水産振興ONLINE
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2019年9月

中・小型漁船市場をめぐる産業構造の変遷—船価高騰にどう影響したか—

濱田 武士(北海学園大学経済学部 教授)

第三章 縮小再編下の大手メーカーと造船所の展開

中小造船所の展開

沿岸漁船を建造する中小造船所は、建造できる船型がある程度決まっています。例えば、3トン未満に限る零細造船所もあれば、10トン未満や20トン未満あるいは30トン未満も可能という造船所があります。従業員数についても3人以下もあれば、30人程度というのもあり、幅があります。経営組織形態としても、家族・個人事業もあれば、会社経営もあります。規模の大きいほど会社経営です。

先にも触れたとおり、中・小型漁船を建造できる造船所は急減しており158カ所という水準でした。1998年時点(漁業センサス)で、1,108カ所あり、分厚い層をなしていた零細造船所(従業員3人以下)がかなり減じていると想定されます。なぜなら、零細造船所は、個人経営であり、漁業の先細りを想定して後継者(事業継承者)を育成していないケースがほとんどだからです。

事業を継続できている造船所の共通点をあげると、以下になります。①経営的に優良な漁業者を顧客にもっている(活力ある漁船漁業経営の近郊に立地していることも多い)、②後継者や職人を育てている、③商社からの受注だけでなく漁村をいろいろと周り営業範囲が広い、などです。建造する船の評判が良いということも関係していると思われます。

FRP漁船の普及時において、生き残りを図った中小造船所は「簡易型FRP成形用の型」を使った技術を導入することで新たな顧客を得ています。FRP漁船は、木造船と比較して、軽くて船足が速く、積載量も大きいうえに、浜にあった船型が供給されるようになりましたので、漁業者も競って木造漁船をやめてFRP漁船に切り替えるようになりました。

しかし、それは70年代から始まった木造船からの切り替えによる、代船建造需要に応えるもので、船質の切り替え需要がなくなった90年代後半からはFRP漁船の代船建造需要が伸びず、造船所の廃業も続きました。

90年代後半からは、景気悪化が著しく、魚価低迷のなかで漁業者は苦しい経営を強いられるようになったため、代船建造が控えられるようになったこと、同時に漁業者の廃業が増加していったことも影響しています。

現在、FRP漁船を建造できる造船所は、FRP漁船のほとんどを占め、船外機船から19トン未満にある階層の漁船を対象としていますが、なかには30トン以上のFRP漁船を建造できる造船所もあります。最大級では150トン未満の漁船建造も可能とする造船所もあります。150トン未満を対象にできる造船所は、現在国内最大級であり、国内で1カ所しかありません。

他方、中小造船所のなかには、アルミ漁船を供給する造船所が出現しました。1980年代、アルミ業界による用途別市場拡大のための普及活動も後押ししました。

アルミ漁船は、素材こそ異なりますが、設計から建造までの技術や船体構造はほぼ鋼船と同じです。そのため、鋼船と同じく、軽合金材の板をバーナーと水で曲げる撓鉄職人や、船殻の外板の歪みをとる歪取り職人を必要とします。アルミは、鉄より軽く、錆ないし、FRPよりも耐久性があり、船体にした場合、FRPより軽いです。FRP船体は、長年利用するとクラック(ヒビ)が入り、その中に水がたまり、船体が重くなるのに対して、そうした劣化がありません。また、FRP廃材が環境問題になっているのに対して、再利用可能な素材です。そのため、漁船への適用も合理的と考えられてきました。しかし、同じ船型ならばFRP漁船よりも船価が高くなることと、電食による劣化を防ぎきれないという問題がありました。他の素材との相性の悪さがあり、電食はアルミ漁船の最大の問題とされています。

アルミ漁船建造の始まりははっきりしていませんが、筆者が調べたところ、もともと鋼船の船体を建造してきた造船所や船体建造下請け会社がアルミ漁船の建造を始めたとされます。アルミ漁船の有望性は当時から広がっていたことから、定置網漁業や優良な漁船漁業種においては、鋼船あるいはFRP漁船からアルミ漁船に切り替える動きが80年代からありました。こうした動きを睨みながら、90年代後半に、FRP漁船の限界を感じて、アルミ船体の建造技術を習得して、アルミ漁船の供給に切り替えた造船所もあります。

建造されるアルミ漁船の船型は、鋼船と異なり、中・小型漁船が多いです。先の表1-5によると、船外機や無動力/5トン未満、そして5〜19トン未満で9割以上を占めます。ただし、中には大中型巻き網漁船の付属船(レッコボート)も含まれますし、FRP漁船の建造数と比較すると1割にも満たないです。そのため、アルミ漁船は、沿岸漁船のなかで、レアな存在であるとしかいえないが、かつてより利用者が増えていること、優良漁業者が使用しているということはたしかです。

近年、アルミ漁船の建造実績のある造船所(確認できた範囲ですが)は、北海道に5カ所、東北に4カ所、中部に1カ所、関西に1カ所、四国に1カ所、九州に4カ所です。これらの造船所の中には、100トン以上の鋼船を建造している造船所もあり、必ずしも沿岸漁船に対応した造船所ではありません。また、アルミと同じ軽合金船としてチタンを材料にしたものがありますが、チタン漁船を建造できる造船所を確認できたのは1カ所でした。その造船所はアルミ漁船も建造しています。