水産振興ONLINE
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2021年12月

北海道の水産教育事例
~厚岸水産(翔洋)高等学校調理師養成施設指定の取組~

村松 裕史 全国水産高等学校長協会 元理事長(元北海道厚岸水産高等学校長)

第4章 
北海道における船舶料理士と魚食型調理師の養成
~北海道厚岸水産(翔洋)高等学校調理師養成施設の指定~

1. 北海道厚岸水産(翔洋)高等学校の沿革〔表4-1〕

北海道厚岸水産高等学校は、昭和16年2月北海道廳立厚岸水産學校として認可され、翌月に開校、昭和23年3月学制施行により北海道立厚岸水産高等学校に改称、昭和24年4月北海道立厚岸女子高等学校と統合し、水産課程(漁業科・製造科)普通課程(普通科)各1学級となりました。その後、昭和25年4月北海道立厚岸高等学校と改称、昭和34年4月漁船機関科の設置、昭和37年12月普通科生徒募集の停止、昭和40年4月漁業科(沿岸・遠洋コース)・水産製造科・機関科の3科を設置する北海道厚岸水産高等学校と改称しています。平成元年4月漁業科及び機関科を統合した漁業・機関科として認可され、平成14年4月漁業・機関科及び水産製造科が募集を停止し海洋資源科が設置され、平成21年3月31日に北海道厚岸水産高等学校は67年間の幕を閉じ、同年4月1日に町内の普通科を設置する北海道厚岸潮見高等学校と統合し、北海道厚岸翔洋高等学校として開校しました。

〔表4-1〕北海道厚岸水産(翔洋)高等学校の沿革

厚岸水産高等学校に勤務していた教員が「バラサン岬に吼えろ」と題した書籍を出版し、副題には「教育とは生徒にほれぬくこと」と書かれています。厚岸水産高等学校に通う浜の元気な生徒のことを描いたこの手記によって、厚岸水産(厚岸翔洋)高等学校は生徒指導困難校であるというイメージがありましたが、統合によって徐々に払拭されています。ちなみに「バラサン」とは、アイヌ語で『広い柵』という意味や、『野獣を捕る平落としという罠』のことでもあると言われています。この岬の岩層が平落としに似ていたため、厚岸の部落には魔物が近寄らなかったとの伝説もあります。

【バラサン岬】

バラサン岬へは、学校のすぐ裏手にある国泰寺の境内から登ります。岬からの眺望も優れています。国泰寺は、江戸時代後期にロシアの南下や場所請負人制度の弊害など北辺の危機が叫ばれる中で、箱館奉行の願い出により文化元年(1804年)に設置が決定された、蝦夷三官寺の一つです。

【国泰寺】

現存する建物は、ほとんどが後代に改修されていますが、境内は江戸時代のたたずまいを伝えており、蝦夷地における特異な歴史的役割を果たした重要な寺として、裏手の愛冠を含む13万平米が国の史跡に指定されています。

調理師養成施設については、平成20年から開設準備を始め、翌年4月、厚岸水産高等学校と厚岸潮見高等学校の統合を機に厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コースが指定されました。

本道から「調理師養成施設」として指定され、厚岸翔洋高等学校の在学3年間で調理師免許を取得することができるようになってから約十年が経過し、卒業生は船舶料理士として漁船、官公庁船、練習船、海上輸送船などの司厨員や、魚食現場の調理師として地域創生、人口減少阻止、魚食振興等で地域や水産・海洋関連機関等から評価され、期待されています。

本道の水産高等学校水産食品科で「調理師」を養成できないかという課題に取り組んだのは、函館水産高等学校水産製造科が1学年2学級(現在は水産食品科と品質管理流通科が1クラスずつ)あったときの平成10年頃のことです。このときに調理師養成施設設置を断念した理由は、すでに函館市内に調理専門学校が2校、私立高等学校で1校が調理師を養成していたことや養成施設の履修科目や講師要件、施設設備等の更新や改修が難しいと判断したからです。

