水産振興ONLINE
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2021年9月

内水面漁協による環境保全活動について

玉置泰司(国立研究開発法人 水産研究・教育機構元中央水産研究所経営経済研究センター長)
坪井潤一(水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 内水面グループ主任研究員)
阿久津正浩/高木優也/久保田仁志/吉田 豊/小原明香/山口光太郎/関森清己/星河廣樹/澤本良宏/傳田郁夫(主担当者)

第2部 各県詳細調査

2. 栃木県水産試験場

(1) おじか・きぬ漁協(栃木県)による河川環境改善と人工産卵床造成

主担当:
久保田仁志、高木優也
目的

内水面の多くの漁業協同組合(以下、漁協)では水産業協同組合法に定められた事業(指導事業、利用事業、販売事業等)に加えて、カワウ・外来魚の防除・駆除や河川清掃といった環境保全活動を広く実施している。栃木県内の漁協が実施している環境保全活動としては、上述に加えてヨシの保全・管理活動、環境保全啓蒙としての放流会や釣り教室開催、水質汚染・不法投棄監視活動などが挙げられる。一般の人が参加する放流会等以外、これらの活動が一般の目に触れる機会は少ない。

2015年9月に発生した関東・東北豪雨により、栃木県内の河川では増水や土砂崩れによる被害を受けた。とりわけ鬼怒川支流男鹿川流域では期間降水量が600mmを超える大雨となり、多くの沢で土砂崩れが発生し、本流支流ともに広域に河床の堆砂、平坦化が生じた。これにより、魚類や水生昆虫の棲み場の大部分が失われたと考えられたことから、流域を管轄するおじか・きぬ漁協や地元の自然愛好団体は河川環境再生のための取組「男鹿川復活プロジェクト」を始めた。本報告書では、この「男鹿川復活プロジェクト」について、漁協が行う環境保全活動の一事例として紹介する。

方法
現場取材 

2016年10月2日に行われた「男鹿川復活プロジェクト(第2回)」に参加の上、現場にて取材・記録を行った。

事後調査 

プロジェクトの一環として実施された人工産卵床造成およびヤマメ親魚放流の効果を検討するため、2016年10月から11月にかけてヤマメの産卵状況を調査した。人工産卵床に作られた産卵床における卵数の確認および発眼率を、卵を掘り起こすことにより調べた。

結果及び考察
2015年9月関東・東北豪雨による河川環境の悪化

2015年9月関東・東北豪雨において、男鹿川流域では11カ所で土石流等が発生した(図1、図2)。その結果、男鹿川の本支流では、河床に砂礫が堆積、平坦化し、淵や瀬が失われた(図3、図4)。

図1 増水時の男鹿川支流入山沢の様子(9月10日撮影)

図2 小支流における土砂崩れの様子(提供、国土交通省関東地方整備局)

図3 平坦化した河床の様子

図4 単純化した流路の様子
河川環境再生のための取組

悪化した河川環境を復元するため、おじか・きぬ漁協および地元の自然愛好団体である“つちや倶楽部”、“男鹿川じねんと倶楽部”が「男鹿川復活プロジェクト」を企画、実施するようになった(図5、図6)。

図5 参加者を前にしたおじか・きぬ漁協組合長の挨拶
図6 活動開始(河川敷内の巨礫を流れの中に投入する)

第一回活動概要

実施日:2015年12月5日
参加者:漁協関係者、地域住民、釣り人等、計40名
活動内容:河川敷内にある巨礫を使い、流れに変化を付けるとともに、流木やゴミの撤去を行った。

第二回活動概要

実施日:2016年10月2日
参加者:漁協関係者、地域住民、釣り人等、計32名
活動内容:河川敷内にある巨礫を使い、流れに変化を付けるとともに、ヤマメの人工産卵床造成およびヤマメの親魚放流等を行った。

