水産振興ONLINE
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2022年5月

座談会 洋上風力発電の動向が気になっている

銚子市漁業協同組合代表理事組合長(全国漁業協同組合連合会副会長) 坂本 雅信 氏
一般社団法人海洋産業研究・振興協会顧問 中原 裕幸 氏
資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長 茂木 正 氏
水産庁漁港漁場整備部長 矢花 渉史 氏
一般財団法人東京水産振興会理事 長谷 成人 氏
司会 農林水産政策研究所上席主任研究官 梶脇 利彦 氏

コラム連載の評価

司会:茂木部長のご説明に、皆さん何か確認したいことやお聞きしたいことがあれば、お願いいたします。よろしいですか。

「野心的な目標」というようなお話がございました。また今後、いろいろと議論の展開の中で皆さんに確認してもらう点などもあるのかもしれません。

東京水産振興会の「水産振興ONLINE」で、16回にわたって連載されました「水産振興コラム」が年末で終了しました。今回のコラムを読まれて、皆さん、それぞれどのようにお感じになられたのか、ご感想など、評価も含めていただければと思います。最初に、「日本一の水揚げ港、銚子がなぜ洋上風力発電に取り組むのか」というタイトルで、第8回コラムを寄稿していただいた坂本組合長にきょうはご出席をいただいておりますので、坂本組合長から、自身がコラムを書かれたことも含めてお話をしていただき、中原顧問、茂木部長、矢花部長の順でお願いをしたいと思います。それでは坂本組合長、よろしくお願いいたします。

坂本(銚子市漁業協同組合代表理事組合長):きょうはこのような機会をつくっていただきまして、誠にありがとうございます。ただいまご紹介いただきました、銚子市漁協の坂本でございます。

坂本 雅信(銚子市漁業協同組合代表理事組合長)

8回目のコラムに寄稿させていただいたわけですけれども、私どものところは、銚子漁港という日本一の水揚げ量を誇る漁港を抱えているところで洋上風力の計画を進めていたことから、そういう観点から書いてもらえないかと長谷理事からお話をいただきまして、少し書かせていただいたわけであります。

図2
図2 銚子市の位置
(出典:銚子市役所HP)

いま茂木部長からもお話があったように、この銚子の案件というのは、12月の終わりに事業者が決定して、これから今年、その事業者と私どもの方で、具体的にいろんな話をしていかなければいけないということから、まさに素晴らしく、良いタイミングでこのリレーコラムをやっていったのではないかなと思っています。まず本当にグッドタイミングだったと考えております。その中で、これも先ほど長谷理事からお話がありましたけれども、こういう具合に多方面の方々から、その人たちの立場に立ったコラムを書いていって、多面的に洋上風力についての考え方を出してもらうというのは、非常に素晴らしいことだったかなと思っています。と申しますのも、やはりわれわれのところにしても、情報がすごく少ないわけです。自分のところでやっていることだとか、事業者から話を聞くこと、また資源エネルギー庁からもお話を聞きましたし、水産庁からも話を聞いたりということはあったわけですが、ただ実際に話を進めていた、ほかの地域の人たちであるとか、さらにまた識者の方々がどんな見方をしているのか、どんな考え方をしているのか、こういうコラムによって記録にちゃんと残せたということは、われわれにとって情報源としても非常に良かったわけです。

もちろん、この洋上風力がスタートして、将来、われわれが考えているように地域、漁業と共生していったというようなことになれば非常にいいわけなのですが、例えばあのときにこんなこと考えていたんだけど、実際にはそこのところはうまくいっていた、うまくいっていないよなというようなこととか、そのときに何を考えていたのか、われわれがどういう考え方を持って洋上風力に取り組もうと思っていたのかということは、しっかり記録に残すことができています。例えばわれわれの次の世代の漁業者の人たちにしても、最初の洋上風力をつくったころの人間たちは、一体何を考えてこんな洋上風力をつくろうとしたんだろうか、今はこんな具合になっているけれども、こういうことを考えていたから、この人たちはやったんだなと。それが結果として、どういう形に残っていったんだというようなことが、この時代のこの時点で、それぞれの立場で考えていたことがきちんと残っているというのは、多分、後世の人たちにとっても、素晴らしくいいことじゃないかなと思います。ファーストランナーは長崎・五島列島にいますけれども、まだ私どものところが2番目ですので、この後、続いてくる方々がいると思いますから、そういう人たちにとっても、私の大した文じゃないですけれども、われわれが考えていたこと、そういう考え方がほかの地域の人たちからもきちんと見て評価できて感想を持ってもらえる、考え方の参考にしてもらえるというのは、これもまたいいことじゃないかなというように思いました。