また、函館水産高等学校に調理師免許を取得できる専攻科水産食品科の設置も検討しましたが、高等学校卒業後に調理現場で2カ年の実務経験を経て、本道が主催する調理師免許試験に合格すれば免許を取得することができ、2年間専攻科へ進学して調理師免許を取得するメリットがないことなどから設置を断念しました。本道では厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コースが公立高等学校では初めての調理師養成施設指定校となりました。

職業学科を設置する高等学校の卒業生は、「将来の職業に対する目的意識を持たせる教育を通じて、主体性や自立心が育まれている」という産業界からの評価が比較的高くなっているとの声も聞かれますが、一方でどこの学科の出身者でも、誰でも良いから人がほしいという声も聞かれることを踏まえ、水産・海洋高等学校関係者は、何を為すべきかを今一度考えなければならないと思います。

トピック⑤ 厚岸町の名前の由来と厚岸大橋

厚岸町の名前の由来

アイヌ語の『アツケウシイ』(楡の木の樹皮を剥ぐところの意)。または、『アツケシ』(牡蠣の漁場の意)の転訛説。

湖南と湖北地区を結ぶ厚岸大橋

北海道で最初の海上橋(456.5m)として昭和47年9月に開通。
写真の大橋左が厚岸湾、右が厚岸湖へと続きます。

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2. 調理師養成施設設置の理由

(1) 船舶職員の養成

小樽水産高等学校と函館水産高等学校では、船舶職員の「航海士」「機関士」「通信士」を養成していますが、「船舶料理士」の養成は行われていません。また、産・学・官の船舶における「船舶料理士」の高齢化や不足、魚食型調理師の不足が設置の背景にあります。

【集団給食調理実習室】

かつて厚岸水産高等学校も五級海技士の養成施設として船舶職員を育成していた時代もありましたが、全国の水産・海洋高等学校で初めて、船舶職員の職種の中で唯一養成していなかった「船舶料理士」を養成することになりました。

「調理師免許」を取得すれば乗船履歴が短期間で「船舶料理士」の資格を取得できますが、「船舶料理士」には栄養のバランスを整えた食事、長期にわたる航海で船員の健康を司る食事を担当する役割があります。船内食中毒の発生は船舶運行の危機を招きます。また、積荷として限られた食材の中で食材を管理し、過不足なく料理を作る使命があります。食品の栄養や化学、食品衛生や公衆衛生についての知識、調理技術や技能、船舶に乗り込んで司厨部で調理に従事した経験が要求されます。

このことから、厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コースの2学年の生徒は、2泊3日の短期乗船実習で船内厨房での調理体験を行っています。

(2) 清水海上技術短期大学校の司厨・事務科の廃止

国立清水海上技術短期大学校の沿革によると、1968年3月国立清水海員学校本科司厨科に厚生省(厚生労働省)から指定された調理師養成施設が設置されてから、平成18年3月に清水海上技術短期大学校の司厨・事務科が廃止されるまで、船舶料理士の養成が行われていました。現在、海上自衛隊では隊内に調理師養成施設を持ち、海上保安庁は庁所管の海上保安学校において船舶料理士を養成していますが、水産・海洋高等学校で船舶料理士の養成が行われていないことが、慢性的な船舶料理士不足の一因となっていると思います。

(3) 道州制特区推進法(略称)

平成19年度から道州制特区推進法によって、国から本道へ調理師養成施設の指定が委譲され、厚生労働省に進達せずに本道が指定できるようになりました。本道で調理師養成施設を所管する保健福祉部からは、入学時にはコース分けができていること、備品は開校する平成21年3月までに、教室(施設・設備)は調理実習が始まる平成22年3月までに整備するよう指導がありました。農業と水産業と観光を基幹産業とする本道において、船舶料理士、魚食型調理師の必要性から設置が指定され、「調理実習室」を家庭科の「調理実習室」として、水産製造工場の一部を「集団給食調理実習室」に部分改修し、「調理実習室」には、冷凍冷蔵庫、急速冷凍庫、火力の強い厨房レンジなど、「集団給食調理実習室」には、冷凍冷蔵庫、解凍器、総合調理器、ガス回転釜、揚物器や焼物器などを、厚生労働省所管の養成施設と同基準で整備しています。

