水産振興ONLINE
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2020年7月

漁業の取締りの歴史—漁業の取締りの変化を中心に—

末永芳美(元東京海洋大学大学院 教授)

第10章 おわりに

戦前の農林省水産局の漁業取締船が違反漁船との対峙で武器使用を議論した事態は、漁業取締船速鳥丸が「大正3年に取締りに従事中に第2関門丸という違反船から逆襲衝突されるといった事件があり、取締船の武装の可否が論ぜられた」(黒肱善雄 昭和50年)という。

もう一つは、初鷹丸は「昭和8年、白鴻丸(76トン)が三津浜に配備されるまでは、…豊後水道で甚だ悪質な違反船に、空砲ではあるが7.7m/m機銃で威嚇射撃したことがあるという」黒肱善雄 昭和53年)ことがあったようだ。その後、戦時体制になると農林省船舶は大半が海軍に徴用され機銃や船首小型砲を装備するようになりかなり常態化していた。

令和の時代になり日本海の大和堆で北朝鮮が銃らしきものを向けたとの情勢があり、2019(令和元)年10月7日に水産庁漁業取締船と北朝鮮イカ釣り漁船との衝突が起こり、新聞等でも様々な意見が見られた。平成の時代にも2017(平成29)年7月7日に水産庁の用船に銃口が向けられ、当時の国会でも問題にされた。小型武器の保有は法律事項である。外国漁船の侵入抑止できないのは取締船の小型武器の装備が無いからとの論調が一部にみられたが、これまで漁業取締りの歴史を見てきて、一番問題になるのは政府間に話合いが無く合意もなく、双方の立場に食い違いがある限り、現場の不幸な問題は防げないという事だ。小型武器の有無だけでは解決するものではない。過去の漁船員の人命が損なわれた事件がどれだけ国民感情・国際関係を悪化させたのかを我々は知っている。ことの本質は漁業資源をいかに保存し持続的に利用できるようにしていくことだ。そのためにも、対話の道を探るよう努力することだ。