水産振興ONLINE
640
2023年5月

海洋水産技術協議会ワークショップ
「ブルーカーボンとカーボンクレジット-課題と展望」

4. 質疑応答・閉会挨拶

○司会:それでは、皆様からご質問をいただいて、それらを軸に議論を深めていきたいと思います。また、幾つか論点がありますので、それらを適宜切り替えながら進めていきたいと思います。

オンラインでご参加の方はチャット機能を使ってご質問いただければ、それを適宜会場でのディスカッションに反映させていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。それでは、ご質問を頂戴いたします。

○質問①:UMITO Partnersの岩本と申します。よろしくお願いいたします。追加性について2点ご質問をさせていただきます。まずBACI(Before-After、Control-Impact)について、これはあくまでもパリ協定のクレジット化を想定したときにこの基準を満たしている必要があるということに基づいてJBEさんではそのように定められているのでしょうかという質問が1つ目です。もう1点は、追加性に関して人為介入という考え方ですけれども、例えば北海道の場合、気候変動で流氷が来なくなったため、今まで必要のなかった雑海澡の駆除をした結果、天然コンブの生育が良くなったということや、またそもそも日本ではブルーカーボンという考え方が出てくるはるか以前から漁業者が自主的に藻場の育成などの活動を長期的に行ってきていますので、そのようなケースにおいて追加性という判断はどのようになされるのかというところを教えていただけますと幸いです。

○桑江氏:ありがとうございます。まず初めにBefore-After、Control-Impactをなぜ採用しているかという点ですけれども、前提として、カーボンクレジットには、国や国際機関が統一的に決めるコンプライアンスクレジットと、自主的炭素市場と呼ばれている民間ベースで自由にやるボランタリークレジットの2つのタイプがあります。私たちのJブルークレジットは後者で、民間が実施するボランタリークレジットになります。その場合、ルールはこちら側が決めることになり、他で決められた基準に従うということではないわけです。あくまで一研究者あるいは開発側の立場から判断して、人為介入による増加分を正確に測るためにはBefore-AfterとControl-Impactが必要だからそれを採用している、という理由なのです。以上が1点目の回答です。

2点目のベースラインの問題ですけれども、例えば藻場の減少が海水温や津波など自然要因による場合でももちろん構わないわけです。問題はそこから人為的な回復活動がなされたかどうかが重要なのです。例えば流氷でコンブが生えなくなったとしても何年後かに自然に回復していれば、その場合は人為介入はなされていないのでクレジット化はできないということになります。逆に、自然に回復してくる過程で人為的に介入して磯場の掃除などの活動をされた結果、活動をしていない磯場よりも多くのコンブができれば、その部分はクレジット化が可能だという判断になるのです。人為介入の結果、増えた分がクレジット化の対象ということです。物量としてCO2吸収量が人為的に増加したということとクレジットが必要なことの両方が基本満たされる必要があるので、活動の結果、クレジットを取得することにより吸収がより増加する見通しがあること、あるいはクレジットが無いと活動が維持できないという状況であれば説明がしやすくなります。逆にクレジットがあってもなくてもその活動自体は何も変わらない、影響を受けないという場合があれば追加性が無いということです。これは難しい概念です。今後の議論のためにさらにご質問をいただければと思います。また1つだけ付け加えておきます。私自身は追加性という考え方はあまり好きではないのです。経産省のクレジットレポートも出ているのですけれども、吸収・除去系というのは必ず今後必要になります。ですから、排出削減とは違って吸収・除去系は追加性を問わなくてもいいという議論があるのです。先ほど日々アップデートをしなければならないという話をしましたが、これも1つの大きな要因でありまして、いつ何時、国際的に吸収・除去系は追加性を問わないと言い出しかねないのです。そうしたら、私たちはおそらく手引書でも追加性を問いませんと書きます。ただ、先ほどのベースラインの考え方は絶対に必要です。人が活動をした結果により増えなければならない、その点を外してはいけないと思います。