【集団給食調理実習室】

(4) 関係機関からの支援

平成20年7月、厚岸町長や北海道高等学校長協会水産部会から北海道教育委員会に対して「調理師養成コース」設置要望書が提出されています。

一方、「官が民を圧迫して良いのか」という設置反対の意見もありましたが、釧路管内にあった調理師専修学校が平成17年3月に閉校していることや調理師を目指す生徒が札幌へ進学し地元に戻ってこないので調理師不足になっているという北海道全調理師会釧路支部からの後押しもありました。

3. 調理師養成施設設置の課題

(1) 学科の類型(コース)での指定

調理師養成施設指導要領で「高等学校が調理師養成施設の指定を受けようとする場合の学科は、調理に関する専門教育を主とする学科とすること」とされていましたが、他県では総合学科の類型で調理師養成施設として指定されていたことから、平成20年6月、本道保健福祉部から厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コースが調理師養成施設に指定されました。

(2) 教育課程の編成

調理師養成施設施行規則第6条第1号に定められている教科科目及び授業時間数を基準として厚岸翔洋高等学校海洋資源科「調理師コース」の教育課程を編成しました〔表4-2〕。

〔表4-2〕調理師コースの教育課程表(一部)

これまで調理師養成施設は教科「家庭」において行われていたことから、平成21年度開設の海洋資源科調理師コース教育課程は普通科目を1年21単位、2年11単位、3年9単位の合計41単位、専門科目は1年水産5単位、家庭1単位、2年水産8単位、家庭7単位、3年水産10単位、家庭10単位で、3カ年の合計では水産専門科目23単位、家庭18単位とし、教科「水産」の単位数が教科「家庭」を上回るよう編成しています。また、調理師養成課程の規定教科科目のうち、「食品」や「食品衛生」の科目は、すでに家庭科の専門科目として学習指導要領に明記されていたことから、これらの科目を水産の教員が担当するために、教科「水産」の学校設定科目「食品学」「食品衛生学」としています。

現在は、「船舶料理士」及び「魚食型調理士」の育成という目標をより明確にするため、「食品学」を「船舶食品栄養」、「食品衛生学」を「食品衛生管理」とし、教科書は、公益社団法人全国調理師養成施設協会発行の教科書(全6巻)を使用しています。

(3) 調理師養成施設の講師要件

1万人足らずの人口の厚岸町で調理師養成施設の要件を満たす講師を見つけることは難しい課題でしたが、6年以上の行政経験が必要な「衛生法規」は釧路保健所から、医師・歯科医師・獣医師免許が必要な「公衆衛生学」は、釧路市獣医師会から紹介していただき、専門調理師が講師要件となっている「調理実習」は北海道全調理師会釧路支部から派遣されるなどして、講師を確保することができました。

(4) 調理師養成施設の教員配置

厚岸水産高等学校は1学年2学級(漁業・機関科、水産製造科)の学校規模で、家庭科の教員は配置せずに時間講師で対応していましたが、調理師養成施設の指定に当たって、水産科教員8名の配置を1名減の7名にし、家庭科の正教員を1名配置しました。家庭科の正教員は普通科目の家庭に加えて家庭科の専門科目「食文化」を担当しています。また、調理師免許を所有し、実務経験が2年以上必要な実習助手を1名加配しています。

(5) 教科「水産」での調理師養成(参照⑦)

