水産振興ONLINE
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2019年9月

中・小型漁船市場をめぐる産業構造の変遷—船価高騰にどう影響したか—

濱田 武士(北海学園大学経済学部 教授)

第一章 漁船の登録・建造動向を統計でみる

漁船の趨勢

図1-1は、1953年から直近までの我が国の漁船登録が行われた隻数と総トン数の合計の推移を表しています。隻数、トン数ともに1980年代に入ってピークを迎えますが、そこまでの描かれたカーブをみると異なります。トン数のカーブは山なりになっていて、隻数は最初ゆっくりと上がり、途中から傾斜が高まっています。隻数のカーブはその逆です。つまり、トン数、隻数ともに増加しますが、最初はトン数の増加幅の方が隻数の増加幅を上回り、途中からその傾向が逆転したといえます。

1953年と言えば、マッカーサーラインが撤廃されて、「沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へ」と遠洋への漁業転換政策が加速しようとしていたときです。漁船隻数も増えていきますが、それ以上に漁船の大型化が進んでいったことがうかがえます。そして、ソ連からの北洋サケマスの割当減や、200海里体制突入による北洋漁業の締め出しなどによって、大規模な母船や工船トロールの廃業がトン数の増加率を引き下げたといえます。

隻数のピークも、トン数のピークも1984年であり、それぞれ401,546隻、2,837,266トンです。それ以後、隻数の減少傾向よりも、トン数の減少傾向の方が激しいです。それは小型漁船よりも大型漁船の廃業が多かったということを示しています。

図1-1 我が国の漁船登録の隻数とトン数の年推移/資料:水産庁『漁船統計』
図1-1 我が国の漁船登録の隻数とトン数の年推移
資料:水産庁『漁船統計』
図1-2 我が国の船質別漁船登録隻数の年推移/資料:水産庁『漁船統計』
図1-2 我が国の船質別漁船登録隻数の年推移
資料:水産庁『漁船統計』

図1-2は、1953年から直近までの船質別(木造漁船、FRP漁船、鋼船(軽合金船を含む)の隻数の推移を示しています。

これをみると、木造漁船は1972年まで増え続けました。その年は263,835隻です。図1-1のマッカーサーライン撤廃後の全漁船隻数の増加は、木造船の増加がかなり影響しているようです。しかしながら、その後は急激に減少し、直近では2,306隻になりました。それに代わって増加したのはFRP漁船です。1970年に入ってから急激に増加しています。

FRP漁船は、木造漁船に取って代わるように増えて1995年まで増え続けました。その隻数のピークは316,306隻です。木造漁船のピークよりも5万隻増えたということになります。FRP漁船が木造漁船に取って代わっただけではないことがわかります。鋼船の代船にもなったといえますが、鋼船のピークは1980年であり、9,791隻であり、直近でも3,293隻(2017年)残っています。漁業者が減少していくなかで、やや違和感があります。考えられるのは、複数隻所有する漁業者が増えたということ、廃棄した漁船も登録を残したまま抹消されずにいる、などです。

図1-3 我が国の船質別漁船登録総トン数合計の年推移/資料:水産庁『漁船統計』
図1-3 我が国の船質別漁船登録総トン数合計の年推移
資料:水産庁『漁船統計』

図1-3は、1953年から直近までの船質別(木造漁船、FRP漁船、鋼船(軽合金船を含む)の総トン数の合計の推移を示しています。

1950年代は木造船がもっとも高かったが、1960年代に入って鋼船の総トン数合計が上回り、その傾向が1970年代まで続きます。木造漁船は1967年までは微増して、820,618トンまで達しますが、その後は緩やかに減少していきます。

他方、鋼船は1973年に1,824,851トンに達して頭打ちとなり、1984年に再びその値を超えて1,842,861トンとピークに達します。1986年から急減して、2000年代からはなだらかに落ち込み直近では335,351トン(2017年)となっています。

FRP漁船については、隻数と同じ傾向を示し、1995年まで増加して、804,716トンに達します。ちょうどこの年に鋼船の総トン数合計を上回りました。FRP漁船の総トン数合計もその減少するものの、倍とまではいかないですが、鋼船を大きく上回る状態になりました。

RP漁船は、国内の漁船の隻数で97.5%を占め、総トン数合計で62.3%を占めています。後でも、確認しますが、FRP漁船は、船外機・無動力船から200トン未満船まで幅広いです。しかし、大多数は沿岸で利用されている漁船であることを付け加えておきます。