水産振興ONLINE
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2022年2月

沿岸漁業対象種の漁獲状況の長期的変化
—定置網の漁獲動向の分析—

新井 義昭/川眞田 憲治/石黒 等/宮崎 統五/田添 伸/根本 桃子
(一般社団法人 全国水産技術協会)

II 第2部 2020年度調査:
特定地域における定置網水揚げ資料による整理

2020年度調査では、2019年度に実施した第 I 部の調査結果を踏まえて特定の数海域を対象とし、その対象海域ごとに定置網の経営体を選定して調査を行いました。

1. 調査対象海域

東シナ海に面している長崎県五島(福江島)、日本海の富山湾(富山県)および北海道の噴火湾沿岸に設置されている定置網について調査を行いました。

2. 定置網の水揚げ記録の整理による近年の漁獲の変化状況の把握

調査対象とした定置網を経営している漁業者・組合のご協力を得て、提供頂いた水揚げ記録等から漁獲された全漁獲物を対象に、概ね最近10年間の漁獲状況の変化について整理しました。調査は全国水産技術協会のシニア技術専門員(水産試験場のOB等水産の専門家)により行われ、水揚げ記録の収集・整理とともに市場調査、漁業者の方々等への聞き取り調査をあわせて実施し、種類不明の水揚げ物の種判別などを行いました。

水揚げ記録等資料の収集にあたっては、調査対象とした定置網を経営する漁業者の方々はもちろんのこと、道・県の水産行政・試験研究機関等に所属する専門家の皆様に多大なご協力を頂きましたことを申し添えます。

3. 調査結果

3-1. 北海道(噴火湾)海域

1) 調査対象とした定置網の概要
(1) 定置網の設置場所(海域)(図 II-1)

北海道茅部郡森町地先(噴火湾)

II-1 定置網の位置図
(2) 定置網の諸元(表 II-1)
  • 免許番号
    森 いか・いわし・さけ・すけとうだら定第1号~定第5号 および
    森 いか・いわし・さけ・すけとうだら定第7号~定第10号
    計9か統(2名の親方が管理・操業)
  • 操業期間:6~12月
    漁獲物の入網状況をみて9 か統のうち4~6か統/日を水揚げ。
II-1 調査対象期間中の定置網の免許状況等
2) 調査結果
(1) 過去11年間(2010~2020年)の漁獲データ収集結果

上記の北海道噴火湾沿岸の森町の地先に設置された定置網の2010~2019年の漁獲量に関するデータを収集・整理しました。北海道沿岸の大型定置網は漁期が12月までであるため、過去10年間(2010~2019年)の漁獲データに、調査を実施していた2020年分も追加することができたため、あわせて11年間について漁獲量の増減を検討しました。

(2) 漁獲量の変化から見た増減の傾向

2010~2020年の11年間に漁獲された魚種(銘柄)は合計94種(水揚げ記録に記されている銘柄は、同一魚種であってもブリのように成長段階別に、またサケのように雌雄別に別銘柄として取り扱われるものがあります)。これら94種(銘柄)のうち、北海道水産現勢(公式統計)で取り扱っている種(銘柄)は39種、その他の種(銘柄)は55種でした。これらを対象に漁獲量の経年変化をグラフにして、増減の傾向を判定しました。なお、増減の傾向は、その状態により、下記のとおり、増加(3区分)、減少(3区分)、その他(3区分)に分類しました。

【増減傾向の分類】
<増加>
・ 増大:概ね5倍程度以上
・ 増 :概ね2~5倍程度
・ 増小:概ね1.5~2倍程度
<減少>
・ 減大:概ね5倍程度以上
・ 減 :概ね2~5倍程度
・ 減小:概ね1.5~2倍程度
<その他>
・ 横這:概ね1.5倍程度未満
・ 増減:増減が大きく傾向が不明確なもの
・ 不明:データ不足で判別不能なもの

