水産振興ONLINE
617
2019年9月

中・小型漁船市場をめぐる産業構造の変遷—船価高騰にどう影響したか—

濱田 武士(北海学園大学経済学部 教授)

第三章 縮小再編下の大手メーカーと造船所の展開

漁船の取引

漁船は、一つの商品ではなく、建造された船体に、エンジン、航海機器、漁労機器などを搭載、艤装した部分技術の複合体です。他方、造船所は、船体を建造する事業所であり、その上で、エンジン、航海機器、漁労機器が艤装される場でもあります。ただし、FRPの大手メーカーの場合、工場でFRP船体を製造しますが、工場から出荷して、エンジンや漁労機器の艤装については契約特約店(鉄工所など)で行うのが主流です。もちろん、陸送が可能な船型の船体のみです。必要に応じて、大手メーカーの工場で、エンジンを搭載する場合もあります。

船外機船の場合、漁業者が船体を造船所に発注して、船外機は代理店を通じてエンジン・メーカーに発注しています。しかし、一定規模以上の漁船になると、漁業者個人が、造船所、エンジン・メーカー、航海機器類、漁労機器類などをバラバラに注文するのは大変です。もちろん、実際に各メーカーに自ら注文する漁業者もいますが、エンジン・メーカーの販売会社や漁網販売会社など「商社」に一括発注するケースが多いです。漁業者は「商社」と相談しながら造船所、エンジン、航海機器、漁労機器などの仕様を決めて、「商社」と契約します。「商社」は、契約した仕様に従って、造船所や各種機器類のメーカーに商品の発注をかけて、時には内装、電気、配管、油圧などの工事業者を手配して、造船所や契約特約店で艤装を納期までに完了させる役割を果たします。まれにこうした「商社」の機能を担う造船所もあります。造船所が漁業者に対してコーディネイトして、エンジンや航海機器などの仕様も決めさせて、一括して請け負うということです。漁船の供給者として責任を商社が負うか、造船所が負うかという違いです。ただし、漁船が大きくなればなるほど、「商社」機能が重要となるのはたしかであり、とりわけエンジン・メーカーの販売会社がそうした役割を担っています。

「商社」機能を挟む場合、造船所にとっては、商社が代金回収をするため、建造費を確実に確保できるため資金繰りに困りません。いずれにしても、「商社」機能を挟むことで、漁業者は、漁船全体の仕様を一括で決めることができ、またエンジンやその他の機器類に関してもすべて商社が面倒をみますので、支払いが細かくならず、手間が省けます。商流面でも、このような利点が働くからこそ、漁船の取引においては、漁船規模に限らず、「商社」機能は重要視されています。