今回は、連載の締め括りとして、前回示した水産資源と漁業・養殖業、水産物消費の構造変化を踏まえ、それに対応するための今後の生産体制のあり方や地域社会の方向性について考える。
1. 取組むべき課題と検討の方向性
これまでの分析結果を踏まえると、今後のわが国の水産業、特に国内における生産・供給の主な担い手である海面漁業・養殖業にとっての主要な課題は、①今後も進行する気候変動への対応、②漁業就業者数の減少にともなう生産体制の縮小化への対応、③調理水産物の消費の拡大など、多様化する市場ニーズへの対応、の3点である。
このうち②について漁業センサスに基づいてさらに分析を加えると、海面漁業では、2003~2023年にかけて動力漁船の隻数がほぼ半減するにもかかわらず、1隻当たりの生産量は隻数の減少に比例するようには増加していない(図1)。海面養殖業においても、魚類養殖(全体)、貝類養殖(カキ類)、海藻養殖(ノリ類)のいずれにおいても、経営体数の減少やクロマグロ養殖のような大規模な養殖業の進展にともない経営体当たりの漁場使用面積は増加しているが、魚類養殖や貝類養殖では、経営体当たりの生産量は、経営体数の減少に比例するようには伸びていない(図2)。
動力漁船隻数と1隻当たり海面漁業・養殖業生産量の相対変化(2003年=100)
相対変化(2003年=100)。魚類養殖(全体)、貝類養殖(カキ類)、海藻養殖(ノリ類)に分けて示す
こうした生産性の伸び悩みへの対応も今後へ向けた重要な課題であり、漁業許可や漁業権などの漁業制度の変更なども将来の検討課題となろうが、ここでは現行の制度的枠組みを前提に対応策やその実現へ向けた条件を考察する。
2. 地域を基盤とする取組み
沿岸漁業及び比較的小規模な沖合漁業や養殖業では、地域の資源や漁場環境、社会経済に立脚した地域を基盤とする取組みが基本となる。
2.1. 適地適作の推進
地域おける生産の持続と安定化のためには、気候変動にともなう漁場環境や魚種組成の変化に応じて適地適作を進めることが重要である。漁業では、利用可能な魚種や漁場の変化に応じて、適宜漁具・漁法や漁場を転換する必要があり、養殖業では、対象種の切り替えのほか、高水温などの環境変化に対応した品種の導入、養殖場の移動などを進める必要がある。
取組みにあたっては、試験研究機関による新規の資源生物や漁場環境についての科学的な情報提供や漁具・漁法転換のための技術的支援、新品種の育種などが期待される。また、漁業管理者には、漁業許可や漁業権の切替えや新設などの柔軟な対応が求められる。さらに、生産者にも、経営の多角化により水産資源や漁場環境、市場の変化などへの適応力を高めるとともに、協業化や経営統合などを通じて操業・水揚・加工や資材調達におけるコスト削減や省人化を図るほか、協働した販路の開拓などの取組みが期待される。
2.2. 多品種少量生産への対応
一般に、沿岸性・定着性の資源は多様性に富むが規模が小さいものが多く、多品種少量生産とならざるを得ない。近隣都市圏も含めた地産地消をいかに実現するかが、地域に基盤をおく取組みにおける重要課題である。
具体的な対応策の一例として、予め地域や周辺都市圏の実需者や家庭と契約し、その日の生産物を骨・皮・内臓の除去や一塩一乾しするなどの一手間をかけて、お任せで宅配することがある。これは、生産者側の経営を安定化させるとともに、サイズや数量が揃わない生産物の投棄を回避するなど、資源の有効利用の面でも効果が期待される。この取組みを支えるため、地元における水産物の一次加工の体制の維持・整備や、インターネットなどを通じた生産地(生産者)と消費地(消費者)の直接的な結び付き、すなわち「顔の見える関係」の構築が重要である。
2.3. 他産業や市民とも連携した多面的な取組みの推進
漁業就業者数の減少は小型漁船の減少に直結するほか、小規模な養殖業の維持も困難にしている。このため、地域における協業や統合を通じた生産手段や労働力の共有化や経営の多角化を通じて、生産体制の維持と経営の安定化を図る必要がある。担い手不足などの課題が共通する地域の農業や食品産業と連携し、加工・流通面での体制と機能の確保を図ることも必要であろう。
最近は、水産庁はじめ関係府省や自治体の支援を受けながら、各地で漁村地域の活性化を目的とした「海業」の取組みが進められている。漁港とその周辺を観光漁港化し、地元産の海産物による海鮮料理の提供とセットになった見学ツアーの企画・実施など、観光と一体化した取組みが行われているが、水産物の地産地消を推進する上でも効果が期待される。
海藻の増養殖や藻場再生などブルーカーボンを通じた気候変動対策の推進や漁場環境の保全、遊漁との連携や、潮干狩りなど地域住民を巻き込んだ親水リクリエーションの活性化なども進められており、「海業」の幅を広げる上で重要である。最近活発になりつつある閉鎖循環型を主体とした陸上養殖や内水面の漁業・養殖業も、特に大都市や観光地の近郊においては、需要に直結した地域特産の高級水産物(サケ・マス類など)の生産・供給や、観光・レクリエーションの対象として期待される。
3. 全国及び海外を視野に入れた取組み
遠洋漁業はもとより、比較的大規模な沖合漁業や養殖業では、水産物の生産のみならず生産物の流通においても、根拠地周辺にとどまらず全国や海外を視野に入れた展開が必要である。
