水産振興ONLINE
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2021年9月

内水面漁協による環境保全活動について

玉置泰司(国立研究開発法人 水産研究・教育機構元中央水産研究所経営経済研究センター長)
坪井潤一(水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 内水面グループ主任研究員)
阿久津正浩/高木優也/久保田仁志/吉田 豊/小原明香/山口光太郎/関森清己/星河廣樹/澤本良宏/傳田郁夫(主担当者)

第2部 各県詳細調査

3. 埼玉県水産研究所

(1) 秩父漁協(埼玉県)による石倉の設置

主担当者
関森清己
目的

内水面漁協の主な収入源は組合員が納める賦課金・漁業権行使料及び遊漁者から徴収する遊漁料が主体であり、このほか市町村からの補助金、地元企業からの寄付金、漁業補償金等である。中央水産研究所の調査により、多くの漁協で組合員が納める賦課金・漁業権行使料収入よりも遊漁料収入が多いことが明らかとなった。しかし、近年遊漁者は減少し、漁協の収入が減少しつつある。一方、国民が望む漁協の活動として「河川清掃」や「水質改善」といった「環境保全」があげられている。

そこで、収入が減少している中、漁協がどのように環境保全に取り組んでいるのか事例を収集し、今後の環境保全活動の基礎資料とする。

方法
埼玉県の漁協の収入 

漁協の経営を把握するため、1987年及び2015年の収入を、各漁協の事業報告書から調査する。対象としては賦課金収入、漁業権行使料収入、遊漁料収入とする。

環境保全事例の収集 

漁協への聞き取り及び報告書等により環境保全活動の事例を収集する。

結果及び考察
埼玉県の漁協の収入 

1987年には秩父漁業協同組合、埼玉中央漁業協同組合など全10組合及び1連合会が組織されていたが、2011年7月9日に北埼利根漁業協同組合が解散し、現在は9組合と1連合会となっている。

1987年の各組合の収入は合計1億8,464万円であったが、2015年には29.9%の5,514万円にまで減少した(図1)。

図1 漁業協同組合の収入の変化
環境保全に対する取り組み事例 

漁協を取り巻く環境は、遊漁者等の減少による収入の減少、オオクチバスやカワウ等の加害生物による魚類資源への圧迫、土砂の堆積や樹林化等河川形状の変化、組合員の高齢化による漁場管理能力の低下等、非常に厳しい状況である。

(1) 石倉設置の取り組み

環境を改善し魚類資源を守るため、2014~2015年に、水産庁の事業である水産多面的機能発揮対策事業により、漁業協同組合が中心となって市町村、地元住民団体で組織した地域活動組織により、石倉が設置された(表1)。

表1 石倉設置河川等
注1:事業費はいずれも当初予算額(モニタリングの費用を含む)
注2:H27年度は、川耕しを含んだ金額

石倉は本来漁法の一つであり、石倉漁法が正しい名称である。冬期、流れのない場所に、人の頭大の石でウグイ等の越冬場所となる「石倉」を造り、1ヶ月ほど後、周囲を竹簀で囲み、石を取り除いて魚を採補する漁法であり埼玉県漁業調整規則により知事の許可が必要とされている(図2)。

図2 漁業調整規則による石倉

この方法により、採捕を目的とせず、魚類や甲殻類の隠れ場、待避場所、越冬場所として設置した事例である。
石倉は4活動組織により5河川、8箇所に設置された。
本来の石倉と異なり、既成の樹脂製のネットに人の頭大の石を入れ、縦1m×横1m×高さ0.5mを1基とした。石は現場にあるものを使用し、石を積めた状態で600kg~800kgの重量になる。河川敷で作成し、重機によって予定箇所に設置された。設置は1箇所に10基または20基を連続して、河川縦断するよう設置された(図3~図5)。

図3 製作用枠と作成された石倉(神流川)
図4 重機で設置(神流川)
図5 完成した石倉(神流川)

石倉設置2ヶ月後に、石倉に入っている生物のモニタリングが行われた。
2015年1月12日に、入間川に設置された石倉において行われたモニタリングでは、約1,500尾の魚類・甲殻類が確認され、その一部について魚種を確認したところ、オイカワ86.6%、フナ7.8%、カワムツ1.7%、スジエビ1.7%、その他2.2%であった(図6)。これらのことから、石倉が、魚類・甲殻類の隠れ場所として有効であることが推定された。

