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水産振興コラム
20267
進む温暖化と水産業

第65回 
ルポ 島と人と漁業(北海道・奥尻島㊦) 
島漁業の未来像

中島 雅樹
株式会社水産経済新聞社

アワビ漁を全潜水化
危機感バネに仲間説得

2022年から販売を開始した奥尻島のブランドサーモン、奥尻サーモン「淡雪」への餌やりのため、若い漁師が先輩漁師らと船に乗り込み、かじを握る。細い体ながら力強く作業する姿が頼もしい。サーモンへの餌やり、有機ワカメなど忙しい日々だが、空き時間ができてもやることといえば道具直しなど。漁業どっぷりの生活を続けている。「思っていた以上に漁師は忙しい。でも楽しい」。あだ名は名前から取った「ムーチョ」。たくさん(ムーチョ)の明るい夢を抱える、奥尻島漁師のホープ、仲川明夢(ひろむ)さん (23) だ。

北海道の札幌郊外にある北広島市で育ちながら、小さい頃から漁師に憧れてきた。スキューバダイビングの資格が取れて、潜水士にも挑戦できる北海道奥尻高校をテレビで知り、「ここだ!」と島留学を即決した。高校を卒業しても漁師への憧れは変わらず、町の地域おこし協力隊として地元漁師の手伝い、今はJFひやま漁協奥尻支所の正組合員として、23歳ながら漁協の総代にも名を連ねる。

「ムーチョは、もうスーパーフリーター。手が足りなければどこでも駆け付ける」と青年部の先輩は仲川さんを冷やかすが、漁業に打ち込む仲川さんに、「何でも吸収したいという思いが伝わってくる。どんどん教えたくなる」と、先輩らで顔を見合わせ温かく見守る。仲川さんの将来の夢は今も “かっこいい漁師”。「いつか先輩たちのようにアワビやナマコを潜水で採りたい」と新たなチャレンジに夢を膨らませる。

未来を諦めない

青年部メンバー(左から仲川さん、川瀬さん、松前さん、小浜さん)と
青年部の活動をサポートする奥尻町役場の横田課長(右端)

仲川さんが憧れる漁師、島の先輩に青年部部長の川瀬美弘さん (41) や、ジャイアンこと、松前幸廣さん (43) 、小浜洋介さん (47) がいる。青年部員は全員で13人だが、仲川さんも含め4人でいることが多い。川瀬さんは「いろいろな部会があるし、ほかのメンバーに参加を強制していないから、いつもこのメンバー」と自然体。彼らは、24年度の第30回全国青年・女性漁業者交流大会で農林水産大臣賞を受賞したメンバーでもある。

大臣賞に輝いた発表は、離島というハンディと人口減少や資源減少という危機感をバネにした取り組みが高く評価された。その一つが、年配の漁師を説得し実現した潜水アワビ漁への切り替えだ。

かつて島のアワビ漁はタモ採りだった。島の共同漁業権は、過去、島内に複数あった漁協の地区とは関係なく、84kmあるといわれる長い海岸線に一つの漁業権として、組合員の居住地区に関係なく行使できることになってはいたものの、島でどこかの海況が悪いと漁は解禁にならない。海が荒れて一度も漁ができずに終わった年もあったという。

近年の海洋環境の変化でさらに深刻さは増す。「海洋環境の変化で潮が速くなっている。底建網(定置網)も建てられなくなった」と川瀬さん。環境の変化も島の漁業を直撃する中で、「このままでは資源の前に島の漁業がなくなってしまう」と将来への危機感は高まっていた。

青年部が提案したのは安定した採れ高が期待できるアワビの潜水漁。ただ、壁は厚かった。最初の提案で、年配漁師からは「乱獲になる」と頭ごなしに反対された。

しかし、青年部メンバーは諦めなかった。「発言力がカギを握る」と、まずは自分たちが総代になることを目指した。「数年がかりだけど諦めるわけにはいかなかった。諦めたら島の漁業は衰退してしまう」と松前さんらは覚悟を決めたと話す。潜水漁の理解を得るため、漁場はタモでは採れない10メートル以深に限定し、アワビの殻長もタモより1センチ大きい8.5センチと厳しくした。漁獲量の枠を守るのは当然で、さらに年配漁師らを説得するため、潜水で漁獲した水揚金額をプールし、漁にかかった必要経費25%を引いた売り上げすべてを組合員全員に分配した。

