消化率が低いこと等が問題となり、国内融通の仕組みを導入することで改善に取り組むなど、より良い管理を目指して試行錯誤や改善を繰り返してきた。当初はあまり機能しなかった融通の仕組みも、次第に融通が活発になりつつあり、全体として消化率が低い状況は解消しつつある。他方、2024(令和6)年1月現在、都道府県等への配分数量が全国的に不足している状況は引き続き継続しており、数量を超えないための数量把握や混獲回避、選別・放流の取組など、関係者による日々の多大な努力によって何とか管理が成り立っている状況だと理解している。また、2022(令和4)年から大臣管理漁業で始まった太平洋クロマグロのIQ管理も様々な課題が出てきており、改善の試行錯誤が続いている。更には、青森県大間での漁獲未報告事件で逮捕者が出たこと等をきっかけに、太平洋クロマグロの管理強化に向けた検討も開始された。

遊漁についても、令和3年度から、広域漁業調整委員会指示に基づく太平洋クロマグロ(小型魚)の採捕禁止や太平洋クロマグロ(大型魚)の採捕報告の義務付けが開始され、順次、管理の強化が進められてきている。2022(令和4)年3月に策定された水産基本計画においては、「水産資源管理の観点からは、魚を採捕するという点では、漁業も遊漁も変わりはないため、今後、資源管理の高度化に際しては、遊漁についても漁業と一貫性のある管理を目指していく」こと、特に太平洋クロマグロに関しては「漁業と同じレベルの本格的なTACによる数量管理に段階的に移行する」ことが記載され、漁業と同等の管理を目指した更なる管理強化の検討が始まるなど、太平洋クロマグロの管理はまだまだ非常に多くの課題を抱えつつ、試行錯誤が続いている。これら全ての課題を直ちに解決することは難しいが、引き続き改善の取組を積み重ねていくことが重要であると考えている。

特に今回、国内配分の経緯をまとめるために過去の議論を読む中で、2018(平成30)年のくろまぐろ部会での議論の中で、「(行政は複雑な配分の根拠等を説明するだけでなく、)資源管理に取組み、苦労している漁業者にどういうメリットがあるのか、将来に夢が持てる政策であると分かり易く示すことが一番重要だ」という指摘があった。太平洋クロマグロ以外の魚種についてもTAC管理の導入の議論が進められている2023(令和5)年現在、それらTAC魚種拡大の議論の中でも同じことが度々指摘されている状況であり、国際合意に基づく太平洋クロマグロの資源管理とそのような状況にないTAC魚種拡大の議論の対象資源の管理とは状況が大いに違うが、将来はこうした他のTAC管理の議論の中でも、太平洋クロマグロが資源管理の成功事例として認識されるよう改善に努めていきたい。

  • 8 新たな資源管理の推進に向けたロードマップ(令和2年9月公表)