図6 確認された魚類等(入間川)
(2) 川耕し(河床耕耘)への取り組み

石倉設置に取り組んだ各活動組織は石倉設置と併せて川耕し(河床耕耘)にも取り組んだ。このうち埼玉西部漁業協同組合が中心となって結成された高麗川流域地区活動組織が取り組んだ川耕しの事例を調査した。事例は2015年6月13日、日高市楡木地先高麗川において川耕しが実施されたものであった。
川耕しに先立ち、効果を把握する為、川虫の調査も実施された(図7)。川耕しは重機を用い、約300m2(川幅10m×長さ30m)について実施された(図8)。人力では深くまで耕起できないが重機により約1mの深さまで耕起することができ、60cm以上の岩を地下から出すことができ、浮き石のある良い漁場となった(図9)。

図7 川虫の調査(高麗川)
図8 川耕し(高麗川)
図9 川耕し終了後(高麗川)

川耕しについては、その評価が難しい点があるものの、浮き石のある漁場を作り出すことができるので、活動組織や漁業者、遊漁者からは良い評価が得られている。

(2) 入間漁協(埼玉県)及び駿河台大学による体験学習

主担当者
山口光太郎
目的

内水面漁業協同組合(以下「内水面漁協」とする)は、主に水産資源の管理や増殖、漁場の管理等を行っている。また、これら以外に、外来魚駆除、河川清掃、釣り教室の開催なども行っている(中村 2015)。河川清掃や釣り教室などの開催は、内水面漁協の主な業務ではないものの、地元住民に河川や魚など、自然に親しんでもらう機会をつくることができるという意味で、大変重要な業務であると考えられる。

埼玉県飯能市に事務所がある入間漁業協同組合(以下「入間漁協」)は、同じく飯能市の駿河台大学の「入間川環境保全活動」の授業を担当している。授業では、河川環境に関する講義や飯能市内を流れる入間川での外来魚駆除などの現地作業を通して、学生に河川や魚に親しんでもらう取り組みが行われている。この授業は、大学の正規の授業であり、内水面漁協と大学が連携するというこれまでにない取り組みである(平井 2017)。この「入間川環境保全活動」について、内水面漁協が行う環境保全活動の一例として紹介する。

方法

入間漁協による駿河台大学の入間川環境保全活動の授業は、2017年8月1、8、23、24日の4日間実施された。この授業を履修した学生は、5学部(法学部、経営経済学部、メディア情報学部、現代文化学部、心理学部)から35名であった。学生の出身地は、北海道(岩見沢市)から沖縄県(石垣島、宮古島)までの広範囲であった。授業には、毎回入間漁協から組合長、副組合長など5~7名、駿河台大学から教員1名が立ち会った。授業は、県職員(農林部生産振興課または水産研究所)が講師を務める講義が約1時間、入間漁協の指導による入間川における生息魚類調査、外来魚駆除などの現地作業が約2時間で行われた。授業の取材は、8月1、23、24日の3日間について行った。

結果及び考察
8月1日 

初回の授業である8月1日は、入間川の現地作業として、矢川橋上流において生息魚類調査を実施した。入間漁協事務所が入っている飯能市林業センター講義室で組合長が開講のあいさつ(図1)を行った後、入間川矢川橋上流に移動した。入間漁協は、学生にライフジャケット、箱メガネ、さで網を貸与した(図2)。生息魚類調査では、入間漁協が学生にガサガサなど魚類の採取方法の指導を実施した(図3、図4)。矢川橋付近の水域は、コクチバスの生息数が多いことで知られており、在来魚の減少が懸念されている。また、川で魚類の採捕を行った経験がない学生もいた。しかし、入間漁協の指導でガサガサなどを実施した学生は、ウグイなどの在来魚を採捕していた。学生は、採捕したこれら在来魚の生態などについて、入間漁協の組合員から説明を受けていた。

図1 入間漁協組合長による開講のあいさつ
図2 学生にライフジャケット、さで網、箱メガネを貸与
図3 入間川矢川橋付近における生息魚類調査
図4 入間漁協組合員によるガサガサの指導