平坦化した河床に、河川敷内にある巨礫を用いて約10m間隔で10カ所に水制様の構造を作った(図7、図8)。

図7 巨礫を水制の様に積み上げる
図8 約10mおきに作られた水制

これにより、単調だった流れに変化を付けることができた。さらに、5カ所については水制様構造の上流側に細かい砂礫を投入し、人工産卵場を造成した(図9、図10)。人工産卵場に投入する砂礫は1カ所あたり金バケツで数十杯を必要としたため、ボランティアで参集した若い遊漁者の参加がなければ集めることが難しかった。

図9 人工産卵場に砂礫を投入する作業
図10 水制が完成した状況

上記の河川環境復元作業終了後、人工産卵場への産卵を期待してヤマメ親魚を計100kg放流した(図11~図13)。その後の産卵状況を確認するため、11月10日に産着卵数の確認調査を行った(事前に10月11日~10月28日に産卵行動等を確認した)(図14、図15)。その結果、5カ所の人工産卵床のうち2カ所で合計214粒の発眼卵を確認した。発眼率は80~85%であった。

図11 ヤマメ親魚の放流
図12 ヤマメ親魚の放流
図13 ヤマメ親魚の放流
図14 活動前の河床の様子
図15 活動後の河床の様子

本活動は、自然現象による大規模な河川環境悪化に対して、人力で河川内の微環境を生物が棲みやすいように改善するという取組である。一般的に生物の生息に必要とされる淵や瀬という河床構造を作り上げようとするものではなく、手作業で小規模な水制様の構造を作り、後は水の力を利用して環境を複雑化しようとしている。重機を必要としないため、活動予算が確保できない中では最大限できる、合理的な方法といえる。豪雨災害により環境が悪化した十数kmに及ぶ流程を全て改善することはできないものの、今回対象とした区域のように渓流魚が産卵する場所や棲み場として重要と考えられる区域を重点的に実施することで、漁協や団体が目指す「少しでも早く川の虫たちが生まれ、美しいイワナ達が育つ川にしたい」という目標に近づくことが可能と考えられる。活動は今後も継続される予定であり、効果を検証しながら活動記録を残していくこととしたい。

河川環境の悪化は全国各地で様々な形で起きている。漁協では漁場としての質の低下に対応するため、環境の保全や復元のための多種の活動を実施している。一方、河川管理者である国交省や県の土木事務所等でも、生き物が棲みにくい環境となることを問題視し、魚道の整備や多自然型への改修、ダムの弾力的管理等を行っている。多くの場合、漁協の活動が局所的であるのに対し、河川管理者の事業は流域単位となる。本報告書で紹介した環境保全活動事例も、予算やマンパワー、河川に手を加える権限の問題から極めて局所的な取組となっているが、活動の内容は漁業関係者の川や生物に対する知識と経験に裏付けられたものである。漁協(漁業関係者)は現場に精通し、河川の生物が増えているか減っているかといった情報にも詳しい。今後、自然豊かで生産力の高い河川環境を回復するためには、漁業関係者と河川管理者が連携して事業を進めていくことが望ましいと考えられる。

(2) 茂木町漁協(栃木県)によるサケ死魚の回収・リサイクル

主担当者:
吉田 豊
目的

内水面の多くの漁業協同組合(以下、漁協)では漁業権魚種の増殖活動に加えて、カワウ・外来魚の防除・駆除や河川清掃といった環境保全活動を広く実施している。栃木県内の漁協が実施している環境保全活動としては、前述に加えて水質汚染・不法投棄監視活動、2016年度に実施した自然愛好団体との協働による環境修復活動(前項(1))などが挙げられる。これらの活動の多くは、漁業者や遊漁者を対象とした漁場の維持管理を目的に実施している。一方、本県には漁場の維持管理だけにとどまらず、環境保全活動が地域資源の活用に結びついている特徴的な事例も存在している。そこで茂木町漁業協同組合(以下、茂木町漁協)が実施しているサケの死骸回収と堆肥化の事例について報告する。

方法
事前取材および事後確認 

2017年10月17日に茂木町漁協および茂木町有機物リサイクルセンター「美土里館」(以下、美土里館)を訪問し、取り組みの経緯や状況について担当職員に対する取材を行った。また、両者に対し、今年度のサケの搬入状況について適宜確認した。

