水産振興ONLINE
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2020年3月

2019年度東京水産振興会講演会(1)
「わが国周辺の水産資源の現状と見通し 〜増える魚、減る魚〜」講演録

和田 時夫((一社) 漁業情報サービスセンター会長)

5. おわりに — 資源管理の推進と生産・流通・消費の連携の必要性

これまで、わが国周辺の水産資源の状況について様々な角度から見てきました。現時点では、海洋環境の変動や外国漁船を含む漁獲の影響により、わが国周辺の水産資源の多くが良好な状態にあるとは言えず、漁獲量も伸び悩みや減少傾向を示すものが多い状況にあります。

従来、わが国周辺の水産資源のうち浮魚資源は北太平洋の周期的な水温変動に対応して増減を繰り返してきました。最近も、マイワシが増える一方でカタクチイワシをはじめとする他の浮魚資源が減少傾向を示すなど、この関係が維持されているようです。しかし、サンマやスルメイカでは、環境変動に対応した資源変動に加えて、外国漁船を含む漁獲の影響により資源水準が大幅に低下しているほか、シロザケに見られるように、地球温暖化による水温上昇が再生産関係に影響を及ぼすなど、新たな資源変動要因について一層の注目と対応が必要です。底魚資源においても短期的には比較的安定しているものの、沿岸域の環境変化や相対的に高い漁獲圧の継続等により、中・長期的には減少傾向を示すものが多い状況です。将来にわたってわが国の漁業を持続可能な形で継続させるためには、短期的には漁獲量制限を余儀なくされる事例があるにせよ資源管理の徹底が必要です。また、公海域や関係国との間の共同管理水域においても、資源の持続可能な利用を前提とした操業秩序の確立が不可欠であることは言うまでもありません。そのためには国際機関や関係国との協議において、科学的な調査活動に裏付けられた主張を強力かつ継続して展開する一方、わが国EEZにおける違法操業に対しては徹底した取り締まりが必要です。

以上ご紹介した近年の漁業生産の減少・変動は、一般消費や加工などの市場ニーズに対応した水産物の集荷と供給を難しくしています。少子・高齢化や人口減少にともなう、地方の水産地域での過疎化の進行や国内のトラック輸送における人手不足がそれに拍車をかけています。一方、漁業生産の側では、漁業法の改正にともないIQ(Individual Quota;個別割当て)制度の拡大も視野に入れた水産資源管理の強化が検討されています。こうした状況に対応するためには、集荷・輸送・販売の効率化や計画生産・計画出荷(出荷調整)が必要です。生産側と加工・流通・消費の側で生産情報や市況情報を交換、共有し、需要に見合った生産や出荷を行うとともに、異なる地域や事業の間での協働を通じて、冷蔵庫や輸送手段などの流通関係のインフラ運用の効率化を図ることが必要ではないかと考えます。これは、水産地域の社会・経済政策との連携・協調につながるとともに、産地・消費地を通じたフードロスの削減にもつながり、適切な資源管理の実行とあわせて、わが国水産業におけるSDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)の達成にも貢献するものであると考えます。