水産振興ONLINE
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2020年9月

座談会 定置漁業研究

司会 東京水産振興会理事 長谷 成人 氏
日本定置漁業協会専務理事 玉置 泰司 氏
青森県定置漁業協会会長 堀内 精二 氏
静岡県定置漁業協会会長 日吉 直人 氏
ホクモウ株式会社 松平 良介 氏
水産業・漁村活性化推進機構 奈田 兼一 氏
全国漁業共済組合連合会常務理事 岩下 巧 氏
水産庁 中村 真弥 氏

自己紹介と定置漁業の諸課題についてリレートーク (9)

長谷:玉置さんのほうからは何かありますか。

玉置:最初にTACの話に戻ります。データ収集についてです。まき網の場合には、漁船からのリアルタイム情報が必要だと思うのですが、定置の場合は水揚げする漁港はほぼ決まっています。ということで先ほど言ったように漁協での水揚げ量の報告分でカバーできるということだと思います。まき網のような動きのある漁法とやり方が違うので、まき網のような漁獲成績報告書というよりは、市場の水揚情報がそれに代わるものだという気がします。

中村:まさにそういうイメージでいます。他方でこれだけデジタル社会にもなってきていますし、また、西日本などで定置は比較的若いイメージを私は持っていますので、タブレットなども簡単に使えると思います。ひょっとすると市場データだけではなくて、そういったところも、ここが早くて、業者さんにとってはやりやすいということもあると思いますので、先ほど申し上げたスマート水産業の中でそこら辺りをマッチングできるように進めていきたいと思います。

玉置:日吉さん、静岡の場合は定置漁業者ごとに日報のようなものを作っていますよね。

日吉:デイリーで作っています。

玉置:魚種別など分かるもの。あれは各漁業者さんが入れるのですか、それとも水揚げ市場のほうで入れているのですか。

日吉:各漁業者です。

玉置:漁業者さんが入れるのですか。言ってみたら、今、中村さんが言っていることですね。

日吉:中村さんが言っているのはすごく大事で、まさに今、定置の漁業者は若いので、すぐそこにスマート漁業のような感じでデータを入れ込むことができるようになると思うのです。若い子に任せれば、今すぐにでもできるかもしれないです。漁労長にではなくて、「お前、これをやってくれよ」と言えば、定置漁業者だったら、タブレット1台渡してくれれば、漁協などに頼らなくてもできそうな感じです。そこまで難しいことではないです。

中村:少しブリから離れてしまうのですが、タブレットを見ながらそういう報告もできるし、まさに漁模様、入網状況などを他から見て、どのタイミングでどれだけの氷を積んで、何人集めて沖に行くかということもたぶん、できるようになっていくと思いますので、そこら辺の、先ほども少しお話が出ましたけれども、そういう遠隔魚探のような話のところで、せっかく松平さんがいらっしゃいますので、少しご紹介いただけるとありがたいと思います。

松平:遠隔魚探です。日東さんがユビキタスという名前で出しましたけれども、弊社は「魚っちV」という名前でリリースしました。定置網の中に魚探を設置して、その魚探の映像をタブレットで見るというものです。漁師さんは操業前にその映像を見て、どのぐらいの魚が入っているというのを予測して、氷を積む量を調整して出港します。最近では、クロマグロ対策が話題になっていますけれども、マグロの魚影も映すようにできています。マグロがタブレットに映ったから操業するのをやめておこうというわけにはいきません。市場の競りの時間などもあるので必ず操業にはいくのですが、マグロが入っているのが分かったら、それなりの準備ができると思いますので、そういった活用の仕方もしています。

日吉:ホクモウさんはユビキタスの後発だったのですが、うちはホクモウの漁場なのです。来週、魚っちVを入れてくれることになっています。

奈田:当然、魚探だけではなくて、潮流計も付いているのですか。

松平:魚っちVは潮流計は付かないです。魚っちVは、深度計を網に取り付けて水深が見られます。例えば、落とし網の返し先の深度変化を見ることができます。

中村:潮流計がなくても、網なりなどを見ることができますので、それで先ほど来、話が出ていましたけれども急潮のようなところにも何か役立っていけるような気はします。

日吉:そうです。網揚げは見られますから。

玉置:少しよろしいですか。先ほど堀内さんの認証の話があって、主に北米の輸出についてでしたか、長谷さんからもアメリカとの関係でクジラの混獲回避の話がありました。

長谷:売っていこうとするとということですね。

玉置:ああいったことと絡めていくことが、クジラなどが獲れる漁業からの水産物の輸出をアメリカが受け付けなくなる可能性があると考えていいですか。

長谷:そうです。

玉置:それは堀内さんの認証でも?。

堀内:そうです。そういうチェック項目もあります。クジラが入っていたら、きちんと見ます。クジラ、イルカ、カメの3魚種はきちんと見ます。あとは操業日誌につけておいたり映像で残しておくと、次の年にランクアップしていきます。今までイエローだったのが、そういうことを積み重ねていくとグリーンになって、最上位になるとたぶん、単価も高くなるし、買ってもらえる量も増えます。

