水産振興ONLINE
625
2020年10月

水産業における外国人労働力の導入実態と今後の展望

佐々木貴文(北海道大学大学院水産科学研究院 准教授)

第4章 外国人技能実習生なくしては存続が難しい水産加工業

(1) 労働力不足に直面する水産加工業

水産加工業を含む食料品製造業への外国人労働力の依存度合いは地域によって濃淡があり、就業構造も一様ではない。しかし同時に、食料品製造業はわが国産業の外国人労働力依存を体現する代表的な産業の一角を占めており、外国人労働力なくしては産業の維持が困難となっている地域が散見される。

外国人依存の背景には、従来の水産加工業が依存してきた日本人女性パート従業員の確保が難しくなっている現実がある。その要因は多岐にわたるが、①雇用者側の資本力が十分でなく最低賃金水準でしか雇い入れることができないでいること、②水場での仕事で特有の臭いもある労働環境であること、③一般的に漁港背後集落など水産加工業が集積しやすい地域は高齢化や人口減少が進む周縁地域であること、などが指摘できる。

こうした現状にあって水産加工業は外国人労働力への依存を深めている。例えば外国人技能実習生の導入実態(従事する実習生数)をみると、「水産練り製品製造」、「缶詰巻締」、「加熱性水産加工食品製造業」、「非加熱性水産加工食品製造業」の4職種の合計では、2013年度の15,607人が2016年度には18,459人へと急増しており、リーマン・ショックや東日本大震災の影響が一巡して以降、毎年1,000人程度の増加が続いていることがわかる〔図-9参照〕。

図-9 水産加工品製造(4職種)に従事する外国人技能実習生数の推移(単位:人)
図-9 水産加工品製造(4職種)に従事する外国人技能実習生数の推移(単位:人)
注)水産庁資料より作成。数字は当該年度を含む過去3年間の2号移行申請者数の合計。

都道府県別でみた水産加工場における外国人労働者数で最大の雇用地となっている北海道では、2018年現在、4,000人を超える技能実習生が「水産加工品製造業」で働くようになっており、北海道の他の業種を圧倒して最大の勢力となっている(北海道経済部労働局人材育成課「外国人技能実習制度に係る受入状況調査」)。その規模は「農業」の1.5倍、「建設関連工事業」の4.0倍、「漁業」の16.9倍などとなっており、他を大きく引き離している〔表-7参照〕。道内で働く技能実習生に占める割合も、他の業種での導入が進むなかで低下傾向にあるとはいえ、2018年でも40.0%を占めている。

農林水産省や法務省などでは、こうした水産加工業での厳しい人材確保状況を踏まえ、上記の技能実習2号への移行が可能な4職種に「生食用食品製造」と「調理加工品製造」を追加することを目指して調整作業に当たっており、今後もさらなる外国人労働力依存が深化するものと見込まれる。

表-7 北海道において水産加工品製造業に従事する外国人技能実習生の推移
表-7 北海道において水産加工品製造業に従事する外国人技能実習生の推移
注)各年の北海道経済部労働局人材育成課「外国人技能実習制度に係る受入状況調査」より作成。

(2) 水産加工業における外国人技能実習生への依存拡大とその実態

さて、既述のように北海道においては水産加工業で就労する外国人技能実習生が極めて多い。その人数は2018年現在、4,016人と北海道の技能実習生の40.0%を占める〔表-7参照〕。振興局別でみた受入数も、オホーツクが1,017人、渡島が980人、石狩が921人などとなっており、一つの振興局ですでに漁業などの他分野の受入数を上回る。この上位3振興局以外でも、宗谷の601人、後志の430人、釧路の411人などが続き、それ以外の振興局でも200名前後の技能実習生が水産加工業で働いている。

実際の就労実態はというと、基本的には比較的単純な反復作業に就くことが多く、例えば釧路管内のサンマ加工場では、傷物を除いたうえで向きをそろえて規定数にする発泡スチロール箱への封入作業などが主要な仕事となっている。ホタテ加工場では、冷凍品(玉冷)への加工の際には貝柱を外す脱殻作業を、乾燥品への加工の際にはうろ取りと呼ばれる内臓除去作業を主に担っている。

もちろん、小規模な水産加工場の場合は、全ての行程を担うことが求められ、例えば函館市のカズノコ加工場では、輸入原魚であるニシンの腹部を割いて魚卵を取り出して調味加工をほどこす作業や、完成品の真空パック、出荷用段ボール箱への梱包作業など全部を担当している。企業規模や就労地域による差異が大きいといえる。