作業状況の取材 

2017年11月13日に行われた茂木町漁協によるサケの回収作業に同行し、現場にて取材・記録を行った。

結果及び考察
サケの死骸の回収と堆肥化の経緯と取り組み状況 

茂木町内の那珂川では、毎年10月下旬から12月上旬にかけて多くのサケが遡上する。そのため、秋から冬にかけては産卵を終えた多くのサケの死骸がみられ、遡上の多い年は河川周辺で腐敗臭が感じられる。このことは那珂川周辺において昔から知られていたが、特に近年はサケの遡上量の増加や人々の意識の変化にともない、観光客や近隣住民から茂木町漁協や茂木町に対策を求める意見が多く寄せられるようになった。また、茂木町内に唯一存在するやなである「大瀬観光やな」では、流下したサケの死骸が大量に掛かるため処分に苦慮していた。大瀬観光やなでは処分に係る作業の負担が大きく、また、遊漁者等の一部から、やなの下流に沈んでいる死骸がやなで投棄したものではないかとの意見が茂木町漁協や大瀬観光やなに寄せられるため、両者で対応を検討していた。

そこで、茂木町漁協では茂木町と協議し、大瀬観光やなで回収したサケの死骸を美土里館へ搬入して堆肥の原料にする取り組みを2015年から開始した。同年における搬入量は5.0tであった。2016年は1.6t、2017年は1.9tにとどまったが、この理由としては両年ともサケの遡上が少なかったことが考えられる。なお、茂木町では2016年より茂木町漁協に対してサケの死骸の回収および搬入に掛かる経費(運搬車両のリース、燃料費、必要資材等の購入など)の助成を開始した。2016年に30万円、2017年に20万円が交付された。

2017年に実施したサケの死骸の回収と堆肥化の作業状況 

2017年はサケの遡上量が少なかったことや、10月23日に県内を通過した台風21号によりやなの一部が破損したため、河川内での死亡個体や増殖事業で使用した親魚の回収を行った。河川内での死亡個体の回収は取材を行った11月13日に、増殖事業で使用した親魚の回収は11月13日を含め10月19日から11月20日に10日間実施した。

那珂川でのサケの死骸の回収は、4名の漁協組合員で対応した。作業は、川船や鉤棒を用いて行い、主に淀みに沈んでいるものを回収した(図1、図2)。浅い場所では川船に乗った組合員が鉤棒を使用して死亡個体を下流の岸際まで流し、それを別の組合員が拾い上げて回収用の箱に収容した。また、深い場所ではサケの死骸を鉤棒で引っかけ、直接川船に引き上げていた。サケの死骸は1尾あたり2kgから4kgほどの重量になるとみられ、特に安定しない川船で作業する組合員には重労働で、かつ危険を伴う作業であった。この日に回収したサケの死骸は270kgであった。サケの死骸は腐敗が進んでいるものが多く、作業は重労働とともに悪臭との戦いでもあった。

図1 浅い場所での回収作業

図2 深い場所での回収作業

増殖事業で使用した親魚の回収は、組合員が親魚候補のサケの採捕・採卵場所に出向いて行った(図3)。ここでは、県からサケの特別採補を許可された組合員がサケを採捕し、成熟個体を一定量確保した際には人工授精を行っている。この日は周辺で死亡しているものも合わせて225kgを回収した。

図3 増殖事業で使用した親魚の回収作業

回収した那珂川での死亡個体や増殖事業で使用した親魚は、組合員が軽トラックに乗せ、直ちに美土里館へ搬入された(図4)。

図4 軽トラックに乗せられたサケの死骸

軽トラックに乗せられたサケの死骸は美土里館に到着後直ちに重量を計測され(図5)、堆肥の原料を攪拌するホッパーに投入される(図6)。ここまでが茂木町漁協による作業となっている。

図5 サケの死骸の重量を計測

図6 サケの死骸をホッパーに投入

美土里館は、一般家庭から排出される家畜排せつ物や生ごみ、間伐材、枯れ葉などを一括処理して堆肥化するために茂木町が運営する施設で、2003年に運転が開始された。処理量は1日あたり約18t(年間約5,000t)で、そのうちの65%を牛ふん、15%を生ごみが占めている。また、美土里館では間伐材を地元森林組合から1本あたり4,500円、枯れ葉については町民(主に高齢者)から15kgあたり400円で買い取っており、山林の環境整備や高齢者福祉にも貢献している。

