水産振興ONLINE
620
2020年2月

ノルウェーにおける最先端養殖技術 —現在と将来—

金子 貴臣(元(国研)水産研究・教育機構 中央水産研究所 研究員)

第3章 将来確立される可能性がある最先端養殖技術
—開発ライセンス制度がもたらす異次元の技術開発—

AKVA グループが販売している養殖機器を「現在の到達点」とするならば、これから紹介する内容は「将来の到達点」になりうる技術と言える。ノルウェーの養殖業は成長を続けていく中で、いくつかの課題も生んできた。特に、「サケジラミの感染拡大」や「養殖魚の逃避」は根深い課題である。また、産業の成長という観点からは、環境収容力も問題になりつつある。ノルウェー沿岸には既に多数の養殖生簀が投入されており、これ以上の投入が難しい地域も出始めている。ノルウェーの養殖業は、常に成長を遂げてきた産業であるが、ここに来て成長が止まるのではないか、という危機感がある。「サケジラミ」「養殖魚の逃避」といった、今ある課題を解決しつつ、環境収容力の限界を超えていく、革新的な技術開発が求められている。そのような技術開発を、国として進めていくためにノルウェー政府が創設した制度が「開発ライセンス(Development License)」制度である。

開発ライセンス制度とは

開発ライセンス制度の創設とそのスキーム

開発ライセンス制度とは、環境収容力の限界や環境汚染等問題を解決しうる新たな技術開発を支援するため、ノルウェー政府が、一時的な制度として2015年に創設した特別な養殖ライセンスの制度である。開発ライセンス制度は、大規模な投資を伴い、かつ大きなイノベーションを起こしうるプロジェクトを事業者が提案する。それを漁業局が審査し、合格したものについて、特別な養殖ライセンスである「開発ライセンス」を発行するという仕組みである。この制度は、国家全体での技術開発の推進を目的としているため、各プロジェクトで得られた知見については、一定程度、養殖業界全体で共有することが求められている点も特徴の一つである。

この制度の最も驚くべき点は、この国家規模での技術開発に政府補助金を一切使っておらず、民間投資で行われている点にある。そして、その投資規模も、1つのプロジェクトで、数十億、ものによっては百億円を超える規模に達するようである注1。2019年4月30日現在で11のプロジェクトが審査を通過し、ライセンスが発行されている点を踏まえれば、全体として次世代養殖技術の開発に数百億円から一千億円を超えた金額が投資されているとみられる。

ただ、この民間投資を主体とした技術開発の推進には、ちょっとしたカラクリがある。この開発ライセンスによる研究開発は、「提案した研究開発を、提出した計画に基づいて実施する」という契約を、提案者とノルウェー漁業局が結ぶ形で実施される。ライセンスの受領者は、その研究開発を契約通りに履行すれば、開発ライセンスを1,000万ノルウェークローネ(日本円で約1.4億円)を支払うことで、一般の商業ライセンスに転換できるのである。一方で、現在、養殖業の商業ライセンスの時価は、この転換価格を遥かに上回っている。2018年にオークションによる商業ライセンスの新規発行があったが、この際についた値段が、1ライセンス(780トンまで養殖可能)あたり、およそ1億〜2億ノルウェークローネ(およそ15億から30億円)であった。つまり、開発ライセンスの審査を通過し、漁業局と契約を結び、計画を契約通り履行しさえすれば、その後、開発ライセンスを商業ライセンスに転換することで、(1ノルウェークローネを13円で換算すると)、1ライセンスあたり、12〜25億円の「差額」分を資産として得られるのである。開発ライセンスを、商業ライセンスに転換できるかどうかの条件は、「計画を予定通り遂行したかどうか」であって、「技術開発がうまくいったかどうか」という点もポイントである。つまり、挑戦的なプロジェクトを提案し、高額な研究投資を行うことになったとしても、それを予定通り実施さえできれば、十分に回収できる「見込み」が立つ制度なのである。開発ライセンス制度とは、言い換えれば、開発ライセンスを商品とした、国家規模の技術開発コンペである。

