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水産振興コラム
20253
変わる水産資源-私たちはどう向き合うか

第13回 近年のサンマ水揚量の減少と漁場および漁獲物の変化

渡邉 一功
一般社団法人 漁業情報サービスセンター

はじめに

サンマは北西太平洋を中心に北太平洋に広く分布し、秋刀魚の名が示すとおり、秋を代表する味覚の1つとして我われ日本人に親しまれてきた。戦後、さんま棒受網漁業が発達し、時に落ち込むことがあっても比較的安定した漁獲と水揚を続けてきた。しかし、近年水揚量が減少し、特に最近数年間はこれまでに例のない不漁となっている。また、これに対応して棒受網の漁場やサンマの成長にも大きな変化がみられている。そこで、漁場や成長の変化を軸に、最近のサンマの資源と漁業の状況を整理し、今後の課題などについて考えてみたい。

1. 日本漁船による水揚量の推移と産地価格の推移

日本に水揚げされるサンマの多くは、北西太平洋で操業するさんま棒受網漁業によって漁獲される。全国さんま棒受網漁業協同組合が集計したサンマ水揚量(https://www.samma.jp/tokei/catch_year.html)は、1998年と1999年に20万トンを下回った他は、1980年代後半から2000年代にかけて、概ね20万~30万トンの範囲で比較的安定して推移してきた。水揚量は、2008年に約34.3万トンとピークとなったが(図1の赤色の棒グラフ)、その後2010年以降は減少傾向となった。2018年に約11.9万トンとやや増加したが(図1の紫色の棒グラフ)、その後は10万トンを下回り、2022年の水揚量は約1.7万トン(図1の茶色の棒グラフ)と棒受網漁業が普及した1960年代以降ではもっとも低い値となった。2023年は約2.4万トン、2024年は約3. 6万トン(図1の緑色の棒グラフ)と、やや回復したものの、2024年の水揚量は、2008年の11%と極めて少ない状況である。

変わる水産資源-私たちはどう向き合うか(13) 図1
図1 サンマ水揚量と産地価格の推移(1989~2024年)

産地価格は、水揚物の魚体サイズによっても変化するが、おおよそ水揚量が多い時には安くなり、水揚量が少ない時には高くなる傾向にある。水揚量が減少した1998年(210円/kg)と1999年(193円/kg)に一時的に高くなったが、その後水揚量の増加とともに安くなり、水揚量がピークとなった2008年は67円/kgまで低下した。2010年代からは、水揚量の減少に伴い上昇し、水揚量が2万トンを下回った2021年に過去最高の621円/kgを記録した。2024年の産地価格は465円/kgであり、極めて高い状態が続いている。

2. 漁場の変化

水揚量の減少に伴う日本漁船の漁場位置の変化について、水揚量がピークとなった2008年、水揚量が減少したものの水揚量が10万トンを越えた最後の年である2018年、水揚量が過去最低となった2022年、直近の2024年の4カ年について、月別の主漁場の推移を示した(図2)。

変わる水産資源-私たちはどう向き合うか(13) 図2
図2 サンマ月別主漁場位置(2008年、2018年、2022年、2024年)

水揚量が多かった2008年は、漁期を通じて漁場の多くが日本の港から近い位置に形成された。このため、漁場への往復時間が少なく、漁場における魚群も濃かったことから、水揚量が多くなった。

2018年8~9月の主漁場は、2008年よりも遠く、港まで1~2日程度かかる場所であった。そのため、2008年よりも操業回数や水揚回数が少なくなり、水揚量が減少した。

水揚量が過去最低であった2022年は、漁期を通して漁場が港から遠く、1~2日半程度かかる場所で操業することが多かった。また、群れが薄く、結果として水揚量が過去最低となった。

2024年8~9月の主漁場は、2022年よりも近くに形成され、魚群もまとまっていたため、2022年よりも水揚量が多くなった。一方で2008年や2018年と比べると漁場が遠く、港に近い場所に漁場ができたのは11月に入ってからであった。

