水産振興ONLINE
628
2021年8月

内水面漁協による環境保全活動について

玉置泰司(国立研究開発法人 水産研究・教育機構元中央水産研究所経営経済研究センター長)
坪井潤一(水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 内水面グループ主任研究員)
阿久津正浩/高木優也/久保田仁志/吉田 豊/小原明香/山口光太郎/関森清己/星河廣樹/澤本良宏/傳田郁夫(主担当者)

第1部 中央水産研究所経営経済研究センター調査

国立研究開発法人 水産研究・教育機構
元 中央水産研究所経営経済研究センター長

玉置泰司

要旨

内水面漁業協同組合で実施されている河川湖沼の環境保全活動の実態を把握するため、聞き取り調査、資料調査及びアンケート調査を実施した。2016年度に実施した都道府県水産部局へのアンケート調査によれば、2015年度には回答があった41都道府県において、内水面の環境保全活動へ支出された補助金等は合計約3億2千万円で、330の漁協・漁連に対して支出されていた。同様に各県内水面漁連へのアンケート調査によれば、回答があった38県内漁連を通して環境保全活動へ支出された補助金等は約2億6千万円で、894の漁協に対して支出されていた。2016年度に実施した、各内水面漁業協同組合へのアンケート調査によれば、回答があった378漁協で実施された環境保全活動の全体事業費は約2億7千万円で、活動が把握されているものだけで約103千人日の漁協組合員・職員が環境保全活動に参加していた。2017年度に実施した、各内水面漁業協同組合へのアンケート調査によれば、回答があった298漁協における今後の環境保全活動の実施について、「今まで実施しており、今後も継続して実施したい」漁協の比率が高い活動としては、カワウ防除・駆除・調査80.5%、河川管理者・事業者との協議72.1%、河川湖沼等清掃65.1%などであった。「今まで実施していないが、今後新たにやりたい」漁協の比率が高い活動としては、希少種の調査・保護12.4%、石倉・笹伏せ・投石等隠れ家造り12.4%、河川環境改善11.4%などであった。

2016年度に実施した一般国民へのアンケート調査の結果、内水面漁協による環境保全活動のうち最も大事に思う活動として上位に選ばれたものは「水質汚染や不法投棄防止等の見回り」、「ブラックバスなどの外来魚の駆除」であり、最下位は「カワウの追い払いや駆除」であった。2017年度に実施した一般国民へのアンケート調査の結果、内水面漁協による環境保全活動への基金拠出について、各活動別に質問した結果、拠出したい人数の比率は25.3%~35.8%で、支払う平均額としては578円~700円であった。また、イベント会場でのアユの塩焼きの購入について、同じ価格であれば環境保全活動を実施している漁協から購入したいとする人の比率は26.5%~28.2%で、価格が高くても環境保全活動を実施している漁協から購入したいとする人の比率は23.5%~26.6%であり、購入可能な価格差としては+68.9円~71.7円であった。環境保全活動の種類による価格差はあまり大きくなかった。内水面漁協による環境保全活動への基金拠出については、食べるのが好きな淡水魚介類の種数が多い人ほど高く、近くにある川がよりきれいな人の方が高く、川でのレクリエーション活動の経験種類数が多い人ほど高く、レクリエーション活動ごとに見ると経験者の方が未経験者よりも高いという傾向があった。また、イベント会場でのアユの塩焼きの購入について、価格が高くても環境保全活動を実施している漁協から購入したいとする人の購入可能な価格差は基金拠出と同様の傾向があった。

環境保全活動を実施している内水面漁協への聞き取り調査の結果、漁協が今後新たにやりたいと考えている環境保全活動のうち、石倉・投石等の隠れ家造りと河川環境改善については、大がかりな土木作業を伴うこともあり、漁協単独での実施は経費的にも困難だが、地方自治体と協力関係を構築して、河川工事の際に漁協の要望を取り入れてもらう形で環境改善を進めている事例が多く見られた。日頃から地方自治体との連携を深めることで、これらの活動を効果的に実施することが可能である。

著者プロフィール

玉置 泰司

【略歴】
1958年生まれ。1983年東京水産大学修士課程修了後水産庁入庁。企画課課長補佐を経て1995年水産庁中央水産研究所経営経済部に異動。水産経済部動向分析研究室長、経営経済研究センター需給・経営グループ長等を経て経営経済研究センター長として2019年退職。水産資源研究所水産資源研究センター再雇用研究員を2021年退職。2019年7月より(一社)日本定置漁業協会専務理事