開発ライセンスへの公募は2016年〜2017年までに実施されていて、104件の応募があった。現在、公募は締め切られており、応募されたものについて審査を実施し、順次ライセンスを発行している状況にある。この制度は、多額の資金が動くため、審査の内容も一定の情報開示が行なわれており、また、審査結果に納得がいかなければ申し立てを行えるような制度になっている。また、審査も外部委託といった形で行われているわけではなく、全て「漁業局の職員」が実施している。漁業局でこの制度の責任者を務めているAnne Osland 氏にお話を伺ったところ、この制度には、50の法律専門家、8人のエンジニア、他、経済学者、生物学者などが関わっており、それぞれの専門的知見に基づいて審査を行っているという。特に、8人のエンジニアについては、この制度のためだけに雇用された専門家ということであった。

現在進められている技術開発

新技術開発の方向性 その1: 大規模沖合養殖技術の開発

ここからは、この開発ライセンスを活用して開発が進められているいくつかの「具体的なプロジェクト」を紹介しながら、ノルウェーの養殖業がどのような最先端技術を開発しているのか紹介していきたい。

まず、最初に紹介したいのは、大規模な沖合養殖技術開発のプロジェクトである。大規模沖合養殖については、規模の経済というメリットを活かすことができる、沖合に養殖環境を移すことでサケジラミなどの問題が緩和されるという期待から、いくつかのプロジェクトが進められている。開発ライセンス制度に最初に認定され、かつ最も進捗度が高いプロジェクトが、ノルウェーの Salmar 社が進めている「Ocean Farm One」プロジェクトである(図3-1)。このプロジェクトは、巨大な黄色の鋼鉄製の養殖生簀を沖合に浮かべ、大規模にアトランティックサーモンの養殖を行うプロジェクトである。既に建造されて試験が行われており、最初に養殖されたアトランティックサーモンの出荷も完了している注2

既に、日本でも業界新聞などで断片的に紹介されているので、ご存知の方もいるかもしれないが、この養殖生簀は高さ68m、直径110m という大きさ注3で、250,000立法メートルという容積があり、報道によればその中で150万匹のアトランティックサーモンが飼育可能ということである注4

図3-1 Salmar のOcean Farm One。既に稼働している。(Credit: Salmar ASA,同社より許諾を得て掲載。)
図3-1 Salmar のOcean Farm One。既に稼働している。
(Credit: Salmar ASA,同社より許諾を得て掲載。)

これだけ巨大な養殖プロジェクトだが、その建造にはノルウェー国内外の複数の企業が関わっている(表3-1)。

表3-1 Ocean Farm One プロジェクト参画企業・団体(出典:Salmar 社 HP https://www.salmar.no/en/offshore-fish-farming-a-new-era/)
表3-1 Ocean Farm One プロジェクト参画企業・団体

この中で注目したい企業がいくつかある。まず、デザインとシステムの統合を行っている Global Maritime 社である。同社はノルウェーにある洋上石油プラントなどの技術を持つ開発コンサルタントである。Ocean Farm One は、洋上石油プラント同様に沖合で係留されている。つまり、設計自体に、石油産業で培われたノウハウが転用されているのである。拙著、「ノルウェーのグローバル・インテグレーションの展開—ノルウェー資本の拡大—」でも触れたが、ノルウェーの水産業界は自国の石油産業と関連性が深い。そして、その強力なつながりは、養殖業の最先端技術の開発においても活かされているようだ。

次は、Kongesberg Maritimeである。同社はKongesberg グループで、同グループはノルウェーの最先端技術を開発しているグループである。軍事技術や衛星技術、海洋関係を事業領域に抱えている。日本でいえば、㈱IHI や川崎重工業㈱を想像すると分かりやすいかもしれない。後述するMariculture プロジェクトも同社が関わっている。つまり、ノルウェーにおいて養殖技術の開発は、軍事技術の開発を行う最先端技術を持つ企業が関わる領域なのである。

次は SINTEF である。SINTEF は前章でも言及したが、ノルウェー産業科学技術研究所の略称である。これらの沖合養殖施設のモデル実験については、SINTEF が行っており、Ocean Farm One も、SINTEF の施設で小型模型を浮かべて実験をしたと聞いている。AKVA グループの養殖イケスの実験もSINTEF の施設で行われていたことを踏まえれば、SINTEF が養殖産業の技術開発に大きく貢献していることは疑いの余地が無いだろう。

