水産振興ONLINE
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2022年7月

ウナギの寝床創り

柵瀬 信夫(鹿島建設株式会社 環境本部)

5. 親がいなければ子供は増えない

養殖の元になるシラスウナギの採捕量減少は1970年代から始まり、年々減少が進んでいます。その減少要因として、1. 海洋環境の変動、2. 親ウナギやシラスウナギの過剰な漁獲、3. 生息環境の悪化、が指摘されています1。そこで産学官が一体となってシラスウナギの安定供給を最重視した人工種苗生産技術開発と、それを支えるための知見を得る産卵場探しが40年近く行われてきました。現在、人工種苗生産で育った親ウナギから採卵孵化して育ったシラスウナギが誕生しています。ただもう一歩のところまで来ていますが、実用化には至っていません1。シラスウナギ減少は、1~3に示された要因とは別に、ウナギ自身の問題である「親がいなければ子供は増えない」があります。1960年以降の天然ウナギ漁獲量とシラスウナギ採捕量を重ねると、減少傾向は両者とも一致し、親と子供の関係は明らかです(図-2)。

図-2 天然ウナギとシラスウナギの漁獲量変動
内水面漁業生産統計調査(農林水産省)改編

ただ我々の足元で生活する天然ウナギへの保護保全の実用的な対応は、近年、水産庁は秋に産卵のために海へ向かう下りウナギの保護方針を示し、県単位で10月以降の下りウナギ漁獲規制を実施しています1。天然ウナギ漁獲量は、1970年頃から減少が始まり、全国で3,000tの内水面での漁獲量は、2020年には65tに減少しています。この様な減少傾向は、ヨーロッパウナギ(A.anguilla)、アメリカウナギ(A.rostrata)の漁獲量減少と類似しています。地理的・生息環境条件が異なる北半球の商業重要種である3種のウナギに何らかの共通したことがある様です。減少傾向について、この60年間をふり返りました。科学的な検証はありませんが、漁獲量が減少しはじめた1970年代は、工業発展による工業排水と農業振興での農薬使用量増加による化学物質の水域への流出が増え始めた時でした。筆者も2017~2021年に、静岡県静岡市清水区のウナギ調査河川で起きた、静岡市が究明した農薬流出による生息生物の死亡事態を体験しました。この事態で気づいたことは、河口上流部の塩水防止堰を境にして、その上流では生物の死亡がありました。しかし、下流の塩水クサビが形成される汽水域では生物の死亡はなく、事後の調査でもウナギや他の生物の消失はありませんでした(図-3)。2020年、全国の天然ウナギ漁獲量は65tでした。この内最大は15tの茨城県でした。1960年代、全国漁獲量3,000tの内、1,000tを茨城県下の湖沼を含めた利根川水系などが担い、現在もその汽水域が漁獲を支えています3。次に多いのは、10t前後の島根県宍道湖と瀬戸内地方の岡山県児島湾です2。この両者は汽水湖(塩分6%)と海水域で、その表層は比重の小さい河川水等の淡水の流入がありますが、底層は比重の大きい海水由来の塩水が支配をします。ウナギは濁りなどで透明度が低く、太陽光線の入射が小さい、安定した冬期の高水温と餌料になる多様な生物がいる底層の塩水を生活域に選びます。加えて農薬などの影響をうける表層水を避けることや、淡水でも海水でも生息可能で急激な変化にも耐えられるウナギの特性が、汽水・海水域での生息集中に寄与している様です。

図-3 静岡市清水区庵原川河口汽水域の塩分動態(2019.5)
  • 1:水産庁、ウナギをめぐる状況と対策について、11月, pp.1-24, 2021年
  • 2:農林水産省、漁業生産統計調査、2020年
  • 3:二平章、利根川および霞ヶ浦におけるウナギ漁獲量の変動、茨城県水産試験場研究報告、40, pp.55-68, 2006年