2. 台風の沖合通過
定置網漁場の沖(太平洋沿岸では太平洋上、日本海沿岸では日本海洋上)を通過する台風による定置網の被害、すなわち、「本日天気晴朗なれども潮速し」と表現される、波風に対して遅れてやってくる急潮とその被害について、お話しいたします。(沖通り台風の後急潮)
(1) 相模湾
ア 台風9617号が相模湾の沖合を通過した時の急潮(1996年9月22日日曜日~24日火曜日のこと)
(ア)台風9617号の進路と状況
1996 (平成8) 年9月24日は、台風9617号(図4)が関東の沖を北東上し、千島列島付近で温帯低気圧となった秋分の日(23日(月))明けの曇りの火曜日でした。私が、東海道本線、早川駅から、いつものように小田原魚市場を経て水産試験場に向かっている時(午前8時頃)、小田原漁港の岸壁を、地元大漁場の大船頭が、船溜まりの北東角を曲がってゆっくりと歩いて来られました。5m程前に来られ、「おはようございます。」とお声をかけますと、「石戸谷さん、網流しちまったよ。」というお言葉が寂しい声で戻ってきました(図4中⑥)。一瞬の内に沢山のことが頭の中に浮かび、私は何とか「試験場でできることはしますので・・・。」と言ったことを記憶しています。
台風9617号は9月11日(水)にフィリピンの東海上で発生し、16日(月)に大型で非常に強い勢力となりました。20日(金)に南大東島の東の海上を通過し、21日(土)は日本の南海上を北東に進行、22日(日)に大型で強い勢力で八丈島の西の海上を通り、房総半島の東海上を北北東に進んだ後、三陸沖を通り、23日(月・秋分の日) には、北海道の東海上を北北東に進みました。
(イ) 神奈川県平塚沖の各観測値(波高・流れ・海上風・気圧)の最大・最低値の発生時刻の推移
平塚沖の各観測値(図4)の最大・最低値の発生時刻は、①海上風(北風28.9m/s)が最初で、台風が相模湾の真南200kmにあった22日(日) 12時、次いで②最低気圧976.6hPaが22日(日) 14時、③最大波高528.8cm, 周期12.0secは、台風が神奈川県江の島と房総半島先端を結ぶ延長線上に至った22日(日) 15時、④最大流速1.9ノット, 100.4度(東南東流)は、台風が福島県いわき市沖150kmに進んだ22日(日) 20時頃の順に記録されています。
各観測値(波・流れ・風・気圧)の最大・最低値の推移(1996年9月20~23日)
平塚沖で最大流速が発生するまで、最大風速時から8時間、最低気圧時から6時間、最大波高時から5時間が経過していることがわかり、平塚沖の海上風、最低気圧、最大波高、最大流速の発生時刻の差が明確に記録されています。
定置漁業研究報告書(東京水産振興会2021年)で「勢力の大きい台風の相模湾直撃(2019年台風19号)」の状況をお話しましたが、台風直撃の場合には、平塚沖の各観測値が上陸通過時に同時に最大値、最低値となり、それは極めて過酷な状況となっていました。その現象と比較し、台風が沖を通過する場合では各観測値が順次、時間差を持って最大・最低となり、最初の現象である風と最終現象の流れでは8時間の時間差があることが判ります。最大流速(1.9ノット、東南東流)が発生した22日(日) 20時には、最大波高(233.9cm、16.5sec)、海上風速(南南西 8.1m/s)、気圧(993.7hPa)を示し、流速以外の観測値は台風が通過後で海が静穏化しつつあることが判ります。
ここで、定置網の現場で、防災対策として、網の撤去が行えたタイミングを調べてみます。急潮発生の2日前の9月21日(土)は、最高波高178cmでやや波がありましたが、流速は0.3ノットで問題なし、風は北北東7.6m/sで作業は可能でした。その時、台風は北緯30度より南でした。急潮発生の前日9月22日(日)は、午前9時には、波は162cmでやや高い程度でしたが、風速は北風21.7m/sで作業は不可能となりました。この台風の場合、相模湾では、北緯30度(21日夕刻)が網撤去の限界点であったことが判ります。
(ウ)試験場にできたこと
肩を落とす大船頭に「試験場でできることはしますので・・・。」と言って、実際に試験場ができたことをお話ししたいと思います。先ず、早速、被害があった漁場の近く(1.5km南、小田原市江之浦沖700m 図5中EN)に設置していた流向流速水温計(アレック電子製ACM8M)を引き上げ、共同研究をしている国立防災科学技術研究所(現東京大学平塚総合海洋実験場)のW主任研究官を訪ね、平塚海洋観測データとの合同解析を行いました。その結果を図6に示します。両地点ともに正確なデータが取得されていました。