【増減傾向の判定結果】

  • 増加傾向が認められた魚種(銘柄)は合計17種(銘柄)で、このうち漁獲量が比較的多いものとしては、北海道水産現勢でも取扱っている種(銘柄)では、サメ類、ブリ(ふくらげ)、ホッケ および サバで、それ以外の種(銘柄)では、その他イカ(すみいか)、ミンククジラであり、その他はいずれも漁獲量が比較的少量の種(銘柄)でした。
  • 減少傾向が認められた魚種(銘柄)は合計21種(銘柄)で、このうち漁獲量が比較的多いものとしては、北海道水産現勢での取扱い種(銘柄)では、アイナメ、カタクチイワシ、サケ、ソウハチで、北海道水産現勢の取扱い種以外の種(銘柄)では、イシガレイ、チカ、フグ類、マンボウ、アンコウで、これらのうち、特に、サケ、チカ、フグ類、マンボウの減少が著しいことが分かりました。

減少傾向が認められた銘柄のうち、大型定置網ではサケは雌雄別に6つの銘柄(サケ(おす上)、サケ(おす上ぶな)、サケ(めす上)、サケ(めす上ぶな)、サケ(めす腹なし)、ときしらず)に分類されています。このうち「ときしらず」以外の5銘柄はいずれも増減傾向は「減大」に分類され減少が著しい状況です。サケは大型定置網の収益の大きな部分を占めるため、漁獲量の減少は漁業の現場では大きな問題となっています。

反対に近年漁獲量が増加しているブリは、成長段階別に3つの銘柄(ブリ(ふくらげ):1kg未満、ブリ(いなだ)1~3kg、ブリ:3kg以上)に分類され取扱われています。2010~2020年の11年間の漁獲データから、ブリ(ふくらげ)には明らかな増加傾向が認められましたが、ブリ(いなだ)、ブリの2銘柄は増減の傾向が明瞭ではありませんでした。第 I 部の漁獲統計データの解析から、北海道沿岸の定置網におけるブリの漁獲量の増加は、太平洋側および日本海側ともに明瞭に認められています。また、今回の調査に際し、定置網の漁獲データの収集とともに、森町全体(森町の全漁業種類)の過去20年間(2000~2019年)の漁獲状況について、北海道水産現勢を整理した結果、やはりブリの漁獲量には増加傾向がみられました。北海道で漁獲されるブリは、近年その知名度が全国的にも広まったこともあり、以前に比べて相対的に漁獲金額が上昇し、定置網の水揚げ金額の総額に占める割合も近年高まる傾向がみられ、漁業者の方々の関心も高くなっています。

(3) 銘柄ごとの漁獲量変化

森町の大型定置網における漁獲量の整理結果のうち、ここでは近年漁獲量の減少・増加が明瞭なサケとブリについて、またこの海域に特徴的な魚種としてスケトウダラを取り上げて、それらの漁獲状況を整理した結果を紹介します。

II-2 北海道・森 定置網 増減傾向分類別魚種一覧
① サケ

前記した通り、森町の定置網で漁獲されるサケは雌雄別に全部で6銘柄に分類され取り扱われています。これらのうち、“ときしらず” 以外の5銘柄を雌雄別に集計し、2010~2020年までの11年間の漁獲状況変化(漁獲量および水揚げ金額の経年変化、雌雄合計量に対する雌雄の構成割合の経年変化および単価の経年変化)を図 II-2に示しました。

II-2 さけの雌雄別漁獲量、水揚げ金額、全体に占める雌雄の
割合および単価の経年変化(2010~2020年)

2010~2020年までの11年間の森町の大型定置網でのサケの漁獲量は、雄、雌ともに2010年に比べて2020年には概ね1/8~1/9に減少しています。水揚げ金額も漁獲量とともに減少傾向ですが、雄の水揚げ金額は、雌に比べると漁獲量ほどには変化しておらず、特に2017年頃までは安定的に推移しています。しかし、2018年以降は、急激な漁獲量の減少とともに水揚げ金額も減少しました。なお、2017年には、サケの水揚げ量は前年に比べて微増しているにもかかわらず、サケの雌の水揚げ金額が顕著に高くなっています。これはこの年に、全道でサケの漁獲が “いくら” の生産に支障をきたすほどに低迷し、特に雌の取引単価が上昇したためであり、この影響が森の定置網で漁獲されたサケの雌にも及んだものと考えられます。