生息魚類調査の後は、飯能市林業センター講義室において、水産研究所長から「埼玉の水産について」という題目で講義が行われた。この講義では、河川漁業や内水面漁協が果たす役割について説明があった。河川漁業は、かつて動物性タンパクを供給する役割を担っていた時代もあったが、現在はレクリエーションとしての役割が大きい。また、河川漁協が行っている増殖事業は、自然環境の保全に役立っている。さらに、河川漁協は、漁獲される魚が地域の食文化を守るなど多面的な機能を有していることなどが説明された(図5)。

図5 8月1日の講義で使用された資料
8月23日 

3回目の授業となる8月23日は、組合長あいさつの後、水産研究所の研究員から、入間川流域における外来魚コクチバス対策についての講義を行った(図6)。入間川流域におけるコクチバス対策における最大の問題は、上流域に位置する名栗湖(有間ダム)でコクチバスが繁殖し、降雨などの放水に伴ってコクチバスの稚魚が流出し、入間川全域に生息域が広がっていることである。しかし、名栗湖のコクチバス現存尾数は、繁殖抑制を中心として、電気ショッカーボートなどの手法を組み合わせて駆除することによって、減少させることが可能である。繁殖抑制は、4~5月ごろに、水深1m付近に産卵床ができるので、これを駆除する。また、電気ショッカーボートでは、7~8月にコクチバス0歳魚が岸際の水深5m以浅に集まるため、これを駆除する。また、河川であっても、コクチバスの現存尾数を減少させることが可能である。河川では、コクチバスの定住性が高いため、同一水域で繰り返し駆除することによって、当該水域の現存尾数が減少する。以上のように、駆除対象生物(この場合はコクチバス)が、どの時期にどこに集まるかなどの生態をよく理解して駆除を行うと、高い駆除効果が期待できることを説明した。講義後の質疑では、電気ショッカーボートに関する質問が2つあった。一つは、「電気ショッカーボートの価格は、どのくらいか?」というものであった。埼玉県の電気ショッカーボートは、購入価格を抑制するためにいくつか工夫しているため、約210万円と、他の道県より100万円以上安いことを説明した。もう一つの質問は、「電気ショッカーボートは環境税のような予算で購入したのか?」というものであった。この質問に対しては、埼玉県の電気ショッカーボートは環境税等に関する予算で購入したものではない。しかし、電気ショッカーボートによって外来魚を駆除することにより、漁協が増殖した魚類をはじめとして、魚類資源が保全されることにつながるので、将来的にはそういった予算で購入するということもありうるかもしれない、と回答した。

図6 8月23日の授業前における組合長あいさつ

講義後は、入間川加治橋下流で刺網を使用してコクチバスの駆除作業を実施した(図7)。学生は、入間漁協組合員から刺網の扱い方や掛け方の指導を受け、積極的に作業を行っていた。加治橋周辺は、数年前から駆除を繰り返してきており、駆除されるコクチバスが減少傾向にある。このためか、この日の駆除尾数は6尾と少なかったが、学生らはコクチバスが駆除されるたびに歓声をあげていた。

図7 入間漁協組合員とともに、学生がコクチバス駆除の刺網を掛ける
8月24日 

最終日となる8月24日は、組合長あいさつの後、水産研究所の研究員から、埼玉県内におけるカワウ被害についての講義を行った(図8)。カワウは、1日に500gもの魚類を捕食する。埼玉県内の荒川や入間川には、長年にわたりカワウの大群が飛来し、魚類を捕食してきたため、魚類資源の減少が著しい。このため、入間漁協のみならず、県内の漁協はカワウ対策に大変苦労していることが説明された。

図8 水産研究所研究員によるカワウ被害についての講義

講義後、学生と組合員らは、入間川矢川橋上流に移動し、コクチバスの駆除作業を行った。学生らは、河川での作業は4回目となるため、前日にもまして積極的に作業を行っていた(図9)。入間漁協は、昼食時に、用意したアユを塩焼きにして学生に提供するなど、川魚に親しんでもらうよう工夫を行っていた。学生からは、「今まで川で魚とりなどしたことがなかったが、実際にやってみて、とても楽しかった。」といった声があった。