調理師は教科「家庭」の学科で養成していたことから、教科「水産」での調理師養成に対して「家庭」から「水産」での設置に対する抵抗がありましたが、魚食振興会の中谷三男先生や松村房弘顧問弁護士にお力添えをいただき、令和元年12月、文部科学省から「行政指導は当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲について行われるものと認識しており、文部科学省は、調理師養成施設の根拠法令である調理師法の所管省庁ではないため、調理師養成施設に対して指導を行うことはありません。」という回答を得ています。

4. 調理師(船舶料理士)養成のための活動

(1) 成果発表会の開催

3年生が調理実習の成果を12月に親族や関係者を招いて発表します。自作料理の創作ポイントや苦労したところを説明し、中国や西洋料理、和食、寿司などの自分の好きな分野で3品ほどの料理を作り食べていただいています。

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(2) 校外実習

3学年の4月には釧路市内のホテルや厚岸町の給食センター、町立厚岸病院で10日間の校外実習を行っています。実習先は、厚岸翔洋高等学校の調理実習の講師の方の勤務先などで受け入れていただいています。

生徒は10日間の校外実習でプロの厨房での仕事の経験や船舶料理士として働く先輩の話を聞くなど、進路決定に結び付いています。

(3) マグロの解体

海洋資源科生産コースの生徒が長期乗船実習(マグロ延縄実習)で漁獲した、約13kgのキハダマグロを調理実習の講師、厚岸町内の寿司店主の指導で5枚に下ろし、生産コースの生徒が、骨についた身をスプーンでそぎ、なめろうに、調理師コースの生徒は、柵に切り分け、刺身と漬け丼に調理し、全員で試食をしています。

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(4) 船内調理実習

船内での調理実習は、平成22年度から2学年の「短期乗船実習」(釧路港と苫小牧港の往復2泊3日の航海)で実施しています。本道の実習船若竹丸の船内厨房では司厨長の指導の下、朝・昼・晩の食事当番を行っています。

船舶料理士は荒れた海況の中で船酔いと戦いながら乗組員のために食事を用意しなければならない、大変な職業であることを生徒は実感することになりますが、船舶料理士を志す生徒には、貴重な体験となっています。

令和元年度「船内調理実習」を体験した生徒の感想文を紹介します。

乗船実習を終えて

北海道厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コース 2年 松井 優奏

9月11日から三泊四日、若竹丸に乗船し、私は沢山のことを学びました。

船内での共同生活では、ルールが沢山あり、陸上で良いことも、船内では制限されます。そして、酔う人が出た場合、他の人が酔った人の仕事を交代でするなど協力性が大切だと思いました。

船内の仕事では、揺れながらの作業のため、調理場での細かい作業、船橋での航海当直など、手元が安定しなかったり、集中して外を見ていたりすると大変酔いやすかったです。

班作業では、乗組員や生徒など沢山の人の食事を作るため、一つの材料の量が多く大変です。そのため、どのようにしたら効率良く、綺麗に出来るか良く考える必要があります。

私は、関わっている全ての人の全ての仕事が船を動かす力だと思います。例えば、船内で調理をしないと他の人がバランス良く栄養が取れないため、仕事に支障が出ます。また、通信士が仕事をしないと、他の船と衝突の危険性、陸上との通信、天候などが分からないため、船が危険にさらされます。それらのことから乗組員さんの全ての仕事は船を動かすために必要だと思います。

他の高校では、あまり体験できないことを体験し、沢山のことを学び、沢山のことを知ることができました。「人と協力すること」「良く考えること」をこれからの人生で活かそうと思いました。

船内ではあまり酔わずに過ごせたため、船への就職も視野に入れて、考えたいと思います。船内では、電波がなく携帯が使えないためクラスの人と話す機会が増え、前よりも仲良くなれたと思います。