2010~2020年までのサケの雌雄の漁獲量の比率は、雌/雄+雌=42.6~50.8%(平均46.1%)と概ね1対1ですが、雄が若干多い年の方が多く、漁獲金額では雌/雄+雌=67.6~79.0%(平均74.8%)と単価の高い雌の比率が常に高くなっています。

② ブリ

森町の大型定置網でのブリの漁獲状況について、3銘柄(ブリ(ふくらげ)、ブリ(いなだ)、ブリ)別の過去11年間(2010~2020年)の月別漁獲量の推移と、各年の3銘柄の漁獲量割合を図 II-3に示しました。

II-3 森定置網 ぶり3銘柄別漁獲量の月別漁獲状況と年ごとの
漁獲量比率の経年変化(2010~2020年)

ブリ3銘柄の月別漁獲状況の各年の漁獲期間に注目してみると、漁獲量が年々増加していくにつれて、ブリ3銘柄が漁獲される期間が長くなる傾向がみられます。特に、2018年以降は漁期(定置網の操業期間)が終了する12月になっても漁獲がみられます。銘柄別には、前述の増減傾向のまとめのとおり、ブリ(いなだ)とブリは増減の傾向が不明瞭な一方で、ブリ(ふくらげ)は増加傾向が明瞭で、3銘柄合計の漁獲量は概ね増加傾向にあります。別途実施した整理結果から、水揚げ金額に占める魚種(銘柄)の割合では、漁獲量の増加が明瞭なブリ(ふくらげ)だけではなく、銘柄名としてのブリも一定の割合を占めていることがから分かりました。これは脂ののった大型のブリは若い小型の個体に比べて単価が高いためで、定置網全体の水揚げ金額の向上に貢献しているものと考えられます。2020年には銘柄名としてのブリの漁獲も増加しており、今後継続してブリの漁獲が増加することが期待されます。

また、漁獲量が増加しているブリ(ふくらげ)についても、函館を中心に、地元では “ざんぎ”(唐揚げ)の素材として売り出せないかとの検討を進めているとのことであり、新たに多獲されはじめた漁獲物を有効に利用するために、その付加価値を高め、定置網全体の水揚げ金額の上昇につなげようとの取り組みが始まっています。

③ スケトウダラ

森町の大型定置網の2010~2020年の11年間の漁獲状況(図 II-4)をみると、スケトウダラ(湾内すけそ)の漁獲量は2012年に一旦減少した後2020年には再び増加しており一定の傾向がみられないのですが、北海道水産現勢による森町全体の全漁業種類のスケトウダラの漁獲量(図 II-5)は、より長期間(2000~2019年の20年間)でみると減少傾向にあることが分かりました。

II-4 森定置網 すけとうだら(湾内すけそ)(2010~2020年)
II-5 北海道水産現勢「すけとうだら」(2000~2019年)

スケトウダラは、森町では噴火湾内に時折来遊する群が漁獲されており、過去20年間でも3~4回の比較的多獲された時期がありました。なお、調査中であった2020年にも定置網での漁獲がみられました。

漁業者の方々からの聞き取りによれば、近年は噴火湾内の水温が高いため、スケトウダラが湾内に回遊して来ないため森町の定置網での漁獲は減少しているとのことであり、スケトウダラを対象に操業する漁船漁業者は、噴火湾外の海域へ出漁し操業しているとのことです。

3-2. 富山県(富山湾)海域

1)調査対象とした定置網の概要
(1) 定置網の設置場所(海域)(図 II-6)

富山県射水市新湊地先(富山湾)

II-6 定置網の位置図
(2) 定置網の諸元
  • 免許番号
    定第55号(黒山)いわし定置網 および
    定第57号(大中瀬)いわし定置網
    計2か統
  • 操業期間:周年
2)調査結果
(1) 過去21年間(2000~2020年)の漁獲データ収集結果

富山県の新湊の定置網を対象に、漁業者ならびに富山県農林水産総合技術センター水産研究所の協力を得て2000~2020年までの漁獲量に関するデータを収集することができました。このデータに基づき漁獲量の増減傾向等を検討しました。

(2) 漁獲量の変化から見た増減の傾向

新湊の定置網における2000~2020年の21年間に漁獲された魚種(銘柄)は合計101種で、これら魚種(銘柄)を対象に漁獲量の経年変化をグラフにし、先述の北海道・森町の場合と同様に増減の傾向を判定し、増加(3区分)、減少(3区分)、その他(3区分)に分類しました。増減傾向の分類別の魚種一覧を表 II-3に示しました。