図9 入間川矢川橋上流でのコクチバス駆除作業

学生らは、入間川環境保全活動を通じ、直接指導を受けていない文章力や表現力なども向上するという。つまり、この活動を通じて得た自己効力感の高揚が、学生の行動全般にわたって影響を及ぼしたと考えられている(平井 2017)。また、入間漁協組合員も、若い学生とともに作業を行うことにより、気持ちの高揚がみられるという(平井 2017)。

以上のように、入間漁協は、駿河台大学の入間川環境保全活動の授業を通じて、学生に河川環境に親しんでもらう取り組みを実施している。

引用文献
  • 平井純子(2017)入間川環境保全活動を通じた地域との連携と駿大社会人基礎力の育成.駿河台大学論叢,54,151-161.
  • 中村智幸(2015)「内水面漁業」って、なに? 水産振興,49,1-81.6pp.

(3) 入間漁協(埼玉県)及び駿河台大学によるエコツアー

主担当者
山口光太郎
目的

内水面漁業協同組合(以下「内水面漁協」とする)は、水産資源の増殖など、漁場の管理を行っている。また、これら以外に、外来魚駆除、河川清掃、釣り教室の開催なども行っている(中村 2015)。河川清掃や釣り教室などの開催は、内水面漁協の本来業務ではないものの、地元住民に河川や魚など、自然に親しんでもらう機会をつくることができるという意味で、大変重要な業務であると考えられる。

内水面漁協である入間漁業協同組合(埼玉県飯能市、以下「入間漁協」)は、飯能市の推進事業「エコツーリズムのまち飯能、飯能エコツアー」のプログラムのひとつ、「漁協と歩く!入間川リバートレッキング」を実施している。入間漁協は、2010年からコクチバス駆除を行うエコツアーを開始し、2015年からは川の中を歩く入間川リバートレッキングを行い、好評を得ている (平井 2019)。入間川リバートレッキングは、入間漁協組合員が講師を務め、川の安全な渡渉の仕方や魚類、底生動物、植物などの解説を行い、参加者に入間川の自然環境に親しんでもらうものである。また、入間漁協のエコツアーは、毎年約120の飯能エコツアーが実施される中で、2018年3月に「飯能市エコツアーアワード2017」の「環境省関東地方環境事務所長賞」を受賞した。この「漁協と歩く!入間川リバートレッキング」を、内水面漁協が行う環境保全活動の一例として紹介する。

方法

入間漁協によるエコツアーは、2018年8月5日に開催された。参加者の募集は、飯能エコツアーのホームページ(http://hanno-eco.com/)で行われた。エコツアーは、午前中に入間川に生息する生物の採取、解説を行った。そして昼食後の午後は、入間川矢川橋上流から加治橋までの約1.5kmについてリバートレッキングを行った。入間漁協は、1名がエコツアーのガイドとして解説を行い、6名がエコツアーや昼食の準備などを行った。また、このエコツアー運営の一部は駿河台大学の授業の一環としても位置付けられており、駿河台大学の教員と学生が参加し、入間漁協とともにツアーを行った。

結果及び考察

参加定員は15名であったが、実際の参加者数は20名だった。参加者の居住地は、埼玉県が7名 (飯能市内4名、さいたま市3名)、東京都6名(清瀬市3名、羽村市3名)、千葉県7名(流山市4名、柏市2名、松戸市1名)であった。参加者の年齢は40歳以上が12名、11歳以下が8名であり、家族連れが多かった。

参加者は、午前10時に入間漁協事務所がある飯能林業センターに集合し、漁協組合員の自動車で約1.5㎞上流の矢川橋付近まで移動した。矢川橋では、入間漁協組合員がエコツアー開始の準備を行っており、到着した参加者にライフジャケットを手渡し、着用を促した。各参加者は、親が子供のライフジャケットを着用させていた(図1)。ライフジャケットを着用した参加者は、用意されたさで網を持ち、ガイド役の入間漁協組合員からガサガサによる魚の採り方の説明を受けた(図2)。その後、各参加者はガサガサで魚採りを行い(図3)、魚が採れると家族で網の中を覗き込み、歓声を上げていた(図4)。参加者によって採捕された魚種は、オイカワ、ウグイ、アブラハヤ、コクチバスなどであった。また、水生昆虫も採捕された。採捕された各魚種や水生昆虫は、入間漁協の組合員と埼玉県水産研究所の研究員が解説を行った(図5)。

