水産振興ONLINE
水産振興コラム
2026年10月
事例で考える洋上風力

2025年11月から水産経済新聞に連載された梶脇利彦氏の寄稿について、水産経済新聞社の協力を得て、「水産振興コラム」として転載いたします(計12回)。

第2回 洋上風力の基本(その2)

梶脇 利彦

海の線引きと法の適用

内閣府などの関係省庁は「再エネ海域利用法」という呼称を「海洋再エネ整備法」に変えることにしたようである。このことを「再エネ海域利用法の一部を改正する法律」の施行に向けた政令案などに関する11月1日の意見募集で知った。

「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」は、2025年6月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に関する法律」に改正された。「再エネ海域利用法」は前者の法律の略称であり、「海洋再エネ整備法」は後者の法律の略称を指す。略称は法律で決まったものではなく、法律を所管する関係省庁が、長い法律名を簡潔にいい表すうえで付けた便宜上の呼び名である。ただし、名が変わるということは、洋上風力を実施するうえで大きな転換である。今回の寄稿では、海の線引きと、線引きされた海において洋上風力発電事業を実施するうえで適用される法律に焦点を当て解説する。

「海」の定義

「海」とは何か。旧建設省が監修した書物には、「海とは、海水とその底地からなる総合体」と書かれている。最高裁の判例(1986年12月)では、「海は、古来より自然の状態のままで一般公衆の共同使用に供されてきたところのいわゆる公共用物であって、(中略)、特定人による排他的支配は許されないものである」とされている。これらを踏まえると、海を特徴づける言葉としてポイントは、
(1)海水とその底地からなる
(2)公共用物
(3)排他的支配は許されない
— の3点であろう。

私が名古屋大学に勤務し、風力発電を洋上に設置し事業を実施するための関係法律の研究をスタートさせた当時は、港湾区域や漁港区域を除くいわゆる一般海域で洋上風力発電設備の海域占用を認める法律はなかった。歴史をひもとくと、1874年に政府が海を官有地に分類し、海底の土地は国有財産とした。海水は国有財産法上の財産ではない。現在では、国有財産たる海底の土地の使用または占用許可は国有財産法および同法施行令に基づき、都道府県が行う法定受託事務とされ都道府県知事に委任されている。

海に面した39都道府県のうち、和歌山県を除く38の都道府県は、国有財産を管理するための条例・規則を制定し、洋上風力の施設、例えば着床式であれば支柱が、浮体式であれば浮体を係留するアンカーなどの構造物が海の底地を使用するためにこの条例などによる対応が行われていた。このため、海に進出してくる新たな海洋開発として洋上風力発電設備の長期の海域占用を条例などでどう処理するのか、海洋開発の関係者が海洋の利用開発にどのように向き合えばよいのか、この条例などは洋上風力のためにできたものではないため、事業者も都道府県は大変悩みが大きかったと思う。その中で生まれたのが2018年に制定された再エネ海域利用法であった。この法律ができたことにより、洋上風力発電の関係者が海洋の利用開発にどのように向き合えばよいのかが一応、整備はされた。

図

海洋のうち、港湾区域や漁港区域など特別法で定められた区域を除く領海・内水※で洋上風力発電事業を実施する場合は、19年に施行された「再エネ海域利用法」が適用される、まだ、施行はされていないが施行されれば内水、領海とともに、排他的経済水域(EEZ)にも25年に制定された「海洋再エネ整備法」が適用されることになる。再エネ海域利用法が施行されたため、国有財産を管理するうえで制定されている都道府県の条例などは海洋再生可能エネルギー発電設備に関しては基本的には「お役御免」となったが(海洋再生可能エネルギー発電設備に対する一般海域への占用許可に係る取扱いについて、20年4月2日付、経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー課、国土交通省港湾局海洋・環境課通知)、3万キロワット(30メガワット、石狩湾新港に設置されている8メガワット風車の規模でいえば4基程度)未満の発電設備については、条例などを適用する余地も残されている。

【ひと口メモ】

※内水
領海の基線の陸地側の水域(国連海洋法条約2条1項、8条1項)。
例えば、本州北西岸:能登半島—下北半島や若狭湾など
図 (注)海上保安庁HPから引用
(注)海上保安庁HPから引用

ただし、条例などの適用範囲は地方自治法との関係でいえば領海までであり、海に地方自治法上の市町村の境界が引かれている事例はほとんどみられないことにも留意し、準備区域から有望区域への格上げができていない福井県あわら市沖のような市町村すら飛び越え、県の境界近い海域の案件形成には慎重な対応が求められる。近時の条例の適用事例としては、富山県入善町横山地区沖の内水に設置された着床式(3メガワット×3基)がある。

港湾法は、再エネ海域利用法の制定に先立って、16年に改正され、洋上風力発電事業を港湾区域で安定的に実施するための規定の整備が行われた。筆者が把握している限りでは、港湾内への洋上風力発電の稼働事例としては秋田、茨城、北海道の3区域、今後、青森、福岡での具体的な計画も進行中である。

漁港区域内の洋上風力発電設備を設置する場合は「漁港及び漁場の整備等に関する法律」が適用法令となるが、筆者が把握している限り実施事例はない。計画は1か所(青森県小泊漁港内)あるとの報道があるが、特に動きはないようなのでこの寄稿で解説はしない。

全く関心の蚊帳の外に置かれているが、海洋水産資源開発促進法という農林水産省所管の法律が存在する。この法律では、都道府県知事が指定する沿岸水産資源開発区域(開発区域)や漁場としての効用が高く、漁業生産において重要な位置を占める海域として政令で指定された海域(指定海域)において、海底の掘削、工作物の設置などの行為を行う場合は、管轄する都道府県知事は水産動植物の生息環境の保全など漁場としての効用を保全するための勧告権限が付与されている。したがって例えば重要資源の産卵場付近での工事に関しては、設備の配置や施工方法、施行時期などについて都道府県水産部局は十分な注意を払う必要がある。海洋開発の関係者は忘れてはいけない法律である。

(連載 第3回 へ続く)

プロフィール

梶脇 利彦(かじわき としひこ)

※ 寄稿時の所属は農林水産政策研究所。2026年8月から水産庁勤務。