また、平成30年度「船内調理実習」を体験し、船舶料理士を目指している生徒の作文を紹介します。

船舶料理士を目指して

北海道厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コース 3年 尾崎 令侍

世の中には、人の命を救う医者、安全を守る警察などたくさんの職業がある中で、人々においしい調理を提供して、笑顔にする調理師になるのが私の夢です。

幼い頃、私は単なる普通の食材をおいしい料理に変える料理に感動し、調理をしている母のその姿を見て調理師を志すきっかけとなり、調理師が私の夢となりました。

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しかし、調理師になることはそんな容易なことではありませんでした。ましてや船という閉鎖された特殊な空間で調理しなければならない船舶料理士には、普通の調理よりも多くの注意が求められるからです。陸地から遠く離れた海の上で、食中毒などを起こしてしまえば、あっという間に船内に広がりとても深刻な事態を引き起こしてしまうからです。私は食材を実際に触って料理する調理実習はもちろんのこと食の安全を学ぶ食品衛生学や公衆衛生学などについても手を抜かずに幅広く勉強しています。

調理実習では数人が班に分かれてコミュニケーションをとりながら作業を進めます。実習で調理したものは自分のノートにわかりやすくまとめるなどして、頭に叩き込みます。

さらに私の学校では、船舶料理士が実際にどのように働いているのかを体験できる、短期乗船実習がありました。揺れる厨房、限られた空間で作業することは思っていた以上に大変なものでした。そして、船内の司厨員は少人数なため、やることが多く、体力的にも厳しいものでした。しかし、厳しい仕事をやり遂げた後に元気なものがあります。それは船員の方々の笑顔です。私は笑顔を見ることが大好きです。自分が作った料理を食べて「おいしい」「また食べたい」と言ってもらえて笑顔を見ることができるのがこの仕事のやりがいだと思います。褒めてもらえることや笑顔がこの仕事を続けていくエネルギーになると思います。

海上レストランは、動くレストランであり、料理はお客様の旅をより楽しいものにすることができます。

私は厚岸翔洋高等学校に通い、3年目になりますが、将来は西洋料理の自分の店を持ちたいと考えています。私の父は日本人、母はインドネシア人なので日本語とインドネシア語の2カ国語を話すことができますが、現在はさらに英語とイタリア語を勉強してインターナショナルな人間を目指しています。

今年はコロナウィルスの影響で校外の調理施設での実習という貴重な体験をすることはできませんでしたが、高校生活の残り約半年間、船舶料理士になるための知識や技能を磨くために努力していこうと思います。

次に、厚岸翔洋高等学校調理師コースから水産大学校へ進学し、調理師コース6回生の塚田君は、北海道代表として「生徒研究発表全国大会」でカキを剥かずに食べられる「かぶシェル」を考案・作製し、発表しています。(写真は「かぶシェル」の研究に取り組んだ時のメンバーです。)

北海道厚岸翔洋高等学校海洋資源科調理師コース

平成28年度卒業(6回生) 塚田 裕貴

北海道厚岸翔洋高等学校を卒業後は、山口県にある水産大学校食品科学科に進学しました。自分自身、高校で学んできた水産と食品分野についての専門知識をさらに深めたいという思いでした。大学入学後は、勉学に励みながらも何か新しいことを始めたいという思いで、料理サークルを立ち上げました。調理経験を活かし、後輩に料理の知識や技術を教え、今では部員数30名を超え、部活動にも昇格し、大学と企業が共同開発した魚醤を使ってレシピ開発を行っています。他にも漁協で廃棄される未利用資源を利用したレシピ開発など、学内に留まらず、部活動の視野を広げてきました。大学での授業や部活動を通して、将来は食品業界で活躍したいと思い、現在就職活動を行っております。中でも、中食という分野に注目しています。今のコロナ禍という状況になる前から、晩婚化や核家族化による単独世帯の増加、また両親共働き世帯が増える中で、世の中の食事体系が変わってきています。家庭で調理をするという手間が省け、簡単に食べることができる中食は、今後もさらに成長を遂げると考えています。食品業界を選んだ自分としては、やるからにはトップを狙うという夢があるので、この業界で自分がこれまで培ってきた力を生かして行きたいと考えています。

