水産振興ONLINE
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2020年10月

水産業における外国人労働力の導入実態と今後の展望

佐々木貴文(北海道大学大学院水産科学研究院 准教授)

第1章 水産業における外国人労働力の現状

(1) 水産業における外国人労働力の導入にかかわる制度

労働力不足が顕在化するなかで、漁業ならびに水産加工業においては外国人労働力に頼る就業構造が形成されている。漁業ではかなり以前より、マルシップ制度と外国人技能実習制度による外国人労働力の導入が進められてきた。

前者のマルシップ制度とは、日本法人が所有する船舶を外国法人に裸用船として貸し渡し、その外国法人が現地で外国人船員(マルシップ船員)を乗り組ませた漁船を、貸し渡した日本法人が定期用船として再度チャーターする制度となっている。こうした制度設計が為されているため、漁船マルシップ制度は基本的に、遠洋漁業で用いられる制度となっている。

マルシップ制度自体は、1970年代後半に商船に導入された外国人船員の受け入れ方式であり、世界的な海運(運賃)競争の激化を受けて取り組まれた人件費削減を目指した外国人混乗制度として成立した。漁船漁業では1990年に「海船協方式」として導入され、燃油費や入漁料といった操業コスト高に苦しむ漁業経営体を側面支援するための施策として機能した。そしてその後、本格的な「国連海洋法条約時代」の到来や燃油費・資材高騰、外国漁船との競争激化など、操業の外部環境が悪化し続けたことをうけ、1998年に従来の混乗率上限40%を上回って外国人船員を乗せることができる漁船マルシップ制度へと移行して今日にいたっている。

後者の外国人技能実習制度とは、1989年に在留資格が明確化された外国人研修制度を土台としたもので、漁船漁業では1992年以降1年間に限定してカツオ一本釣り漁業で受け入れがスタートした。その後はイカ釣り漁業やはえ縄漁業、さらにはまき網漁業や底びき網漁業などへと受入れ可能漁業種類が拡大していった。当初は海上での「研修」という特殊性にかんがみてパイロットケースとして導入されたが、2009年7月の「入管法」改定(施行は2010年7月)以降は試行制度から本制度に格上げされ、今日に続く漁業技能実習制度の骨格が形成された。養殖業については、2009年12月に「ほたてがい・まがき養殖」作業が認定され、2010年より今日の制度が動き始めている。

2020年2月現在、漁業関係では「かつお一本釣り漁業」、「延縄漁業」、「いか釣り漁業」、「まき網漁業」、「ひき網漁業」、「刺し網漁業」、「定置網漁業」、「かに・えびかご漁業」、「ほたてがい・まがき養殖」が2年以上の実習が可能な作業に指定されている。これら漁業関係と同様に、水産加工業でも外国人技能実習制度は盛んに利用されており、「加熱性水産加工食品製造業」、「非加熱性水産加工食品製造業」「水産練り製品」「缶詰巻締」の4職種が対象となっており、近く「生食用食品製造」と「調理加工品製造」が追加される予定となっている。

現在の漁業・水産加工業における技能実習制度では、最長5年間にわたって実習生が働くことが可能となっている。技能実習は3つに区分され、入国後1年目の修得期間(第1号技能実習)、2・3年目の習熟期間(第2号技能実習)、4・5年目の熟達期間(第3号技能実習)が設けられている。2号への移行には学科と実技、3号への移行には実技の技能評価試験があり、合格が条件づけられている。

実習生の受入・管理方式は、海外に現地法人や合弁会社などを持つ企業が独自に技能実習生を受け入れる企業単独型と、事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体が受け入れる団体監理型の2方式がある。9割強の実習生が後者の方式で実習を受けており、水産業でも後者の方式が用いられている。技能実習生には日本人と同じ労働法規が適用され、「船員法」や「労働基準法」にもとづいて処遇されている。

その技能実習生であるが、かつての漁業分野ではフィリピンや中国からやってきた若者もみられていたものの、現在は養殖業や定置網漁業を除きインドネシアからの労働者が大多数を占めている。インドネシア依存はマルシップ漁船でもみられており、要因としては、①インドネシア全土に水産高校が整備されていること、②現地の賃金水準が依然として低いこと、③労働集約的な産業が多数残存するインドネシアでは高学歴者の失業率が相対的に高いことなどがあげられる。

なおマルシップ漁船の場合、入漁条件として漁場国労働者の雇用が義務付けられることがあり、フィジーやキリバス、ミクロネシア連邦等の労働者が働く姿がみられる〔写真-1参照〕。

写真-1 接岸作業にとりかかる海外まき網漁船で働くマルシップ船員
写真-1 接岸作業にとりかかる海外まき網漁船で働くマルシップ船員

養殖分野や水産加工分野では、圧倒的に中国からの実習生が多かったが、ここ数年で一気にベトナムシフトが進んだ。中国国内の物価・人件費が上昇し、来日メリットが薄れたためであった。代替国となったベトナムは、国として〝出稼ぎ〟を重要な外貨獲得産業と認識しており、台湾や韓国、中東などにも多くの労働者を送り出している。そのなかで日本は給与未払いリスクが低く治安も良好であり、場合によっては帰国後、習得した日本語能力を活かして日系企業への就職が可能であることから魅力が再認識されている状況にある。インドネシアと同様、若年層(15〜24歳)の失業問題を抱えている国内事情があることから、日本側には大卒者といった高い教育を受けた人材の確保が可能な点に魅力を感じる経営者もいる。はたして、養殖分野での技能実習生の国籍割合(2018年)は、水産庁が調べたところによると、ベトナム49%、中国35%、インドネシア14%、フィリピン2%の構成比となっている。

