水産振興ONLINE
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2020年10月

水産業における外国人労働力の導入実態と今後の展望

佐々木貴文(北海道大学大学院水産科学研究院 准教授)

第3章 外国人技能実習生の導入拡大を続ける養殖業

(1) カキ類養殖における外国人技能実習生の量的拡大

海面養殖業(個人経営体における自家漁業部分)は比較的後継者の確保率が高い。2018年漁業センサスでは魚類養殖で35.8%、ホタテガイ養殖で39.7%、カキ類養殖で30.2%、ノリ類養殖で35.6%となっている。経営体数の多い主要な海面養殖はいずれも3割の確保率を維持しており、沿岸漁業層(海面養殖層を除く)ほどの悲壮感はない〔表-2参照〕。

海面養殖業で一定程度の後継者を確保できている理由の一つに漁撈所得がある。沿岸漁船漁家が200万円前後の所得しか確保できていないのに対して、零細経営体の退出が進み、体力のある経営体への漁場の集約が進む海面養殖は、ここ数年、個人経営体の漁撈所得が1,000万円を超える水準を確保できており、経営を維持・継承していくことへの不安感は相対的に小さい状況にある〔図-7参照〕。

図-7 海面養殖個人経営体の漁撈所得(単位:万円)
図-7 海面養殖個人経営体の漁撈所得(単位:万円)
注)水産庁資料より作成。

ただし労働力問題と無縁かといえば決してそうではない。魚類養殖を中心に海上・水揚作業での機械化が進み労働力不足の顕在化には猶予があるものの、産地・経営体が担う一次加工の部分は人手不足感が目立つ。特にカキ類養殖におけるむき身作業(カキ打ち)は正月に前後する冬場に作業が集中することから、各産地では繁忙期の労働力確保に苦労しており、慢性的な労働力不足に直面している。かつては域内の高齢者や農閑期の農業就業者を頼っていたが、現在では少子高齢化の進展や都市部への労働力の流出でそれが難しくなっている。

その結果、カキ類養殖では外国人技能実習生への依存をかなりのペースで深めている。技能評価試験初級合格者数は確実に増加傾向をたどっており、この合格者数などから明らかとなる技能実習生の推計は、2018年現在でカキ類養殖が1,471人となり、ホタテガイ養殖の380人の約4倍の受け入れ人数となっている〔図-8参照〕。

図-8 水産庁が集計した養殖業における外国人技能実習生の推移(単位:人)
図-8 水産庁が集計した養殖業における外国人技能実習生の推移(単位:人)

この1,500人近い実習生は多くが広島県や岡山県といった瀬戸内地方で働いている。カキ類養殖における雇用労働力への依存度には地域性があり、宮城県や岩手県などの三陸地方では伝統的に雇用労働力への依存度が低く、その分だけ技能実習生への依存度も低い。農林水産省『平成30年漁業経営調査報告』によると、一経営体当たりの「最盛期の漁業従事者数」は三陸で5.3人、うち雇用者2.6人であるのに対して瀬戸内では12.9人、うち雇用者9.8人となっている。また雇用労働力への依存は、一経営体当たりの生産量との関係もあり、先の『平成30年漁業経営調査報告』によると、三陸の「収穫量(むき身)」が11,578㎏であるのに対して瀬戸内は69,040㎏となっており、生産規模の大きい瀬戸内でより多くの労働力の投入が必要になっていることがわかる。

なお雇用労働力への依存度に注目すると、カキ類養殖は養殖業のなかで必ずしも突出して依存度が高いわけではない。2018年漁業センサスでカキ類養殖における「11月1日現在の海上作業従事者数」をみると、従事者5,615人のうち雇用者が2,760人(日本人1,725人、外国人1,035人)で雇用者比率は49.2%となる。魚類養殖が7,062人で71.3%(日本人4,995人、外国人41人)、ホタテガイ養殖が8,910人で47.9%(日本人4,066人、外国人202人)となっておりコンブ養殖の23.6%(1,773人のうち418人)やワカメ養殖の35.7%(3,802人のうち外国人8人を含む1,356人)、ノリ類養殖34.3%(10,333人のうち外国人11人を含む3,543人)よりも高いものの、養殖業では平均的な依存度となっている。

それにもかかわらずホタテガイ養殖と比べて外国人技能実習生が多いというのは、やはり陸上において長時間の反復作業が求められるカキ打ち作業の存在が大きいといえる。農林水産省『平成30年漁業経営調査報告』によると、ホタテガイ養殖の延べ労働時間に占める陸上労働は61.2%であったのに対して、カキ類養殖は77.3%と16ポイントも高い結果となった。同じ数字は、ブリ類養殖で16.3%、マダイ養殖で23.6%、ノリ養殖でも45.2%であるので、カキ類養殖の陸上労働の占める割合の高さがわかる。