以上、何点かとりとめのない感想だったのですが、そのように思いましたので、私としては自分自身、参加させてもらって非常に良かったなと思っています。

司会:中原顧問、お願いします。

中原(一般社団法人海洋産業研究・振興協会顧問):略称「海産研」の中原でございます。よろしくお願いします。

中原 裕幸(一般社団法人海洋産業研究・振興協会顧問)

まず全体的な感想をということなので申し上げます。最初にお話を伺った際に、「リレーコラム」というので、私の頭の中では新聞のカコミ記事ぐらいのスペースのイメージを持っていたわけです。しかし、いざ、ふたを開けてみると、コラムというにはもったいない質と量で、リレー論壇というか、リレー論考、つまり論じて一緒に考える、そんな重厚なイメージだなという印象を受けたのが最初なのです。

ただ、心としては、コラムのような心構えで、思うところを存分に書いてもらいたいという企画側の趣旨なんだろうと理解していました。これが最初の印象でございました。それから、坂本組合長からもお話がありましたが、やはり重要なことは、いろいろな立場の方がそれぞれの立場から率直に意見を言って、それを相互に交換することが重要です。それに、そうした意見交換はあらゆる場で行われるのが望ましいわけで、あそこでやっているから、もうこっちではやらなくていいということでは決してありません。それぞれの立場で、事業者団体の立場ではこう考えるかもしれないし、水産側はこう考えるかもしれないですし。私は現在、顧問の立場ですが、海産研は実は2020年が創立50周年だったのですけれども、産業団体であると同時に、創立以来、日本の海で何か開発・利用・保全をやる場合には“漁業協調”であるべしと主張してきています12。つまり、中立の立場で、両方の立場から海洋産業の発展を目指しているわけです。今回の場合ですと、わが国における洋上風力発電関連産業の発展というのは、日本の海洋産業全体にとっても今や大きなカギになっているということであります。

他方、海域を先行的に利用している漁業者、その周辺の水産コミュニティの方々についても、当然ながら発電事業者と同じように発展していってもらわなきゃいけません。そういう中で、こういうリレーコラムでいろんな立場の方が書いて意見交換をして、そしてきょう、こういう形で座談会ができるというのはとてもいいことだと思います。そうした席に、執筆しなかったのにお邪魔していいのかなと思いながらも、漁業協調提言の作成や普及に現役時代からずっと取り組んできたということで、きょうはお呼びいただいて座らせていただいております。

今申し上げましたように、海産研は1970年にスタートして50年以上たっているのですが、漁業協調型ウィンドファームを実現すべしという提言を最初に発表したのは、実に今から10年前の2012年なのです。そこで「中間とりまとめ」を発表しました。その翌年の2013年に最初の「在り方に関する提言」を発表しました13。そして2年たった2015年に「第2版」の提言14を出したのです。

第1版の2013年のときは、主として着床型のウィンドファームの漁業協調のあり方メニューの提案をしました。第2版では、それを少し改訂すると同時に、浮体式のウィンドファームの場合のメニュー提案をしたわけです。その後、あっという間に「漁業協調」という言葉が浸透・普及し、定着していったと思います。言い出しっぺの海産研だけではなくて、事業者も、水産庁も、他の行政も、メディアも、これが普通のことというように広くあまねく浸透していったことがとても良かった、提言しがいがあったと考えています。その流れが今日までずっと続いていると思いますが、2013年はわれわれ海洋コミュニティの人間にとって念頭に置いていただきたいことがあります。それは、2007年に海洋基本法ができて、2008年に第1期海洋基本計画ができ、5年ごとの改訂の第2期海洋基本計画というのが2013年に策定されました。その第2期海洋基本計画という、国の基本法に基づく閣議決定の基本計画に「洋上風力は漁業協調の方向で」ということを書き込んでいただいたのです15。国の大きな指針としても出していただいたことは、とても意味があったと言えるでしょう。

また、水産庁、全国漁業協同組合連合会、大日本水産会で相談窓口をつくったということを、各都道府県にも通知をしていただいたのですが、その1枚のカラーの「相談窓口を設けました」というお知らせの中に小さい字ですけれど「漁業協調については海産研を参照しなさい」ということも書き込んでいただきました16。そんなことでかなり定着をしてきたということで、大変うれしく思っております。

先ほども発言がありましたが、促進区域の事業者選定の第1号は長崎県の五島沖でございました。これは茂木部長からもありましたように、浮体式であることと、10基ぐらいという、それほど規模が大きいものではないという特徴があったのですけれども、事業者の公募に手を挙げたのが、前々から地元協調に一生懸命取り組んできた企業グループのみの1グループの応札でした17。言ってみれば、競争入札でいうところの「一者応札」だったわけですけれども、一生懸命やってくれているグループが取り上げられて良かったわけですが、第2ラウンドの今回の秋田、千葉の3海域においては数社による複数応札でした18。しかも着床式の本格的な30基以上、60基以上規模のものです。言ってみれば、これが本格的なウィンドファームの出発点みたいなところがありますが、いずれも最初の漁業協調型ウィンドファームの成功例になってほしいと思っております。以上のような感想を持ちました。

