水産振興ONLINE
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2020年9月

座談会 定置漁業研究

司会 東京水産振興会理事 長谷 成人 氏
日本定置漁業協会専務理事 玉置 泰司 氏
青森県定置漁業協会会長 堀内 精二 氏
静岡県定置漁業協会会長 日吉 直人 氏
ホクモウ株式会社 松平 良介 氏
水産業・漁村活性化推進機構 奈田 兼一 氏
全国漁業共済組合連合会常務理事 岩下 巧 氏
水産庁 中村 真弥 氏

自己紹介と定置漁業の諸課題についてリレートーク (8)

長谷:中村さんのほうからお話があったところですが、方向としてはTAC魚種が増えていくということだと思います。その中で扱いをどうしていくか、なかなか難しいこともあると思っていますが、まず堀内さんいいですか。ご発言ください。日吉さんはその後何かあれば。玉置さんにもお話していただきたいと思います。

堀内:TAC魚種なのですが、例えば定置で言うと混獲してくるので魚種を絞るというのも少し厳しいです。ものによっては資源が増えている魚種、ブリなどは減っていないです。ブリはいいけれども、日吉さんのところもたぶんあると思うのですがマサバです。まき網との間で数量管理をどうするか、現状の数量をまき網と分配して沿岸にどれだけ来るのかなど、たぶん、難しいと思います。また、まき網と協議してそれを決めることになります。現場から行くとTAC管理はやってほしいです。ただ、私もいろいろなところで発言するのですが、事務的にいろいろなことがあるなどで水産庁のほうができないと。

長谷:少し意味がよく分からなかったです。

堀内:TAC管理を誰がどのようにやるか。水産庁が数量管理を直接できるわけではないし、各県や各漁協がやっていくことになります。そうすると各漁協はとてもではないですが、そういう事務作業はできないです。それで、たぶん進んでいかないと思います。今、本当に小さな漁協は非常に厳しいのが現状です。われわれ漁業者は共済などで補填ができるのですが、漁協の経営は、共済は全然関係ないので、経営的に厳しくなっています。私としては事務的な作業を水産庁のほうで各漁協に別枠で手数料を支払うような考え方があるのであれば、地方の漁協などは進んで数量管理もやっていくと思うのです。その辺はどうですかと前に聞いたときには、水産庁はそこまではいっていません、できませんとのことでした。

現場としては特に定置はマグロの資源管理をやってきた経緯があって、日本中の定置の経営者、あと漁師さんは資源管理に対する意識が10年ぐらい前と全然違ってきています。

長谷:何かありますか。

中村:ありがとうございます。まさに現場がどのように対応していくのかというのは大事なことだと思います。直接的にそれに対して漁協に支援措置があるかというと、おそらくないのだと思います。ただ、一方で答えになるかわかりませんが、TACということは漁獲量管理ですので、その漁獲報告をどうしていくかということだと思います。それについては今、水産庁もスマート水産業ということで電子化を進めております。市場のほうからデータを吸い上げる、おそらく漁協さんも日々の水揚げ管理というところで伝票なり仕切り書の入力はされていると思いますので、それにTAC管理を絡めていくと言いますか、その入力をもって対応できるようにしていけるのであれば、そこの手間はなくなるだろうと思っています。一方で、努力量管理のような漁業者サイドしか分からない情報もあると思います。それに関しては市場の人に伝えていただいて、そのシステムを改修して入れていくというのもあると思いますけれども、例えば、アプリなどを開発して対応していくということも考えられると思います。

実際に全国的に見ると、今、完全に市場が電子化しているようなところもあります。こういったところは、先ほど申し上げました漁獲報告の義務付けや今後のTAC管理というところが、手間自体はあると思うのですが、紙を書いてどこかに送付してということではなくなると思っています。

長谷:それもどんどん進めなければいけない話です。ただ、来年すぐ全部それが揃うというような状況ではないです。

中村:それはいきませんけれども、スピード感を持ってそこは取り組んで行きたいと思っています。

長谷:日吉さん、何かありますか。

日吉:TAC魚種が広がることはもちろんいいことだと思っています。今までのTACがありますが、これが本当にTACで資源管理ができたのかどうか、少し精査していただきたいという思いもあります。実際に獲っていないTAC魚があるのが現状だと思うのですが、増やすにあたって、資源が増えるようなTACの運用をしてほしいと思うところです。MSYにのっとるということが新法のところで出てきますが、私もいろいろなところで説明を受けますけれども、現場の利用者がなかなか分かっていません。私も堀内さんもそうかもしれませんが、日本定置漁業協会などで説明を受けますけれども、なかなかMSYが現場でどういうことなのかは伝わっていません。それと、先ほど堀内さんのお話があったように、マグロで定置漁業者は全国的に先行事例を見ました。また北海道で獲り過ぎてしまったときの制裁も見ていて、今が機運だと思います。相当、漁場ではいろいろなことが起きると思います。でも、日本中の定置漁業者は、今回マグロのことで勉強したと思うし、いろいろな経験を積んだと思います。今がまさに定置に関すると資源管理がちゃんとできるという時期だと思うところです。

