水産振興ONLINE
水産振興コラム
20235
初めての「豊洲市場活用マニュアル」開場5周年版
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第1回 はじめに

東京・豊洲市場は、水産業界で中核となる存在だ。国内外から日々送り込まれてくる水産物の圧倒的物量や魚種の多種多様さは、魚好きはもちろん業界人さえ魅了する。都内の飲食店・小売店にとっての便利な仕入れ場として、各地の生産者にとって頼れる出荷先として高く評価されている。ただ、初見だとどこかハードルが高くないだろうか。新連載「初めての『豊洲市場活用マニュアル』」では、豊洲市場の世界に初めて足を踏み入れる人を想定し、さまざまな使い方の基礎基本を解説する。第1回は基本情報をまとめた「はじめに」編。

首都圏の中心部に近い好立地
圧倒的物量と多種多様な魚種
上空からみた豊洲市場(東京都提供) 上空からみた豊洲市場(東京都提供)

都が土地・施設貸与

豊洲市場は、農林水産大臣(国)の認定を受けた、全国に65ある中央卸売市場の一つだ。都民の毎日の食卓に欠かすことのできない、水産物を含む生鮮食料品などを安定供給していくため、東京都が首都圏のど真ん中という好立地に近代的な市場施設を用意。民間業者が施設の使用料を支払って営業している。

豊洲市場の案内図。東京都「豊洲市場概要 令和5年度版」から抜粋 豊洲市場の案内図。東京都「豊洲市場概要 令和5年度版」から抜粋

民間業者は決められたルールに従う代わりに、近隣の民間施設に比べればかなり安価な使用料で、毎日の業務を営める。民間企業が単独で同じことをすればコストがかかりすぎて維持することはまず不可能だ。民間の大型物流センターが都心部に見当たらず、郊外に展開している理由でもある。

正式名称を「東京都中央卸売市場豊洲市場」としているように、東京都が開設をしていて、有名な水産物の卸売機能だけでなく、青果物の卸売機能を併せもった(ワンストップショッピングが可能な)総合市場として機能している。

業務用は仕入れ自由

飲食店・小売店などの業務用食材を仕入れするのであれば買出人は誰でも出入りして自由に買い物できる。所属が大手でも中小・零細であっても差別されない。全国津々浦々から多種多様な魚種が集まってくるので選び放題だし、仕入れで複数産地といちいち交渉する必要はなく、どこかの地域が悪天候で荒れても他産地からの入荷があるのでまずお目当ての魚種が欠品することはない。

特定の魚種を何十年も毎日見続けている魚のプロばかりなので、品質の見極めはもちろん、適切な扱いで的確な助言も受けられるし、最新の産地情報も手に入る。衛生的な環境の下で、一次・二次加工の希望にも応える用意がある。

産地側からすると、出荷した荷物は正当な拒否理由がない限り、ほぼすべて引き受けてもらえる。現地までの輸送には、開市日に合わせて市場と各地とを網の目のように結んでいる市場便(定期便なので値頃な料金設定)を使える。

販売代金決済は1週間前後の短期間で行われ、迅速な換金が可能。歴史の中で積み重ねた膨大な数の取引関係があるため、市場業者が帳合(物流が伴わない伝票上の扱い)に入ることで口座開設の手間なく即座に取引が始められる。

働きやすさもアップ

2018年まで営業していた前身の築地市場と比べると一気に近代的な施設に変わったことで、食品を衛生的に扱うための必要十分な環境は整ったし、空調管理によって、働きやすい環境に生まれ変わった。5年の実績で、世界の「TSUKIJI」は、世界の「TOYOSU」に確実に置き換わりつつある。水産の取引で困ったことがあったらまず、豊洲市場に足を運べば間違いない。

施設概要・関係業者(2023年1月1日現在) 施設概要・関係業者(2023年1月1日現在)

次回以降の連載では、「仲卸から仕入れ」編、「卸への出荷」編、「市場を見学する」編、「市場で働く」編などの順にマニュアル風に紹介をしていく。

第2回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。