○質問② 司会:ありがとうございました。やはりクレジットのシステムでいろいろご質問があるようで、「Jブルークレジットは試行となっていますが、どのような状態になれば本格運用となるのでしょうか。インベントリに記載されたら本格運用ということでしょうか?」というご質問がオンラインで届いています。

○桑江氏:私が何故、テストや試行と呼んでいるかですが、われわれは技術研究組合という技術開発をする組織であって、ビジネスをしたり制度を運営するための組織ではないからなのです。ですから、私は、このクレジット制度がうまくいくようであれば、新しい法人などに移管して、その組織が運営をする。そのようになれば本格運用と呼べることになろうかと思います。ですから、インベントリは関係ないですね。

○司会:ありがとうございました。Jブルークレジット関係で少し議論してみたいと思いますので、関連のご質問はございませんでしょうか。

○質問③:日本水産資源保護協会の桑原でございます。どうもお世話になります。私どもは、マリン・エコラベルについてスキームオーナーが定めた規格に基づき、認証機関として認証させていただいています。本日の桑江様のお話では、審査・認証を行って証書も発行されていると伺ったのですが、先ほどの説明の流れから推察するには、これが本格的な運用になると、スキームオーナー様がスキームを決め、現在は委員会という形式で認証されていると思うのですけれども、第三者機関による認証あるいは認証の発行という流れになるのかなと思うのですが、それらについて今後のご予定があればお聞かせいただきたいなと思います。

○桑江氏:ありがとうございます。この認証システムでは、第三者委員会で審議するということはコアカーボン原則でも記載されていまして、それに従って私たちも第三者委員会を外部に設けております。私たちが唯一行っていない部分が検証でして、実際にそのサイトに行って藻場が生育しているかを実地検証するなど、他では専門機関が検証をしているのですが、ISOで定められた検証システムをJブルークレジットではまだ導入していません。この検証が実はコストを相当上げる1つの要因になっていまして、Jブルークレジットは現在ボランタリークレジットとして実施していますけれども、将来、国の方でコンプライアンスクレジットを導入することになれば、必ず検証を入れると思います。その代わり、運営は国がやることになるので、国費を使うということになると思います。ですから、今のところボランタリークレジットは国費が全く入っていない状態ですので純民間でやっているという感じです。

○質問④:(長谷議長)追加性についてお伺いしますが、堀様のお話では、藻場造成だけではなく海藻養殖でも相応の吸収量を期待できるということでした。それでは、実際に海藻養殖を行っている漁業者においては、クレジットの対象にしてもらえるのかとお考えになると思います。その場合に追加性をどのように考えるのか。今まで行ってきた養殖方法だけではなく、プラスアルファの工夫、やり方をしないと認められないということになるのか。海藻養殖の現場ではいろいろな問題があり、就業者も減っているし、養殖規模も縮小してきているという状況がありますので、クレジットの投入により養殖業の維持や拡大を期待される方々も多いと思います。ブルークレジットの場合であれば、追加の考え方は今後変わり得るのだろうけれども、現状のやり方で対象になり得るのかどうかという点を補足して教えていただければと思います。

○桑江氏:ありがとうございます。漁業関係の皆様から一番いただくご質問がその点です。現在の養殖方法でクレジットが得られるかどうかということです。冒頭で前提となるシナリオについて長谷議長からお話いただきましたけれども、漁業就業者や養殖面積が減少している現状があり、それがベースラインシナリオとなるわけです。クレジット取得によってベースラインを変えていく、もちろん増加となればよいですし、あるいは減少速度を少しでも抑制できる計画や見通しになるようでしたら、それは追加性が発生しますということです。逆に一番恐れているのは、クレジットだけ取って何も変化が起きない場合です。ベースラインが変わらないとなると、クレジットの付加が困難になります。クレジットを得たことで、きちんと成果が得られることが期待できる場合にクレジットをつける、その部分に追加性に関する判断が入ります。