ただどの地域でも、外国人技能実習生の安定確保には苦労しており、例えばオホーツク海側でホタテ生産の有力地となっている紋別市では、加工業者だけでなく、市役所や加工業協同組合も協力して技能実習生の確保に取り組んでいる。

紋別市のホタテ加工場では、眼前に広がる広大な海域で獲れたホタテや、隣接地域から運ばれてきたホタテを冷凍品や乾燥品に加工する水産加工場が集積しており、海が流氷に覆われ原料が確保できない12月から3月中旬までの期間を除き、中国への輸出を念頭においた生産を活発におこなっている。原貝洗浄、スチーム処理、脱殻、内臓除去(うろ取り)、サイズ選別、ボイル処理、乾燥、等級分け、保管・出荷と作業が続くが、外国人技能実習生は内臓除去行程を主に担う〔写真-5参照〕。ベルトコンベアで流れてくる脱殻後のホタテ貝柱から、貝柱本体に傷をつけぬように手作業で周囲の内臓を除去する作業となる。原料供給が止まる冬場には、完成一歩手前の乾燥貝柱から異物を取り除く作業等にも従事するが、基本的には内臓除去作業が重要な位置を占めている。

写真-5 ホタテの内臓除去(うろ取り)作業をおこなう外国人技能実習生
写真-5 ホタテの内臓除去(うろ取り)作業をおこなう外国人技能実習生

紋別市では、こうした作業に従事する外国人技能実習生が毎年10〜20人のペースで増加しており、2015年12月末時点で205人であったのが、2019年12月末現在では258人にまで増加してきている。国籍は中国人が大多数を占めていた状況から変化がみられ、近年ではベトナム人やタイ人も働くようになっている。その内訳を2018年12月末現在の215人についてみると、中国人101人、ベトナム人63人、タイ人51人となっている。ベトナム人やタイ人の男性実習生もみられるが、大半は女性となっている。

こうした水産加工場で働く技能実習生の賃金は全国どこでも最低賃金であることがほとんどとなっている。余力のある経営体では毎年10円程度の賃上げを実施しているが、全国的にみれば極めて少数である。技能実習生の雇用には、入国時の費用や毎月の管理団体への管理費支払いなどが必要であり、その額は初年度で70万円ほどになる。2年目以降は入国費用が不要なため50万円ほどとなるが、それでも月々の支払いがかさむため経営者にとっては最賃で労働者を雇い入れているという意識はない。日本人女性パート従業員が確保できればこちらの方が〝安価な労働力〟として魅力的となっている。しかし水産加工場が集積する地域では、すでにパート従業員となる層が著しく縮小した状態で、他の分野に比して労働環境が良好ではない水産加工業はさらに日本人確保が難しい状況にある。

労働環境については、小規模零細経営で自己資本比率が低く、新規投資余力の限られる水産加工業では改善が容易ではない。水産庁資料(令和元年5月30日付「水産加工振興検討会」資料)によると、水産加工業は「従業員数20人未満の加工業者が7割以上を占める」とし、「原料費が製品出荷額の約7割を占める低い経常利益率(0.7%)の下で脆弱な経営を余儀なくされている」とする。

水産加工業は、全国的にも最低賃金の低い周縁地域に存立することが多いこともあり、外国人労働力を含めた人材確保の難しさがより際立つ結果となっている。こうした状況にあって、投資余力のある水産加工場では技能実習生への福利厚生を重視した施策を打ち出しており、それが住環境の向上につながっている地域もある〔写真-6参照〕。

写真-6 液晶テレビやFF式石油暖房機が完備された外国人技能実習生用の宿舎
写真-6 液晶テレビやFF式石油暖房機が完備された外国人技能実習生用の宿舎

ただこうした投資で外国人技能実習生の満足度を向上させる取り組みができているのはごく一部の加工場にとどまる。資源不足にともなった原料価格の高騰に苦しむ多くの水産加工場では、居住環境については外国人技能実習機構の監査をクリアするのに精いっぱいという加工場が少なくない。水産加工業は、主要な原料が各地で異なるのと同じく、経営状況も大きな落差を内包した状況にあり、それが今後、外国人労働力の確保についても小さくない影響をおよぼしていく可能性がある。