II-3 富山県・新湊 定置網 増減傾向分類別魚種一覧

【増減傾向の判定結果】

  • 増加傾向が認められた魚種(銘柄)は11種(銘柄)で、このうち漁獲量が比較的多いものとしては、ウスバハギ(せんば)、シイラ、ヒラマサ、マイワシ、タチウオでした。
  • 減少傾向が認められた魚種(銘柄)も11種(銘柄)で、このうち漁獲量が比較的多いものとしては、イボダイ(げんとくだい)、シロギス(きす)、メダイ、マアジ(あじ)でした。
(3) 銘柄ごとの漁獲量変化

漁獲状況についてデータを整理した101種(銘柄)のうち、ここでは富山県の定置網の漁獲物として最も重要であり地元漁業者の関心も高いブリと、2020年に急に漁獲が増加したウスバハギ(せんば)、第 I 部の漁獲統計による検討結果でも近年漁獲増加がみられているサワラとシイラについての整理結果を紹介します。

① ブリ

新湊の定置網ではブリを3銘柄(ブリ(ふくらぎ):概ね1.5kg以下、ブリ(がんど):2歳魚以上で概ね7kg以下、ブリ:左記2銘柄以上の個体)に分けて取扱っています。これら3銘柄の過去の21年間の漁獲量の推移を図 II-7~9に示しました。

II-7 新湊定置網 ぶり(2000~2020年)
II-8 新湊定置網 ぶり(がんど)(2000~2020年)
II-9 新湊定置網 ぶり(ふくらぎ)(2000~2020年)

3銘柄ともに漁獲量は増減を繰り返しており、一定の傾向での増加、減少はみられません。また、3銘柄ともに2010年代に一時期漁獲が顕著に増加する年がみられその後再び減少しています。ブリ(ふくらぎ)、ブリ(がんど)の2銘柄については、増加後は概ね増加する以前の漁獲量レベルにまで低下していますが、一番大型の銘柄ブリでは、2010、2011、2013年に増加した後減少しますが、その後2017年以降の漁獲量は増加前のレベルよりもやや多い量で維持されています。

また、公式の漁獲統計等ではブリ類としてブリに合算集計されることもあるカンパチ、ヒラマサの新湊の定置網の過去21年間の漁獲量は、ブリ3銘柄と同様に増減を繰り返しており一定の増減傾向はみられません。ヒラマサは2000年代に漁獲量が低迷し、その後2010年代に入って一時的に漁獲が顕著に増加する年がみられ、その後再び減少しています。このような漁獲状況の変化はブリ3銘柄と共通していますが、ヒラマサでは2013年の漁獲増加後、2019年にも漁獲量が多くなっている点がブリ3銘柄とは異なります。一方カンパチの漁獲量変化の状況は、ブリ3銘柄やヒラマサとは異なり年々漁獲量が大きく変化しています。

II-10 新湊定置網 ひらまさ、かんぱち(2000~2020年)
② ウスバハギ(せんば)

ウスバハギ(せんば)は、2019年までは多くても1.2トン程度の漁獲量でしたが、2020年に3.7トンに漁獲量が急増しました。

II-11 新湊定置網 うすばはぎ(せんば)(2000~2020年)

新湊の定置網では、カワハギ類としてウスバハギ以外にウマヅラハギとカワハギの2種(銘柄)の取り扱いがあります。これら2種の漁獲量を図 II-12に示しました。2種(銘柄)ともにウスバハギのような2020年における急増はみられませんがウマヅラハギは2008年頃から漁獲量が増加傾向にあり、2014年に5.4トンになった後、急増・急減を繰り返し、近年は2.5~3.5トン程度で推移しています。カワハギは2005年から2017年まで漁獲量は増減しながら減少していましたが、2019年、20年には漁獲が増加して近年は10~13トン程度で漁獲量は安定しています。

II-12 新湊定置網 うまづらはぎ、かわはぎ(2000~2020年)