HI:平塚 EN:江之浦 KO:米神 KA:鎌倉
JG:城ヶ島 KZ:神津島 MK:三宅島
(石戸谷他、2001)
平塚3m流向流速と風向風速、1/3有義波高(石戸谷2001一部添記)
赤字は台風位置 1996年9月21日~24日 台風9617号関東沖通過時
余談になりますが、定置網漁場で大被害が発生した時に、試験場のデータが故障などせずに観測されているということは、その後の原因究明等に重要であることはもとより、試験場の名誉にも、多少かかわりそうな、気になることなのです。
a定置網を流した急潮の強さを明らかにしました。(同じ相模湾内でも海域により急潮の状況は大きく変化する。) (神奈川県平塚市沖と小田原市沿岸(江之浦)の流れ —台風通過直後と1日後に起こる急潮—)
図6に、平塚より海上距離23km南西の小田原市江之浦沖の神奈川県水産技術センター相模湾試験場流況観測点データ(水深10m、35m、60mの流れと水温:図中最上段~4段目、図5中EN)と平塚海洋観測塔データ(水深3m流れ:同5段、海上風:同6段、1/3有義波高:同7段、図5中HI)を示します。
(a) 平塚沖の流れ
平塚沖の流れ(図6中5段目)は、台風接近から通過直後まで、流向変化の多い緩やかな流れでしたが、台風が房総半島沖に進んだタイミング(22日15時)で速くなり始め、17時頃より1ノットを越える東向流となり、その後、一挙に加速して同日20時には最大流速1.9ノットに達し、1ノット以上の速い流れが8時間に渡り継続しました。平塚の最大流速は、平塚の最大風速から約8時間後に発生していました。この1.9ノットの東向流(地元ではカシマジオと言う。鹿島神宮に向かう方向との説あり)により湘南地域(大磯)の定置網に被害(垣網の留移動)が発生しました(図4中④)。その後も、流向は東向きのまま強弱を繰り返し、23日(月) 18時頃には再び1.2ノット(東向流)の強流となり、以後次第に減衰しました。
(b) 小田原市江之浦沖の流れと水温
沖通り台風後の急潮の鉛直構造(小田原市江之浦沖の水深10m、35m、60mの流向流速と水温)と定置網の網成りを明らかにしました。
日頃から、漁業者の皆様には、「海の中は、表層(うわっちお)、中層(しんしお)、底層(そこっちお)があり、それぞれで違う。」と言うことをご教示されています。そこで、試験場では、定置網漁場の近く(小田原市江之浦沖700m、海深70m、図5中EN)の海域で、水深10m、35m、60mの3層の流れと水温を計測していました。
江之浦沖(10m、35m、60m)の流れと水温は、図6に示す通り①から③期に分けて観察しました。①期は、台風が最接近中で平塚の風が増しつつある9月22日(日) 9時頃から最大風速時(同日12時)を経て、風向が反時計回りに西寄りとなった同日20時頃まで。②期は、台風が福島県いわき市沖にあった22日20時から北海道納沙布岬東海上に至った23日23時頃まで。③期は、台風が千島列島付近に至った23日23時から24日10時頃までを示します。
(c) 台風通過中から直後の海と定置網の状況
①期では、台風の接近による北寄りの強風のピーク時に、水深35mから北向流(カシマジオ)のやや強い流れとなり、15:50に最大0.9ノットになりました。それと同時に水温が3°C上昇し、10m水温と同値になりました。その後、風が北寄りから西寄りに変わるタイミングで、水温が8°C低下しました。水深60mでは14時から北向流が強くなり、16:30に最大1.1ノットとなり、水温は6°C上昇し、その後、風の転向とともに、一挙に9°C低下しました。水深10mでは、14時頃から北向流がやや強くなり始め17:20に最大0.5ノットとなりました。水温は21日から24日を通して、一定の割合で微かに低下していますが、ほとんど変化はありません。北寄りの強風により、湾西部の江之浦では、水深35mと60mの水温が一挙に上昇し、風が西寄りに転向し、弱まるとともに急低下しました。
この北向流の底層ほど速い流れは、平塚の最大風速から約4~5時間後に発生していました。その時の定置網は、南側の台浮子から沈下して箱網や登網に破網被害を発生させたものと考えられます。
(d) 台風通過直後から2日後の海と定置網の状況