あとは例えば、今の九州のように、大雨が降ると川からプラスチックやビニールなどが結構、浮いて定置に入ってくるのです。うちの定置ではビニールやプラスチックが入ったのは全部映像に撮って常に上げています。それもきちんとした伝票を付けて、産廃処理のほうに出すようにしています。定置はそういうことができるのではないでしょうか。特に大型定置の場合は入ってきたごみの量がすごく多いです。それを今までは網の外に出して捨てるだけだったのを、われわれは回収していきたいと。そうすることによって外国に対して定置への評価がさらに高くなります。

長谷:この話に関して言えば、網に入ったものは事業系のごみだから、事業者である漁業者の負担だと言われてそこが一つネックになっていたのだけれども、昨年、環境省とも話ができて、漁業者負担ではなく自治体のほうで処理してもらい、それについては環境省が補助するということになりました。底びき網にもゴミが入るので、そういうことで底びき業界をアピールしていったらいいですということで取組の広がりが少し出てきているところなのですが、定置も同じことが言えるということですか。

堀内:はい。

長谷:ありがとうございます。漁業の多面的機能の一つだと思いますので、プラスチックの話は結構な注目を受けていますから、漁業のプラスの話としてPRしたらよいと思います。オブザーバーの方が何人かいらっしゃるのですが、せっかくなので吉川さん、地方行政のほうで何か思うことや言いたいことがあればどうぞ。

吉川:水産庁から今、小田原に出向している吉川です。発言する機会を設けていただきありがとうございます。小田原に来て1年3カ月たちまして、定置の方といろいろな話をする機会があるのですが、定置漁業の資源管理の課題として考えていることは5つあります。1点目は、資源管理の方策の一つとして休漁するというのが考えらえますが、地域を支えている大切な存在であるからこそ、急に休めと言われても休めないという現実があると思います。地域の水産業を支える存在として使命感を感じて操業し、雇用されている立場の人も多いことから、急に休業するというのは現場の漁業者さんには難しい場合があります。

2点目は魚種の選択制がないという点に関連して。数量管理を基本とした管理に移行していこうとするなか、まき網などのほかの漁業を批判するのではなく、魚種の選択制のない定置漁業としてどう管理しアピールしていったらよいか議論をする機会は多くないです。市役所で、定置の良い面、台風時に率先して海ゴミを処理するといった多面的機能をアピールするための動画を配信しようと海外の動画を見たとき定置に対して批判的な意見が多いということに驚きました。コメント欄にオブザーバーも乗っていないこのような漁業があるのか、overfishing(乱獲)、tiny fish!(なんで小さな魚)などという批判の声が多くありました。そういう批判に対し、定置の良い面、漁業者の熱い想い、多面的な役割を正しく伝えていくことが必要なのかと思います。

3点目は台風被害対策について、結局は面倒でも網を揚げるしかないというのがいまの現状ではないかなと。

4点目は、今日はあまりマーケットの話が出なかったのですが、資源管理をしていく上ではやはり市場や流通なども一緒になって考えていかないとうまくいかない部分が多いと思います。例えば、今、カタクチがたくさん揚がっているのですが、特定の定置にたくさん水揚げされるとキロ80円ぐらいになってしまいます。それを箱詰めすると、箱代、氷代だけでキロ100円を超えてしまう。水揚げしても利益にならないため投棄せざるを得なくなる。市場買受人、小売も一緒になって、適正な価格とは何か、加工や輸出など獲れた魚をすべて有効に活用する方策も考えていかねばならないのかなと思います。

最後の5点目は既得権益や目に見えないしがらみが現場にあって、何か新しいことをしようとすると批判的な意見も出てくるのが、どの現場にもあるところかと思います。それを突破するためには、若い漁業者さんの声や流通業者との話合いが大事ですし、良い事例を実際に目で見て、話を聞かせてもらうということで意識が変わると思います。資料として整理するのも一つですが、実際に現場の人から話を聞くというのが、同じ漁業者として共感できて、意識が少しずつでも変わっていくのではないかというのを今日聞いていて感じました。

長谷:ありがとうございました。その後ろの石川さん、魚種選別や放流技術の話ですが、水産庁のほうでも検討を進めると聞いているので、少しそれを紹介してください。

石川:後ろから失礼します。水産庁研究指導課海洋技術室に5月から着任しています石川と申します。よろしくお願いいたします。今、長谷さんからお話がありましたように、水産庁でも先ほどお話したとおり、資源管理という取り組みを進めていく中で、定置網漁業の、魚を選択しながら獲っていく、選択漁獲というところを考えていかなければならないと思っています。今、クロマグロの関係で技術開発、実証を進めていますが、他の魚種もにらみながら、技術的なもの、どういったところで煮詰めるかというところを考えていきたいと思っています。

長谷:年内ですか。

石川:そうです。今、少し名前が似ているかもしれないですが、技術研究会ということで、どちらかというと技術の開発と向上をメインに研究会のようなものを立ち上げさせていただいて、その中で専門家の方に情報を頂きながら、意見交換をしていきたいと思っています。

長谷:ありがとうございました。後ろの方で他にこれは言いたいということがあればどうぞ。よろしいですか?