小浜さんは「せっかく海がありアワビもいるのに、獲れずに自然に死んでしまうのはもったいない。資源を守りながらも効率のいい漁業はできるし、みんなの組織である組合も楽になる」と実行した思いを語る。

潜水漁が漁協で承認されたのは最初の提案から5年後。ひやま漁協奥尻支所の坂本治広支所長は支所全体の意見に耳を傾けながらも、青年部の熱意と姿勢を応援し続けた。道内各地の漁業を見てきた北海道檜山地区水産技術普及指導所の荒木格支所長らも熱意あふれる青年部の活動を温かく見守った。そして今年。ついに島のアワビ漁すべてが潜水漁に移行した。「諦めが悪いだけだよ」と松前さんは謙遜するが、その粘りは簡単にまねできるものじゃないだろう。

大臣賞の発表では、炭素固定専用のコンブ養殖も報告した。コンブを食用として利用せず貯留する漁業の世界では斬新な手法だが、時期がくれば海底にロープごと沈下させるだけと手間は少なく済む。その取り組みはジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)に認証され、Jブルークレジットとして販売され、昨年は1.3トンが (株) 北海道エアシステムなどに購入された。沈下したコンブは、炭素固定のほかに一部は(第3種区画漁業権の)ウニの餌となることから、より高い効果も期待できる。

ブルーカーボンとして養殖しているコンブの成長を確認する青年部メンバー
(左手前が松前さん、中央が川瀬さん、右手前が小浜さん)

青年部をはじめとする島の取り組みに企業も関心を示す。ENEOSグループ(以下、ENEOS)は昨年6月、「ブルーカーボンを活用した脱炭素社会の実現」で奥尻町と連携協定を締結。政府目標および自社のカーボンニュートラルの実現に取り組む同社の姿勢と、持続可能な脱炭素社会の実現に積極的に取り組む町と漁業者の熱意と行動力が結び付いた。

ENEOSは、広報を通じて、「ブルーカーボンが直ちに大規模な二酸化炭素(CO2)の排出の相殺手段になるわけではないが、将来的なポテンシャルに期待している。町との取り組みを通じて、大規模ブルーカーボンに関する科学的知見の蓄積に貢献し、海域環境と調和した新たな取り組みの可能性を探りながら、地域経済の活性化にもつなげていきたい」と話している。

ワカメの選別に黙々と取り組む仲川さん

◇  ◇  ◇

青年部の裏方として活動を支えるのが、奥尻町役場の産業振興課で漁業を担当する横田稔課長。大きな体ながらフットワークは軽く明るい。何といっても漁業者の信頼が厚い。漁業者からは「ミノさん」と親しまれている。

「ミノさんが全部そういう話をもってくるからね。『これ、面白そうだよ、やってみない?』と。だから俺たちそれに乗せられちゃってさ」と楽しそうに横田さんの顔を見る。青年部の漁業者だけががんばっているわけじゃない。加工場では女性陣が漁師が採ってきた魚介類を懸命に加工する。特産のウニなどは東京の寿司屋から直接注文が入る人気ぶりだ。貴重な資源を増やそうと町営のアワビ種苗センターも老朽化した施設をフル回転してアワビの種苗放流を続ける。今夏には道下一嗣技師のもと、アカ貝の種苗生産にも挑戦する予定だ。周りの支えと挑戦する島の青年部メンバーの熱い思いが島の漁業の将来を築く。日本水産業が目指すべき姿と重なってみえる。

奥尻島の漁業は多くの人で支えられ未来へ進む

第66回へつづく

プロフィール

中島 雅樹(なかしま まさき)

中島 雅樹

1964年生まれ。87年三重大卒後、水産経済新聞社入社。編集局に勤務し、東北支局長などを経て、2012年から編集局長、26年から専務取締役。