この二つの制度に加えて、2019年からは新たな在留資格「特定技能」による労働力確保の道が開かれており、食料品製造業に位置付けられた水産加工業での導入が徐々に始まっている。水産加工業では日系人や留学生なども働いており、外国人材への依存はとどまるところを知らない。

特定技能については、2020年以降、漁船漁業・養殖業でも第2号技能実習を修了した外国人が在留資格を取得して就労するようになっており、大中型まき網漁船などで活躍する姿がみられる。技能実習を経ていない者を受け入れるための「漁業技能測定試験(漁業又は養殖業)」と日本語能力試験も実施されることとなっており、導入事例は拡大していくとみられている。

水産庁は、「漁業分野の有効求人倍率は、漁船員2.52倍(船員職業安定年報)、水産養殖作業員2.08倍(職業安定業務統計)となっているなど、深刻な人手不足の状況にある」ため、特定技能制度に基づいて外国人労働力の「受入れの必要性」が十分にあるとしている。そのため「受入れ見込数」は、「向こう5年間で2万人程度の人手不足が見込まれる」として、5年間で最大9000人に設定した(水産庁「漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」より)。

この人数は、かなり余裕をもって設定されたように見受けられるが、技能実習2号として実習を修了した者が、技能実習3号を選択するのか、特定技能1号を選択するのかは今後、その背景も含めて注目したい。また技能実習を終えて帰国した者が、再度来日の意向を示すのかどうかも注目であろう。

(2) 2018年漁業センサスから明らかとなる水産業における外国人労働力の導入実態

漁業への外国人労働力の導入実態を、公表されたばかりの2018年漁業センサスを中心に確認すると、2008年から2018年の10年間で500人ほど増加して6,644人となっていることがわかる〔表-4参照〕。漁船漁業では、汎用性の高い10〜20トン漁船を例外として、基本的に漁船の規模が大きくなればなるほど外国人比率が高まる傾向にあり、この傾向は2008年でも2018年でも変わらない。しかしながら内訳をみると、10年で10〜20トン層で200人以上、100〜200トン層で400人以上増加しているのに対して、200〜500トン層では半減しており、500〜1,000トン層や1,000〜3,000トン層、そして3,000トン以上層でも同様に大きく数を減らしていることがわかる。すなわち、沖合漁業での導入拡大が進む一方で、経営体数を大きく減らしてきた遠洋漁業での縮小が確認できる結果となっているのである〔図-4参照〕。

表-4 11月1日現在の海上作業従事者数と外国人労働者数
表-4 11月1日現在の海上作業従事者数と外国人労働者数
注)各年の漁業センサスより作成。
図-4 マルシップ制度を利用する主な漁業の経営体数変化
図-4 マルシップ制度を利用する主な漁業の経営体数変化
注)各年の漁業センサスより作成。なお2013年までは「主とする漁業種類別経営体数」で、2018年は「販売金額1位の漁業種類別経営体数」。

漁船漁業以外では、大型定置網での導入拡大が始まっていることや、カキ類養殖で急速に導入が進み1,000人ほどの増加がみられる点が注目される。ホタテガイ養殖でもいよいよ導入が本格化している様子がうかがえる。

こうした漁業センサス結果からは、漁船漁業では遠洋漁業が縮小しマルシップ船員が減少するなかで、沖合漁業や養殖業への外国人技能実習生の導入が進み、トータルでは増加傾向が継続していることがわかる。実際、マルシップ船員は、遠洋マグロはえ縄漁業や遠洋カツオ一本釣り漁業が大きく経営体数を減らすなかで減少を続け、2013年の5,255人から2018年には4,628人と、5年ほどで10%を超える減少となっている。沖合漁業における労働力不足と、遠洋漁業の衰退がしばらく綱引きを続ける可能性もあるけれど、この間、わが国の海面漁業生産量の45〜48%程度をまかなっている沖合漁業における労働力不足が深刻化していることにより注目していくことが重要になろう。

水産加工業についても労働力問題は深刻になっていることから外国人労働力の導入が進んでいる。漁業センサスから水産加工場における外国人労働者数の推移をみると、2008年の1万1,629人から2018年には1万7,339人へと1.5倍に増加していることがわかる〔図-5参照〕。この間、全従業員数は21万3千人水準から17万1千人水準へと2割減となっているので、外国人比率は5.5%から10.1%へと倍増する結果となっている。

図-5 水産加工場における外国人労働者数の推移
図-5 水産加工場における外国人労働者数の推移
注)各年の漁業センサスより作成。

深まる外国人依存は、工場の規模や都道府県ごとによる濃淡がある。工場の従事者規模別でみると、規模が大きくなると外国人比率が増加する傾向がみてとれる〔表-5参照〕。ただ2008年の段階では、10人以上の工場規模で外国人比率は5%水準であったものが、2018年になると10人以上であればのきなみ10%程度の高い比率となり、従業者数が10人未満の零細な工場を除けば、どのような規模の工場でも外国人なくしては安定操業が難しい状況になっていることがわかる。

表-5 水産加工場の従事者規模別従事者数(単位:人、%)
表-5 水産加工場の従事者規模別従事者数(単位:人、%)
注)各年の漁業センサスより作成。

なお都道府県別の推移をやはり漁業センサスでみると、2018年で外国人比率が10%を超えるのは20の都道府県にのぼり、2008年の4から大きく増加している。また2018年現在、外国人の人数が1,000人を超えるのは北海道(3,584人)、宮城県(1,028人)、千葉県(1,919人)、静岡県(1,187人)となっており、この人数は北海道で2008年の1.53倍、宮城県で1.69倍、千葉県で1.27倍、静岡県で0.80倍となっている。