②期では、台風が遠ざかるとともに風向が北から西へと変化し、風速は弱まりました。台風一過の「天気晴朗な」海になりつつありました。水温は35mで16°C、60mで15°Cで台風前よりそれぞれ5°C、3°C低くなり、底を衝いた様子でした。22日(日) 19時頃より南向流となり、23日03時頃より表層10mから速くなり始め、同時に水温も上昇を始めました。
23日(月)の日の出を待ち、台風通過後の天気晴朗な海に、定置網被害の有無を確認するために、漁場まで船を進めましたが、定置網は、図7の0.6~0.8ノットの網成りが示す通り、運動場や垣網は、大きく吹き上がっていますが、台浮子や運動場の浮子はかろうじて浮いている状況で、流出被害による浮子の混沌は無いことを確認できました。
23日(月) 12時頃より本格的な強い南向流が来襲し、次第に速さを増し、同日夕刻16:20に、すべての水深、10m(1.4ノット–南向流)、35m(1.4ノット–南向流)、60m(1.6ノット–南向流)において急潮が同時発生しました。すなわち「水深60m超の深さを持つ海水の川」が、秒速70~80cmの流速で定置網に襲い掛かった状態で、多くの網が、危険に晒されたことは間違いありません。水温は10mでは、一貫してやや下降傾向で、大きな変化はありません。一方、35mと60mの水温は、流向が北から南に変化した時、一旦、15~16°Cまで低下し、その後、流速の増加とともに急激に9~10°C上昇して10mの水温と同値になっていることが判ります。この時刻には、台風は北海道根室市の納沙布岬東方沖(図4中⑤)に達していました。小田原市江之浦沖の急潮(最大流速1.4~1.6ノット、各層ともに南向流)は、平塚沖で海上風の最大値(22日(日) 12時北28.9m/s)が観測されてから28時間余が経過して発生していました。すなわち、小田原市江之浦沖の急潮時(23日(月) 16:20)では、相模湾を代表する平塚沖の気象海象は静穏となっており、江之浦の急潮は「本日天気晴朗なれども潮速し」という状況で発生したことが明らかとなっています。
この南向流1.4~1.6ノットの急潮により、小田原沖の定置網が主側張りのワイヤーロープの破断により全損流出しました(図4中⑤、図7)。
(石戸谷2001)(相模湾試験場回流水槽実験)
★印は、ワイヤーロープの破断個所
その時の定置網の網成りを図7に示します。表層から底層まで、1.4~1.6ノットの急潮により、箱網まで沈下し、箱網の前半部分の敷網が吹き上がり、台浮子が20~25mも沈下して、定置網に大きな力がかかったことを物語っています。③期では、流れが弱まり、やや早い南向流の発生とともに、35mと60mの水温が上昇しました。24日(火)は、急潮被害発生の翌日の天気晴朗な日でしたが、海中では、台風通過の余韻を残す、水温の上昇と下降がみられていました。
この急潮により破断した主側張りの部位を図7中★印に、その部位の24mmのワイヤーロープ(実物写真)を図8に示します。
ワイヤーロープには、錆や他の外力による損傷はなく性能規格値をクリヤーしており(図9)、今回の1.4~1.6ノットの急潮によって破断されたことが明らかとなっています。
(協力:東京製綱株式会社 土浦工場)
平塚での最大流速(1.9ノット)の急潮は22日(日) 20時、江之浦での図6中①の底潮を最大とする0.5~1.1ノットの急潮は、22日(日) 16時頃に発生し、両現象ともにカシマジオでした。これらの2現象は、台風が、相模湾に接近中から福島県いわき市沖にあった時に発生しており、平塚の最大風速時22日12時から、それぞれ8時間、4時間経過していました。
そして、江之浦での図6中②の各層1.4~1.6ノット(南向流)の急潮は、23日(日) 16:20に発生しましたが、平塚での最大風速から28時間20分が経過し、天気晴朗な状況でした。
ここで、この急潮を理解するために、海や気象の観測エリアを相模湾から千葉県銚子市まで広げなければなりません。
(エ) 江之浦で観測された各層1.4~1.6ノット(南向流)の急潮のエネルギー源は外房沖から茨城沖にあります。
台風の沖合通過が原因となる急潮は、古くより、「時化後の急潮」と言われ、漁業者の皆様に恐れられてきました。研究も進み、その代表的成果をMatsuyama,M. (2012) を引用して次に示します。
Matsuyama,M. (2012) : Kyucho˙˙˙Disaster Due to Coastal Strong Currents.
