水産振興ONLINE
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2020年7月

漁業の取締りの歴史—漁業の取締りの変化を中心に—

末永芳美(元東京海洋大学大学院 教授)

謝辞

本執筆に当たっては、資料の探索や提供について北海学園大学の濱田武士教授と北海道大学の佐々木貴文准教授に色々とご協力を頂いた。

また、農林水産政策研究所の高橋祐一郎上席主任研究官には文献、資料収集に関して多大なご協力を頂いた。また、元山口県水産研究センター所長の有薗眞琴氏にも資料も含め同様にご協力いただいた。

なお、取材やインタビュー等に関しては政府関係者、水産庁関係者にはご迷惑をかけないため行ってはいない。そういう意味で、歴史を辿ったものであり最近の漁業取締りの取組等の現況を反映していない点もあるかもしれない。しかし、「はじめに」でも申し上げたように執筆としてはそういう姿勢でとりくんだものである。関係資料などの少ない中、今回、書下ろしで執筆できたのも上記の方々のご協力の賜物である。あらためて感謝申し上げる

内容につき、色々なご指摘やご叱正があろうかと思う。それを受け止めて今後の別の機会に書ききれなかった点も含め今後の参考にさせていただきたい。

余話 水産庁漁業取締船名について

農林省所有船舶を運用する部門は大きく分けて三つあった。一つは農林省が官立水産講習所(戦後に東京水産大学、後に東京商船大学と統合し東京海洋大学となる)で、水産の幹部要員を育成する訓練教育機関として設けたもの。二つ目は水産講習所の調査部門として枝分かれして後にできた農林省水産試験場(さらに水産庁東海区研究所となった)。三つめは農林省水産局で漁業取締船として運用したものであった。水産講習所は戦前に朝鮮半島の釜山にも水産講習所を設置した(現在の韓国の釜慶大学となった)が、戦後に第二水産講習所として下関に移転、学生を受け入れた。しかし、東京の水産講習所が文部科学省に東京水産大学として移管されたため、下関の講習所は農林省立の水産大学校(現在、研究開発法人水産研究教育機構に水産大学校として統合)として現在に至るものである。

そのような流れの中、明治期からの農林省は同省で建造した所有船舶には、「鳥」に関係する漢字を必ず船名に入れてきた。その後、その系譜を現在まで繋いでいるのは東京海洋大学の調査・練習船である。海鷹丸、神鷹丸、青鷹丸と鳥に関する字を踏襲している。戦後、水産庁の漁業取締船となる東光丸は「鳥」の字にちなんだ被代船初鷹丸から船名を大きく変え「光」を使った。その他に「光」を使った船として調査船に北光丸、陽光丸が命名されている。なお、北洋で活躍した俊鶻丸は水産大学校に移管され、その代船として練習船耕洋丸が建造され「洋」を入れた船名となった。「洋」を使ったものとして、水産庁最大の船舶の開洋丸、照洋丸(ドクトルマンボウ航海記で有名になった船。現在は漁業取締船)がある。

現在漁業取締船として船名に取り入れられているのは「白」の字を冠にした船名が主体となった。最近公募した水産庁の大型漁業取締船に付ける船名が「白鷲丸(はくしゅうまる)」に決まったそうだ。

戦前の伝統にちなんだ「鳥」の中の「鷲(わし)」を取り入れつつ、「白」も組み合わせた船名だ。

活躍を期待したい。

引用・参考文献

  • 1. 渡辺尚志「海に生きた百姓たち 海村の江戸時代」草思社 2019年7月25日発行
  • 2. 黒肱善雄「農林省船舶小史(1)〜(6)」水産庁東海区水産研究所業績C集さかな No. 14号 昭和50年2月〜No. 22号昭和54年3月
  • 3. 井上彰朗「戦前における我が国の『海上保安』体制について〜戦間期における警備救難業務を中心として〜」海保大研究報告、法文学系 62巻2号 2018年3月31日出版 出版者 海上保安大学校
    http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/jcga/detail/1225120180404072737;js essionid=0A82290010C9BB58939B21EA13E63FF1
  • 4. 井上彰朗「戦中における我が国の『海上保安』体制について」海保大研究報告、法文学系 第63巻2号 2019年3月29日出版 出版者:海上保安大学校
    http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/jcga/detail/1226820190402103308;jsessionid=0A82290010C9BB58939B21EA13E63FF1
  • 5. 橋本高明「最後の砦-漁業取締の流儀―」文芸社 2019年6月15日発行
  • 6. 佐藤雄二「元長官が語る『中国漁船衝突』海上保安庁の“二律背反”」文芸春秋・八月特別号 株式会社文芸春秋 令和元年8月1日発行
  • 7. 佐藤雄二(海上保安庁元長官)「波濤を越えて 叩き上げ海保長官の重大事案ファイル」株式会社文芸春秋 2019年7月15日発行
  • 8. 鈴木智彦「サカナとヤクザ」株式会社小学館 2018年10月16日発行
  • 9. 鈴木陽子著「麻薬取締官」株式会社集英社 2000年9月1日発行
  • 10. 藤井賢二「竹島問題の起原—戦後日韓海洋紛争史—」ミネルヴァ書房 2018年4月30日発行
  • 11. 瀬戸晴海「マトリ 厚労省麻薬取締官」新潮新書847 2010年1月20日発行
  • 12. 有薗眞琴「山口県漁業の歴史」社団法人水産資源保護協会 平成14年2月28日発行
  • 13. 濱田武士・佐々木貴文「漁業と国境」みすず書房 2020年1月10日発行
  • 14. 片山房吉「大日本水産史」農業と水産社 昭和12年10月10日発行
  • 15. 編纂者 社團法人大日本水産會「水産關係法規」社團法人大日本水産會発行 昭和9年12月7日発行
  • 16. 佐藤百喜「日本漁業法論」常盤書房 昭和10年5月28日発行
  • 17. 今村與作「水産關係法規解説」発行所大日本水産會 昭和5年6月10日発行
  • 18. 編者水産廰経済課「漁業制度改革=新漁業法の條文解説=」日本経済新聞社 昭和25年4月10日発行
  • 19. 金田禎之「新編 漁業法詳解」成山堂書店 平成13年8月28日発行
  • 20. 森須和男「李ラインと日本船拿捕」「北東アジア研究」第28号(2017年3月)付表参照—島根県立大学浜田キャンパス
    http://hamada.u-shimane.ac.jp/research/organization/near/41kenkyu/kenkyu28.data/hokutou28_7_morisu.pdf#search='%E6%9D%8E%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3+%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%BC%81%E8%88%B9%E6%8B%BF%E6%8D%95+%E6%A3%AE%E9%A0%88%E5%92%8C%E7%94%B7'
  • 21. 末永芳美「マグロ資源をめぐる国際情勢」(p150〜154)食材魚貝大百科 別巻1 マグロのすべて 河野博・茂木正人監修・篇 平凡社 2007年2月16日発行
  • 22. 海野洋「水産庁取締船乗船記 対馬海峡、本日も波高し(全編)及び(後編)」「水産界2010年11月号及び12月号」大日本水産会発行
  • 23. 末永芳美編著「二〇〇海里漁業戦争をいかに戦ったか 30人の証言、その時に」農林統計出版 2020年3月26日出版