水産振興ONLINE
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2020年7月

漁業の取締りの歴史—漁業の取締りの変化を中心に—

末永芳美(元東京海洋大学大学院 教授)

第2章 漁業取締りに関する
先行研究・調査、関連書籍について

漁業や漁政に関する調査や研究成果は多数みられるものの、これまで漁業取締りに焦点を当てた論文や書籍は案外少ない。一般に、事件として日本漁船や漁船員の拿捕、衝突等が起きた時等、例えばロシア官憲による日本漁船の拿捕、その逆に外国漁船である中国漁船の小笠原諸島でのサンゴ密漁等は報道が大きくなされるが、個別事件としてではなくあまねく漁業取締りという観点から取りまとめられたものはほぼ無い。

その中で、黒肱善雄著「農林省船舶小史(1)〜(6)」は、戦前の漁業取締船に焦点を当てている稀有な著作である。水産庁東海区水産研究所業績C集さかなNo. 14号(昭和50年2月)〜No. 22号(昭和54年3月)に6回に亘って投稿されたものである。数少ない戦前の調査取締船の活動について、丹念に調査の上記述がなされている。1913(大正2)年〜1954(昭和29)年までの記録である。

今日、特に東アジアで海洋覇権を巡る争いが激化する中、領土問題や国境問題にも国民の関心が高まっている。

そのため、海洋覇権や漁業取締り、海の国境問題等に関する本が多方面から執筆出版されるようになってきた。近著として 2019年には、元海上保安庁長官の著書(佐藤雄二 2019)や水産庁漁業取締船船長の著書(橋本高明 2019)などが相次いで出版されている。

また、学術的には海上保安大学校の研究者による戦前、戦中の「海上保安」を扱った論文(井上彰朗 2018, 19)も発表されている。

今回取りまとめた本著は、「漁業取締り」に焦点を当てたものである。これに関心のある研究者が、更に一層調査や研究を進めるきっかけとなり、行政官等の行政施策の参考になればと願う。

巻末に本著で利用させていただいた引用文献・参考文献を掲げておくので参照にしていただきたい。

なお、本著で引用元は(著者名、発行年、頁 —— 要すれば)で示している。