水産振興ONLINE
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2019年9月

中・小型漁船市場をめぐる産業構造の変遷—船価高騰にどう影響したか—

濱田 武士(北海学園大学経済学部 教授)

第四章 漁船の需給と船価

資材価格の動向

中・小型漁船市場の産業構造は、船体にFRP素材が利用されるようになり大きく変わりました。船質(船殻素材)が木材という地域資源から化学素材に転換したことで、化学素材メーカー、造船メーカーなど大企業群が関わるようになったことです。同時にそれは、他のFRP市場と大きく関係するようになりました。そこで、国内FRPメーカーによるFRPの出荷量と舟艇・漁船用途別市場への出荷量を示した図4-1をみましょう。

実はFRP素材は、樹脂と繊維ガラスで構成されますが、国内の出荷量は1990年代後半から大きく減少しています。中国などからの輸入が毎年増えつつあり、そのシェアは13%となっていますが、それを加えても減少傾向です。FRP市場自体が大きく縮減していることがわかります。他の素材にとって代わったということです。舟艇・漁船用途市場においては1979年がピークであり、その後急落し、1980年代後半にもう一度増加し、1990年に第二のピークがあってその後落ち続けています。FRP漁船は1995年まで総トン数合計で増え続けましたが、その動向とは大きく異なります。

図4-1 国内メーカーからのFRP素材の全出荷量と舟艇・船舶用途別市場への出荷量の推移/資料:橋本博文(2015)
図4-1 国内メーカーからのFRP素材の全出荷量と舟艇・船舶用途別市場への出荷量の推移
資料:橋本博文(2015)

その間、化学素材メーカーの中には、樹脂生産などFRP素材から撤退を図るメーカーもありました。そしてFRP素材の供給体制自体が縮小しています。

では、昨今の素材価格はどうなっているのでしょうか。あくまで造船所で聞き取った例ですが、一例を示したいです。表4-2です。比較は2003年と2018年です。2003年は先物市場で投機筋がもたらした価格上昇が発生する直前で、価格が投機筋に攪乱されていません。

表4-2 あるFRP造船所の素材仕入れ価格(円/キログラム)の変化/資料:B社からの聞き取り
表4-2 あるFRP造船所の素材仕入れ価格(円/キログラム)の変化
資料:B社からの聞き取り

この表の通り、2003年、2018年比較で素材全ての価格が上昇していることがわかります。とりわけ、不飽和ポリエステル樹脂、心材に使うポリウレタン、艤装類に使用するステンレス材の価格上昇が著しいです。

図4-2 アルミ価格の推移/資料:ロンドン金属取引所
図4-2 アルミ価格の推移
資料:ロンドン金属取引所

アルミはどうでしょうか。図4-2に示しました。2004年からやはり投機筋に攪乱され価格が急騰しましたが、リーマンショック後が急激に落ち込みました。しかし、その後ジワジワと上昇しています。ちなみに2003年の価格は約167円/kgでありましたが、2018年は約232円/kgとなりました。139%の変化です。アルミ漁船の艤装類には昨今ステンレス材が多用されるようになっていることも加えると、そのことも併せて素材の仕入れ原価が上がっているといえます。

これらの素材は、用途別市場の新素材への転換や供給体制の再編の動きによって市況が変わります。しかも市況は世界市況です。今後についてはわかりませんが、2004年〜2008年の先物市場への投棄的資金の流入期を除けば少なくとも、素材価格の推移は上昇傾向を示しています。その点も、船価高騰に影響したと思われます。