図1 エコツアー開始前にライフジャケットを着用する参加者
図2 入間漁協組合員(左)からガサガサでの魚の採り方について説明を受ける参加者
図3 さで網を手に、魚採りを行う参加者
図4 網の中の採れた魚を覗き込む参加者(左下は、採捕されたオイカワ)
図5 入間漁協組合員(右)が採捕された魚類の解説を行う

生物の採取の後、昼食となった。昼食では、入間漁協が用意したアユの塩焼きなどが参加者に配布された(図6)。参加者からは、「川の水も美しいし、アユもおいしく、とても楽しい」との感想があった。

図6 入間漁協から配布されたアユの塩焼きをほおばる参加者

昼食後は、入間川加治橋まで下流に降ってゆくリバートレッキングが行われた(図7)。

図7 昼食後、入間川リバートレッキング開始

リバートレッキングで参加者が最も興味を持ったのは、水深2m以上の水域で浮かびながら流されて行く川下りであった(図8)。参加者から感想を聞くと、「足がつかないほうが、プカプカ浮いておもしろい」という声が聞かれた。ここでは、参加者に「楽しい」と思ってもらうとともに、「このように足がつかないような深い水域であっても、ライフジャケットを正しく身に着けていれば、万一のことがあっても命は助かる」ということを理解してもらえたものと考えられた。

図8 水深2m以上の水域を流下してゆく参加者
(参加者は、ライフジャケットを着用しているため、浮かんだまま流されて行く)

この後は、「こっちに深いところがあるよ!」という声が上がると、子供たちがその方向に向かって走って深みに飛び込んでゆく光景が見られた。また、深い水域以外であっても、浮いたまま流されてゆく参加者がみられた(図9)。駿河台大学の学生が、川に浮かんだ子供を後ろから押して進んでゆく様子も見られた(図10)。

図9 浮かんだまま流されてゆく参加者
図10 駿河台大学の学生(左)が川に浮かんだ子供を押して前に進む

このようなエコツアーは、参加者にとって知的好奇心の刺激や新しい視点の獲得、デトックスの効果などのメリットが、そしてガイドにとっては地域資源の再発見とともに地域への誇りや愛着が再構成される(平井 2019)。

終了後の参加者の感想は、次のとおりであり、入間漁協のエコツアーは好評のうちに終了した。

  • アメンボが真横に見え、自然と触れ合うことができて楽しかった。
  • 一度浮かんじゃうとやめられない。
  • 川の水の美しさとアユのおいしさ、とても楽しかった
  • 幼稚園の子供も楽しめた。大人ももちろん楽しめた。
  • 授業で来たのに、楽しすぎて申し訳ない(駿河台大学学生)。
引用文献
  • 平井純子(2019)エコツーリズムのまち・飯能市が取り組む自然環境を活用したアウトドア・プログラム、都市緑化技術、108: 16-17
  • 中村智幸(2015)「内水面漁業」って、なに? 水産振興、49: 1-81

(4) 入間漁協・駿河台大学・(一社)奥むさし飯能観光協会による体験漁業

主担当者
山口光太郎
目的

内水面漁業協同組合(以下「内水面漁協」とする)は、水産資源の増殖など、漁場の管理を行っている。また、これら以外に、外来魚駆除、河川清掃、釣り教室の開催なども行っている(中村 2015)。河川清掃や釣り教室などの開催は、漁業権に基づく内水面漁協の業務ではないものの、地元住民に河川や魚など、自然に親しんでもらう機会をつくることができるという意味で、大変重要な業務であると考えられる。

内水面漁協である入間漁業協同組合(埼玉県飯能市、以下「入間漁協」)は、組合長が会長を務めている(一社)奥むさし飯能観光協会が実施する「ちびっこ金魚すくい大会」において、会場設営や運営を担当し、子供たちに生物や河川に親しんでもらう取り組みを行っている。「ちびっこ金魚すくい大会」は、毎年8月に飯能市の入間川の飯能河原において実施され、数百人の子供たちが参加する人気のイベントである。この「ちびっこ金魚すくい大会」を、大学生や地域と連携した内水面漁協が行う環境保全活動の一例として紹介する。