ホッパーに投入されたサケの死骸は、自動化された発酵装置内で他の資材とともに攪拌されることで発酵が進み、堆肥化される(図7、図8)。搬入から堆肥になるまでの期間は90日とのことである。

図7 発酵装置内のサケの死骸

図8 袋詰め直前の堆肥

製造した堆肥は「美土里たい肥」として、美土里館をはじめ道の駅もてぎや、町内や近隣のホームセンター、インターネットにおいて500円(10kg入り)で販売されている(図9)。美土里たい肥は年間を通して製造されているが、サケの死骸が含まれるのは2月ごろに製造されたものに限定される。サケの死骸は原料全体に占める割合が低いため、現時点ではサケの死骸が含まれる時期に製造される堆肥を区分して販売には至っていないが、このころに製造された堆肥を指定して購入する農業者も存在する。町は那珂川周辺の環境対策だけでなく、サケの死骸を地域資源として有効活用し、農産物の肥料とするこのサイクルを「農林水畜連携」として高く評価している。

図9 美土里たい肥

多くの漁協では、本来の事業である水産資源の増殖以外にも、環境保全活動や普及啓発など地域に貢献する活動を行っているが、一般市民の理解が進んでいないと考えられる。茂木町漁協の事例は地域と連携した取り組みであり、かつ町の基幹産業である農業とも結びついている。こうした取り組みは、地域での漁協の活動への理解を広げるきっかけの一つになるものと考えられる。

(3) 栃木県鬼怒川漁協によるカワウ対策

主担当者:
阿久津正浩、高木優也
目的

内水面の多くの漁業協同組合(以下、漁協)では漁業権魚種の増殖活動に加えて、カワウ・外来魚からの被害対策、環境修復、水質汚染・不法投棄監視活動や河川清掃といった様々な環境保全活動を実施している。これらの活動の多くは、漁業者や遊漁者を奉仕対象とする漁場の保全だけでなく、河川を憩いの場として利用する市民を奉仕対象とした河川環境の美化にも大きく貢献している。

カワウは栃木県内で毎年約1,500羽駆除されているが、年間最大生息数はここ数年2,500羽と高位で推移しており、水産資源への被害が懸念されている(図1)。鬼怒川漁協では、水産資源を守るためのカワウ被害対策として、漁場監視、追払い、駆除やコロニー対策などに積極的に取り組んでいる。その中でも、同漁協平石・清原支部は、良好なアユ漁場保全のため、猟友会と連携した駆除に取り組んでいる。また、市街地が近く銃器が使用しにくい区域も多いことから、徹底した追払いを併せて行っている。本調査では、同支部を中心としたアユ漁場保全のためのカワウ被害対策の実施状況をまとめた。

図1 栃木県内のカワウ生息数の推移
方法
被害対策実施状況の取材ととりまとめ 

2018年5月21日に平石・清原支部が実施したカワウの被害対策の実施状況を取材し、記録した。2018年4月1日から7月31日までに平石・清原支部が実施した活動記録の提供を受け、その状況を整理するとともに、アユ漁解禁日の釣れ具合を調査した。

結果及び考察
鬼怒川漁協平石・清原支部の漁場 

鬼怒川漁協は、「巨アユの鬼怒川」で知られる鬼怒川の栃木県内中下流域を漁場としてもつ。平石・清原支部が管轄する区域は、宇都宮市街地から東方に位置する鬼怒川本流約11kmのアユの好漁場となっている。2018年の支部管内におけるアユ放流数は34万尾であり、鬼怒川漁協全体の1/4にのぼった。