ウマヅラハギは、かつては干物などの加工品としての利用が主でしたが、近年は鮮度保持技術の発達により鮮魚としても流通するようになり、人気も出ています。このため、新湊の近隣の魚津漁協では冬季に水揚げされる25cm以上の大型のウマヅラハギのブランド化を進めています。ウスバハギ、カワハギもウマヅラハギと同様に、大型の個体は鮮魚として流通しており、3種ともに現在では富山湾の冬の漁獲対象種として重要になっています。

③ サワラとシイラ

2種とも暖海性の魚類ですが、近年は日本海北部や北海道においても漁獲が目立つことが指摘されています。

サワラについては、第I部で紹介したように漁獲統計による長期間の増減傾向の検討で、富山県の定置網では徐々に漁獲量が増加する傾向が認められました。新湊の定置網の2000~2020年にかけての漁獲量の変化(図 II-13左)をみると、概ね2000~2013年は増加傾向にありますが、その後は年によって増減しており漁獲量が増加していく状況はみられていません。

シイラについても、漁獲統計を用いた長期間の漁獲状況の変化傾向の検討では、富山県の定置網では漁獲量が徐々に増加する傾向が認められています。新湊の定置網における2000~2020年の漁獲量(図 II-13右)も、増減を繰り返しながらこの約20年の間に1.2トンから13.0トンへ10倍程度増加していることがわかりました。

II-13 新湊定置網 さわら、しいら(2000~2020年)

3-3. 長崎県海域

1)調査対象とした定置網の概要
(1) 定置網の設置場所(海域)(図 II-14)

長崎県五島市三井楽町地先

(2) 定置網の諸元
  • 下図に示す計2か統
  • 操業期間:周年
II-14 定置網の位置図
2)調査結果
(1) 過去10年間(2010~2019年)の漁獲データ収集結果

2010~2019年の漁獲量に関するデータを収集し、その漁獲状況の変化傾向を検討しました。

(2) 漁獲量の変化から見た増減の傾向

2010~2019年の10年間に長崎県の三井楽の定置網で漁獲された魚種(銘柄)は95種でした。なお、漁獲量データの整理にあたり95種(銘柄)のうち数量および金額の上位40位とそれに準じる3種の計47種を主要種として扱うこととしました。95種(銘柄)を対象に魚種ごとに漁獲量の経年変化をグラフにし、先述の北海道の森町、富山県の新湊と同様に増減の傾向を判定し、その変化の状態により、増加(3区分)、減少(3区分)、その他(3区分)に分類しました。増減傾向分類別の魚種一覧を表II-4に示しました。

II-4 長崎県・三井楽 定置網 増減傾向分類別魚種一覧

【増減傾向の判定結果】

  • 主要種で増加が大きいと判別された魚種は、ブリ、クロマグロ、スマ、メイチダイなどで、続いてカンパチ、ヒラマサ、シイラ、クエなどが年々増加しています。これら魚種の増加により三井楽の定置網の総漁獲量は、2017年までは概ね300~400トンであったものが、2018年から急増し2019年には740トンまで増えています。これは主にブリの漁獲量増加(2018年:310トン、2019年:500トン)によるものです。
  • 減少が大きい魚種は、ヒラソウダ、スルメイカ、サンマ、ウマヅラハギなどであり、量的にはヒラソウダ、スルメイカ、サンマの減少が大きい結果となりました。

【漁獲量の増減に係る要因等についての聞き取り調査結果】

三井楽の定置網の漁獲量は先に述べたとおり近年増加していますが、その要因等について、地元の五島漁業協同組合(三井楽支所)の定置網責任者および長崎県総合水産試験場への聞き取りを行いました。その結果、以下のような話を伺うことが出来ました。

<改造網導入による効果>

  • 三井楽の定置網では国の「もうかる漁業プロジェクト」を活用し、2016年から改革型定置漁船や改造網の導入など、様々な改革に取り組んだことにより、漁獲量の増加および単価向上など大きな成果を上げている。この改革に関連して漁獲量が増加した要因(操業回数は増えていない)として、改良網の導入により「網成り」が良くなったことが挙げられる。
  • 「網成り」の改良により漁獲量が増加した魚種は、ブリ、ヒラマサ、カンパチなど全てブリ類であり遊泳力のある魚種である。他にもマグロ類、カジキ類、カツオ類が概ね増加傾向にある。

