水産振興ONLINE
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2020年9月

座談会 定置漁業研究

司会 東京水産振興会理事 長谷 成人 氏
日本定置漁業協会専務理事 玉置 泰司 氏
青森県定置漁業協会会長 堀内 精二 氏
静岡県定置漁業協会会長 日吉 直人 氏
ホクモウ株式会社 松平 良介 氏
水産業・漁村活性化推進機構 奈田 兼一 氏
全国漁業共済組合連合会常務理事 岩下 巧 氏
水産庁 中村 真弥 氏

自己紹介と定置漁業の諸課題についてリレートーク (7)

長谷:一通り来ましたけれども、最後に中村さんです。役人ですから話し方が難しいところがあるかもしれません。急潮対策の話が多かったですが、冒頭北海道で魚種の来遊の変化に備えて、漁場計画の見直しの準備を始めようという話になっていましたけれども、そういう話をできるだけ早めに各都道府県で進めてほしいと思います。それと、そういう機運づくりを水産庁が頑張ってやっていただければと思います。

あと、改正漁業法が12月1日に施行ということですけれども、その中で私はコラムにも書きましたが、TAC魚種での定置の考え方を含めて、具体的にはTAC対象魚はここ数年の間に漁獲量ベースで6割と言っていたのを、8割目指して充実させていこう、対象魚種を増やそうという目標を掲げています。具体的にどのように選ぶのか、クロマグロは国際約束だから、何としても守ろうということであそこまでの取り組みをしましたけれども、TAC対象魚種をどのように広げるのか、そのうちクロマグロ的にやるもの、やらないものをどのように考えるのか、やらないのであれば漁獲量管理ではなくて、努力量でどのようにしていくのか、今の段階でまだまだ検討過程なので、言えること言えないことがあるかもしれませんけれども、そのようなことを含めて少し話を聞かせてほしいです。

中村:水産庁管理調整課の中村です。よろしくお願いいたします。まず始めに、先ほど出ていましたがクロマグロの資源管理について、ここにご出席の皆さま方におかれましてもご協力いただきましてありがとうございます。おかげさまで資源の回復傾向が見られています。また、国際交渉の中で翌年の枠の繰り越しや、あるいは国内の担保としては各県の融通についてご意見を聞きながら措置することによって現状、大枠も守られていると思いますし、実際、大型魚のほうも増えてきているという実感が浜のほうから聞かれているところです。このコロナの中で最近は浜回りに行けていませんので、報道ベースや都道府県や行政を通じた情報を聞きながら引き続き、今、理事からもありましたけれども資源管理については国際約束をしっかり日本として守っていくということは続けていきたいと意を持っています。

中村 真弥 氏(水産庁)

その中で私は沿岸調整班ということで、漁業権の運用を担当している部署になりますけれども、定置漁業権についてです。これは最新の数字が集計できていませんが、2013年でいきますと、全国で1,800ほどあります。北海道で1,000ぐらいあります。大体がサケ定置です。先ほど、もうかる事業で17やっているということですので、日本全国でいくと大型定置が1,800あって、先ほどお話がありましたが、やはり横展開をしっかりやっていかないと、なかなかすべての定置を変えていくというのは難しいと思います。令和5年の9月から全国でまた切り替えが行われていきます。新漁業法に合わせてどのように地域をまた見ていくのか、経営状況が厳しいところがありますので、これまでも協業化を進めるというようなところ、その代わり少し漁場を変えるなどそういった取り組みを各行政がしているところです。まさに、次の切り替えに向けてどういったことを国の立場から、実際免許するのは都道府県さんになりますので、技術的助言という形でサポートしていけるかということだと思います。

実際、まだ新漁業法は施行されている状況ではないのですが、すでに海面利用ガイドラインということで、漁業権の扱いに関する部分について技術的助言という形で各都道府県に通知しました。また、水産庁のホームページにも公表をしています。定置漁業権をどうこうすると直接的にいろいろ書いているわけではないのですが、漁業権を適切かつ有効にというのが一つ、多くの浜の方々のご懸念もありましたので、こういったところに丁寧に答えられるようにということで今般作成させていただいたところです。