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【後列の右側が塚田君】

最後に、北海道教育庁実習船「北鳳丸」の司厨員として活躍している函館水産高等学校海洋技術科卒業生の岩田君の寄稿文を紹介します。

船舶料理士の仕事とその魅力

北鳳丸 司厨長 岩田 雅浩

私は高校時代、函館水産高校海洋技術科に在籍していました。在学中に長期乗船実習があり、私は当直や食事当番などを行いました。そこで賄いの食事当番の際、将来の目標となる道を見つけました。賄いで仕事をしている方々の姿を見てすごく輝いてみえました。なぜなら、60人超の乗組員や実習生の為に毎日思考を凝らして献立を立て一生懸命作り上げる姿に感動を覚えました。そこで、高校卒業と同時に静岡県にある国立清水海上技術短期大学校の司厨・事務科へ進学しました。そこで、教官などから調理の基本を一から教えてもらい、更にここでの短期乗船実習(賄い実習)をしてからは、絶対、将来は船の司厨部で働きたいと思い、卒業後、官庁船に就職しました。

最初の職場は水産庁で、賄いに配属となり、そこでたくさんの上司の方から賄いとしての仕事などを教えてもらいました。その中では厳しいながらも優しく仕事を教えてくれました。仕事の中では航海ごとにメニューのレパートリーなど構成や栄養面のバランスなども修得できました。働いていくうちに司厨部の仕事の奥深さにどんどん引き込まれ、司厨部の魅力にのめり込みました。水産庁で8年が過ぎようとしたときに現在の実習船の司厨長から戻ってこっち(北海道の実習船)で働いてみないかと言われ、前の職場に理由を言って配置換え、転船させてもらいました。

現在の職場では、実習船の特徴でもある生徒と一緒に賄い作業をする場面があり、最初はおぼつかない時もありましたが、司厨長や乗組員のサポートもあり、乗り越えていけました。実習船では生徒主体になることから、アレルギーなど健康面も配慮してメニューを考えなければなりません。食材の積み込みリストを作成する作業もあります。賄いの作業は作るだけではなく、乗組員や生徒など全体を考えるとともに、個々の体調も考慮していく必要があります。司厨員として一番うれしい時は、作った料理を残さずきれいに食べてもらい、笑顔になってもらう時です。それには、きっちり基本を学び調理師の学業をしていくことが大事だと思いました。

実習船では厚岸翔洋高校の生徒が調理実習のため乗船してきます。この実習では船での調理作業の基本を学んでもらい、実際に航海中に調理をして乗組員や生徒に作ったものを食べてもらっています。実習生は、船での作業は初めてで、船酔いなども経験して辛くも楽しい実習になっていると思います。将来、生徒たちが自分のように「司厨部の方々はすごい」とか、「船で仕事してみたい」と思われるようになるため、日々、上司から作業技術を教えてもらいスキルアップを目指して仕事をしています。

最後に、私は司厨部で働いて良かったと思います。日々変わるメニューの中でみんなのおいしいという笑顔が一番の励みとなって現在の私があると思います。

将来、コックになりたいと思う方へ

船でいろいろ世界をめぐり、現地の料理も学べて、たくさんの料理が作れます。賄いは船に乗っている人たちにとって切っても切れない重要な職業なのです。船を動かす力なのです。

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【右が岩田司厨長】

トピック⑥ 2010年度「水産ジャーナリストの会」年度賞の受賞

2010年度、ウナギの完全養殖に成功した水産総合研究センター・養殖研究所生産技術部・養殖研究グループ長の田中秀樹氏(写真右)と水産高等学校に初めて魚食推進型の調理師養成コースを設置した北海道厚岸翔洋高等学校に年度賞が贈呈されました。(写真中央が、梅崎義人会長、写真左が、北海道厚岸水産高等学校元校長間山郁三氏)

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5. 調理師養成施設設置までの「約60年間の歩み」

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