以上のような聞き取り結果から、遊泳力のある魚種の入網に「網成り」が影響していることが考えられます。

<資源状況、回遊、漁場環境関係>

  • 漁業者の方が、漁獲状況などから資源が増加していると感じている魚種としては、ブリ、クロマグロ、スマ、メイチダイなどで、ブリやスマは三井楽地先への「回遊」も良かった(多く来遊した)とのことで、漁獲量の増減には上記の網成りのほかに、その種の資源状態や年々の回遊の状況も影響していると考えられるとのことでした。なお、漁業者の方から、ブリは海の濁りがないと回遊が少ないとの話もあり、漁獲量の増減には日々異なる漁場環境も影響していると考えられます。

<水産試験場のコメント>

  • 定置網は待ちの漁業であり、資源変動に加え魚の移動が漁獲に大きく影響し、更に環境変動の影響も考慮する必要がある。このため漁獲変動の理由を考えることはなかなか難しいが、主要魚種のグラフをみると一定の増減傾向や特定の年における漁獲の増減がみられる。
  • ブリは、資源水準が高位の状態にあるので漁場形成により漁獲量が増加する傾向もあるであろう。
  • いくつかの魚種で2014年、2015年に増減がみられるが、この年はエルニーニョ現象が発生した年であり、冷夏・暖冬が続いたのでこれも漁況に何らかの影響を与えていたかもしれない。
(3) 銘柄ごとの漁獲量変化

漁獲状況についてデータを整理した95種(銘柄)のうち、ここでは三井楽の定置網の近年の漁獲増加の主な要因となったブリ類と、同じように近年増加がみられるメイチダイとクエについての整理結果を紹介します。

① ブリ類

調査対象とした三井楽の定置網ではブリを2銘柄(ブリ(やず他):5kg未満、ブリ:5kg以上)に分けて取扱っています。また、あわせてカンパチ、ヒラマサの過去10年間(2010~2019年)の漁獲量の推移を図 II-15、16に、ブリの2銘柄の漁獲割合を図 II-17に示しました。

II-15 三井楽定置網 ぶり2銘柄の漁獲量の経年変化(2009~2019年)
II-16 三井楽定置網 かんぱち、ひらまさの漁獲量の経年変化(2010~2019年)
II-17 三井楽定置網 ぶり2銘柄の漁獲量割合の経年変化(2010~2019年)

ブリは2銘柄ともに増加傾向で、特に大型の銘柄ブリの漁獲量増加が近年著しいことが分かりました。このことから、2015年以降は全体(2銘柄合計)の漁獲量も毎年増加する中、銘柄ブリの全体に占める割合が高くなっています。

また、ブリのような急激な増加ではないものの、カンパチ、ヒラマサも近年漁獲量が増加しており、定置網の収益確保の点からも重要な種類となっています。

なお、漁業者の方々への聞き取りによれば、ブリ、カンパチ、ヒラマサの漁獲増加の理由について、資源増加、回遊量増加のほか、餌となるカタクチイワシの増加、定置網の改造による網成りの改良などが挙げられています。

② メイチダイ

メイチダイについては、2013年頃から漁獲量が徐々に増加し、2017年に一旦停滞したものの再び増加し10年間を通じて順調に増加していることが分かりました(図 II-18)。美味で知られるフエフキダイの仲間であり、インターネット上の「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」によれば、関東の市場では高級魚の仲間入りをしており入荷すれば高値がつくとのことです。2018年に漁獲量が急増しその後も増加傾向が続いています。定置網全体の水揚げ金額の増加にも貢献する魚種として期待されます。

II-18 三井楽定置網 めいちだい(2010~2019年)
③ クエ

クエの漁獲量は2016年までは200~430kg程度で推移していましたが、2017年に急増し、その後2018、2019年は580kg程度で推移しています。上記のメイチダイと比べると漁獲量は少ないのですが、単価が比較的高く魚種別の水揚げ金額では上位に位置付けられます。漁業者からの聞き取りによれば、人工種苗の生産と放流(放流は五島漁業協同組合が実施)が行われており、このことが近年の漁獲量の増加に奏功しているのではないかとのことです。

II-19 三井楽定置網 くえ(2010~2019年)