水産振興ONLINE
水産振興コラム
20209
水族館の飼育係と「食」との交わり
新野 大
(高知県立足摺海洋館 館長)
6

ついに、
高知県の西南端に生き物好きのための水族館が産声を上げた!

7月18日に足摺海洋館SATOUMIがグランドオープンした。

無事オープンと書きたいのだが、毎回新しい水族館のオープンは最後の1カ月が地獄となる。SATOUMIもご多分に漏れず、各水槽の最後の水作りが遅れ、生き物の移動が集中して行われた。

6月14日の福島県の水族館、アクアマリンふくしまからのユーラシアカワウソの搬入を皮切りに、17日に高知県の東端、室戸からの深海生物、20日、愛媛県愛南町よりマイワシ数千匹を搬入し、23日に旧足摺海洋館の海洋水槽で展示していたSATOUMIでも目玉の生物となるシノノメサカタザメの移動、27日、愛知県蒲郡市にある竹島水族館からの深海生物の搬入、そして7月3日に土佐清水の窪津漁港に設置した生簀からのゴマサバ(清水サバ)などの移動と連日、地獄の輸送搬入作業が行われたのだ。

この中でも旧館からのシノノメサカタザメの移動では、アクアマリンふくしまの薦田副館長を始め飼育職員、大阪・海遊館の海洋生物研究所以布利センターの入野氏を始めとする職員の方々に協力をいただき3館合同の移送作戦となった。また、室戸で深海漁を行い深海生物を収集してくれた松尾氏も移動に参加してくれた。両館からはさまざまな輸送用の機材、器材もお貸しいただき本当に助かった。この場を借りてお礼を申し上げたい「ありがとうございました」。

シノノメサカタザメの移動は、うまくできるかどうか心配で心配で、移動が無事終わるまで夢の中まで出てきて、夜中に眼が覚めその後気になりなかなか寝付けないという日が続いた。なんとか無事、SATOUMIの竜串湾大水槽に入り泳いだ時にはホッとした。この移動大作戦にはマスコミの取材もたくさん入っていて、搬入後水槽の中のシノノメサカタザメを見ているときにインタビューされたのだか、恥ずかしながら感極まって涙が出てしまった。

搬入が始まってからの1カ月間は、一日々があっという間に過ぎ去り、気が付くと7月18日のグランドオープンの日であった。

前日までは大雨が降り、近くの崖が崩れ一時通行止めになるなど、悪天候が続いていたのだが、その日は朝からからりと晴れ上がり、これからのSATOUMIの前途を祝福してくれた。

僕は、その日水族館屋さんとして初めてオープンセレモニーに参加することができた。今までの水族館では一飼育係として、開館の日もバックヤードで生き物の世話をしていたなぁ。

では、前回紹介できなかったSATOUMIの主な展示を紹介する。

【足摺の原生林】

「豊かな海は豊かな森が作る」という言葉のとおり、足摺の豊かな海を支えてくれる背後に広がる森を、忠実に再現されたスダジイの擬木や生の植物で再現した1階から2階の吹き抜けの展示室。1階では森を散策しながら、土佐清水の限られた水域にしか生息していない、2018年に土佐清水市の天然記念物に指定されたトサシミズサンショウウオ(1972年に発見されオオイタサンショウウオの一個体群とされていた)やカエル、ヘビなどを展示。

トサシミズサンショウウオトサシミズサンショウウオ(原生林)

また、高知県須崎市の新荘川で最後に確認されて以後、一度も姿を見せず環境省が絶滅種の指定をしたニホンカワウソの代わりに近縁種のユーラシアカワウソの愛らしい姿を見ることができる。

【サンゴ水槽】

竜串湾では96種のサンゴが知られている。プロローグとしてその生きたサンゴを2階のサンゴ水槽のコーナーで大小5基の水槽で展示。その中でも水量24t(6m×3m×2.6m)の大水槽では、目の前の海に生息しているサンゴの群落の姿を再現した。また、泥の海底や岩影など異なる生息環境に住むサンゴをその環境ごとに展示。将来、大水槽でサンゴの産卵シーンが観察できればなぁと。

足摺の海の個水槽群足摺の海の個水槽群 個性的な生き物たちが大集合!小さな生き物でもじっくりと見れば可愛い、綺麗、凄い!