ですから、一つの例ですが、地元で協議会などを設けていただき、さまざまな関係者が集まって皆さんで協力して活動を実施していただく。その上に自治体が入ったり、あるいは民間企業が入ったりとかもあるのですけれども、そのような方式で、まず活動のメンバーをこれまでと変えていくとなると、やはりかなり事前の追加性として説明しやすいですよね。ここは明らかに変化が起きるだろうと思いますし、あるいは思い切った話だと定款を変更していただくとかそういったこともあり得るのかもしれないですよね。活動目的、事業目的を少しアレンジするというところもあるのかもしれません。

○質問⑤:(長谷議長) ありがとうございます。現場で安易な受け取り方をされたら大変困るので、しっかりとした基本的な考え方の整理のもとでクレジット制度をどう生かしていったらいいのかということでまた考えていただけたらと思います。関連してもう1点の質問ですが、本日のお話を聞かれて自分たちも取り組んでみようかなと思われる方がたくさん出てきたらよいと私は思っているのですけれども、先ほどのお話では2021年は4件だったものが2022年は21件とかなり増えています。この先さらに申し込みが殺到したときにご対応いただけるものなのだろうか、浜の皆さんは気にされると思いますのでお聞かせいただければと思います。

○桑江氏:運営側からクレジットだけの話をしますと、すでに21件の申請対応でかなり忙殺されました。ただ今、オンラインシステムを急いで作っているところでして、これまで手作業的に申請者の皆さんにも本当にお手数をかけていただきながら、エクセルやワードで地道にやってきたところがあるのですけれども、全部オンライン化して自動入力や算定値の自動計算ができるようにしているところで、私どもの側でのチェックも楽になるし、申請のしやすさも出てくるかなと思います。

○質問⑥ 司会:関連して「Jブルークレジットの販売方法は今後も総量配分方式でいくのが基本でしょうか。取扱量が増加していった場合、やはり変わっていかざるを得ないのではないか?」というご質問がオンラインで出ております。それも含めてお答えいただければと思います。

○桑江氏:現状では総量配分、1口5万円・10万円で売り出します、何口買っていただいても構いません。集まった口数でトン数を割って最終的に割り当てるので、何トン買えるかが事前に分からないという購入者側からの不満もお聞きします。一方で、この方法は必ず売り切ることができる利点があり、公募期間が短い場合には有力な方法です。そうしたさまざまな見方がありますが、基本はクレジット創出者のご希望を聞いたうえでの取引方法になります。これまでは総量配分以外にも入札をしたこともありますし、そのうち相対とか、あるいは定価販売や最低価格販売という方法も出てくると思います。そうした取引方法を含めて私は技術研究開発だと思っていますので、いろいろとテストも行いますけれども、基本はクレジット創出者が売却を希望した場合に、高く売りたいのか、あるいは地元企業に売りたいのか、または有名企業に売りたいのかなど、創出者側にもさまざまなニーズがあるのです。それらをなるべく満たす形の取引方法を考えてセットしていきます。将来は、総量配分方式は減ってきて、あるいは公募期間を定めずに通期で取引ができるようなことに徐々にシフトしていければなと考えております。

○質問⑦ 司会:オンラインで「将来的な構想のアイデアとして沖合での大規模養殖のお話をいただきましたが、沖合での事業を考えると、クレジット制度があって初めて事業性が生まれ、初めてそういう事業者が出てくるのではないか。逆にクレジット制度がないと出てこないのではないか。そうした点で、沖合での大規模養殖でクレジット認証される基本的な考え方というか、保証といいますか、どうすればクレジット認証されていくのか、そのベースラインみたいなところを教えてください」というご質問がきております。これはお二人にお答えをいただければと思います。