このように、外国人技能実習生に依存して危機的状況を回避しているカキ類養殖業ではあるが、解消が容易ではない課題にも直面するようになっている。カキ類養殖業では、冬場のカキ打ち作業が集中する時期に作業量が急増し、それ以外の時期は家族労働力で十分まかなえる程度の作業量に落ち着く。こうした一年のなかでの大きな作業量の変動によって、雇用した技能実習生の〝もてあまし感〟が顕在化するのである。水産加工業でも原料の確保が難しい時期があることから、同様の労働力の〝もてあまし感〟が表出する場合もあるけれども、輸入原料や冷凍原料の加工でしのぐことができるのでカキ類養殖業ほどの深刻さはない。

カキ類養殖経営体は、作業がなくとも実習計画に基づき最低限の仕事を確保して賃金を払う必要があり、労働者も一定以上の賃金が支払われることを前提に来日している以上、仕事を求めて声をあげる。雇用者側の精神的な部分を含めた負担感は小さくない。

(2) ホタテガイ養殖における外国人技能実習生の導入拡大とその特質

カキ類養殖が、受入れ制度スタートの2010年からすぐに外国人技能実習生への依存度を深めてきたのに対して、当初ホタテガイ養殖での導入の動きはにぶかった。しかし2015年を境に徐々に導入数が増え、2017年には222人と一気に増加した。2018年もその増加ペースを維持して380人にまで拡大した。

こうした拡大の様子はホタテの最大産地となっている北海道ではっきりと確認できるようになっている。特に噴火湾に面した渡島振興局管内や、稚貝生産で有力な留萌振興局管内での導入が目立っている。

北海道では2018年現在、漁業に就く外国人技能実習生は238人となっており全国の15%程度を占めている。北海道経済部労働局人材育成課「外国人技能実習制度に係る受入状況調査」によると、その人数は2014年以降に伸び始め、31人(2014年)、57人(2015年)、111人(2016年)、160人(2017年)、238人(2018年)と毎年1.5倍程度の伸びを見せている。

2018年の238人についてみると、渡島管内が136人と全体の68.5%を占め、次いで留萌管内の43人(18.1%)、そして日高管内の24人(10.1%)が続く。7割近くを占める渡島管内は、ホタテ養殖を中心に、イカ釣り漁業やカニかご漁業などにも外国人技能実習生の導入が進んでいる。また二番手につける留萌管内は、管内北部でカニかご・エビかご漁業に従事する技能実習生が若干名存在しているものの、大半はホタテ稚貝生産に携わっている。日高管内については、多くが刺し網漁業に従事している。結果的に、北海道では漁業関係で働く技能実習生のかなりの部分がホタテ養殖に携わっており、漁船漁業での活用は拡大途上といった状況にある。

ただ、渡島管内と留萌管内では、同じ垂下式でホタテを生産していても、成貝出荷と稚貝出荷という最終製品の形態が異なることに起因して、技能実習生が従事する主な作業にも違いがみられている。成貝出荷を目指す渡島管内では、分散作業などにともなった海上労働が多く、他の漁業種類と同様に男性の技能実習生を雇用することが少なくない。一方、オホーツク海でおこなわれているホタテ増殖(地まき式ホタテ漁業)に必要とされる大量の稚貝を生産し、〝ホタテ種苗供給基地〟となっている留萌管内では、小さな稚貝を大量の四角錘型稚貝篭や円柱型丸篭で育成している。経営体にとって重要な作業は、この膨大な数のカゴの管理(定期的な入れ替えやほつれ等の補修)であり、この作業に多くの労働力が必要となる。必ずしも腕力は必要ではなく、網目の補修など細かな手作業が多くなることから、女性を積極的に雇用している経営体もみられる〔写真-4参照〕。

写真-4 ホタテ稚貝養殖で用いるカゴの補修をおこなう外国人技能実習生
写真-4 ホタテ稚貝養殖で用いるカゴの補修をおこなう外国人技能実習生

なお、北海道はカキ類についても重要な生産拠点となっているが、カキ類養殖には外国人技能実習生の導入は進んでいない。例えば、主要産地となっている厚岸湾(厚岸漁業協同組合)では、通年出荷可能なカキを「弁天かき」などとしてブランド化し、イカとならぶ主力商品として生産しているものの、カキ打ち作業は域内労働力でまかなわれ、技能実習生は2019年末現在、一人も働いていない。