先ほど長谷さんが言われたような、まき網と定置が敵対しているような感じでは実はないのです。静岡の場合は違反をやってくれなければ全然問題はないです。違反する例が少しあって、そこでもめるだけで、僕ら漁師同士ですから本来あまりもめないです。まき網のほうはやはり、ここで言うことはいいことかどうか分かりませんが、どう考えても漁獲圧が高いです。彼らをコントロールしてやらないと、彼らの将来性もないですし、僕らもその余りをくらって定置だけではなくて、沿岸の漁業者も被害があるのではないかと思います。ですから、嫌がるかもしれませんけど、まき網船にはやはりオブザーバーぐらいはたまに乗せたほうがいいかと思うところです。

私は漁協の人間なので、まさに漁協の経営は今、非常に厳しくて人員をすごく削減しています。だから、漁協からのデータは非常に難しいかと思います。堀内さんがすごくいいことを言ってくれましたが、水産庁はたぶん、漁協に事務手数料を払うなどはなかなかできないとは思うのです。けれども、日本の水産資源は国民のもの、日本国のものという理論なら、そういうことにも経費が出せるのではないかと思います。ただ、水産だけで考えているから、そういうことまで普及しないけれども、日本人全体がそういう気持ちになってくれれば、そういうことに対しての抵抗もないかと思います。以上です。

長谷:やはり、スマート水産業でそれも進めて、現場の負担が小さい形で情報をリアルタイムで取るという方向でどんどん進めていかなければいけません。それにしても、やはり漁協も今大変厳しいということは事実ですけれども、そういう機能というか仕事が担えるような漁協に、今ある漁協がそのままの数でということでもなく、そういうことがこなせる体質の漁協にするということも、同時並行で進めていかなければいけないと思ってやってきました。

MSYの話はいろいろな議論がありますけれども、研究者の方が今あるデータの中でベストな姿というものを提示してもらえばいい話で、けれども、それがそのままTACになるわけではなくて、理想の水準に5年で到達するのか、10年で到達するのか、あるいは、10年でも難しいのであれば、マグロがまさにそうですが中間目標を置いて取り組むなど、資源だけを見るのではなくて、漁業者の経営もあるし、関連産業、加工屋さんのことなどいろいろなことを考えながら議論を尽くしてシナリオを決めて、その目標に向かって取り組んでいくということだと理解しています。

あとサバの話も出ました。TAC管理をしてきて、うまくいったほうの例としてサバの話をずっとするのですが、資源回復計画から始まって、ものすごく増えたせいで公海まで漁場が広がって、外国船まで獲りに来たということです。資源水準はいいのですが、これが太平洋側の定置にはそのままの形で入網しないです。みんなで我慢して増えたのに、漁業というのはその恩恵が平等には来ないです。そこら辺が本当に難しいと思いながらやっていたところです。

日吉:伊豆諸島をご存じだと思うのですが、太平洋のマサバの産卵場です。サバのたもすくいという漁があります。サバ棒受漁のようなものもあるのですが、彼らは本当に困っています。伊豆諸島の大きい産卵場なのですが、ほとんど、マサバがいないというので、では、どこに行ってしまったのかと。僕らも今はゴマサバが多少は獲れているのですが、ゴマサバは評価的には少ないと言われているのです。ただ、ゴマサバのほうが多いのです。

この定置もそうで、水研機構などが資源情報をやっていると思うのですが、日本中に定置があります。これは例えば、気象の変動を見るときに、温度計などが入った四角い箱が全国各地にありますよね。あのような感じでもしそれもデータ化できれば、非常にいい資源状況が分かると思うのです。たぶん、研究者の方々が一生懸命やっているのでしょうが、彼らの感覚があまり当たったという感覚が僕ら漁業者に来ていません。マサバがいると言っていても、あまりそういう感じがしないです。彼らのことをすべて批判しているわけではないですけれども、資源予測などが正しければこのような状況にはなっていないと思うのです。そこで、今回の法律改正もあったところで、もう一回そこを見直したほうがいいと思うところもあります。