○堀氏:私は沖合も沿岸も同じだと考えます。新しい養殖をしていただける場合、基本的には新しい取り組みになると思います。実際にクレジットが無いと事業ができないという場合、先ほど私のスライドでもお見せしたのですけれども、クレジットが活動のための基本資金となり、それだけではなく、プラスアルファの資金も必要となる場合は、バイオマス活用も積極的に進めていくべきかと思います。現在の国産海藻は食用としての国内需要は飽和状態にあり、価格競争ではどう頑張っても韓国や中国産の安い海藻商品にはかなわないというところがあります。食用向けだけではなく、クレジットも取れるし、クレジットを出した後でもバイオマス原料として販売して収益が出るような仕組みを創出するための技術研究開発をわれわれは各民間企業の皆さんと一緒に頑張って進めております。そうした仕組みがうまく構築できれば、化学・工業分野での海藻利用は食用よりもかなり大規模なロットが必要となりますので、資本が参入する形での大規模沖合養殖も進んでいくのではないかと思っています。ですので、必ずしもクレジットが無いと沖合養殖化ができないとは私自身は思っていません。桑江さんのお考えはいかがでしょうか。

○桑江氏:堀さんが言われたように、育てた海藻を回収して産業利用できれば、もちろんそれ単体で事業化できることが望ましいですし、クレジットはもちろん追加的につけることはできますので、それを副収入として事業の加速に使ってもらうということは非常にすばらしいことだと思います。ただ、沖合養殖もいろいろあるでしょうから、例えば産業利用できないようなケースですと収入源としてはクレジットだけになるので、ご質問にあるように、クレジットが無いと事業化できないのではないかというベースラインシナリオ自体が追加性の要件を満たすということです。クレジットがあれば事業化できるということは、それがまさに追加性の概念ですので、そういった意味ではクレジットがついたから事業化できるということはクレジットの面からは完璧な説明であります。

○質問⑧ 司会:ありがとうございます。私から1つご質問させていただきます。現在、藻場が非常に減っているというお話もありましたが、地球温暖化が進む中で海藻が生育する基盤、あるいはポテンシャルをどのように高めていくかという議論が無いと、海藻の大規模養殖にしてもなかなか効果が上がらないのかなと思います。そのところで、堀さんのご講演では、全国を幾つかのエリアに分けて、また藻類の種類も分けて吸収係数の実測をされたということですけれども、将来にわたってしっかりモニタリングをし、それぞれの海域環境に合った形での海藻の育成や天然藻場の回復を含めて取り組まなければいけないと思うのですけれども、その点についての見通しというか、こういった取り組みが必要ではないかということについて何かお考えはありますでしょうか。

○堀氏:ありがとうございます。気候変動対策ですので、現在あるものを守るという戦術と次に来るものを育てるという戦術の2つに大きく分かれると思います。もう1つは、海藻を生産する技術を上げていくということと海藻が生えるための基盤を作っていくというプロセスもあると思います。海藻を作っていく基盤については現在、水産庁ではグリーンイノベーション基金を使って、例えば使っていない漁港や用途が少なくなった漁港をうまく海藻の種場にして、新しい母藻を作っていくようなことをされています。われわれの方では、従来の海藻の生産技術開発はコンブやワカメなど食用海藻が対象でしたが、これから気候変動が進むとどのような種類が増えるか分かりませんので、どんな海藻でも増やせるような種苗生産技術の開発を進めています。例えば、天然では生えないような種類だけれども、水温が下がり魚の食害が無くなるような時期に生育させられる海藻を増やすなど、生産部分での技術開発が一番必要になってきていると思っていますので、そこは一所懸命に取り組んでいるところです。現在はまだ研究レベルなのですが、ゆくゆくは事業化のレベルにまで高めないといけませんので、民間の皆さんとも協力しながらやっていきたいと思っています。

○質問⑨ 司会:ありがとうございます。堀先生のご講演でヨーロッパの海藻養殖のお話がありました。それに関連してオンラインで質問が来ております。

「ヨーロッパでの海藻養殖が今後数年で中国を超えると言われていますが、ヨーロッパでの海藻の利用方法はどのような形となるのでしょうか。今後ヨーロッパでさらに海藻養殖が拡大した場合、海藻が利用される見込みなのでしょうか。また、採算性の面はどうなのでしょうか。それから、養殖には労働力を要しますが、海藻養殖を拡大させるに当たりヨーロッパでの労働力はどのように賄われるのでしょうか?」というご質問です。