平石・清原支部の活動内容 

放流時期の4月からアユ漁解禁後7月までは、豊田支部長をはじめとする組合員が、ほぼ毎日早朝からカワウ被害対策を行っている。鬼怒川本流の流程11kmの区域に組合員10人程が配置され(図2)、通信機器を用い情報を共有しながら監視にあたっている。カワウの飛来を確認すると、近くの組合員に状況を伝達することで、見逃しを防ぐとともに、対応の迅速性を確保している。追払いは、ロケット花火、スタータピストルや爆竹を用い、絶対着水させない気迫を持って対応している(図3、図4)。猟友会会員の銃器による駆除に対しては、逐次情報を送るなど撃ちやすい状況をつくるとともに、仕留めたカワウの回収を行っている(図5)。川に落ちて流れてしまうカワウもあるが、下流側の組合員に伝えることで、回収率を高めている。

図2 監視体制

図3 追払い道具

図4 追払いの様子

図5 カワウの回収
出役・監視の状況 

4月は10人体制で、ほぼ休みなしで対策にあたっていた(図6)。放流直後はまだサイズも小さいため、捕食されると被害が大きくなりやすい。また、解禁前のため人もまばらで、カワウにとって着水しやすい状況である。

図6 出役表(4月)

4月はほぼ毎日のように数羽から数十羽のカワウが飛来し、多い日には1日で4度の飛来があった(図7)。豊田支部長の4月から7月までの出役状況をみると、平均開始時刻は4時13分、平均終了時刻は8時間12分だった(表1)。出役日数は94日間で監視時間は393時間にのぼる。この期間のカワウ飛来数は3,181羽であったことから、1時間当たり8.1羽のカワウを追払ったことになる(表1)。栃木県の最低賃金で計算すると、人件費は31万円となる。これを出役者全員の延べ日数で乗すると、241万円と算出された。当支部へのカワウ被害対策補助金の割り当ては10万円であったことから、少なく見積もって231万円分を無償奉仕していると言えた(表1)。

図7 監視記録(4月)

表1 4月から7月の出役・監視の状況
カワウによる捕食の阻止金額 

栃木県カワウ保護管理指針(栃木県 2007)に基づき算出したところ、4月から7月に飛来したカワウを追払うことで、水産資源1,591kg(159万円)の捕食を阻止した(表2)。この時期の鬼怒川に生息する魚類の多くがアユであることから、捕食された魚類がすべてアユだと仮定すると捕食阻止金額は636万円と算出される。すなわち、平石・清原支部は159~636万円分の水産資源をカワウから守ったことになる。

表2 捕食阻止金額
アユ漁解禁日の状況 

2018年6月3日、アユ漁解禁日の平石・清原支部管内には大勢の遊漁者が入り、漁場が賑わいを見せた(図8)。当支部管内の解禁日の平均釣れ具合は1人1時間あたり1.2~2.7尾で、特に豊田支部長が追払いを実施した柳田地区は一番釣れ具合が良かった(表3)。

図8 アユ漁解禁日の様子

表3 アユ漁解禁日の釣れ具合

以上のことから、平石・清原支部が、放流時期の4月からほとんど休みなくカワウ被害対策を行った結果、アユの良く釣れる漁場環境がカワウから守られたと言える。

引用文献
  • 栃木県(2007)栃木県カワウ保護管理指針.

(4) 渡良瀬漁協(栃木県)による環境学習

主担当者:
小原明香
目的

内水面の多くの漁業協同組合(以下、漁協)では漁業権魚種の増殖活動に加えて、カワウ・外来魚の被害対策、環境修復、水質汚染・不法投棄監視活動や河川清掃など様々な環境保全活動を実施している。その他にも、アユ釣り教室や放流会など地域と連携した取組に力を入れている漁協も多く存在している。本報告書では、渡良瀬漁業協同組合が実施している「川辺の学校」について、漁協が行う環境保全活動の一事例として紹介する。

方法

渡良瀬漁業協同組合では、2015年度より栃木県佐野市の小学生等を対象とした環境教育事業を「川辺の学校」と称し、年間を通して実施し、地域貢献に寄与している。

2019年度の川辺の学校事業は、4月ヤマメ釣り大会、5月アユ放流体験、7月アユつかみ取り体験、11月小学校へのヤマメの発眼卵配布と飼育及び2月のヤマメ放流体験を実施した。これらの取り組みの経緯や状況について現場取材と聞き取り調査を行った。

