水産振興ONLINE
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2020年7月

漁業の取締りの歴史—漁業の取締りの変化を中心に—

末永芳美(元東京海洋大学大学院 教授)

第8章 都道府県の漁業取締りについて

当初に書いたように、江戸時代から明治時代へと変わったものの明治政府は水産行政にまで即座に及ばず当時の府県等は自ら漁業取締規則等を作り行政を担ってきた。

それぞれ府県等は各々の資源保護規則をもっていたためである。沿岸漁業資源の保護には慣行的なルールやそれぞれ地元に即したルールが引き継がれてきた。明治から大正時代にかけて機船底曳き網漁業が発達してくると、零細沿岸漁業者との摩擦も激しくなっていく。大臣が許可した漁業には農林省が夫々の漁業ごとに取締規則を制定し農林省の漁業取締船が禁止区域などの取締りにあったがそれで完璧ではなく、被害を受ける沿岸漁業者の保護や、昔からある漁業権漁業種で定着性の資源のあわびやナマコなどへの密漁防止などは府県独自で取締るインセンティブがあった。

また、県知事が独自で許可を出す小型底曳き漁船や中型巻網漁船等への取締りの必要もあった。又、他県漁業者が進出又は侵犯してきて県の地先の漁業資源を密漁することがあった。そのようなことで、都道府県ではそれぞれの都道府県の自然条件や漁業種類に即した漁業取締船を所有している。特に北海道の場合などのように冬季の厳しい気象条件やロシアとの摩擦を抱えている場合は大型漁業取締船や取締艇を4隻も保有し、時には傭船も導入し、航空機による監視をおこなっている。漁業の盛んな漁業大型県では航空機の取締りも取り入れたり5隻前後の取締船艇を保有しているところもある。通常は1〜3隻の高速漁業取締艇を保有する都道府県が多い。又沿岸の浅瀬の貝類や高級魚貝を狙う密漁者(場合によっては反社会勢力)に対処すべくウォータージェット推進装置を装備するものも多い。また、水産庁では、大型の排水型船型の仕様の取締船を多く所有する中で、唯一瀬戸内海漁業調整事務所の取締船は高速艇として瀬戸内各県を跨ぐ取締活動をしている。しかしながら、船型の違いもあり通常の外洋型の水産庁漁業取締船との連携は困難な面もあり都道府県漁業取締船は高速の海上保安庁の巡視艇、又は、都道府県警察との連携が強い傾向はある。都道府県にとって、陸上についての広範な捜査網を有し、密漁に加担する陸上要員を含めた反社会勢力への対抗の必要上、同じ自県の組織という点で都道府県警察との人事交流も行い連携の強い都道府県もある。都道府県漁業監督吏員は県独自の漁業調整規則を有し魚介類の禁止体長、殻長制限等にも目を光らせている。筆者の記憶に残る漁業監督吏員はたばこを嗜んでいたが、煙草を吸うそぶりをしてはそれを定規替わりに漁獲物にそっと当ててはカニの甲長制限のチェックをして密漁検査をしていた。

筆者がHPから検索した各都道府県の都道府県漁業取締船72隻の一覧を示しておこう。それぞれの県などの取締船艇の仕様であるが、白色船体に塗装されたものもあれば、灰色塗装にして迷彩性を高めた塗装の県の船艇もある。都道府県の漁業取締船艇は総合すれば強力な勢力であることが分ろう。(表6)

表6 都道府県漁業取締船(各都道府県HPを検索し筆者が集計作成 20200210現在)
表6 都道府県漁業取締船(各都道府県HPを検索し筆者が集計作成 20200210現在)

なお、都道府県には水産試験場等に漁業調査船を保有していることが多く、これらの船は漁業指導船の機能を兼ねることも多い。これらを含めればより大きな勢力と見ることができよう。