○堀氏:ヨーロッパでの海藻養殖は拡大していますが、まず労働力についてはイノベーションでクリアしています。例えば少人数でも大量収穫できるような技術の導入。わが国の海藻養殖は基本的に漁業者ベース、漁家の労働力を基準として行われていますけれども、ヨーロッパでは企業ベースですので、収穫や種つけなどの作業は全て機械化しオートメーション化して、省労力でできるような形で行われています。

海藻の利用ですが、実はヨーロッパでも以前より、天然海藻からアルギン酸やフコイダンなどを抽出し増粘剤原料などで小規模ながらも利用してきました。今後の養殖拡大でどのように利用していくかというと、増粘剤などでは利用量は限られますので、燃料やプラスチック原料などでの利用が進んでいます。インドネシアでも海藻由来のプラスチックの利用が始まっていますので、ヨーロッパではそうした先行事例と組んでプラスチックや燃料といった化石燃料代替化の方向に力を入れています。ただ、それぞれ単体に製造するとコスト高になりますので、カスケード利用を進めています。具体的には、まず海藻から機能性成分を抽出した後、次に残余分からプラスチックに利用し、さらにその残りを燃料に回して、最後に残った窒素分を肥料に向けるという、要は順序立てて万遍なくさまざまな産業用途に利用する仕組みを作ることによって付加価値を上げていくという方法で進めています。

今後の見込みにつきましては、カスケード利用はまだ試験段階の部分もあるのですが、それが事業ベースに乗ってくれば、今後10年で中国を超えるぐらいの養殖生産量になるというFAOの試算が出されています。

○質問⑩ 司会:お二人に対してのご質問になるのではないかと思うのですが「コンブ養殖の吸収量が試算されていましたが、その場合に間引かれたコンブの量は対象となるのか教えていただきたい」というご質問をオンラインでいただいています。

○堀氏:もちろん間引いた分もその量を正確に記録していただければ、その分も計上する形にしています。収穫についても、海に残してきた分と水揚げした分の割合を記録しておいてもらえれば、それに応じた吸収量の変化を計算できるような形にしています。要するに、各工程を記録に取っていただきデータとして残してもらえれば、それらは確実に反映できるようにしています。

○質問⑪ 司会:ありがとうございます。先ほどの桑江先生からのお話も踏まえますと、カーボンクレジット、排出権取引にも利用する目的で藻場・干潟の回復や藻類養殖を行う場合に、検証や定量的な評価ができるような形でのルール化、マニュアル化も統一的に進めなければいけないのではないかなと感じたのですけれども、そのような部分は、桑江先生のお話にもありましたルールブックなどに明示されているのでしょうか?

○桑江氏:むしろ、先ほど和田さんが言われたこととは逆を行こうとしているのです。統一的なルールで進めると、それに対応できないところは参入できない。そこで、われわれとしては、不確実な部分があってもエビデンスとなるデータを提供してもらえればこちらで判断してなるべく広く使っていただけるように対応しております。ボランタリークレジットでは統一的なルール・手法で行いませんので、結果的に質の良いクレジットと質の悪いクレジットが出てくるわけです。ただし、クレジットは最終的に売れるかどうかが問題となり、それは買う側が価値を決めるわけですから、質の悪いものはやがて淘汰されるし、質の良いものは残っていきます。だから、私は統一的なルールありきだとは思っていないのです。

○司会:よく分かりました。これは政府がおやりになる場合はまたちょっと違う考え方になるということでしょうか。

○桑江氏:はい、全く違うと思います。多分、役所ではそれはできないですよね。

○司会:ある意味、結果オーライという感じでどんどんやってみようということでよろしいでしょうか。

○桑江氏:はい、そのうえでやはり大事なのはきちんと開示できる透明性と公平性かなと思っています。それは創出する側も買う側も同じです。買う側が悪いクレジットを購入したら社会的な評価が下がるわけです。逆に良いクレジットを買えれば評価が上がるということで、全ては行動を起こす側が自分自身でよく考えて動くことが大切で、人任せでは駄目だということです。