Journal of Tokyo University of Marine Science and Technology, 9, 1-3
急潮の力学・沿岸捕捉波による急潮より
台風や大型低気圧など気象擾乱の通過の際に発生する急潮は、岸に沿う強風により発生した沿岸捕捉波が強められたものである。岸に沿う強風が長時間(約1日以上)連吹すると、エクマン輸送によって海水は岸沖方向に輸送される。例えば、外房沖から茨城沖のように東に開かれた海岸に北風が吹き続ければ、沖合水は沿岸に運ばれ、沿岸の水位は上昇する。一方、東京湾の内房沿岸は、北風の影響により水位が下がる。海岸地形の複雑さにより、沿岸に沿って水位差が生じる。海底地形と地球自転の影響を受ける沿岸捕捉波は北半球では岸を右に見て伝播する。大陸棚の発達した海域で生成された沿岸捕捉波は、主として順圧的な構造を持つが、海底地形が急変する海域を通過すると鉛直流が生じるため、傾圧的な構造が強くなる。陸棚波的な性質から内部ケルビン波的な性質にエネルギーが移って岸近くで表層流が強化される。
相模湾では、台風通過に伴って房総半島東岸で発生した沿岸捕捉波が急潮を引き起こすが、伝播速度は2~3m/sであるため、台風通過後、半日~1日後に湾内に急潮が来襲する。1988年9月には、沖合を通過した台風により発生した急潮により伊豆半島東岸の伊豆北川の定置網が南に約8km流され稲取沖に漂着した。
統計によると、沿岸捕捉波による急潮が太平洋沿岸では最も多いことが分かってきた。富山湾の能登半島沿岸や若狭湾西部海域でも同様な機構による急潮が頻繁に起きている。
台風9617号の場合にも、図10に示すとおり、千葉県銚子市で22日(日) 18時に、平均風速34.5m/s、最大瞬間風速51.9m/sの北寄りの強風が発生し、ほぼ同時刻の17時に最大潮位偏差74cm(海面気圧967.9hPa)を記録していたことも明確に示され、急潮の原因となったと思われます。
相模湾の沖を通過したこの台風9617号の場合には、湾中央部の平塚では、平塚の最大風速時から8時間後に急潮(1.9ノット : 東向流=カシマジオ)が発生し、湾西部の江之浦では、平塚の最大風速時から4時間後にやや弱い急潮(10m : 0.5ノット、35m : 0.9ノット、60m : 1.1ノット、いずれも北向流=カシマジオ)が発生しました。そして、千葉県銚子市の最大風速時から約22時間後に、小田原市江之浦で規模の大きな急潮(10m、35m : 1.4ノット、60m : 1.6ノット、いずれも南向流=サキシオ)が発生していることが判ります。
これらの急潮から定置網を守るためには、台風の進行状況に注視し、湾内にうねりや強風が発生する前に、網の撤去等対策を講じることが重要と考えます。
(気象庁ホームページより改変)
1996年9月22日(台風9617号 銚子沖通過時)
被害を受けた漁場は、その後、側張りに十分な強度を持たせ、箱網も大規模な120m型に改良して、今日まで24年間、数々の急潮や荒波を乗り越えて、無事故で、毎年、豊漁を続けています。
1996 (平成8) 年9月24日(火) 午前8時頃に大船頭に小田原漁港でお会いし「網流しちまったよ。」と伝えられたのは、この台風9617号通過後の小田原市江之浦沖における急潮発生から15時間40分後であったことが判り、「禍を転じて福と為す。」大転換期のスタートであったと感じます。
(2) 台風の沖合通過による急潮は日本の各地の定置網漁場で起ります
