水産振興ONLINE
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2019年9月

中・小型漁船市場をめぐる産業構造の変遷—船価高騰にどう影響したか—

濱田 武士(北海学園大学経済学部 教授)

第一章 漁船の登録・建造動向を統計でみる

直近20年の建造状況

水産庁は農林水産大臣許可が必要な漁船の許可数を集計しています。そのこともあって造船所から漁業者に建造した漁船を引き渡すタイミングとは異なり、時間差は生じますが、その数は漁船建造数と対応します。ただし、現在、漁船総トン数20トン以上が対象となっており、それ以下の漁船規模の建造数を把握できません。

そこで、日本漁船保険組合にお願いして、建造後に契約した漁船保険契約数を調査して頂きました。表1-1は、2000年度から直近までの漁船規模別漁船保険契約数を示しています。漁船保険の加入は任意ですが、漁業者はほぼ加入します。そのことから、事実上、この数値は漁船建造数と言えます。

2000年度から漁船建造数が急激に減少していたことがわかります。2000年度が3,875隻であったが減少著しく、2009年度には1,086隻と10年後に1/3以下となりました。2010年度は2009年度とほぼ同数でありました。ただし、2011年度は、津波によって2万隻以上の漁船が滅失した東日本大震災の影響で、漁船建造数が急激に増えました。前年度の2倍以上の2,869隻です。さらに2012年度は8,464隻と近年にないピークを記録します。しかし、2013年度は3,762隻、2014年度は1,757隻、2015年度1,060隻と大きく減じ、2015年時点で東日本大震災以前の値を下回りました。その後も減り続けて2018年度は859隻となっています。

ただし、この減少傾向に影響を与えているのは、船外機あるいは無動力/5トン未満ということがわかります。5〜20トン未満も東日本大震災後増えてから減っていることがわかりますが、2018年度でもまだ2009年度を下回っていません。それ以上の漁船規模も同様の傾向が伺え、200トン以上に至っては未だ東日本大震災以前より高い数値になっています。

昨今の建造の冷え込み状態が、船外機船、無動力/5トン未満という階層に限られていることがわかります。東日本大震災直後の漁船供給が代船建造機会を先食いしたといわれていますが、その影響は、小規模漁船ほど強いといえます。

次に船質別に建造状況を見ていきます。まず、表1-2の木造船です。2000年には51隻の建造がありましたが、その後減少し、2007年度からは10隻を下回りました。東日本大震災で木造漁船の建造も一気に増えて2012年度は2000年度を上回る68隻となりましたが、その後は大きく減少し、2017年度は0隻、2018年度は1隻という結果になりました。建造は船外機が中心で、5トン以上は2003年度の1隻以来ありません。

表1-1 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別漁船保険契約数/資料:日本漁船保険組合
表1-1 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別漁船保険契約数
資料:日本漁船保険組合
表1-2 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別木造漁船の漁船保険契約数/資料:日本漁船保険組合
表1-2 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別木造漁船の漁船保険契約数
資料:日本漁船保険組合

鋼船の漁船規模別年別の漁船保険契約数をみたものが表1-3です。これをみると、鋼船の建造は、2005〜2008年度までは建造20隻未満でした。これらの年度以外は20隻を上回り、2012〜2013年度を除けば、30隻未満です。比較的安定的に建造されてきたとみて良いと思います。ただし、階層別にみると、安定的に建造されているのは100トン以上であり、それ以下は少ないです。特に2012年度以後は船外機1隻、5〜20トン未満2隻、20〜50トン未満2隻であることから、ほとんど建造実績がないとみて良いかと思います。後にみますが、50トン未満の漁船はアルミ漁船とFRP漁船が主流化します。

表1-3 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別鋼船の漁船保険契約数/資料:日本漁船保険組合
表1-3 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別鋼船の漁船保険契約数
資料:日本漁船保険組合

図1-1と図1-2でも触れたように、日本の漁船事情は隻数でみても、総トン数合計でみても船質別ではFRP漁船が他を圧倒しています。また表1-1で見たように、昨今漁船建造数の減少は、船外機船や5トン未満漁船の建造量の縮小がもっとも影響しています。

そこで、これまでと同じくFRP漁船の階層別漁船保険契約数の推移を見ます。表1-4です。やはり、表1-1と同じような建造量の推移となっています。とりわけ、船外機や無動力/5トン未満階層、20トン未満階層の数値は、漁船全体の数値に近いこともわかります。ただ、50〜100トン以上では、年2隻程度ですが、震災後は震災前よりも建造されていて、他の階層とは状況が異なります。

5〜20トン未満の階層では、2011〜2013年度までは東日本大震災の影響で2009〜2010年度の水準より高まり、その後隻数は減じたものの、2009年度を上回っています。このことは表1-1の説明でも触れました。5〜20トン未満の階層は2018年度含めて直近まで一定程度の建造需要を維持してきたと言えます。次にアルミ漁船です。表1-5に階層別年別漁船保険契約数が示されています。

表1-4 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別FRP漁船の漁船保険契約数/資料:日本漁船保険組合
表1-4 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別FRP漁船の漁船保険契約数
資料:日本漁船保険組合

アルミ漁船は船外機から200トン未満まで建造されていますが、もっとも多い階層は5〜20トン未満です。

漁船契約数をみると、2000〜2001年度までは100隻を超え、その後は、100隻を下回り、傾向としては減少傾向を示しています。特徴としては東日本大震災後特に増えるわけではなく、2010年度を下回り、さらに減少傾向にあるという点です。表1-3で見たように鋼船は2007年がボトムの13隻で、その後は2012〜2013年度を除き、20隻前後で推移していましたが、アルミ船の推移はその状況が大きく異なっています。

また主力の5〜20トン未満階層を見ても、FRP漁船が東日本大震災前以上の水準を保ってきたのに対してアルミ漁船は東日本大震災ショックがなく、マイペースに減少しています。

なお、アルミではない超合金船であるチタン船を確認できたのは、2001年に船外機船で3隻、2014年に同じく船外機船で1隻です。

表1-5 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別アルミ漁船の漁船保険契約数/資料:日本漁船保険組合
表1-5 2000〜2018年度の漁船規模階層別年別アルミ漁船の漁船保険契約数
資料:日本漁船保険組合