そして、もっとも注目すべき企業はこの建造を行っている。CSIC QWHI である。これは、China Shipbuilding Industry Corporation Qingdao Wuchuan heavy industry Co. Ltd(中国船舶重工集团公司 青岛武船重工有限公司)の略である。つまり中国の超大型国有企業である中国船舶重工集团公司の一部門が建造した、ということである。同グループは、中国の重要な軍需企業の1つで、中国国産空母や海軍艦船の建造も手掛けている組織である。中国船舶重工集团公司にはいくつかの子会社があり、そのうちの1つである武昌船舶重工集团有限公司の子会社が、青岛武船重工有限公司である。ノルウェーは、設計などの主要な部分は自国で技術を囲い込んでいるものの、実際に「ハード」を作る部分については、造船業が盛んな中国に委託したと考えられる。ただ、この判断が、後述する中国での沖合養殖施設の開発につながっている、と私は考えている。

Ocean Farm One は開発ライセンスに基づき展開されているプロジェクトの中でもっとも進捗度が高く「実証段階」にある。一方、沖合養殖大規模養殖プロジェクトの多くは、ライセンスは受領したものの実証はまだ始まっていない。その1つとして紹介するのが、Mariculture AS(現在は Salmar の子会社)がライセンスを受領した「Smart Fish Farm」プロジェクトである(図3-2)。同プロジェクトは、Ocean Farm One よりも、さらに大型の沖合養殖生簀を投入する計画である。報道によれば注5、直径160mで、300万匹のアトランティックサーモンを飼育できるということなので、単純に Ocean Farm One の倍の魚を飼育できるということになる。また、Ocean Farm One は「世界初の沖合養殖」をコンセプトとしているものの、実際はノルウェーの島嶼群より内側に投入されているため、本来の意味で「沖合養殖」と呼べるか疑問の余地がある。一方、「Smart Fish Farm」が投入される予定の海域は、沖合ノルウェー EEZ 内ではあるものの、外洋域なので、正真正銘の「沖合養殖」生簀と呼べるだろう。このプロジェクトは、2019年の2月に開発ライセンスの交付が決まったばかりなので、今後具体的な計画が動いていくことになる。

図3-2 Mariculture のSmartFishFarm プロジェクト(Credit: Salmar ASA,同社より許諾を得て掲載。)
図3-2 Mariculture のSmartFishFarm プロジェクト
(Credit: Salmar ASA,同社より許諾を得て掲載。)

新技術開発の方向性 その2: 移動可能な大型養殖生簀の開発

次に紹介するのは、開発ライセンス制度でもっとも多くのライセンスを獲得したNordlaks 社の船型養殖生簀 Havfarm である。現在、この生簀は建造が進められているとのことで、全長385m、タンカーほどの大きさがある注6。同社のHP 注6を見れば、その巨大さに圧倒されること間違いない。報道等によれば、このプロジェクトにも EU の主要なハイテク企業が複数関わっているとのことである。例えば、航空機エンジンや防衛技術で名高い英ロールスロイス社は養殖イケスの移動のため、6機の大型推進機(TT1100)を供給する注7。また、独シーメンス社は陸上から同養殖イケスに対して陸上から電気を供給するためのケーブルや、オートメーションサービスを供給している注8。そして、この建造についても中国の大手造船企業 CIMC Raffles が受注している注9。同社は中国の国営企業グループ中国国際海運集装箱(集団)股份有限公司の子会社で、洋上プラントなども手掛けている。また、韓国の大手財閥が、この方式で養殖業界に参入することを検討しているといった報道もある注10

新技術開発の方向性 その3: 密閉型養殖生簀の開発

世界最大のサーモン養殖業者である MOWI 社(旧 Marine Harvest 社)が取り組んでいるプロジェクトが、Egg というコンセプトの、密閉型の養殖生簀である(図3-3)。Egg は、高さ44m、幅33m の卵型をした遮蔽型の生簀で、90% が海中に沈んでいる注11。これまで紹介した沖合養殖生産の事例とは異なり、沿岸域での投入が予定されており、14の開発ライセンスを得ている。報道によれば、2019年中に魚を飼育し始める予定であるとされている注11。遮蔽型の養殖生簀が開発される背景としては、養殖魚の逃避とサケジラミの問題があると推察される。養殖生簀を外部と隔絶することにより、逃避と外部からのサケジラミの侵入、両方を解決することが期待されている。