国立研究開発法人水産研究・教育機構では、水産庁の委託を受け毎年6~7月に表層トロール網を用いたサンマ資源量直接推定調査を行っている。調査結果によれば、おおむね経度180度以西における推定分布量は、調査開始時の2003年以降、変動を繰り返しながら年々減少し、2021年の調査結果では45万トンと過去最低となった。2024年は92.2万トンまで増加したものの低水準であった1)。サンマ資源の減少に伴い、日本近海を北上するサンマが少なくなり、日本から遠く離れた沖合を北上するサンマが主体となった。そのため、漁場が沖合化して、港から遠い沖合に行かないと漁獲できなくなっている。漁場まで片道1~2日かかり、漁場で数日操業するとなると、場合によっては鮮度が悪くなる上、漁場への往復の燃料費のため採算割れになる船も出てくる状況である。

1) 国立研究開発法人水産研究・教育機構: 2024年度サンマ長期漁海況予報, 2024/7/30.
https://www.fra.go.jp/shigen/fisheries_resources/forecast/files/sanma20240730.pdf

変わる水産資源-私たちはどう向き合うか(13) 図3
図3 10月上旬の表面水温分布とサンマ主漁場(左:2008年 右:2024年)

漁期後半になると、サンマが南下を開始し、南下とともに魚群が日本に近づいてくるために徐々に漁場は港から近くなる。南下するサンマは、冷たい親潮の水に沿って回遊するため、親潮や暖水の状況によって、漁場位置は大きく変化する。例として2008年と2024年について、10月上旬の表面水温分布とサンマの主漁場を示す(図3)。2008年は10月上旬には冷たい親潮の水が三陸北部まで差し込んでおり、サンマ漁場が三陸沿岸に形成された。2024年は、暖かい黒潮続流が東北南部まで北上し、また北海道沖合に暖水渦があることから日本近海が非常に暖かくなっており、冷たい親潮の水は日本から遠く離れた場所までしか張り出していない。このためサンマ漁場は、近い場所でも北海道根室市花咲港から1日程度かかる場所に形成された。このように、近年は暖かい黒潮続流が東北沖合まで張り出し、南下時のサンマの通り道である冷たい親潮が日本周辺まで張り出しにくくなっている。結果として、多くのサンマは日本に近づかずに沖合を南下してしまっている。

3. 漁獲物の魚体の変化

漁業情報サービスセンターでは、長年サンマの主要な水揚港である花咲港において、水揚物の体長測定を行ってきた。2018年からは、体長測定に加え、体重測定も行っている。ここでは、2018年、2022年、2024年の3カ年について、8月下旬、9月下旬、10月下旬の水揚物の体長・体重を比較する。

変わる水産資源-私たちはどう向き合うか(13) 画像4a
図4a 
花咲港における8月下旬のサンマ体長組成と体重組成(2018年、2022年、2024年)
(赤線は体長29cm台、青線は体重100g台)

8月下旬の体長組成と体重組成は、2018年が体長28~30cm、体重110~150gが主体、2022年が体長25~30cm、体重50~100gが主体、2024年は体長27~29cm、体重80~120gが主体であった(図4a)。水揚量が最も少なかった2022年は、2018年よりも体長が短いことに加え、体重がかなり少なく、痩せていた。2024年は、2022年よりも体重は重いものの、2018年よりも体重が少なかった。また2024年は体長30cm台が少なく、2018年よりも体長が短かった。

変わる水産資源-私たちはどう向き合うか(13) 画像4b
図4b 
花咲港における9月下旬のサンマ体長組成と体重組成(2018年、2022年、2024年)
(赤線は体長29cm台、青線は体重100g台)

9月下旬の体長組成と体重組成は、2018年が体長29~30cm、体重100~140gが主体、2022年が体長28~30cm、体重70~120gが主体、2024年は体長27~29cm、体重80~110gが主体であった(図4b)。2024年は、2018年、2022年よりも体長が短く、体重が軽かった。また2022年は8月下旬よりも9月下旬の方が体重が重くなっており、太ったサンマの出現時期が年により異なっていることがわかる。

変わる水産資源-私たちはどう向き合うか(13) 画像4c
図4c 
花咲港における10月下旬のサンマ体長組成と体重組成(2018年、2022年、2024年)
(赤線は体長29cm台、青線は体重100g台)