たぶん、定置漁業者ではなくて、今の漁業者の人たちもマグロのことで相当資源管理をしなければ、次はないということは思っていると思います。これがチャンスだと思います。これはまき網の人も思っていると思います。だから、本当に資源管理をするにあたっては、今が絶好のチャンスだと思います。それを長谷さんや中村さんたちに頑張ってやってもらって、いろいろ始めは僕らも抵抗しました。あのことがあって今があるわけですから、このことを貴重な経験として水産の資源管理に結び付けていただければ幸いです。

長谷:サバの話は広域漁業調整委員会のような場を作って、まさに量的に獲っているのがまき網だから、まき網に我慢してもらうときに先ほど言っていたのと同じで、たもすくいの人たちなど、あなたたちはやらないというわけではなくて、一緒にやるという姿勢を示してくださいと散々言って、増えてきたころには産卵場に来るようになりましたと聞いて喜んでいたのですが、最近は来ませんか。資源が増えても恩恵が各漁業に均等にいかないというところが本当に難しいと思います。

日吉:たった10年前ですが、ちょうどこの時期にカジキが釣れるのです。友達の漁師がカジキの引っ張りをやっているものですから、僕は15年ぐらい前から3〜4回行ったのですが、ちょうどサバの漁場で、サバの上にサバが乗っていました。そういう状況がたくさんサークルのようにあって、三宅島の界隈などにも大きいナブラがあったのが、去年、神津島に行く用があって、そのサークルがなかったです。伊豆諸島近海はサバのナブラのサークルのようなものがあったのですが、一切、神津島に行く間になかったということは、少し残念だと思います。

長谷:マグロのいろいろなことがあって、今が機運だというように言ってもらえるのはありがたいというか、うれしい話です。例えば、ブリの話もぽつぽつ出ています。コラムでも書きましたけれども、マグロも結局日本の小型魚の割当が4,000トンあって、まき網だけではないですが漁船漁業に我慢してもらって、定置は来たら獲りますでは収まらないので、こういうことにしています。ブリも定置の比率がものすごく高い魚種だからやれるのかというような話はこれからだと思います。定置でブリはやはり本丸ですから。

日吉:一つお話させてもらっていいですか。玉置さん、あの話をさせてもらっていいですか。モジャコの話です。

玉置:はい。

日吉:実は私もびっくりしたのですが、最近、玉置さんのところの日本定置漁業協会から情報をもらって、ブリの養殖を成長化産業にするということで国がパブコメを行っていたのです。私も資料を見させてもらっていましたが、どれだけ成長を伸ばす、要は養殖を当初伸ばすだけで載っていなかったのです。今回、1.7倍ですか。2倍近くだったのですが、それを輸出するという話です。そのこと自体は絵に描いたような輸出産業にすると言っていいことなのですけれども、片方で、先ほど伊豆諸島の話をしましたけれども、15年前ぐらいまではモジャコ漁船だらけでした。今は静岡もブリ養殖はやっていないですし、三重などもほとんど廃業に追い込まれました。和歌山もそうです。今、やっているのは九州と一部四国がやっているのでしょうか。

それについて、ブリも今から15年ぐらい前のデータを見れば分かると思いますけれども、定置ではほとんど獲っていなかったです。私がまだ若いときというのは、ブリはたまに獲れるぐらいの感じでした。今は全国的に北海道でもよく獲れるようになっているのですけれども、当時は明らかにモジャコの漁獲がすごく多かったと思うのです。結局、商売が立ちいかなくて、皆さん漁村から一家離散するような感じの悲しいことが静岡でもありました。もし成長化産業にするなら人工種苗だけでやるなど、中村さんのように要は魚の技官の人がアドバイスで言ってほしいです。やはり、人工種苗でやっていただきたいです。

モジャコを獲るときに、実は藻の下にメダイやカンパチも一緒にいるのです。だから、メダイなどは静岡で一時期、幻の魚になったときがあるのです。今ではメダイはたくさんいるのですが。やはり、モジャコ漁というのはモジャコだけを獲っているわけではないので、海藻の下にたくさんいろいろな稚魚がいる中を獲っています。長谷さん、ブリぐらいしか獲るものがないですから。これでブリがなくなったら本当にもう駄目になってしまうので。明日も日本定置漁業協会の総会ありますけれども。日本海側のほうの人は怒るのではないですか。

長谷:ブリの扱いというのは大きな話です。

奈田:少しよろしいですか。今の話ですが、私もあちこち鹿児島など行っていて、ブリ養殖も担当していましたが、今、人工種苗が結構増えていまして、モジャコの総量規制も厳しくなっていますので、その影響でブリの漁獲量が増えているのではないかと思います。

