水産振興ONLINE
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2022年2月

沿岸漁業対象種の漁獲状況の長期的変化
—定置網の漁獲動向の分析—

新井 義昭/川眞田 憲治/石黒 等/宮崎 統五/田添 伸/根本 桃子
(一般社団法人 全国水産技術協会)

おわりに

2019年度と2020年度の2年間「沿岸漁業対象種の漁獲変化に関する調査研究」というテーマで、10の道県の定置網を対象に1950年代から2016年にわたる漁獲状況の動向について統計資料を収集・分析しました。その結果、これまでたくさん漁獲されていた魚種が獲れなくなったり、あまり馴染みのない魚種が増えてきたりする変化の状況をデータで捉えることが出来ました。

長年にわたり、漁獲量や水揚げ金額の多くを依存していた魚種が獲れなくなり厳しい状況に直面する一方で、これまで食習慣の無い馴染みのない魚種が大量に漁獲されるようになり、これを有効に利用するため新たな販路の開拓・拡大を模索している例や、以前から漁獲されていた魚種であっても、今までとは違う食べ方を提案するなど利用の仕方を変えて新しい食材としてブランド化を進めている例など、変化する漁獲の状況に柔軟に対応している生産現場の姿を知ることが出来ました。

また、各地の定置網で人工種苗の放流の効果と考えられる漁獲量の増加が認められていたり、定置網の構造を改良し漁獲増加に結び付けていたりする例など、積極的な働きかけにより増産効果を上げている例もみられました。

来遊する資源を効率的に漁獲し、食料として有効に利用・供給してきた定置網漁業のノウハウは、漁場環境や水産資源が変動する中で、それに適応しながら継続的に行われてきた漁業活動のなかで培われてきたものであり、現在も進化を続けています。今後、さらに変化が激しくなると予想される漁場環境や水産資源の変動にいかに対応すれば生態系を維持しながら自然からの恵みを持続的に得ることが出来るかは、人類にとって生存をかけた大きな課題です。その解決のヒントが定置網漁業のノウハウの中に見つけることが出来るのではないかと感じています。

謝辞

本調査を実施する機会をいただき、また結果の概要について発表する機会をいただきました (一財)東京水産振興会に感謝申し上げます。また、北海道噴火湾、富山県富山湾、長崎県五島福江島の関係の漁業協同組合および漁業者の皆様、北海道、富山県、長崎県の行政・水産試験研究機関の皆様には、2020年度の調査にあたり、水揚げデータをご提供いただくとともに、とりまとめにあたり貴重な情報やご助言をいただきました。さらに、本調査の推進のため東京水産振興会が組織した専門家会議の皆様には、調査の実施やとりまとめにあたり種々ご指導いただきました。心からお礼申し上げます。