司会:それでは茂木部長、お願いいたします。

茂木:実は私、一番最初からこのコラムの存在を知っていたわけではないのですけれども、水産庁の矢花部長にご紹介いただいて、途中でこれを見る機会をいただきまして、漁業との協調・共生という言葉自体は、私なりにはいろんなものを読んだり、人に聞いたりして、何となくおぼろげながら理解はしていたのですが、このコラムを読んでいくに当たって、個々の研究、調査、それから事例、それぞれの方の立場からのお悩みというのがかなり克明に記されておりまして、先ほど坂本組合長がおっしゃっていましたが、これが記録にきちんと残るという意味で非常に意味がありますし、私どものような立場の人間から見ても、何が本当に悩みだったのか、何が問題だったのか、非常にビビッドに書かれているということで大変勉強になりました。実はすぐにわれわれの経済産業省の中のチームには、熟読するように指示をしまして、それ以来、各自、みんなこれを読み込んでおりますし、こういった形で残りますと、今後やはり知見とか経験、こういったものがきちんと記録として残って、新しく何かこの仕事に関わる人たちも、いろんなものを最初から共有しながら仕事が進めていけるという意味では、非常にいいコラムであるなと感じています。そういう意味では、先ほどこれも坂本組合長がおっしゃったように、多面的な視点で、いろいろな立場の人が、単に理論だけではなくて、現場で何が起きていて、どういうことが結果として起こったのかということまで記されていますので、素晴らしいコラムであるなというふうに感じている次第です。

私どもとしても、今後これをどう伝えていくのかわかりませんけれども、エネルギー政策という立場、産業政策という立場でここに携わっていますが、こういう視点から提供できるものがあれば、ぜひまた提供させていただきながら、知見の共有に貢献していければと思っています。

司会:それでは矢花部長、初めてのご発言になりますが、よろしくお願いいたします。

矢花(水産庁漁港漁場整備部長):矢花です。よろしくお願いいたします。

矢花 渉史(水産庁漁港漁場整備部長)

私も個人的なことを言いますと、昨年7月にこの職に就いて、こういう課題を持っているんだと認識したようなところがあるのです。洋上風力発電、それに関する漁業、一体どういう経緯だとか広がりがあるのか、わからないというのが正直なところだったので、何かわかるものはないかなと手がかりを探そうかなと思っていたら、たまたま、いいコラムを教えていただいたので、それを読み始めたという感じです。

今まで皆さんおっしゃったように、かなり複雑な問題を非常にバランス良く、しかもそこに実際に関わった経験談みたいなものが盛り込まれている。なおかつ非常に信頼できる。そういう意味では、私としては「これはいいな」と思って、挨拶に行った茂木部長に早速紹介をしたという経緯があります。

非常にバランスが取れているということと、実地の経験、失敗の経験も入っていて、そういうものが正直に書かれている。洋上風力の課題について網羅的に捉えて、かつわかりやすいというのは、なかなか見つからないなと思いますので、そういう意味で非常にいい連載だなと思っているので、私自身はいろんな方に、入口として紹介したいと思っています。Webで誰でも見られるような状態になっているので、これから座談会をやって、その後どういうふうに活用していくかということもあると思うのですけれども、この問題をある程度網羅的に、かつ客観的に捉えるという意味では、やはりこのコラムの連載はすごくいいよという話は、いろんなところで言っていきたいと思っておりますし、若干、私はそこに頼っている部分もあるのです。わかりやすい説明を私どもでつくるのは難しいなと思っているので、そういう意味では活用させていただいております。

これからも、将来にわたって記録として有意義なものであると思うし、今回の座談会もそういうものの一つになればいいなと思っております。率直な感想でございます。

司会:皆さんから、今回のコラムの連載について感想をいただきました。坂本組合長からは、後世の人に記録として残すことの大切さ、中原顧問からは「漁業協調」という言葉の定着と、第2ラウンドは本当に協調策が試されるのだというようなお言葉、茂木部長からは、経済産業省のエネルギー政策に関わっていく職員に、しっかり熟読するようにというお言葉もありましたし、矢花部長からはバランスが良く、実地の経験を踏まえた記録というような、それぞれ皆さん一人一人お感じになったことを、コメントとして誠にありがたくいただいたと思っています。

16回の連載の中で、動き始めた各地の洋上風力発電の事例や取り組みを通じて、漁業との協調の間で課題が浮かび上がっているのではないかと思います。長谷理事は、今回のリレーコラムの連載を終えて、洋上風力発電の導入にはどのような課題があるとお感じになられますか。