【竜串湾大水槽】水量 430t(幅13.5m×奥行6.45m×水深5.6m)

日本で最初に海中公園に指定された竜串湾には、シコロサンゴやミドリイシ類の大群落があり、素晴らしい海中景観を作り出している。その景観を擬サンゴで再現し、チョウチョウウオやスズメダイ類をはじめとする熱帯性の小型魚類やキンギョハナダイ、クロホシイシモチなどが群れをつくって生活している姿を再現。また、熱帯性の魚類だけではなく釣り人に人気のグレことメジナ類やニザダイ、タカノハダイなど温帯性の魚類も展示し、熱帯と温帯の両方の魚たちを一つの水槽で見ることができる。その中を目玉生物として全長1.7mのシノノメサカタザメが悠々と泳ぎ回る。

竜串湾大水槽、シノノメサカタザメのお腹

この大水槽の前では、ゆっくりと座って魚たちの生活している姿を見ることができるようになっている。

また、2階部分では竜串の奇岩を模した岩場の潮だまりを再現し、タッチコーナーとして、ヤドカリやナマコ、ヒトデなど磯の生き物と触れ合えることができる。(現在は新型コロナウィルス拡散防止のため触るのは休止している)

【外洋水槽】水量 150t(幅6.8m×奥行3.7m×水深4.6m)

正面のアクリルパネルが天井部分までオーバーハングしているので、頭上を魚たちが泳ぎまわり、あたかも雄大な黒潮の海に包まれているような感覚に陥る。

外洋水槽、観覧車の頭上を清水サバの群れが泳ぐ

水槽には、土佐清水のブランド魚 “清水サバ”(ゴマサバ)の群れやメアジ、ムロアジなど他の水族館ではあまり見られないアジの仲間などが群泳し、その群れの中をサメの仲間、シイラ、カラスエイなどが悠々と泳ぐ。

【ウミウシ・クラゲコーナー】

体の小さなウミウシは、その形や色は多様性に富み美しいものが多く “海の宝石”と呼ばれ、触角や鰓を揺らしてのんびり移動する姿を見ていると、見ている本人もゆったりとした気分になり癒される。

ウミウシ水槽

環境省の調査によると、竜串湾からウミウシ類は384種が報告され、国内で知られるウミウシが約1400種なので、その1/4以上がここに生息している。この限られた海域にこれほど多くの種が生息しているということは、それらのウミウシの食べ物となる生物も豊富で、多様性に富むということの証でもある。しかし、その食性や繁殖生態、出現時期など不明な点が多く飼育が難しく、水族館でもなかなか常設で展示ができていない。そこで、それらの食性、繁殖の研究を重ね、常設展示をしていく。

フワフワと海中を漂うクラゲも同じコーナーで展示し、ウミウシと一緒にゆっくりと観察してもらうヒーリング(癒し)のコーナーである。

【深海】

土佐湾東部の室戸周辺の海は、岸近くから一気に深海に落ち込んでいる。そのため大敷網や深海釣り、深海カゴ漁で様々な深海生物が収集できる。それらによって収集したキンメダイやハシキンメ、オオグソクムシ、ミノエビ類などと共に、足摺周辺で採集された宝石サンゴのアカサンゴとシロサンゴの生きている姿を展示。

ざっと駆け足で SATOUMI の展示内容を紹介させていただいた。

新しく生まれ変わった足摺海洋館 SATOUMI。目の前の海や山の生き物たちを丁寧に展示し、生物たちの多様性を知っていただけると同時に、生き物ファンになっていただけるものと確信している。飼育係自ら採集した生き物たちは、その自然での生活環境を再現した水槽の中でいきいきと生活しているため、魚たちは、皆 “いい顔”をしている。是非一度足を運んでいただき “いい顔” を見ていただければ幸いである。
連載 第7回 へ続く

足摺海洋館 SATOUMI 公式ホームページ https://www.kaiyoukan.jp

プロフィール

新野 大(にいの だい)

新野 大

1957年東京生まれ、東海大学海洋学部水産学科卒業。新潟県瀬波水族館、青森県営浅虫水族館大阪・海遊館で水族館職員として経歴を重ねた後、独立して水族館プロデューサーとして活動。2018年に高知県土佐清水市に移住し、高知県立足摺海洋館のリニューアルオープ(2020年)の準備に携る。現在、高知県立足摺海洋館SATOUMI館長。主な著書に、『大阪湾の生きもの図鑑(東方出版、魚介類の干物を干している風景の写真を集めた『干物のある風景(東方出版)など。