水産振興ONLINE
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2019年9月

中・小型漁船市場をめぐる産業構造の変遷—船価高騰にどう影響したか—

濱田 武士(北海学園大学経済学部 教授)

第四章 漁船の需給と船価

船価の高騰とその要因

漁船には海上交通・運輸機能に加えて、魚群探索機能(魚群を見つける機能)、漁労機能(漁具を運用したり、魚を集めたりする機能)、保蔵・加工機能(漁獲物を凍結させたり、漁獲物の鮮度を維持したり、漁獲物を加工したりする機能)がありますⅸ)。漁船間には漁獲競争、乗組員の獲得競争、商品競争があるため、これら4つの機能に関わる新たな部分技術がグレードアップされ、漁船は重装備化されていく運命をもっています。代船建造のたびに船価が上昇するのは至極当然のことです。1989年4月に消費税が導入され、1997年4月、2014年4月に消費税率がアップしてきたことも船価上昇の原因の一つとなっています。

また漁船は、オーダーメイドで建造され、艤装されるため、全く同じ仕様のものはないとされています。大手メーカーの船体は、商品規格があるため同じものは存在しますが、機関やその他艤装まで含めると違う仕様になります。そのため、船価の動向を把握するのは難しいです。

本調査で、聞き取りによって得られた内容をここでまとめておきたいです。主に東日本大震災前と現在の違いを聞いた内容です。

ある大手メーカーでは、船体の価格はおおよそ15%上昇したとのことでした。船価の構成は、船体1/3、機関1/3、艤装1/3になっており、昨今は艤装の高度化に伴う原価の上昇が船価にもっとも影響しているとのことでした。かつては船価の1/3を占めることはなかったといいます。

あるFRP漁船を建造する中小造船所では、4.9トンの船価が震災前→現在において5,600万円→7,500万円に、うち船体原価に限ると1,450万円→2,000万円でした。船価にして34%、船体部分のみで38%上昇したことになります。

同じ船型ならば、中小造船所の船体の原価は大手メーカーの2割安だという目安がありました。単純に比較できないですし、あくまで一例の比較ですが、上記の状況から判断すると、中小造船所と大手メーカーの差が縮まっているようにも思えます。ただし、聞き取りをした中小造船所は、技術改良や設備投資を重ねてきて製造原価を高めてきました。設備の高度化で品質を上昇させるわけですから、自ずと製品の付加価値も高くなります。それだけではありません。FRP素材の原価、人件費の上昇もここに反映されています。

アルミ漁船を建造している造船所によると、船価の1/2程度が造船所の仕事分になるらしいです(漁業種類や船型により変わる)。船体の原価はおおよそ20%上昇したとのことでした。アルミなどの素材原価と人件費上昇がもたらしたようです。なお、鉄からステンレスに材料転換されたため艤装類のコスト上昇が最も激しく、おおよそ70%上昇したとのことでした。

船価は、先に触れたように、船体、機関、艤装に分かれます。機関の原価上昇についてはほとんど聞かれなかったことから、総合すると、船体建造と艤装部分の原価上昇が船価上昇に影響しているといえます。

原因は、鋼船を建造する造船所と同じく、人手不足と下請け業者の不足にあります。中・小型漁船とはいえ、様々な航行機器類や電子機器類に加えて漁労装置が搭載され、電気工事、油圧工事などが行われます。聞き取りのなかで、塗装や電気工事費が、かつてと比較して倍以上になっているケース(2,500円/時間→5,000〜7,000円/時間)もありました。機器類が高度化して高価になっているところも、船価に影響していると思いますが、やはり工事の担い手が不足しており、工事業者は沢山の受注に対応するために、単価を上げざるを得ないという状況があるようです。漁船建造は下請けなしには遂行できません。鋼船と同じく、やはり、これが船価高騰に大きく影響しているといえます。

  • 大海原宏(1982)は、漁業技術の発展を捉えるために漁船を、漁業技術の基幹的存在として捉えて、海上交通・運輸機能、魚群探索機能、漁撈機能、保蔵・加工機能の4つの機能が集約化された労働手段体系と考えました。