9. ローコスト・ローテク・ローカルな石倉カゴ活用
2012年、政府は緊急対策のウナギ保護を発表しました。しかし、この時点では、天然ウナギの保護に関しては実用可能な具体的な対策・技術は、筆者らが考案したウナギの棲み処を付加するコンクリート護岸工法しかありませんでした。そのため、緊急性が求められ簡易な組立で、短時間の設置が可能で撤去もでき、低価格な新しいウナギやウナギに係る生物の棲み処を付加できる新しい即応技術が必要になりました。和歌山県立博物館のウナギ研究者の揖さんが提供してくださった古いウナギの絵馬にあった蛇カゴに気付き、蛇カゴの可能性の検討を始めました。中国では紀元前、竹を加工したカゴに石を詰めて河川工事に使用する蛇カゴが用いられていました。古くに我国に伝わった蛇カゴの技術は、コンクリートの普及以前は地産の竹や石を用いた土木部材でした。近年は竹カゴの入手が困難になり、その代わりに鉄線金網カゴを使用する蛇カゴが普及しました。しかし、この鉄線金網は竹の様なしなやかな曲がりやすさに乏しく、錆びやすく、10年程度で劣化が生じ、さらに工場での製造加工が基本で、現場での加工調整が難しいなどから、近年は施工数が減少し、鉄線金網に代わる新しいカゴが登場してきました(図-12)。
新しい蛇カゴのカゴは、新材料ポリエステルモノフィラメント線を亀甲網に仕立てたもので、竹カゴと同様のしなやかさと曲がりやすさを持つものです。鉄線金網と比較すると3倍の価格ですが、海水でも錆びず紫外線の劣化もなく、実績で50年の耐蝕・耐久性を持ち、鉄線金網のm2当たり重量の1/5と軽量で、どこでも加工し組立ができるものです。必要となるウナギが利用し棲み処にする新しい技術は、今も一部で行われている、川中に石を積んで、その中に隠れるウナギを、石を外しながら獲る伝統漁法の「石倉漁」の石を新材料のカゴで囲んだ、「石倉カゴ」と称するものです(図-13)。