水産振興ONLINE
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2022年7月

ウナギの寝床創り

柵瀬 信夫(鹿島建設株式会社 環境本部)

8. 江戸前ウナギ

首都東京、その前の海で獲れた天然ウナギ(以下ウナギ)を江戸前ウナギと称しました。それは、今、海ウナギとして特別扱いしているもので、かつてはあたりまえに大量に漁獲され食べられていたものです。沿岸や内湾で漁獲されたウナギの多くは市場では雑魚としてあつかわれ、今も漁獲統計には限られた所でしか示されていません。古くから食べることを目的とした楽しみの釣り対象でもあり、また、河川・湖沼・海でも混獲されたウナギは、自家消費や知人、親戚など地域の人々に提供するなどされていました。それは全国では相当な量になる様で、少なくなったウナギの保護のために、漁業者も地域住民も参加検討し、何らかの方向性を示す時でしょう。東京港内で漁獲された江戸前ウナギは、1901年から1961年に埋立によって漁場が消失するまでの各年のウナギ漁獲統計資料があります。漁場は延縄漁が行われていた、ウナギがもぐり込む泥の底土が広がる水深5m以浅の干潟や運河を含む94km2に及ぶ浅場でした。この浅場で年間100tの江戸前ウナギが獲れていました。

しかし埋立によって、この浅場は20km2以下になり、近年は漁業者の減少も重なり、1t程度しか獲れていません8。埋立による棲み処の完全消失以外に、運河などの石・土・木などの構造体は、治水を基本にコンクリート構造体に改変され、すきまや穴などのもぐり込める場所が消失しました。この事態は、全国の沿岸・内湾・河川・湖沼・水路などに及んでいます。また、海から河川へ遡上するウナギの移動をはばむ堰などの造成も進み、ウナギを含めて餌料にもなる生物の生活が厳しい状況になっています(図-9)。

図-9 ウナギ生息場の改変14

コンクリート護岸や構造物が生物の棲み処を消失させたことは事実でした。しかし、よく調べるとコンクリート護岸でも生物が棲み処を形成していました。この形成条件を整理した結果、コンクリートが悪いのではなく、形状や構造に問題があることが判明しました。工夫をすればウナギやウナギに係る生物の棲み処になることが判明し、1995年にウナギ・カニコンクリート護岸パネルや潮だまり干潟付きテラス護岸を設計し、東京・横浜港内に設置されました9。しかし、通常の護岸造成の1.3倍以上の費用負担となり、さらに、生物への配慮は不要との考え方から普及は限定されました(図-10、11)。

図-10 ウナギ・カニ コンクリート護岸パネルの概要9
図-11 潮だまり・干潟付き護岸の実施例9
  • 8:東京都内湾漁業興亡史、pp.178–189, 1971年
  • 9:柵瀬信夫、江戸前ウナギ復活の試み、日仏工業技術、52-2, pp.36-40, 2007
  • 14:(一財)東京水産振興会、豊海おさかなミュージアム特別展示「ウナギのいる川・いない川」解説ノート、pp.20, 2018