3.1. 生産性の向上と国産加工原料の供給拡充
小型浮魚類などの多獲性資源の採捕を目的とする漁業では、産業的な合理性の追求を通じた生産性の向上と価格競争力の強化がポイントである。このため、漁船規模の適正化や対象資源に応じた効率的な漁法の選択に加えて、資源の利用可能性の変化にともなう公海域への展開などを積極的に進める必要がある。これにより、消費が増加しているが原料の多くを輸入に依存している水産調理食品における国産原料の供給拡大が期待される。加えて、これまで国内消費の余剰分を輸出していたマサバやマイワシなどの輸出の安定化も期待される。
大量の生産物の水揚から加工・流通、加工残滓・廃棄物の回収・再利用などの一連の事業活動を効率よく行うため、関連の施設や機能を集約した水産コンビナートを形成し、大規模養殖業や地域に基盤をおく取組みとの連携を図ることも期待される。
3.2. 国内需要への的確な対応と積極的な輸出拡大
マグロ類など相対的に価格の高い水産物を選択的に採捕・生産している漁業や養殖業では、国内需要の動向に見合った品質と数量の供給が基本となる。一方で、特に養殖業生産においては、日本食の世界的な普及・拡大を梃に、積極的な輸出拡大が期待される。そのためには、Global South諸国を含めた輸出先の拡大や、生産規模の拡大などによる生産・供給の安定化、国際的に競争力のある価格水準の実現などが必要である。
養殖業生産の場合、人工種苗の利用拡大や動物性飼餌料の削減など、天然資源への影響や環境負荷の低減を図ることも、輸出促進の重要な条件である。加えて、国際市場において一定のシェアを占める上では、国内の産地による差別化を図ることも1つの方向ではあるが、日本産としての統一的な品質の維持や生産量の確保が重要であろう。
3.3. 省人・省力化の取組みと生産体制の柔軟な運用
多獲性資源の採捕、高級魚の採捕・養殖のいずれにおいても、漁業就業者数の減少が進むなかで、事業の継続には徹底した省人・省力化が避けて通れない。ICT(Information and Communication Technology)や海洋ロボティクスの導入と、それを前提とした生産体制への転換が必要である。1つの経営体で複数の漁業を行うなどの経営の多角化や、1隻の漁船で異なる漁具・漁法に対応できるよう用途の多様化を図ることも、対象資源や漁場環境の変化に対応する上では効果的な措置である。
多獲性資源、高級魚類資源の何れを対象とする場合も、今後気候変動が進み資源を巡る関係国間での競争が激しくなるなかで、資源管理の拡充が重要である。特に多獲性資源では、気候変動に応じて資源量が比較的短期間のうちに大きく変動する場合がある。このため、資源量の増減に応じた対象種の切り替えや、漁獲量の調節により十分な親魚資源量を維持し新規加入量の確保に努めるなどの対応が必要である。
4. おわりに —— 次世代へ向けた課題と展望
今後の水産物の生産体制や地域社会の方向性について、ここで提案した取組みを図3に整理した。コスト負担や人材不足、制度的制約などにより、取組みが容易ではないものもあると思われる。しかし、漁業就業者数の減少や気候変動の進行のスピードは速く、取組みのために残された時間は限られている。出来るところから手を付け、一定の形が出来たら、それをベースに次の展開を考えるというやり方が求められているように思う。
わが国の総人口は、2100年には6,278万人と1928(昭和3)年並みにまで減少する見込みである(日本の将来推計人口—令和5年推計、国立社会保障・人口問題研究所)。1928年にはなかった少子・高齢化や東京圏への人口の集中も一層進み、水産業はおろか、地方の社会経済の存立自体が危ぶまれるような事態が予想される。ICTや海洋ロボティクスの導入をはじめ、徹底的な自動化や省人・省力化により、現在の半分かそれ以下の人数でも生産や加工・流通が維持できる体制を構築する他はない。
気候変動も確実に進行し、わが国周辺海域の生物生産や水産資源利用にも一層の制約がかかることが予想される。担い手の大幅な減少と合わせて、持続可能な生産を続けることは容易ではない。消費の側でも、国内で生産可能な水産物を無駄なく利用し切る覚悟と、それを裏付ける流通・消費の形を整えることが、今世紀後半に予想される厳しい水産物需給関係を乗り切る途ではないだろうか。
最後になったが、この調査を実施する機会をいただいた (一財) 東京水産振興会の渥美雅也会長に厚く御礼申し上げる。また、同振興会振興部の皆様には、調査を進める過程で種々ご便宜をお図りいただいた。記して感謝申し上げる。さらに、(一社) アグリフューチャージャパンの合瀬宏毅理事長、(一社) 漁業情報サービスセンターの斎藤克弥システム企画部長、福井県立大学海洋生物資源学部の渡慶次 力准教授、(一社) 全国いか釣り漁業協会の中津達也会長、(国研) 水産研究・教育機構の中山一郎理事長、東京大学大学院農学生命科学研究科の八木信行教授には、外部有識者として、資料の分析や取りまとめにあたり、幅広い視点をお示しいただくとともに貴重なご助言をいただいた。心から感謝申し上げる。
(連載 第11回 へ続く)