10月下旬の体長組成と体重組成は、2018年が体長29~30cm、体重100~150gが主体、2022年が体長27~30cm、体重70~120gが主体、2024年は体長27~29cm、体重80~120gが主体であった(図4c)。9月下旬までと同様、2022年は、2018年よりも体重がかなり低く、2024年は、2018年、2022年に比べて体長が短かった。

このように、水揚物の体長・体重は年によって大きく異なる。また水揚量が少なくなると同時に、太ったサンマが少なくなっている。2018年は、体重150gを越えるサンマが、一定量存在していた。しかし、2022年と2024年には、漁獲物の中にたまにしか存在しない貴重な物となってしまった。また体長は、2022年、2024年と徐々に短くなった。水揚量が多かった時は、家庭の魚焼きコンロに入らず、サンマを半分に切って調理をしていたが、ここ数年のサンマは切らずに入る長さになってしまっている。

4. 近年の不漁の背景と今後の課題

水揚量の低下に対応して、サンマの太り具合が悪くなり、また近年ではサンマの体長が短くなっている。(国研)水産研究・教育機構では、サンマの不漁要因解明に関する調査・研究の進捗についてとりまとめを行っている2)。この中で、サンマの餌となる動物プランクトンの量が2010年以降減少していること、餌の減少により成長が悪化していること、沖合で成長した稚魚は日本に近い海域で育ったものに比べて成長が悪い傾向があり、近年の産卵場と生育場の沖合化によって成長の良い個体の割合が減少していることが示されている。つまりサンマにとって、現在の海は餌が少なく、結果として太り具合が悪くなり、成長が悪化して体長も短くなっている。

2) 国立研究開発法人水産研究・教育機構: サンマの不漁要因解明について, 2023/4/7.
https://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr2023/20230407_col/20230407col_press.pdf

サンマは北の海域で餌を十分に食べて太ると、産卵のために南への回遊を開始する。サンマの太り具合が悪いと、南下を開始する時期が遅くなり、結果として日本に近づいてくる時期も遅くなることから、日本漁船にとっては遠い漁場で漁獲する時期が長くなり、水揚量が少なくなる。2024年は、2022年や2023年よりも水揚量は多かったが、サンマの成長状態を見る限りは、かなり悪い状況が続いている。このような状況では、サンマ資源が劇的に回復することは期待できず、引き続き資源管理を進める必要がある。

サンマについては、北太平洋漁業委員会(NPFC)において資源管理が行われ、漁獲可能量(TAC)が決められるようになった。2024年の公海におけるTACは13.5万トン、EEZを含む分布域全体の年間漁獲量の上限は22.5万トンで、これに基づき各国の漁獲割り当て量が設定された。中国は約4万トンの公海における漁獲割り当てを消化する見込みとなったことから9月に操業を終え、台湾については公海での各国の総漁獲量がNPFCで設定したTACの90%を越えたことから、ルールにより10月に操業を終えた。日本は、EEZの漁獲枠を公海の漁獲枠に振り分けることができるが、EEZの漁獲枠を持たない国は、公海の漁獲枠を消化した時点で終漁となる。

現在のサンマ資源の状態や漁況・海況は、特に小型の日本漁船にとっては厳しい状態であるが、他国が公海の漁獲枠を消化して漁期を終了する状況になっていることから、日本も公海における漁獲枠を維持するためには、公海の漁獲枠を消化する必要がある。漁期の後半になると、日本近海にサンマが来遊するようになり、公海へ出漁する船は少なくなる。また11月に入ると時化が多くなり、公海まで出漁するのが難しくなる。そのため、漁期半ばまでには確実に公海での漁獲枠を消化できるような仕組みが必要である。課題は多いが、漁業者、陸上の加工・流通関係者合わせての公海操業強化について本格的な議論が必要であろう。

プロフィール

渡邉 一功(わたなべ かずよし)

渡邉 一功

1995年、東京水産大学大学院水産学研究科修士課程修了後、漁業情報サービスセンターへ。2006年に東京海洋大学にてサンマに関する研究で博士号を取得(海洋科学博士)。主にサンマ・スルメイカ・マイワシ・マサバなどの来遊状況や漁場形成に関する仕事を行っている。現在、(一社) 漁場情報サービスセンター 水産情報部 部長。