13. おわりに
第一歩が始まりました。以上の状況から、標準化した石倉カゴでのウナギの自主性を基本にした調査結果から、ウナギとウナギに係る生物の調査には石倉カゴが現状では最適な技術で、加えて棲み処造成に活用出来る技術的な証がありました。調査では扱いやすい小型の石倉カゴを用いましたが、本格的な棲み処造成では、たとえば3m×2m×1mの実績のある大型のものも使用できます。今、河川、湖沼、さらには干潟、運河にも石倉カゴが設置され、調査と棲み処づくりを進める活動が全国で始まっています。水産庁による設置は456基、国・地方自治体などの公共のものが108基、大学・研究機関・地域活動団体などが82基、計646基が設置されています。静岡県河川管理者と国土交通省では、金属や繊維カゴと比較し耐久性に優れているポリエステルモノフィラメント亀甲網(STKネット)の石倉カゴが土木部材としての機能と生き物の棲み処としての働きがあることから活用が始まり、護岸造成や補強での工事に使用し始めています。コンクリートブロックなどの工事と比較し、作業員の人数・工事の日数・材料の運搬や重機の使用などの低減によるCO2排出量減少、工事費用の縮小などの今日的な対応が出来る工法としています(図-29)14。
特にウナギが集中する河口の汽水域や干潟・浅場の内湾域では(図-30)、洪水・高潮・波浪などの安全上からコンクリートの護岸や構造体で構成され、生物への配慮がされている所は少なく、この様な状態を改善できるのは、生物の棲み処として実証されている石倉カゴしかありません。組立設置するだけで構造体の改変などの作業は不要で簡易に出来るローコスト・ローテク・ローカルな工法によって、ウナギが求める寝床創りを進められます。
日仏・仏日海洋学会では両側回遊の魚類に関する本の編集企画があり、この経過のなかで日仏海洋学会小松輝久会長は(一財)東京水産振興会が2019年に発刊した「JAPANESE EEL The past, the present and the future」15をフランスの海洋学会関係者に紹介しました。そしてニホンウナギの執筆が計画され、小松会長の推薦で私がまとめることになりました。本書は、その日本語原版で、まとめるに当り、小松輝久会長には、多大な御指導・支援をいただき、ここに記して心より感謝申し上げます。
- 14:(一財)東京水産振興会、豊海おさかなミュージアム特別展示「ウナギのいる川・いない川」解説ノート、pp.20, 2018
- 15:上記14の英語版