水産振興ONLINE
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2022年7月

ウナギの寝床創り

柵瀬 信夫(鹿島建設株式会社 環境本部)

11. 水産庁事業の石倉カゴ

石積空間は、ウナギやウナギの餌料生物の棲み処としてかつては至る所にありました。しかし現在はコンクリート構造物や水域の人為的な改変によって消失し、その代替のものが必要になりました。それが石倉カゴです。石倉カゴは、新材料のカゴとウナギの棲み処となる中詰石、洗掘防止とカゴ破損防止マット、通水パイプから成り、組立設置は人力でも機械でも行える仕様です。ウナギが成育し親ウナギになるのに5~6年以上が必要なため、3~4世代に利用してもらうように、30年以上は石倉カゴの形態変化が起きないことを基本的な仕様として新材料のカゴを使用しました。

石倉カゴの全国普及を考慮して1m×1m×高さ0.5m、目合5cm×7cmの同一寸法のカゴを用い、石は片手で扱える直径20~30cmのものを用いました。総重量は約800kgで、重機が吊り上げて設置ができるロープも付けました(図-13)。また、石倉カゴを利用するウナギや他の魚介を調査するために、石倉カゴの底面を含む外周を囲む2mm目合の袋状のモジ網を装着し、折りたたんでビニールパイプに収容したものをそなえました。調査はこのモジ網を引き上げて石倉カゴを包み、その後、カゴから詰めた石を出し、さらにマットやカゴを取り出して、モジ網内に残った自主的に入ったウナギや他の生物を生きたまま採捕する方法で行います(図-17~20)。

図-17 石倉カゴの組立概要
図-18 石倉カゴの設置概要
図-19 石倉カゴ引き上げ調査概要
図-20 採捕されたウナギ・魚介の測定
図-21 石倉カゴで採捕された稚魚から銀化ウナギ

この調査は、石倉カゴ1基に対し、6名で作業を行い30分程度で終了しています。2013年から石倉カゴの試行を含めて現在まで台風や降雨での増水に際しても、流出・破損はなく、ただし砂礫等で埋まるという状況はありました。石倉カゴの技術開発は、企画と考案を鹿島建設株式会社が、新材料のポリエステルモノフィラメント線の製品は東レ・モノフィラメント株式会社が、亀甲網製造は粕谷製網株式会社が、カゴの加工製造を株式会社フタバコーケンと株式会社田中三次郎商店が行い、ウナギに関する生物・生態学的評価を九州大学が担当しました。2013年から始めた鹿児島県枕崎で行った石倉カゴ機能実証結果を水産庁は検証し、ウナギの棲み処づくりの新しい即応技術として採用が決まりました。採用された石倉カゴを用い、2014年からウナギの資源回復と生息状況把握を目的とした2つの水産庁事業が始まりました。その一つのウナギ生息環境改善支援事業では、全国内水面漁業協同組合連合会が各地の組合に呼びかけ、実施に当たっては指導と管理を行い、ウナギが自主的に利用する統一した石倉カゴと採捕生物の測定方法を標準化し、それを用いる我国初めての試みが2016年から開始されました。石倉カゴの設置形態は、1地点10基を一組にし、この内3基に利用生物を採捕するモジ網を装着したものを使用しています。石倉カゴの組立・設置、設置した調査用石倉カゴの取り上げ、採捕したウナギや他生物の測定、測定後の生物の放流、そして石倉カゴのゴミ取り、清掃等の管理など、漁協組合員が全て行います。この現場作業支援は水産庁が派遣した、筆者もその一人である指導員が行っています。調査は原則として年2回とし、その時期は各漁協の判断としました。採捕したウナギは、体色から天然か養殖放流したものかを判別し、加えて下りウナギも判別し映像で記録します。全長、体重、肛門胴囲長を測定し、個体識別用Pitタッグを腹腔内に挿入を行い、その後再設置した石倉カゴに戻しています。次調査では採捕した各ウナギに対し標識識別用リーダーで標識挿入を判定し、再採捕の確認をしました(図-17~21)。事業が始まってから5年を経過し、全国の32河川、2湖沼で石倉カゴが設置され、事業が続けられています(図-22)。

図-22 水産庁事業・石倉カゴ設置地点

2016年から2020年の全体での調査結果は、27設置地点での石倉カゴで採捕されたウナギは798個体でした。設置地点で採捕個体数に違いがあります。調査1回の3基での平均採捕個体は、河口から3km以内の設置では6〜28個体で、同じ河川の河口から3kmでは6個体、10kmでは3個体を示し、河口に近いほど多く、上流に向かうほど少なくなる傾向がありました10。河口域に設置されている愛媛県岩松川では標識をした個体の再捕状況は、5年間で採捕した197個体の中で、21個体は2回以上の採捕歴のある個体で、中には3回も確認されたものもありました。ウナギ以外の生物は、ウナギの餌料にもなるハゼ類、モクズガニ、テナガエビが優占種でした。また、石倉カゴ周辺で生活している遊泳を主体としているアユなどは、石と石の空間に隠れて逃げ込む場所にしています11。また、採捕した中には、養殖放流ウナギが含まれていました。特に前述した放流効果が示されている島根県宍道湖での採捕個体は、養殖生産の過程で生じる背曲がりが出現しました。この宍道湖での石倉カゴ設置は、水深1m、2m、3mの3段階にし、調査はダイバーによる作業で行われ、石倉カゴの引き上げは船のクレーンを用いて行われました。

  • 10:全国内水面漁業協同組合連合会、ぜんない、7, pp.25, 2021年
  • 11:全国内水面漁業協同組合連合会、2020年度ウナギ生息環境支援事業報告書、pp.83–86, 2021年