新技術開発の方向性 その4: 個体レベルでの養殖管理

最後に紹介するのは、三菱商事の子会社であるCermaq 社が手掛けるiFarm プロジェクトである(図3-4)。同プロジェクトは2019年3月に4ライセンスを受領している。このプロジェクトで同社が目指しているは、コンセプト映像注12を確認してもらうとよくわかるが、アトランティックサーモンを画像認識技術により個体識別し、個体ごとに体サイズやサケジラミの感染状態などを分析して管理し、飼育する技術である。他のプロジェクトが、沖合域への拡大や、外部からの遮蔽といった方向性を志向しているのに対し、このプロジェクトは個体識別の技術により、魚類養殖を「集団」という単位から「個体」という単位に変えようとする発想がユニークである。

図3-3 MOWI 社のEgg コンセプト。
図3-3 MOWI 社のEgg コンセプト。
(Credit: MOWI ASA,同社より許諾を得て掲載。)

日本でも、養殖生簀内の映像や画像を、画像解析技術を用いて解析し、数量把握やサイズ計測に活用しようという動きはあるものの、個体ごとに魚を管理しようという野心的な取り組みにまで発展していない。この技術が確立されると、魚類養殖は畜産業のように、個体毎での管理を基本とする産業に転換する可能性がある。

図3-4 iFarm コンセプト。養殖イケス(上)に画像認識技術により個体識別を行う装置(下)を装着し、タイセイヨウサケの個体管理を目指す(Credit: Cermaq Group AS,同社より許諾を得て掲載。)
図3-4 iFarm コンセプト。養殖イケス(上)に画像認識技術により個体識別を行う装置(下)を装着し、タイセイヨウサケの個体管理を目指す
(Credit: Cermaq Group AS,同社より許諾を得て掲載。)

開発ライセンスを獲得したプロジェクト・落選したプロジェクト

2019年4月30日時点で、ノルウェー漁業局から開発ライセンスを認められたプロジェクトは、表3-2の通りである。11のプロジェクトが開発ライセンスを受領している。一方で、それらをはるかに上回る85のプロジェクトについて、既に「落選」が決まっている。

表3-2 開発ライセンスを受領したプロジェクト一覧(出典:ノルウェー漁業局 HP)
表3-2 開発ライセンスを受領したプロジェクト一覧
(出典:ノルウェー漁業局 HP)

Anne Osland 氏によれば、落選した理由はいくつかに分かれている。1つは、採択条件になっている「極めて革新的」と認められなかったものである。革新的ではあるものの、既存技術との差が明瞭でなかったものなどは、このような評価を受けて落選したらしい。落選組でも、我が国の研究開発成果と比較して、十分革新的と感じられるものが多いが、ノルウェー漁業局が開発ライセンスを与える条件は、更に上ということなのだろう。

また、「コンセプト自体は革新的だが、実現の可能性が低い」という観点から落とされたものもある。漁業局の審査は多数の専門家により実施されており、そういった人々から「危険」と判断されたケースである。特に、強度などの観点から安全性が疑問視されたプロジェクトなどが落選している。開発ライセンス制度に基づいて提案されているプロジェクトは、既存のものよりも大きな養殖生簀の建造が提案されていることが多い。万が一、巨大な養殖生簀で飼育されているアトランティックサーモンが、破損により逃避してしまうことになれば、環境に甚大な被害を与える。そういった安全性の観点から、漁業局の判断で落選したものがある、ということである。

中国の驚異的な技術開発

中国の国営企業の動向

ここまで、ノルウェーにおける最先端養殖技術の開発動向について述べたが、我が国にとってより悩ましい問題はここから先にある。それは、中国が同様の沖合養殖技術の開発に熱心に取り組んでおり、いくつかのプロジェクトが既に実証段階に移っている、ということである。

まず紹介したいのは、最も開発の進捗度が高いと思われる「深藍1号(Deep Blue One)」プロジェクトである。このプロジェクトについては現地を調査する計画を立てていたものの、諸事情で調査が中止となってしまった。そのため、ここから先の情報は、各国の報道等から得られた情報から全体像を推測したものであり、記載した内容に誤りがある可能性も否定できないので、その点については、ご容赦願いたい。