結果及び考察
春の活動

渡良瀬漁協による川辺の学校事業は4月に行われるヤマメ釣り大会から開始する。今年度のヤマメ釣り大会は、2019年4月5日に佐野市秋山町の古代体験村広場で催された「あきやまのしだれ桜まつり」と同時開催し、参加者は約80名であった(図1)。ヤマメ釣り大会を地域の祭りと同時開催することで、祭りの集客に一役買っている。ヤマメ釣り大会の漁協組合員の動員数は16名で会場準備等を実施した。

図1 ヤマメ釣り大会

5月には、佐野市立氷室小学校において、稚鮎1,000尾を秋山川へ放流するアユ放流体験を行った(図2)。放流体験の参加人数は、約20名で漁協組合員動員数は4名であった。

図2 アユ放流体験
夏の活動

夏の活動としては、アユのつかみ取り体験を実施している(図3)。河川に併設されている公園内の池を参加者全員で清掃し、清掃後にアユ200尾を放流した。当日は、栃木県水産試験場職員によるアユと環境保全に関する解説が行われた。

図3 アユつかみ取り体験

イベントの参加人数は約30名で、当日は雨が降っていたが、参加者達からは、「魚がぬるぬるしていて捕まえるのが大変だけど楽しい」との感想があった。また、つかみ取り終了後は、漁協の組合員によるアユの塩焼きの試食が行われた(図4)。

図4 アユの塩焼き試食
秋~冬の活動

秋から冬にかけての活動は、ヤマメの発眼卵の配布と放流体験を実施した(図5、図6)。ヤマメの発眼卵を2019年11月26日に佐野市氷室小学校及び飛駒小学校に各校約1,500粒を配布し、放流まで飼育した。発眼卵配布及び放流体験は、それぞれ組合員2名を動員し実施した。

図5 ヤマメ発眼卵配布

図6 ヤマメ稚魚放流体験

ヤマメの放流は、飛駒小学校で2020年2月13日、氷室小学校で2月18日に行った。飛駒小学校は六年生の児童8名が放流し、放流前に栃木県水産試験場職員によるヤマメの解説を行った。児童から、「なぜこのような活動をしているの」かという質問があり、漁協活動への興味が増したことが伺えた。

まとめ

渡良瀬漁協による「川辺の学校」について、活動の詳細を山野井淑郎組合長に聞き取り調査を行った。活動を始めた経緯は、地域及び学校からの要望があったこと、また、漁協組合員からも子供達に向け河川、魚、漁協活動への理解を深めてもらうための活動がしたいという要望があったとのことである。

川辺の学校の活動経費は、渡良瀬漁協組合費及び栃木県漁業協同組合連合会の基金事業を活用している。実施事業の中には、組合員にボランティアでの参加を求めているものもあった。事業を実施していることのメリットとしては、①子供が川を身近に感じてくれるようになったこと、②漁協の活動を地域住民に理解してもらえるようになったこと、③組合員の士気が向上したこと、④子供が川に生息する魚や川虫のことを詳しく知る機会を創出することができ、水の大切さを教えることができたといった声を聴くことができた。渡良瀬漁協では、若年層の遊漁参入を活性化するために、18歳以下の遊漁券を無料としているが、利用層に認知されていない可能性が高い。川辺の学校を行うことで、これらの優遇措置をPRすることができると考えられる。

事業を行う上での課題は、組合員の高齢化や事業実施費用の捻出など組合側の課題や現在ヤマメの飼育・放流を実施している飛駒小学校が今年度で廃校となり、新しい小学校は、河川に近接していないことから、事業の継続ができなくなるといった学校や地域側の課題があった。

特に学校と連携して行っている飼育・放流体験は、組合員の動員を最小限にし、小学校側にも人員の手配をしていただくことで成り立っているが、漁協、学校側の両者とも上述の課題を抱えており、今後も継続して事業を実施できるよう模索していく必要がある。

上記の課題を抱えているが、年間を通じて地域及び学校と連携し、環境教育活動を実施している本事例は、漁協と地域が「顔が見える関係」を上手に形成している良好な事例であると言える。