長谷:アメリカ市場に出そうと思ったら、天然種苗より人工種苗のほうが、履歴がはっきりしていて、消費者に好まれる時代ですから、そういうこともよく考えながら、天然資源に影響が出ないように。

日吉:実質、まさにそうです。

玉置:ただ、今回コロナでブリの輸出が止まっています。そういったことで作ってしまったものが、いざ輸出できなくなった場合、国内向けになるとそれこそ定置のブリと競合してしまうというようなこともあります。

日吉:そのことはブリ養殖業者もダメージを受けますので、彼らももしかしたらもっとダメージを受けるかもという思いもあります。そこをコントロールしてあげないといけないです。

堀内:長谷さんのコラムの中に国内のマーケットが人口減少により縮小する中で拡大する海外のマーケットを見据えた場合というのはあります。今、専務がおっしゃったようにほぼ北米に養殖のブリが出ていて、水揚げ金額が多いです。水産庁もやはり、そこはもっと出していきたいという意識が強いと思うのです。ASC認証などを取っているブリだと国内のスーパーも優先的に買ってくれています。では、我々沿岸の漁業者はブリ漁に対して、何か努力をしているのかと言われると我々も返す言葉がないです。養殖業者はASCの認証を取ってきちんと漁獲証明、経歴を付けて販売しています。

そこで、今、EUや北米では3人に1人が天然の魚に関してはMSCの認証を取っている魚を選ぶというデータが出ています。我々国内の定置漁業者は例えば、ブリもMSCも取得するとなると、うちも見積を取ったことがあるのですが、初期費用で2,000万円、毎年更新料が1,000万円です。それを1キロ100円か200円の夏ブリに充てて、MSCを取ることは少し採算ベースが合わないです。今、うちの会社とパートナーと単独でやっている事業があるのですが、例えば北米の大きいマーケットが買ってくれると、そこの独自の認証なのです。MSCやFIPはお金がかかってしまうので、でも、今多くなっているのは単独の認証があって、そこをクリアさえすれば大体、FIPと同等のチェック項目をクリアするとなると、今、うちの夏ブリは認証を取ったのですが、それだと100万円ぐらいです。100万円でFIPと同等のチェック項目です。受け入れ先がもうそれでいいと言っています。

だから、MELなど、あまり言うと協会の方々もいろいろあると思うのですが、MSC、ASCに関しては、そこまで高いお金を出してやれるのは本当に大手の水産会社でないとできません。でも、販売先と契約して、FIP同等のチェック項目をクリアすると、うちの夏ブリは100円から200円のものが、コロナがなければ300円、400円になる予定でした。ですから、我々もそういう努力をして、ブリを高く売っていくようなことを沿岸の定置はしていかなければ駄目です。これは水産庁のほうから輸出に関しての補助金も頂いています。本当は今年度スタートして、うちでよければ、例えば日吉さんのところの経費で我々が行ってチェック項目を全部チェックして、100万円でFIPと同等の認証が取れます。

今、認証の結果があるのですが、英文なので私も読めないです。北米はMSCはやらないと。例えば、ウェイクファーンやウォルマートなどが自分の認証に寄せる。それで毎年チェック項目を付けていって、うちのブリは今イエローなのです。ブルー、イエロー、レッド、ブラックなのです。うちはイエローの認証を受けたので問題なく使えるということです。水産庁も水産庁でいろいろなことができると思うのですが、今、我々民間でできることもできます。今回のことに大手商社が入っていませんので、養殖のブリと絡んでも問題なく、ライバルにはなるのですが、養殖のブリに比べても安い値段できちんとした証明書を付けて、輸出向けという案件もあります。

日吉:私もMSCの見積をしてもらったことがあります。非常に高くて、うちは静岡県定置で取ろうとしたのですが結局無理でした。現実的に定置だとMSCは高くて無理だと思います。

堀内:魚種を絞って1魚種を対象にするという方法はあるようです。千葉県のまき網でしたか、スズキでMSCを取りました。定置でそこまでやるというのは大変なのですが、でも、買ってくれる人がその認証でよければというのはあります。

日吉:私の友人でビンチョウマグロをツナ缶の材料で、コストコのツナ缶を作っているのですが、やはり同じようにコストコの認証があるらしいです。だから、一本釣りで獲ったもので輸出をしているようです。そういうMSCなどではなくて企業自体の認証が結構今、さかんになっているというのは聞いたことがあります。

堀内:私どもは2020年に青森でYellow tail fisheryという認証をとりました。

日吉:画期的です。

堀内:100万円でこういう認証が取れます。私は商売にしようというわけではないのですが、でも、輸出先はこれがいいと思います。ただ、国内はどうしてもASC、MCS、ネットなどの量販店はそちらのほうに行っている傾向があります。