このプロジェクトは、日照市と青島市の沖合130海里(約240km)注13に、大型の沈降式のイケスを浮かべ、沖合養殖を行うプロジェクトである。この沖合養殖生簀は、高さ38m、外周180m、容積50,000立方メートルの大きさ注14で、多角形の形状をしている。色も含めて、ノルウェーの Salmar 社が投入したOcean Farm One とよく似ている。(リンク先注13注14注15の画像をご確認いただきたい。)

それもそのはず、この養殖生簀の建造は武昌船舶重工集团有限公司であり、設計はその子会社である、湖北海洋工程装斎研究院有限公司が行ったからである。つまり、Salmar 社のOcean Farm Oneを建造したグループと同一のグループである。デザインについては若干の違いがあるものの、Ocean Farm One の製造で培われた技術やノウハウが“転用”されている可能性は高いだろう。デザインの違いという点では、Ocean Farm Oneでは生簀の上に建屋があったが、この生簀には建屋が無い。これは、台風対策のためだと推察される。報道注15によれば、中国の等級でいうと12級台風(32.7-36.9m)に対応できる、ということのようだ。中国水産科学院の公式HP 注16によれば、2018年7月に中国を襲った台風10号Ampil による、風力10級(24.5-28.4)、波高5.5m の状況に耐えたとのことである。もし事実であれば、その性能はカタログ上だけのスペックではなさそうである。

このプロジェクトには、現地の水産会社や上海海洋大学が関与しており、30万尾のサケ科魚類を飼育しているとのことである注17。中国の水産事情に詳しい関係者の意見では、中国は黄海に広がる冷水塊を活用することを悲願としているようで、そういった背景からサケ科魚類が選定されたのではないかと考えている。既にプロジェクトは、一定の成果を収めているようで、2019年中には「深蓝2号」の建造に着手するという報道がなされている。この“深蓝2号”は、1号よりもさらに大きいとのことで、直径80m、最大高度80.3m で建造が計画されている注18

また別の動きとして、同じ国営造船企業である CIMC Raffles 社も養殖業に強い関心を抱いているようで、その子会社である CIMC Blue が2019年に「Long Whale」と呼ばれる、高さ30.5m、6万立方メートルの大型養殖イケスを立ち上げて、スズキやアイナメを飼育し始めていると報道されている注19。CIMC Raffles 社と言えば、Nordlaks 社のHavfarm の建造を受注した企業である。Havfarm については現在同社で建造中とみられるが、Ocean Farm One 同様に、その建造で培われたノウハウが、将来中国の技術開発に転用される可能性は否定できないだろう。

このように、中国の国営大型造船企業が、沖合養殖技術を開発するため、大規模なプロジェクトを推進していることが、少しずつ報じられてきている。そして、いくつかのプロジェクトについては、ハードの設計・建造を完了して、魚を飼育する実証段階に移り始めているようだ。このスピード感は目覚ましく、我が国もその動向について情報収集を行い、対応策を検討しておくことが必要となるだろう。中国は隣国であるためその影響は大きく、1)中国の大規模沖合養殖施設で生産される魚種は我が国の養殖魚種と被る可能性があり、国内外の市場で直接的に競合する可能性があること、2)台風対策など温帯・熱帯域で必要となる技術の開発を中国が進めることで、今後、温帯・熱帯域の沖合養殖施設開発を中国が主導する可能性があること、3)我が国の安全保障上重要な海域で、中国のみが「沖合養殖」の構造物を設置し、経済活動の実績を作りかねない、といった可能性が指摘できるだろう。

実際に現地調査をすることは叶わなかったので、これのプロジェクトが国営企業の企業戦略に基づいて進められているのか、あるいは国策として進められているのか判断することは難しいが、仮に中国の国策として、このような沖合養殖技術の開発を進めているのであれば、展開される養殖ビジネス自体の採算性に多少難があっても、その技術開発自体は推進されていく可能性がある。ノルウェーも、開発ライセンス制度を創設し、民間による大規模投資を可能とすることで、イノベーションを起こそうとしており、これもまた「国策」と言える。非常に高いリスクがある技術開発を、純粋な民間投資のみに任せて行うことは難しいのだろう。このような大型の研究開発を進めていくかどうかは、国としての判断が必要な領域である。

報道引用先: