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水産振興コラム
20238
初めての「豊洲市場活用マニュアル」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第6回 「卸への出荷」編①

各地の出荷者は、豊洲市場を使うことでさまざまなメリットを享受できる。特に人的資源に乏しい中小・零細荷主の強い味方だ。連載「豊洲市場活用マニュアル」では今回から「卸への出荷」編として、まずは鮮魚出荷者の視点で紹介する。九州北部の産地仲買人のBさんは、春に地元でまとまるまき網の天然マダイを、新たに豊洲市場へ出荷してみようと考えていた。

鮮魚では年間通じた安定感
天然マダイ委託販売にチャレンジ

豊洲とつなぐ定期便

春シーズンに揚がる天然マダイのまき網物に関しては、懇意にしている関東近県の荷受(水産卸会社)に少量出荷する程度だった。しかし、漁獲が年々減っている中で数を扱えないと生き残れないと、蓄えもできたので広めの新仕分けスペースを確保。今後は豊洲市場で勝負しようと考えた。

関東近県の卸から、親会社の東都水産(株) の鮮魚部門責任者につないでもらう。電話口で詳細を伝えると、マダイのまき網物が専門の鮮魚部鮮魚課の「白澤(寛晟氏)から携帯に電話させます」とのことなので、一度電話を切って折り返しを待った。

白澤さんは快活そうな声の若手だった。豊洲市場に送る手段としては定期便か、自社便か、航空便があるが、今まで使っていた運送会社が定期便を豊洲に走らせているとのことだったので、次に地元へまき網が入るタイミングから早速、出荷をしてみることにした。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(6) 写真1 豊洲市場最大の魅力は「年間通じた安定感」と語る白澤さん

九州からは1日弱で

地元の港にまき網船が入るのは午前5時前。白澤さんから送られてきた豊洲市場の市況情報によると、キロ800円前後で回っているようだが、東日本でシケており、あすは豊洲への入荷は全体的に減りそうだという。それならある程度、強気に札入れしても利益が出るかもしれない。午前5時からの地元のセリで1.2~1.3キロサイズのトロ箱(内容量18キロ)25個を何とか確保できた。

真新しい仕分けスペースに運び込み、社名入りの発泡スチロール箱へ丁寧に立て替えていく。少し傷のあるものは自家消費用に横へよけ、下氷を敷き詰めてから一箱に6尾をきれいに並べてフタをする。約1時間で作業を終えて発泡スチロール箱70個分になったのを確認していると、運送会社のトラックが集荷に来た。荷台にはすでに荷があった。半端な個数なので混載便になるらしい。

白澤さんからは「そちらの朝便なら、翌日午前1~3時には豊洲に着くはずなので、翌日の朝売りには間に合いますよ」と言われている。あとは結果を待つだけだ。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(6) 写真3 混載便トラックの荷は一度水産卸売場棟4階に運び込まれる 初めての「豊洲市場活用マニュアル」(6) 写真2 水産卸売場棟1階の鮮魚卸売場に並んだ、まき網物の天然マダイ

評価は立て替えで差

翌日の朝の地元は休市日。雑務をこなしながら少しソワソワしながら待っていると、白澤さんから電話連絡が来た。「おおむね1000円で回りましたよ」という明るい声に、なかなかじゃないかと自画自賛。送られてきた仕切り書をみると、60箱ほどが想定の価格以上で売れていて、残りも粗利段階で赤字にはなっていなかった。委託販売手数料の5.5%分のほか、豊洲までの運賃、場内物流費などが経費で引かれてはいるが、思った以上に利益が残った印象だった。振り込みは最速の3日後を指定した。

今後もやっていけるという手応えを感じ、その話を白澤さんにしてみたら「今回は全体量が少なかったので値段が出ましたけど、量が多くなると立て替えで差が出ます。少しずつ信頼を積み重ねていきましょう」と助言してくれた。加えて「豊洲は、日本で量がいちばん売れる市場です。鮮魚でもセリのある市場では豊洲より高く付くことはありますけど、豊洲は何といっても年間通じて安定感があります。また待っていますよ」と言って電話は切れた。「よし次だ」と声に出して気合を入れ直し、直線距離で1000キロほど離れた豊洲市場に思いをはせた。

第7回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。