ア 2004 (平成16) 年8月20日(金)、この日、日本海、能登の大型定置網漁場の大船頭に定置網の技術について、教えを請いに伺った時のお話です。前日19日(木)、台風0415号が図11のコースで日本海を通過しました。昼過ぎに、漁場に到着し、14時頃、お話を伺っている時、大型定置網が箱網側の西の台浮子(図12中A)から大きく沈み始めました。これは、上り潮(能登半島先端から沿岸沿いに氷見に向かう潮)の急潮が発生し、極めて速い状態(2ノット近い)であることを示していました。その時、台風0415号はすでに北海道根室市の納沙布岬南方沖(図11中●印位置)まで達していました。
(上段:流速0ノット、下段:流速2ノット)
2ノット時の左側の台浮子Aは水深30mまで沈下
(日本海における急潮予測の精度向上と定置網防災策の確立研究成果報告書より)
この急潮のエネルギー源は、太平洋岸の銚子の北寄りの強風と同じ作用をする、日本海通過の台風が引き起こす南西寄りの強風で、台風の最接近時から20時間近く経過した時に発生した後急潮でした。急潮発生時は、晴れで風も波も無い穏やかな天候で、キラキラと輝く能登の海が、まさに「本日天気晴朗なれども潮速し」と表現できる状況に一変した時でした。七尾湾の大手旅館では、高潮により、玄関フロアーが浸水し、このことも、南西の強風がエネルギー源となる潮位上昇を伴う急潮の特性を示していました。
能登の漁場に立つと、前方に立山連峰が神々しく聳え立ち、隣の漁場の3階網が目視でき、3号網の折垣網の陸側には小型定置もあり、豊饒の海を強く感じます(図13)。
イ 台風1807号は、2018年6月29日(金) 9時に日本の南で発生し、7月1日(日) 15時 暴風域を伴うようになりました。7月2日(月) 3時頃、久米島付近を通過。同日9時「強い」勢力に発達し、7月3日(火) 12時頃、五島列島付近を通過。18時頃、対馬付近を通過。7月4日(水) 15時 日本海、能登半島沖で温帯低気圧に変わりました。その進路を図14に示します。
その温帯低気圧が西津軽沖を通過した2018年7月5日(木) 午前、青森県深浦沿岸で急潮が発生しました。青森県深浦では、気象庁データより7月5日4時に最低気圧991.4hPa、5時10分に最大風速、南南西(ヒカタ)27.5m/s、潮位偏差30cm、6時に最大波高8.76m、周期8.1秒を記録しました。急潮は、温帯低気圧通過中ですが、気圧、風、波がピークを越えてから、1時間半から3時間で発生していました(平成30年度イノベーション創出強化研究推進事業「定置網に入網したクロマグロ小型魚の選別・放流技術の開発」青森県水産総合研究所田中友樹様より私信)。
これは図6に示す相模湾における台風の沖合通過時の直後に起こった変化①と同等と考えられます。「時化1日前から北東流(下り潮)が速くなり、海が膨れて来たら油断するな。」との言い伝え(宇田道隆著、海と漁の伝承、青森県深浦より)があり、南西風(ヒカタ)により潮位上昇が出たら下り潮が速くなるため、急潮に気をつけよと言っているように思われます。
青森県深浦沿岸では、気象や波浪の最大時から短時間で急潮が発生する可能性があり、台風の勢力や進路により適時に網抜き判断をする等、十分な注意が必要と考えられます。
西津軽の漁場は、白神山地のブナ林、青森ヒバの植生の養分豊かな渓流水が流れ込み、沖には対馬海流の恵みもあり、豊かな海を感じます(図15)。