合わせて、白書に書かせてもらいましたが、新法の中で資源管理をしっかりやっていく、欧米と比べても遜色のないものにしていくということ、また新法の中では資源管理を行うにあたっては、漁獲可能量を基本とすると明記されています。先ほども資源管理の話が幾つか出ていまして、全体として否定する話では当然ないと思いますけれども、具体的にどう定置に当てはめていくのかというところはあるかと思います。しっかり、資源調査をやっていくということは当然だと思います。それに基づいて資源評価を行って、これまではこれよりも下がってはいけないというボトムラインだけ決めて管理してきたわけですが、それを今度は資源管理目標という、どこに資源を維持していくのかという目標をしっかり定めて管理していきます。そして、またそれにあたってのシナリオを関係者のご意見も聞きながら決めていきます。

実際の管理についてはTACあるいはIQで、IQは大臣管理許可がベースになるかと思いますが、当然知事許可でも地域によってはすでに行っているところもあるかと思いますので、場合によって使っていただくといいかと思っています。このTACなりサイクルを回していくにあたっては、元となるデータを当然しっかり見ないといけません。資源調査は今もやっていますけれども、引き続き、標本船調査などもしっかりやっていくというところですが、やはり、沿岸漁業からのデータも重要だと思っています。これまで大臣許可につきましては漁獲報告を毎月作成というのを義務付けていましたが、今回の改正漁業法において知事許可漁業と漁業権漁業についても資源管理の状況や漁獲状況の報告をしていただくことが義務付けられたところです。中身については各都道府県が今詰めているところかと思いますけれども、そういった情報もしっかり使いながら資源管理を回していきたいと思っています。

そのTAC魚種をどのように増やしていくのかというところですが、先ほど話にもありましたように、漁獲量ベースで今TAC魚種を見ますと6割のところを8割に増やすという目標を立てています。実際、これも現時点でこれですというものは当然ないわけですが、ご意見を聞きながらどういう形で決めていくのかというところがあります。基本的には漁獲量、どれぐらい獲っているかということがベースになるかと思いますし、また資源状況が悪いもの、地域の重要魚種なども検討の対象になってくるだろうと思います。

一方でどのように管理するかというところですが、クロマグロのような厳格な管理というものが果たしてすべてできるのかということもあります。漁獲努力量管理というのもこの新法下では可能となっていますけれども、例えば、隻日数だけ決めて漁獲量のキャッピングがなくて、それで果たして他の漁業種類ごとのあつれきと言いましょうか、調和がしっかり取れるのかというところは考えていかないといけないと思っています。我々も2018年に漁業法が改正されてから大体月に1回くらいのペースで都道府県の方々と意見交換をしています。現在、コロナの関係で対面はなかなか難しいのですが、スカイプなどを使いながらやりまして、実際にどのような感じでできるのかというのを資源管理、漁業権も含めて、さまざまな分野で意見交換を今、しているところです。

また、合わせて定置漁業の技術開発というところも進めさせていただいています。先ほど来、技術的な部分の横展開や周知というお話もいただいています。我々もクロマグロで得ている知見、ホリエイさんにも手伝っていただいていますし、そこで得たものは水産庁ホームページあるいは日本定置漁業協会さんと協力しながら、各定置漁業者が今どういった取り組みをしているのか取りまとめて、これも関係者に共有するとともに、水産政策審議会の資料などにもして、広く周知を行っているところです。