方法

令和元年のちびっこ金魚すくい大会(以下「大会」とする)は、8月3日に開催された。大会開催の告知は、埼玉県公式観光サイトの「ちょこたび埼玉 https://chocotabi-saitama.jp/」や、飯能市役所の広報誌である「広報はんのう(2019年7月1日号)」で行われた(図1)。事前予約は不要で、参加対象は3歳以上小学生以下であった。大会スタッフは、午前10時に入間漁協組合長、副組合長、組合員、事務員の7名と、社会活動を授業の一環として採り入れた駿河台大学の教員1名、学生13名が現地に集合した。大会の準備として、川の一部を網で仕切って金魚すくいを行う会場の設営を行った。また、県内のキンギョ生産者から購入したキンギョが搬入され、温度合わせを行った後に生け簀網で仕切った区域に放された。これらの作業は、開始時刻である13時までに終了した。

図1 同日に開催された飯能納涼花火大会とともに広報はんのう(2019年7月1日号)に
掲載されたちびっこ金魚すくい大会の案内
結果及び考察

スタッフが集合すると、入間漁協の組合長が、この日一緒に作業にあたる駿河台大学の学生にあいさつを行った。大学教員と学生は、大学名が入ったピンク色のベストを着用していた(図2)。その後、入間漁協組合員はキンギョを一時収容しておく生け簀網を河川内に設置した(図3)。一方、県内の生産者がこの日に使用するキンギョ(小赤 約2,000尾)を搬入したため、学生たちは生産者からキンギョを受け取って網生け簀まで運んだ(図4)。次に、スタッフは網で川の上下流を仕切るなど、会場の設営を行った(図5)。幼児用の会場は川の一部をさらに網で仕切り、危険防止のために大きな石を除去した(図6)。12時からは受付が始まり、400人を超える参加者が続々と詰めかけた。開始時刻である13時が近づくと、参加者の子供たちは川に設営された会場に入った。組合員は網生け簀の中のキンギョをバケツに入れ、このバケツを学生が会場まで運んで放流した(図7)。

図2 入間漁協組合長(右)がピンク色のベストを着用した学生にあいさつ

図3 キンギョを一時的に収容する生け簀網を設置する入間漁協組合員

図4 県内の生産者が搬入したキンギョを受け取り、網生け簀に運ぶ学生

図5 川の下流側を網で仕切る入間漁協組合員と学生

図6 幼児用の会場は川の一部をさらに網で仕切り、
危険防止のため、大きな石を会場から除去した。

図7 開始時刻が近づき、入間漁協組合員が網生け簀からバケツに
金魚を入れ、このバケツを学生が会場まで運んで放流した

開始時刻である13時になると、配布された網を手に、子供たちはいっせいに会場の川で泳ぐキンギョを追いかけ始め、夢中になって採る様子がうかがえた(図8)。子供たちが会場に入ると、川底からは泥が舞い上がって河川水が濁り、このため鮮やかな色がついたキンギョを使用している。このように、このイベントは、川魚ではなくキンギョを使用しないと小さな子供ではすくえないことがうかがわれた。この間も、網生け簀から次々にキンギョが会場に放流された。終了予定時刻は14時30分であったが、開始から1時間とたたないうちにキンギョは採りつくされた。このため、金魚すくいは予定時刻よりも早く終了となった。終了後には、キンギョを搬入した生産者が、100円で袋詰めを行っており、これを利用している参加者が多く見られた(図9)。この日はとても天気が良く高温になったが、体調を崩すような参加者はいなかった。入間漁協組合員と学生は、後片付けを行い、その後組合長と副組合長が学生にお礼を述べて無事終了した(図10)。以上のように、入間漁協は、地元の子供たちに生物や河川に親しんでもらう取り組みとして、金魚すくい大会を行っている。

図8 開始時刻になると、子供たちが一斉にキンギョを追いかけ始めた

図9 終了後は、キンギョを袋詰めにして持ち帰る人が多かった(1袋100円)

図10 後片付けのあと、学生にお礼を述べる入間漁協組合長と副組合長
引用文献
  • 中村智幸(2015)「内水面漁業」って、なに?、水産振興、49: 1-81