○質問⑫:海外漁業協力財団の時村でございます。われわれは太平洋の島しょ国などへの支援をしていますが、環境分野での支援を行う際、当事国では藻場よりもマングローブやサンゴ礁の話題が先に出てきます。サンゴのように石灰質の組織を作る生物については、以前桑江さんから、組織を作って固定する量よりも作るために放出する量の方が多いのでCO2の固定には向かないという話を伺ったのですけれども、現在その分野の研究が進んでもご見解は変わっていないのかという点と、サンゴ礁域全体を見てそこに生息する生物まで含めたら十分固定できるという考え方はできないものか、その2点をお教えいただければと思います。

○桑江氏:それらもよくいただくご質問です。サンゴ単体、特にハードコーラルでは吸収源としてなかなか難しいと思うのですけれども、サンゴ礁における生態系全体では微細藻など様々な植物も一緒に生息していますので、場所によっては吸収源として機能しているケースもあります。そのような場所を増やせるかどうかという部分でクレジット化が可能かどうか、吸収源として算定できるかどうかを判断するという問題になると思います。特定の生物だけをターゲットにしますと判断に誤りが生じますので、あくまでも対象の場全体として、例えば単位面積当たりの吸収能力がどの程度なのかという視点が大事かと思います。同様の話がカキ礁やカキの養殖施設でもありまして、カキ自体は動物ですので排出しかしないですけれども、カキの殻や養殖筏・ロープにはたくさんの海藻が生えますので、そうした場の全体、施設全体を見ると吸収源となる可能性があるということです。

○質問⑬:たびたび質問をさせていただきます。基本的なことですけれども、クレジット認定をされた全ての組織が現金化しているわけではないということで、現金化をされていない組織は自分たちの排出の削減とされている、それとも他にモチベーションがあるのでしょうか。

○桑江氏:ご質問ありがとうございます。クレジットを取得した場合の活用方法は大まかに5~6個ありまして、詳細はJ-クレジットのホームページでも解説されておりますけれども、自社の排出をオフセットすることもあれば、他社に譲渡する場合もあります。あるいはイベントでの排出分にオフセットをかけるなどさまざまなやり方があるわけです。そこは自社の冠商品を作るとかいろいろ活用方法があって、例えば同じ1万トンとか1,000トンとかそういったクレジットを購入した場合にどのように購入者側が活用するかということも重要な戦略の1つになると考えています。以上のとおり、活用方法はさまざまありますが、具体的な活用内容については一部の企業さんではホームページで公表をされています。例えば商船三井さんでは、電気船あるいはゼロエミッション船の運航でもって他の船舶の排出分に対してオフセットをかけているとか、丸紅さんでしたら自社で売り出す商品のカーボンフリー化をしているといった情報を公表されています。私どもの方からは、そこには関与しませんので、こうした方が良いということは特にございません。とは言え基本方針としては、先ほどもお話しましたけれども、両者がウイン・ウインになるような形にしたいので、創出者側と購入者側の双方が好循環を生み出すように使っていただくことが望ましいです。それが結果として社会全体でのCO2の削減につながって、さらには経済発展にもつながっていければよいかと考えています。

○質問⑭ 司会:先ほどの堀先生のご説明に関係して「海水温上昇による海藻類の斃死も進んでいるようですが、種苗生産の技術開発において高水温耐性の種苗開発は進んでいるのでしょうか?」というご質問をオンラインでいただいております。

○堀氏:先ほどお話ししたとおり、今いるものを守る場合と次に来るものを育てる場合があって、前者の場合、例えば高水温耐性の種苗を作るというのは、もちろん地場産の種で生物多様性に影響を与えない範囲で、選抜育種等もあるのですけれども、いろいろな種類で実際にさまざまなプロジェクトで行われています。われわれはプラスアルファで、次に来る海藻も考えていこうということで、具体的には沖縄や南西諸島の亜熱帯性の海藻です。環境省ですら亜熱帯には大きな海藻はいないと認識していたのですが、実はホンダワラ類がとても多く分布しているのです。それらの種苗生産技術は現在ほとんど無いのですが、これから技術開発を進めることにより、温暖化も進行中ですので、いろいろな地域で海藻養殖に使えるのではないかなと思います。