冒頭、堀内社長から側張を下げてというお話もありました。実際、他の地域でも今そういった取り組みをしています。ただ、一方で西のほうに行くと獲れる魚、欲しい魚がサワラなどだと、泳ぐ層がクロマグロと同じであるというようなところで、北の取り組みをそのまま使えません。そういったときは目合の違う網をのれん網のように入れるとか、あるいは、側張をそのまま下げるのではなくて、起こしていった網を一旦落として、また元来たところに戻すと、先ほどの話ではないですが、魚が逃げていくというような習性を利用した取り組みというのも各地で行われていますので、こういったところを我々も情報収集をしながら周知に努めたいと思います。

本日、ホクモウさんも来ていますが、遠隔の魚探というものを日東さんもホクモウさんも出されていて、私個人としてはここを伸ばしていけたらいいと思っています。ただ、魚探の映像だけですべて判断するというのは難しいところもありますので、例えば、水中カメラや水中ドローンなど、こういったものを組み合わせて答え合わせもしながら、そういった知見を蓄えていく。これの何がいいかというとやはり来遊予測にもなるということで資源管理に使えるだけではなくて、先ほどシャーベット氷の話もありましたが、氷を積むというコストの面もありますし、空振りがなくなるというメリットもあると思いますので、資源管理を通じた経営の部分のプラスになるようなところも併せてサポートしていけるように考えていきたいと思っています。雑多ではありますが以上です。

長谷:魚探の話も側張を下げてという話も出ていますが、技術的に対応できることはどんどん追究していけばいいと思います。けれども、ほっといても今年の年末には新法施行だし、技術開発などは当然追い付かないので、技術的にできたとしてもそれが普及するのにまた時間がかかるでしょうし、だから、長期的な話は技術開発をどんどんすればいいと思うのですが、短期的なところでどのように運用していくかというのはとても難しいというか。

コラムにも書きましたけれども、結局定置の方々が獲る魚は、まき網と競合ということになるわけですけれども、定置のほうが、やはり一緒になって資源管理、資源回復に取り組みますという方向を向いてもらわないと、まき網の人たちも「分かりました。やりましょう。」という話にならないので、ここら辺がすごく難しいと思っています。私はずっとそのような仕事が多くて、両者は犬猿の仲と言ったら何ですが。実は、私は1957年、酉年生まれで、犬と猿を取り持つのが酉年の役目で、桃太郎さんの鬼退治もそれでうまくいったという話もありまして。ここはすごく難しいところなので、少し発信をしていきたいと思っているところです。玉置さんはいかがでしょうか。制度的な話は今詰めているのでしょうけれども。

玉置:今、まき網の話が出たのですが、漁法的な特徴が全く違うわけで、まき網の場合には沖にいる魚を追っかけていって狙った魚をまいているということで漁獲量管理については非常にやりやすい漁業です。定置の場合は、長谷さんのコラムにあるように待ちの漁業で入ってきたものを獲るということなので、クロマグロのように獲ってはいけないものが入ったときそれが一番困るでしょうし、TACなりを割り当てる際に、定置の場合、隣の網には入ったけれどもうちには入らないなど、そういった回遊によって非常に左右されることがあるので、先ほど言ったIQというのはまず難しいと思います。クロマグロの場合も定置全体の枠というのがまずあって、それが1カ所がとりすぎると全部駄目になるという失敗もありました。形としてはそういった定置の全体の枠のほうがいいとは思うのだけれども、そういったオーバーしたときの対応が非常に難しいです。

長谷:難しいです。クロマグロのときも最初は北で獲れたり、南が獲れたりだから、全国の定置でプール管理でと発想して、最後は金銭的な解決などもあるのかと日吉さんにも関わってもらって検討しました。とりあえず、そのようなことを言っていられないうちに獲れたということでマグロについては何とかやってきていますけれども、いきなり来年からあの魚種、この魚種ということはなかなか難しい中で、けれども全体としては資源回復を一緒になって、漁業種類を超えて取り組んでいくということにならないといけません。

玉置:できることは必ずやらなくてはいけないです。資源が増えればその分、沿岸に来る魚も増えるということは定置も一緒です。