○質問⑮:全国水産技術協会の横山と申します。吸収源として海草や海藻を増やそうとする場合、それが外来種の移植という方法となると必ずしも好ましくないのではないかと思います。また外来種でなくとも、国内の他の地域のものを移植する場合もありますが、それらについてどのようにお考えでしょうか。

○堀氏:基本的に外来種や移入種の大規模な移植はおそらく難しいと思っています。ただし、亜熱帯性の海藻は実はもう本州にもたくさん入ってきているのです。特にホンダワラ類は流れ藻として広域に移動し、日本の沿岸にもかなり広域に分布するようになっていますので、現状の生物多様性の範疇を超えない中で増やしていくということを基準として持っています。

○司会:これで最後とさせていただきますが「ヨーロッパでの海藻養殖の機械化技術は日本でも導入可能なものでしょうか?」というオンラインでのご質問です。

○堀氏:私自身は導入したくないと思っています。海藻養殖は日本人が昔から育んできた技術や文化ですが、ヨーロッパの養殖技術は基本的にはわれわれが行っているものを巨大化した感じなのです。例えば海藻の刈取り機械は日本の海苔養殖での摘採船を巨大化したような感じです。また施設も、日本の海苔網を巨大化したようなマットを洋上風力発電の間に設置して養殖をしています。つまり、もともと日本の養殖技術をただ巨大化させたようなものですので、それらをそのまま導入することは日本人としての気概に関わると思いますし、われわれなりの独自の技術を構築していくべきかと思います。

○司会:力強いご発言をいただき、ありがとうございました。まだまだディスカッションを続けたいのですけれども、時間の都合もございますのでここで区切りとさせていただきたいと思います。それでは最後に、本日のまとめを含め閉会の挨拶ということで海洋水産技術協議会の顧問であり、全国水産技術協会の会長でもある川口恭一からご挨拶を申し上げます。

○川口顧問:川口でございます。本日は2時間半にわたりご講演と質疑応答にご対応いただきました堀様と桑江様に大変感謝しております。誠にありがとうございました。また、会場およびオンラインでご参加いただいた皆様方、長い時間大変お疲れさまでございました。改めてお礼申し上げたいと思います。

地球温暖化の問題ですが、今や黙って見ているだけではどうにもならない、GDP比でこれだけの大きな損失が今後発生するのだというお話がございましたけれども、全くそのとおりだと思います。水産業の現場において考えますと、減収どころか、場合によっては沈没しかねないという危機感すら覚えるわけでございまして、そういう中で今回の気候変動対策としてのカーボンオフセット、そういった対策の事業などが新たに用意されていくということは、水産業の現場に1つの展望が見えてくる、光が見えてくる、そのような評価をしてもよいのではないかと思います。

いずれにしましても、明るい兆し、展望が見えないとなかなか人は前を向いて走っていけないということをつくづく思うわけでして、サイエンスを大事にしつつ、現場ともしっかりつながって対策に貢献をしながら水産業界でもクレジットを含めて成果を求めていきたい、期待をしていきたいと思いながら本日のお話を伺ったところであります。

海洋水産技術協議会では他に、洋上風力の発電施設を実施する場合に、どのように考えるべきかという議論も整理しておりまして幅広く活動をいたしております。現場とのつながりをしっかり保ちながら、科学技術分野の世界も非常に大事にしております。そういうことをしながら関連メーカーさんへの支援もしていきたいということで取り組んでおりますので、皆様のご支援とご努力もこの機会にお願いいたしまして、閉会とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

○司会:皆さん、本日はどうもありがとうございました。オンラインでご参加の皆さんも本当にありがとうございました。今後も引き続きこのような催しを開催していければと思っておりますので、次の機会にもぜひご参加いただければと思います。本日はどうもありがとうございました。